ロレックスのコレクションは、プロフェッショナルと、クラシックの2つのラインナップに分かれているのが特徴です。クラシックでは日付機能が付いたモデルである、デイトジャストとデイデイトがあります。この両者は近年じわじわと人気が上昇しているのが特徴です。どんな時計なのか、詳しく紹介していきます。
目次
デイデイトの基本情報
デイデイトの正式名称は、オイスターパーペチュアル デイデイト、日付機能と曜日機能が付いたモデルです。別名プレジデントウォッチと呼ばれる事もあり、エグゼクティブ層の顧客を対象としたモデルでもあります。そのため上品で重厚な装いを持つモデルが多くなっています。
スティール(ステンレス)モデルは無く、貴金属を素材にしたモデル構成が特徴です。1956年に初代デイデイトが当時のバーゼルワールドで発表されて今日に至ります。
名前の由来は曜日の「デイ」と日付の「デイト」を合わせたシンプルなものです。
時計の販売のプロが語るデイデイトの歴史的背景
ヒップホップ全盛期となる90年代においてそもそもロレックスが富の象徴として扱われており、成功者の証のとしてデイデイトはアメリカンドリームの象徴するアイコン的なモデルでした。
まずヒップホップの原点はニューヨークのブロンクス区で、アフリカ系アメリカ人が生み出したブラックカルチャーの一つでした。
1970年代、当時はディスコの最盛期でしたが、クラブに行けない貧困層の若者たちは、公民館や公園のバスケットコートのようなところで、「ブロック・パーティー」と呼ばれる内輪的なイベントをやるようになります。こうしてヒップホップというカルチャー生まれました。
いずれその貧困から抜け出して成功を収めたラッパーたちが、成り上がった証として「ブリンブリンの金のネックレスや金時計」をつけるようになります。
金のネックレスには金の時計が合うので、わかりやすい高級時計ブランドのロレックスの最高級モデルであるデイデイト(YGモデル)着用していくようになっていったという話もあります。
デイデイトが最高級の時計と言われる理由にはこうした歴史的背景もあるため、デイトジャストとはまた違った知名度を築く時計でもあります。
デイトジャストの基本情報
デイトジャストの正式名称はオイスターパーペチュアル デイトジャストです。名前の由来は日付のデイトと夜中の12時ちょうど(ジャスト)にカレンダーが日送りされる機械機構から、名づけられています。
1945年に初代デイトジャストは開発されて、今日に至ります。その後、様々な改善が進み現代の形へと進化しました。
夜中の12時(0時)ちょうどに秒針が12時に成った瞬間に「カシャ」と素早く日付送りされる動作を、初めて見た人は感動するでしょう。
デイデイトとデイトジャストの違い
デイデイトとデイトジャストの違いは、カレンダーの曜日(デイ)表示の有無の他に、そもそも時計のコンセプトやターゲットにしている層が異なる事も違いを生む大きなポイントです。ターゲットが違うことで選択肢の種類、サイズなども異なります。
またデイデイトは曜日機能が追加され、その曜日表示には多言語モデルもある事が特徴です。英語、フランス語、ドイツ語、日本語、中国語などの主要言語はもちろん、数が少ない特定言語用の表記もできます。
それではまずは、デイデイトから説明していきましょう。
文字盤上部にある曜日表示の有無
フルスペル表示のカレンダー機構の機械式時計は現代では珍しくありません。しかし、ロレックスの初代デイデイト Ref 6511が1956年にバーゼルワールドで発表された当時は各曜日に連動した日付を表示させるカレンダー機構は存在しませんでした。
その問題を解決するためロレックスは曜日(デイ)表示のディスクにある各曜日の間に、7つの窓(穴)を設けて、そのディスク下にあるデイト(日付)ディスクを重ねて3時の位置から日付を表示させる事に成功させています。
1956年の初代Ref 6511公式HPの画像をよく見ると、3時の位置のデイト表示が、デイ表示より深い位置にある(ディスクを2枚重ねてデイトが下)事がわかります。その後デイデイトのムーブメントはより薄型へと進化しますが、ムーブメントの基本構造は当時のまま今日まで続いていることが特徴です。
最新のムーブメントは2024年時点でキャリバー3235になります。2015年に発表されたこのムーブメントは前世代のデイデイトのムーブメントよりエネルギー効率が15%も向上している優れたムーブメントです。
今後もロレックスはムーブメントの改善を進めていき、将来は更に優れたデイデイトムーブメントが登場する事が期待できます。
