ロレックスやオメガといった王道な時計もいいけど、ちょっと捻りを加えた”通な時計”が欲しい。
そんな人に是非お手に取って頂きたいのが『ゼニス』の時計です。
ゼニスは1865年に創業され、歴史と伝統のあるマニュファクチュールブランドとして名を馳せましたが、驚異的なハイビートムーブメント「エルプリメロ」を開発した超一流ムーブメント製造メーカーとしても有名です。
今回はそんなゼニスの歴史とエルプリメロについて語っていきます。
目次
ゼニスの歴史① ゼニスの誕生
ゼニスは天才時計技師『ジョルジュ・ファーブル=ジャコ』によって1865年に創業されたスイスの時計ブランドです。驚くべきことに彼は22歳という若さで、スイスの時計製造の発祥地ル・ロックルに時計ブランド『ゼニス』を立ち上げます。
彼がブランドを立ち上げた理由は一つ。それは「これまでにない精度をもつ最高級の時計を製作すること」でした。
その夢を実現させるために、彼はそれまで分業体制をとっていた職人を一同に集めるため、巨大時計製造施設を建設します。施設建造に踏み切った理由は、最高の時計を製作する為には時計製造に関わるすべての工程を一つの場所で作り上げることが必要だと感じたからです。
こうして「時計界初のマニュファクチュール工場」は完成しました。
出典:https://www.zenith-watches.com/jp_jp/icones/georges-favre-jacot
ジョルジュ・ファーブル=ジャコは常日頃から新たな生産技術の開発にも力を入れ、画期的な製造機械の導入や自動化システムの構築にも積極的に取り組みます。その結果はすぐに反映され、高い品質と精度を誇る時計は次々と製造されました。
そして1875年には従業員1,000名の大企業にゼニスは成長。創業10年でここまでの発展した時計ブランドは類を見ず、驚異的な勢いでゼニスはスイスのトップブランドへの階段を駆け上がっていきました。
その後、1900年のパリ万博において懐中時計用ムーブメント「ゼニス」が金賞を受賞したことをキッカケに社名も「ゼニス」に変更。「天頂」を意味するゼニスの名のもと、天頂に輝く星にもたとえられる高級時計を理想に描き、ゼニスの時計作りは更なる進化を遂げていきます。
ゼニスの歴史② 傑作ムーブメント エル・プリメロの開発
20世紀に入り、時計の主流が懐中時計から腕時計に移ってもゼニスの精度に対する拘りは増すばかり。
コストパフォーマンスが重要視される時代となり、多くの時計ブランドが自社製ムーブメントからETA等の他社製ムーブメントの採用へ切り替える中、ゼニスは自社ムーブメントに拘り続けました。
他社ムーブメントに頼っているようでは到底「天頂」に到達することなど適わないからです。
その想いは1969年に完成した新型ムーブメント”エル・プリメロ”によって実を結びます。
出典:https://www.zenith-watches.com/jp_jp/movements
エル・プリメロは36,000振動のハイビートに0.1秒まで計測可能な高性能クロノグラフ機能を備えた自動巻きクロノグラフムーブメント。 「最初」と「最高」という意味を持つ「エル・プリメロ」はゼニスの歴史の中でも革新的なものとなりました。
現在世に出回っている多くの機械式時計は28,800振動が基準になっており、1秒間にテンプが8回振動するというものです。それを大きく上回る36,000振動(1秒間に10振動)は当時の時計界では衝撃的でした。
出典:https://www.zenith-watches.com/jp_jp/icones/el-primero
また、振動数が高いほど部品摩耗やオイル切れといった耐久性に問題が出てくる欠点を持ち合わせています。そのため、エルプリメロでは組み立て作業時に特殊な潤滑油を用い、耐久性を高めました。
この拘りが功を奏し、世界的傑作ムーブメントとしてエルプリメロは時計界に認知されていきます。
ゼニスの歴史③ ゼニスの休眠と復活
エルプリメロの開発で世界的ムーブメント製造メーカーとして名声を博したゼニスは、ロレックスの人気モデル”デイトナ”へのムーブメント供給や数百にも及ぶ特許の習得など、更にその地位を確固たるものとしていきます。
