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人気高級腕時計ブランド「ブライトリング」投資会社傘下に
最終更新日:
2017年4月、時計業界にある激震が走りました。
ロレックス、パテックフィリップなどと並んで長く独立企業として人気のブライトリングが買収されることになったのです。
国際市場の拡大や多様な企業の在り方により一般的になったM&A。
スイス時計業界も例外ではなく、最大手スウォッチを筆頭にリシュモン、LVMHなど、いくつかの持株会社のようなグループが存在します。
しかし、独立系企業が一目置かれることもまた事実。
今回のブライトリング買収は身売りか、それとも未来への再生か・・・?
詳しく説明していきたいと思います。
目次
ブライトリングの買収
1884年創業のブライトリング、従業員数は約900人。
フラグシップはパイロットウォッチで、とりわけ航空計器をイメージしてデザインされたという堅牢な腕時計は「かっこいい男の時計」として世界中で人気です。
独立系企業であることは巨大資本の手を借りないため、厳しい経営を強いられることもしばしば。
しかし、そこには時計職人ならではのメリットがあります。
それは、「自分たちが作りたいものを作れる」何よりもこの一点ではないでしょうか。
実際ブライトリングも、自社製ムーブメントを製造したり、計器としてのクォリティを追求した商品開発を行ってきました。
出典:https://www.breitling.co.jp/products/chronomat/chronomat_44/
そんなブライトリングが、なぜ買収されることとなったのか。
そこにはブライトリングのみならず、スイス時計界の苦悩がありました。
2015年下半期以降から続く景気低迷、それに伴う高級腕時計の需要減少。
スイス中央銀行による為替介入の撤廃からスイスフランの高騰。
テロへの脅威から旅行者、とりわけ中国人旅行者の減少など・・・スイス時計に非常に不利な情勢が続いています。
例えば2015年以降、フレデリック・コンスタントが日本のシチズンに買収されたり、老舗メーカーでもリストラを実施。
ブライトリングのみならず多くの時計メーカーが苦戦する状況。
ブライトリング買収はブライトリングによる「身売り」ではなく、ブランドの生き残りを賭けた「戦略」なのです。
出典:https://www.breitling.co.jp/about/chronometer/
ブライトリングの株式の80%を取得、実質持株会社として買収するのはCVCキャピタル・パートナーズ。
イギリスの投資ファンドで、欧州を拠点に活動しています。
投資対象は、主に小売業、製造業およびサービス業。
近年ではアジア市場への進出も顕著で、SBIホールディングス株式会社から株式譲渡を受けたり、野村プリンシパル・ファイナンスと共同出資してすかいらーくの株をTOBにより取得するなど活動しています。
CVCキャピタルの手法は長期的な投資を行うことで有名。
短期的に株式を保有するヘッジファンドとは異なり、投資企業の成長やブランド力に期待をして投資されます。
短期売買の成功者に比べれば儲けは決して莫大ではないものの、リスクも少なく、そして投資家も企業も成長できるという非常に大きなメリットがあります。
ブライトリングという企業への期待。
ブライトリング再生の応援。
CVCキャピタルの長期投資にはそんな思いが込められていると言えます。
今回の投資は、ブライトリングがこの苦境を切り抜け無事再生するものとなる。
時計愛好家としては、そんな前向きな予感がしてなりません。
出典:https://www.cvc.com/Credit-Partners/Global-Investment-Strategies.htmx
時計業界のM&A
前述のように時計界、とりわけスイスを中心とした高級時計産業にとって苦しい状況が続く現在。
また、世界情勢だけでなく、高級時計として守らなければならないクラフトマンシップと大量消費社会における競争の間に生じる高級時計ならではのジレンマも存在します。
高級時計の多くは機械式で、繊細で多様なパーツを熟練した職人たちの手によって時間をかけて生産されます。
大量生産には向かず、一本が売れなければ経営には大きな打撃。
そんな状況下、潤沢な資本と経営ノウハウを持つ巨大ファンドの力を借りることは、非常に有効な戦略と言えるでしょう。
安定した基盤の中で時計製造を行うことは、広告費などにとらわれずものづくりに集中できるということ。
加えてM&Aの大きな効用として、破綻企業再生や国内外市場競争力強化などが挙げられます。
また、ものづくりの後継者不足は深刻で、ブライトリングも1979年、ブライトリング家からアーネスト・シュナイダーへ経営権を譲渡、以降シュナイダー家により経営されてきました。
そういった問題点の解決にもM&Aが用いられます。
今や時計業界を生き残るためには、M&Aを取っていくことが戦略として当たり前と言えます。
まとめ
奥深い歴史を持つ時計産業において、独立メーカーが失われつつあることは寂寥たる思いを禁じえません。
しかし、多くのグループが友好的M&Aで、ブランドのアイデンティティを誠実に守り抜いた商品を作り続けていることは、時計界ならではと言えます。
ブライトリングにおいても、シュナイダー家が引き続き20%の株式を持つこととなりました。
このことから、CVCキャピタルの投資姿勢に納得のうえでの買収であることがよくわかります。
ブライトリングが再生し、再度時計市場に旋風を巻き起こしてくれることに期待したいです。
当記事の監修者
新美貴之(にいみ たかゆき)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 店舗営業部 部長
1975年生まれ 愛知県出身。
大学卒業後、時計専門店に入社。ロレックス専門店にて販売、仕入れに携わる。 その後、並行輸入商品の幅広い商品の取り扱いや正規代理店での責任者経験。
時計業界歴24年
タグ:ブライトリング