ブレスレットの違い
デイデイトが他のロレックスモデルと大きく違う点はブレスレットがプレジデントブレスレットの展開が主流であることです。そしてブレスレットのデザインもカスタマイズできる事も見逃せません。
デイデイトは半円形の三連リングデザインが特徴で、クラスプが隠れる構造になっている事がプレジデントブレスレットの魅力です。これにより、ブレスレットと時計ケース本体の外観の一体感が増し、よりラグジュアリーな装いを演出してくれます。
また半円形のコマによって着け心地も良く、フィット感も通常のオイスターブレスレットより快適である事は、間違いありません。継ぎ目が目立たないため密着感がある、ホールド感がきわめて高いブレスレットだと言う声をよく聞きます。
何よりこのデイデイトを象徴するブレスレット、という事がよりステータス性が増す要因になるのでしょう。
もう一方のデイトジャストはオイスターとジュビリーが中心となります。オイスターブレスレットはよく知られている三連ブレスレットです。プロフェッショナルモデルに多く採用され、耐久性に定評があります。
装着感に優れた構造で、サイズ調整も容易です。ジュビリーブレスレットは5連ブレスレットと呼ぶ人も多くいます。特徴としてはしなやかで、ドレスウォッチによく似合う外観あることが特徴です。
細かいコマによって柔軟な動きができるため、そのしなやかさを好む人も一定数存在します。ただ、毛深い人は体毛がブレスレットに絡むという意見もよく聞きます。細かいコマがある分、男性で腕の毛が多い人は注意が必要です。
平均価格帯が違う
平均価格帯はデイデイトの方が高額になっています。
これはコレクションのコンセプト(ステータスの高い時計)が違う事以外に、ムーブメントとケース素材もデイトジャストよりコストの高い物になっている事が、その理由です。
デイデイトのケース素材は基本貴金属で、ロレックスが自ら鋳造した品質の高い貴金属を使用しています。例を挙げると、ゴールドモデルは純金に銀や銅を混ぜた18ctゴールドが中心です。
純度が極めて高く全体の75%以上に金が含有されていないといけません。また2022年以降の950プラチナを採用したデイデイトは、ベゼルにもプラチナ製フルーテッドべセルで加工されたベゼルを組み込んでいます。
画像引用:ロレックス公式HP
最も高価だと呼ばれる希少な950プラチナは加工も難しく、特に輝きを表現するには大変高度な加工技術が必要でした。プラチナは純度が上がるほど金(ゴールド)同様に軟らかくなって加工に向かない特性があります。
このような高価で希少な貴金属を採用しているから、販売価格も高額になるのです。ただ金の純度が高いモデルゆえ軟らかい特性は無視できません。また金とプラチナの割合が多くなると時計の重量はどうしても重くなります。
一方のデイトジャストは、貴金属を使用したモデルがあるものの、デイデイトよりも金の純度が高い素材は使用していません。基本的にはオイスタースティール(ステンレス鋼)が中心です。
貴金属を採用したモデルはロレゾールですが、そのほとんどがコンビ(ステンレスとの組合せ)モデルになります。そのため時計全体としての金の使用量は、デイデイトと比較すると少なくなる事が特徴です。
デイデイトの項目でも書きましたが、素材に金含有量が多くなれば地金が軟らかくなりその傷がつきやすくなります。日常生活的な使用を重視するならデイトジャストの方が傷がつきにくく、実用的だと言えるでしょう。
デイデイトとデイトジャストの優れたクイックチェンジ機構
最近はあまり注目されませんが、デイデイトとデイトジャストが持つ夜中12時ちょうどにデイトやデイ表示が瞬間的に素早くコマ送りされる機能を決して見逃す事はできません。
初代デイトジャストは1945年に発表されましたが、当時の日付送り機構は現代の物と違いゆっくりと12時前から動き始め、12時で完全に日付送りが完了する、デイトジャストにはほど遠い物でした。
文字通りデイトジャストになったのは、1950年代半ばのRef.1065以降だそうです。12時前からコマ送りされる事は無く、バネの力によって12時ちょうどにパチンと弾かれるようにデイ表示のコマ送りがされて、現代に至りました。
このクイックチェンジと呼ばれる機構も、ロレックスがデイトジャストを開発した頃に改良を進めて実用化、業界標準に仕立てていきます。今では当たり前の機能ですが、ロレックスがこの機能を世に広めた立役者である事は間違いないでしょう。
デイトジャストとデイデイトはどちらが良い?選び方は?
