時計は時間を知るためのもの。
そのため毎日十分にゼンマイを巻き上げ、時報できっちり時間を合わせている。
それなのに次の日になると数秒の進みや遅れがでている。
…もしかしたら壊れているのでは?と不安に思われるかもしれません。
しかし機械式時計では毎日数秒の進みや遅れが出てしまうのは普通のことなんです。
今回は機械式時計の精度についてご説明致します。
目次
1.時計の精度(進み・遅れ度合い)
一般に出回っている時計はクオーツ(水晶)式時計といわれるもので、機械式とは仕組みも精度も大きく異なります。そこで、まずは機械式時計とクオーツ時計の仕組みの違いに触れていきましょう。
■機械式時計
ゼンマイが解ける力を利用して針を動かす時計です。
リューズによって巻き上げられたゼンマイが元に戻ろうとする力を脱進機と調速機で輪の回転を調整し、正しい間隔で針が進むようにしてあります。
電池などは使用せず、機械部品の物理的な力のみを使っているためどうしても一日に数秒の誤差が出てしまい、クロノメーター規格という非常に高水準な検査を通ったものでも一日に6秒以内の進みか4秒以内の遅れが見られます。
(この誤差は機械に一切の負荷を与えないで測定した数値であり、実生活で使用するとそれ以上の誤差が出ます。)
機械式時計の精度は日差(1日の進み・遅れの度合い)-10~+20秒くらいまでは許容範囲内とされています。アンティーク時計では+30~+60程度でも許容範囲内とされることがあります。
日差がマイナス(遅れ)になることはあまり良くないとされていますので、基本的に時計技師は日差がプラスになるように調整して出荷します。
■クオーツ(水晶式)時計
出典:https://www.grand-seiko.jp/about/movement/quartz/
電池と電子回路で動かす時計です。
水晶振動子(クオーツ)を電池で振動させて針を動かします。
1秒間に3万2768振動する水晶振動子の動きを電気信号として取り出し、電気回路で1秒に1回の間隔に変換してステップモーターに送信し、回転運動に変換します。
電気で動いているので非常に精度が高く、誤差は月に数秒、精度の高いものであれば年に数秒程度しか出ません。
上記のようにクオーツ式時計は非常に精度が高く、時間が進んでいる、或いは遅れていると感じて針を調整することはあまりないと思います。
クオーツ式時計の感覚で機械式時計の精度を見ると違和感を持ってしまうかもしれません。
2.機械式時計に進みや遅れが生じる要因
機械式時計はクオーツ式時計と比較して日差が大きい時計ではありますが、それを助長させる要因があります。
2-1:姿勢差
最も日差に影響を与えてしまう要因です。
腕に時計をしていると時計は様々な向きに変化します。
リューズが上を向いたり、横を向いたりすると重力や時計の部品同士の摩擦などで時計の動作に影響を与えます。
特に腕時計は置き時計や掛け時計とは違い、装着者の腕の動きにより向きが変わってしまうため姿勢差の影響を受けやすいです。
2-2:温度差
一般的に機械式時計は温度が低くなると進み、高くなると遅れるといわれています。
温度が高い時には精度を制御する部品が伸びて動きが若干ゆっくりになり、逆に温度が低い時には短くなって進みがちになります。
2-3:ゼンマイの巻き上げ具合
機械式時計ではゼンマイが常に十分なエネルギーを各部品に供給することが重要です。
ゼンマイが解けてきて供給されるエネルギーが弱まると、精度を担う部品が正しい往復運動ができなくなってしまいます。
安定した精度を得るために、手巻き式は一日一回、可能な限り同じ時刻に十分にリューズを巻き上げ、自動巻き式は一日に10時間以上身に着けるようにしてください。
2-4:腕の動きの量
上の項に関連することですが、自動巻き式は腕の動きによってゼンマイを巻き上げます。
時計を着用していたとしても、パソコンにずっと向き合っていてほとんど腕に動きがなければゼンマイは巻き上がりません。
「毎日使用しているのに止まってしまう」というお声を頂くことがありますが、日々の生活で腕の動きが少なくゼンマイが巻き上がっていないケースが多いです。
腕の動きが少ないと感じている方は、定期的にリューズでゼンマイを巻き上げてお使いください。
その他に磁気の影響や電池の消耗、油切れ、部品の破損・消耗、歯車の不調など、様々な要因がございます。
3.機械式時計の精度の測り方
機械式時計にはある程度の進みや遅れが出るのだとわかっていても、あまりにそれが大きいと感じることがあるかもしれません。
それを確認するために、「〇月×日午前△時□分●秒に時間を合わせた」と記録して次の日の同じ時刻に電波式時計を見たら■秒の誤差が出ていた…などするのは大変です。
この時計はどれだけの進みや遅れが表れているのか、それを計測する機械があります。
それが「歩度測定器」です。
歩度測定器はテンプの音をマイクで拾って歩度を測定します。1分ほどの短時間で測定することができる優れものです。
こちらの機械にかけると次のようなことが分かります。
- 歩度(RATE)
- 振り角(AMPLITUDE)
- 片振り(BEATERROR)
- 振動数(PARAMETERS)
■歩度(RATE)
一日の進みと遅れ(日差)がどれくらいかを表示します。
写真だと+3s/dとなっていますが、これは一日に3秒進むことを意味します。逆に-3s/dという数字が出た場合、一日に3秒遅れが生じます。
■振角(ふりかく)(AMPLITUDE)
天輪の振れる角度です。
片振幅の角度で、最高に振れるものは340度程度、ゼンマイが切れて止まる直前で100程度です。270度~320度くらいがベストな数値と言われています。
天輪とひげゼンマイは時計の等時性を決める部分ですが、大きく振れることで性能が高まり、進み遅れの誤差が小さくなることになります。
出典:https://www.grand-seiko.jp/about/movement/mechanical/
■片振り(BEATERROR)
テンプの振動の中心が本来のあるべき位置からずれる程度を指します。
同じ時計であってもその時々の振り角に反比例して数値が変わってしまうために、測定した振り角を掛け合わせて角度を単位として表示します。
一般的には0.0~0.2くらいが良い数値とされ、アンティーク時計では0.5程度まで許容範囲内とされることもあります。
■振動数(PARAMETERS)
アンティークで毎秒5~6振動(19,800~21,600)。
近年もっとも一般的とされているのが毎秒8振動(28,800)です。
一般的に高振動になると精度が安定するといわれていますが高振動のものは摩耗や消耗が激しいので耐久性を持たすために、敢えて10振動にせず8振動にするという試みもあります。
こちらの機械は個人で購入することもできますが、決して安いものでもないので時計店に持って行って計測してもらうことをお勧めします。
当店でもすぐに計測いたしますので、誤差が気になりましたらお気軽にお持ちください。
4.修理について
誤差が気になり、お店に時計を持ち込んだら動作不良が発見されたという場合もご安心ください。
正しいご使用をされているのに極端な進みや遅れが生じる場合には、ご購入の際にお渡ししている保証書の期間内においては無償にて調整させていただきます。
また、当店でご購入いただいている商品につきましては保証期間が過ぎた時計も有償にて修理を承りますので、まずはご相談ください。
※当店でご購入いただいて保証期間が過ぎた商品も、有償にて修理を承りますのでまずはご相談ください。
アフターサービスについて
https://www.rasin.co.jp/support/guarantee.html
当記事の監修者
廣島浩二(ひろしま こうじ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年