特に計時精度の分野においては2,333もの賞を受賞するという歴史的記録を樹立。ゼニスは絶頂期を迎えていました。
出典:https://www.zenith-watches.com/jp_jp/movements
クォーツショックによる休眠
しかし、そんな絶頂期のゼニスに襲い掛かったのがクォーツショックです。
コストが安く、正確なクォーツ時計の台頭によりスイスの時計産業は壊滅的なダメージを受け、ゼニスも経営難からアメリカ企業に買収されることが決定します。更に買収されたゼニスは新オーナーの企業方針により機械式時計製造の廃止が決定されました。
これによりゼニスの歴史と伝統は競売にて第三者に売却されてしまいます。
売却されたのは数々の開発に使われた機材や、設計図。クォーツ時計の製作に関係ないもの全てでした。
ゼニスの歴史はここで途絶えてしまったかと思われましたが、当時のゼニスの技術者『シャルル・ベルモ』の機転により、最悪の事態は回避されます。そして、彼は後にゼニスの英雄として称されるのです。
出典:https://www.zenith-watches.com/jp_jp/icones/charles-vermot
シャルル・ベルモ氏の功績
エル・プリメロの開発に原案から携わっていたシャルル・ベルモ氏は情熱溢れる時計技師。彼はいくら会社の命令であろうが、培ってきた伝統を破棄するのだけは我慢できなかったのです。
そこで、彼は製造工程を細かくファイルに記載し、一部の製造道具と共に会社に見つからない場所に隠しました。この勇気ある命令違反は1978年に別のスイス企業に再買収されるまで続きます。
また、これだけ長い期間隠し通すことができたのは、外部に漏らさない為に極一部の人間にしかこれを知らせなかったという彼の心の強さも要因の一つでしょう。
ゼニスにとって幸運だったのは新たなるオーナー企業が機械式時計の復活を信じる企業だったこと。再買収後、機材も設計図も失ったゼニスは機械式時計ブランドとして一からのスタートになることを誰もが確信していました。ですが、その時ベルモ氏は長年隠し持っていたエルプリメロの設計図をオーナーに差し出すのです。
出典:https://www.zenith-watches.com/jp_jp/icones/charles-vermot
この設計図により、1984年にはエルプリメロの復活に成功。歴史を現在のゼニスへと繋げていくことができました。
シャルル・ベルモ氏がいたからこそ、エルプリメロは現代でも変わらずに存在しています。
現在のゼニス
復活したゼニスは1994年に薄型自動巻きムーヴメント”エリート”を開発。1999年からはLVMHグループの傘下に入り、機械式時計ブランドとしての基盤を盤石とすることに成功します。更に2004年にはエル・プリメロ搭載のトゥールビヨン機構を開発し『世界最速のトゥールビヨン』の世界に発表しました。
冬の時代を乗り越え、再び輝きだしたゼニス。この歴史と伝統からはゼニスならではの「熱い想い」を感じることができるでしょう。
④ゼニスの有名ムーブメント
ゼニスは全ての時計のムーブメントを自社開発しているマニュファクチュールメーカーです。 現在はクロノグラフムーブメント「エルプリメロ」と3針仕様の「エリート」を製造しています。
エルプリメロ Cal.400
1969年に誕生したエルプリメロの特徴を忠実に再現したムーブメントがこのCal.400です。毎時36,000の高速振動、一枚岩のコラムホイールとボールベアリング式センターローターに基づいた老舗らしい伝統を大切にした作りです。
現在のゼニスではこのエルプリメロをベースに、様々な機構・機能を搭載した名作が製造されています。
エルプリメロ Cal.4010
グランドデイトなどに搭載されているクロノグラフムーブメントです。サイズが直径30.0mm×厚さ7.65mmと大き目な設計がされており、44mmケース等のモデルに使用されます。振動数はもちろん36000振動です。
エル・プリメロ Cal.4047