デイトジャストとデイデイトのどちらが良いと決めるかは迷う事です。しかしこの問題はどちらを選ぶかという事では無く自身の好みの問題でもあります。そもそもデイトジャストは日付表示のみの時計であり、デイデイトは曜日と日付二つが楽しめる時計なのです。
またターゲットにしている層もそれぞれの時計で異なり、違うコンセプトの時計という見方もあります。一度冷静に考えてそれぞれの時計の強みや特性をもう一度確認して、自身の嗜好も見つめ直す絶好の機会であるかもしれません。
どちらが良いという事ではなく「好みで選ぶ」
デイトジャストとデイデイトのどちらを選ぶかは、シンプルに「好き」か「キライ」かを問うのが、一番良い手法だと考えます。
実用性だけで選ぶなら、明らかにデイトジャストです。ステンレスモデルが多く、何より多少ぶつけてもキズがつく心配が無い時計が多く、カジュアルな装いのモデルが、多く揃っています。時計選びの原点に立ち返り実用性第一主義の人は、デイトジャストがベストです。
しかし、デイデイトもステイタス性は高いのはもちろんのこと、日付表示に加えて曜日表示もする実用性も大変優れています。どちらが実用的かは、使う人の好みや趣味で左右されます。
唯一の問題点とも言われる高額な販売価格と時計の重量が重い事は素材に貴金属が多く使用されている事が要因です。
このように使う人によってデイトジャストは実用性が高いと感じる一方でデイデイトも決して実用性に欠けている時計では無い事が、様々な要因からわかってきます。どちらが優れていると決める行為は結局個人の嗜好(好み)によって変わってくるのです。
個人の生活スタイルによって、曜日表記を時計でわかる方がイイ人も居れば、そもそも時計のカレンダー自体不要だと意見する人も一定数存在します。デイトジャストとデイデイトのどちらを選ぶかは、個人の好みで選ぶのが賢明です。
高級感や資産性で選ぶならデイデイト
一般的に高級感や資産性で選ぶならデイデイトでしょう。金の純度が高いデイデイトは見た目もステイタス性が高く、誰が見ても高級そうなイメージがあります。
また資産性も高く、そのことだけ選ぶならデイデイトで間違いありません。
貴金属を多く含むデイデイトは資産性が目減りする可能性は極めて低いと考えられます。ただこの考えは確実な雰囲気がある一方、ロレックスにはその常識が当てはまらない歴史が有る事も、決して忘れてはいけません。
かつてステンレス製(スチール)モデルの相場がコンビモデルを逆転した事があるようにロレックスの資産性は結局のところ、需要と供給、人気で決まります。発売当時は人気がまるで無く、ショーケースに売れ残っていた手巻きデイトナ(ポールニューマンダイアル)が高騰した事も忘れてはいけません。
貴金属を含む時計の相場は安定性はありますが、不確実な要素も確実に存在します。高級感があり、資産性が高そうなイメージがあるデイデイトですが、資産性だけに注目するのは要注意です。
それよりも純粋に時計としての優れた点に注目して、デイデイトを選ぶ人の方が結果的に良い時計ライフを送れる気がします。
ベーシック時計としての楽しみがあるデイトジャストとデイデイト
ロレックスの購入報告をSNS上では、ここ数年プロフェッショナルモデル以外のデイトジャストやデイデイトの物を多く、散見するようになってきています。
これは購入者の意識変化とベーシックウォッチの人気上昇も背景にあると考えています。デイトジャストとデイデイトの両者は、優れたベーシックウォッチである事も忘れてはいけません。
時計の原点である三針時計に日付と曜日機能が付いた両者は、究極のベーシックウォッチです。ベーシックウォッチの定義は明確な物はありませんが、ラウンド型のケースに三針時計であれば、一般的にそう呼びます。
ロレックスではプロフェッショナルモデルばかり注目を集めますが、それらは基本的に特殊時計です。一般人が普段入れない世界で使用する時計に対する憧れとして、プロフェッショナルは、これまで人気となってきました。
それに対して、デイトジャストとデイデイトは元々一般的な使用だけを想定して作られた一般人のために製造された時計なのではないかと考えられます。
デイトジャストとデイデイトの人気の高まりは、この究極のベーシックウォッチの優秀さを人々が認識し始めた証だと考えています。
まとめ
デイトジャストとデイデイトは共に優れたカレンダー機構を持った優秀な時計である事は間違いありません。歴史的には、デイトジャストの開発された1945年から10年以上経過した1956年にデイデイトは発表されています。
前述したように1945年に発表された初代デイトジャストはとても「デイトジャスト」とは呼び難く、創業者のハンス・ウィルスドルフは当時の開発チームにカレンダーの日送り機能の改善を強く求めたそうです。
その結果1950年代になってようやくバネの力を貯めて日送りをする現代の形になり、ハンス・ウィルスドルフが納得できる「デイトジャスト」を世に送り出す事に成功しています。つまりハンス・ウィルスドルフの執念から生まれた時計と言っても過言ではありません。
歴史的に見ると、その満足のいく日送り機能が完成した直後にデイデイトが発表されていることから、時計としての成熟度は明らかにデイトジャストが上だと考えられます。
もしデイトジャストが持つ「素早い日送り機能」の開発がさらに遅れていた場合、デイデイトの出現は、1960年代以降になっていた可能性も考えられます。それにしてもなぜハンス・ウィルスドルフは現在のような素早い日送り機構に拘ったのかは疑問です。
現代ではデイトジャストのような、カシャとすぐに切り替わるデイト機能は常識ですが、もしハンス・ウィルスドルフがその機能を強く開発チームへ求めなければ、現在のカレンダー機構もゆっくりとした日送り機能になっていた可能性も考えられます。
デイトジャストとデイデイトの両者は、現代の時計界の業界スタンダード(基準)を作ったベーシックウォッチである、と言う事もできます。当時のハンス・ウィルスドルフの強い想いが込められた時計をぜひ、一度手に取って使ってみてください。
また違った楽しみ方や時計の奥底にある魅力に気付くはずです。
当記事の監修者
池田裕之(いけだ ひろゆき)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 買取部門 営業企画部 MD課/買取サロン 課長
39歳 熊本県出身
19歳で上京し、22歳で某ブランド販売店に勤務。 同社の時計フロア勤務期に、高級ブランド腕時計の魅力とその奥深さに感銘を受ける。しばらくは腕時計販売で実績を積み、29歳で腕時計専門店へ転職を決意。銀座ラシンに入社後は時計専門店のスタッフとして販売・買取・仕入れを経験。そして2018年8月、ロレックス専門店オープン時に店長へ就任。時計業界歴17年