グランデイト、ムーン&サンフェイズ、そしてクロノグラフ機能と三つの複雑機構を備えたエルプリメロCal.4047。傑作高精度クロノグラフムーブメントとして時計愛好家を唸らせました。パワーリザーブは約50時間です。
エリート Cal.680
超薄型で設計されたムーブメントが「エリート」。直径25.6mm×厚さ3.28mmの薄さが最大の特徴です。エルプリメロとは違い、耐久性を重視した為、振動数は28000振動に抑えられています。
エリート Cal.681
新しいウルトラスリムケースに収められた、自動巻きムーブメント。
コート・ド・ジュネーブ装飾が施され、内外ともに美しい一本を作り上げたと言えます。
⑤ゼニス オススメモデルの紹介
21世紀に入ってからのゼニスはシンプルかつ優雅なデザイン性をウリに「クロノマスター」「クラス」「ポートロワイヤル」「スター」など、様々なコレクションを展開してきました。
現在はエルプリメロ/エリートの2大看板ムーブメントを軸とし、人気モデルを多数打ち出しています。1番人気はクロノマスターコレクション。文字盤から見えるエルプリメロの36000振動を覗くことが可能です。
ゼニス エルプリメロ クロノマスターオープン 1969 ブティックエディション 03.2042.4061/21.C496
ゼニス エルプリメロ クロノマスターオープン 1969 ブティックエディション 03.2042.4061/21.C496
エル・プリメロが誕生した1969年当時のデザインと、テンプの動きが正面から見える人気のオープンを組み合わせたモデルです。サンレイ仕上げのブラックダイアルに、シルバーのインダイアルの組み合わせが「新生ゼニスは回帰でもある」という言葉を思い起こさせます。
ゼニス クロノマスターオープン シャルルベルモ トリビュート 限定1975本 03.2085.4021/51.C700
ゼニス クロノマスターオープン シャルルベルモ トリビュート 限定1975本 03.2085.4021/51.C700
エル・プリメロの開発に原案から携わり、クロノグラフの第一人者でもあるシャルル・ベルモ氏の偉業を称えたモデルです。定番モデルにはない鮮やかなサンレイ仕上げの青文字盤に、ゼニスが得意とするオープンワークが施され、機械式時計の心臓部でもあるテンプの振動をご覧頂くことが出来ます。
ゼニス エルプリメロ シノプシス 03.2170.4613/02.C713
ゼニス エルプリメロ シノプシス 03.2170.4613/02.C713
伝説の名機と言われる「エル・プリメロ」自動巻きムーブメントを搭載した2014年新作モデル。ダイアルのオープン部分から覗くガンギ車の内側にあしらわれたゼニスの星型がオシャレなタイムピースです。クロノグラフではなく、シンプルな時計が欲しいという方にオススメの逸品です。
ゼニス キャプテン エルプリメロ 03.2110.400/75.C498
ゼニス キャプテン エルプリメロ 03.2110.400/75.C498
ゼニスが1950年代から60年代に掛けて製造していた“キャプテン”を復刻させたモデルがこちら。大きく厚みのある時計から、薄くシンプルな時計へと回帰している現在のトレンドをうまく掴んでいます。言わずと知れたゼニスの傑作ムーブメント“エル・プリメロ”を搭載しながら、抑えた価格設定であることも魅力のひとつです。
ゼニス エリート ウルトラシン 18.2010.681/11.C498
ゼニス エリート ウルトラシン 18.2010.681/11.C498
厚さ9mmのケースに薄型ムーブメント「エリート681」を搭載したドレスウォッチです。薄さの割に直径は40mmと大きめサイズ。スモールセコンドを9時に配置した視認性の高いシンプルな3針です。
まとめ
マニュファクチュールブランドとして最高品質の精度に挑み続けたゼニス。その集大成として作り上げられた「エルプリメロ」は開発からもうすぐ50年となる現在も当時と変わらずに、多くの時計愛好家に親しまれ続けています。
輝かしい歴史とドラマティックな復活劇を経て、今尚新たな伝説を切り開くゼニス。ジョルジュ・ファーブル=ジャコが目指した「天頂」への挑戦はまだ終わっていません。