日常的に使用する腕時計。
長く使えば使うほど愛着が湧くものですが、その分トラブルに見舞われることも多くなりますね。
突然動かなくなった。
カタカタ音がする。
ガラスが割れてしまった。
こんな時まず何をすればいいか、実際に不具合が起きるまで知らない方は多いもの。
そこでこの記事では、実際にあった事例を元に対処法―どこに修理に出すべきか、修理費用はいくらくらいか―を徹底解説いたします!
もちろん何事もないのが一番だけれども、きちんと正しい予備知識を仕入れておけば適切な処置を施すことができます。
備えあれば憂いはありません!
目次
1.オーバーホールについて
腕時計、特に機械式時計は購入後に不具合がなくても定期的にメンテナンスをすることが求められます。
その最たるものがオーバーホール。
オーバーホールとは3~5年に1度を目安に、ムーブメントを分解して行うお掃除のこと。
古い油を洗い取り、新しい潤滑油がさされます。
潤滑油には寿命があり、古いままにしておくと各パーツが摩耗により劣化。大きな不具合の原因となってしまうのです。
そんなオーバーホール、よくある質問をまとめてみました!
Q.オーバーホールをしたい時はどこに出せばいいの?
A.メーカー、購入店、修理専門店があります。
オーバーホールをする際、選択肢は上記の三つとなります。
メーカーは正規の修理・メンテナンスとなり、正規ならではの安心感は絶大でしょう。
一方料金も正規のためどうしても高額になりがち。
また、ブライトリング、そしてタグホイヤーやウブロ・ゼニスなどを傘下に加えるLVMHグループなどは明確な「並行差別」を設けており、もし購入店が正規店以外だと、かなり割高に。
納期が長くなってしまうことも少なくありません。
一方、ほとんどの有名ブランドの製品はメーカー以外の修理工房にてオーバーホールを受けられます。
街なかや時計専門店が提携する修理店や、自社工房を構える時計店で依頼が可能。
購入店に依頼すれば、保証がきいたり割引特典が付いたりすることもしばしば。
作業内容に大差はないので、どのルートで出すかは個々人の好みや価値観に拠るところが大きいでしょう。
ちなみにあまりにも特殊な製品は本国修理として送られることがあります。
Q.オーバーホールは具体的にいくらくらいの費用がかかるの?
A.大体の目安はシンプルな手巻き・自動巻きが18,000円~、自動巻きクロノグラフは28,000円~となります。
上記は最安値となり、オーバーホールのみのメンテナンスサービス料金です。
パーツ交換が必要な場合は、さらにパーツ代が加算されます。
ブランドやモデルによってもかなり変わってきますので上記金額はあくまで目安ですが、これを行うことでまた同じように時計を使い続けることができると考えると、かなり安く感じますね。
ちなみに当店では3万~5万円が一般的で、期間はおおよそ1ヶ月程度となります。
尚、複雑機構を搭載したモデルになると10万円を超えることもあります。
Q.クォーツ時計にオーバーホールは必要なの?
A.クォーツも精密機器ですので、機械式時計ほど頻繁ではないけれど必要です。
出典:https://www.grand-seiko.jp/about/movement/quartz/
↑クォーツムーブメント画像
機械式時計よりかはパーツの少ないクォーツですが、歯車などに負荷がかかっていることは事実。
電池交換しても精度が悪いなど不具合が見られる時は、一度オーバーホールをしてみましょう。
価格帯はシンプルなモデルで15,000円~、クロノグラフやムーンフェイズなどの複雑機構搭載機で25,000円~となります。
2.時計のトラブル~外装編~
外装パーツは最も所有者にわかりやすくトラブルが現れます。
他人の目にも留まりやすいので、気づいた時にすぐに対処したいですね。
①ケースやブレスレットが傷だらけになってしまった
日常的に使用しているため、擦り傷やうち傷がつくことが当たり前な腕時計。
素材によってはちょっとした刺激で傷ついてしまうものも。
ある程度は仕方ないとしても、あまりにも傷だらけになってしまうと少しみっともないですね。
対処法:外装新品仕上げ
費用の目安:18,000円~
修理店や工房では、リペアスタッフが傷のついた箇所に研磨仕上げを施してくれます。
外装にはポリッシュ(鏡面)やヘアライン(筋目)仕上げがあり、それに則って研磨してくれることがほとんど。
上の写真のように浅い線傷など研磨することで新品同様に綺麗になります。
しかし深すぎる傷やPVD加工が施された素材などは研磨対応では対処できないこともあります。
傷を見ると、その時の思い出が回想できる・・・こういった方もいらっしゃるので、そこまで神経質にならなくてもよいでしょう。
②風防(ガラス)が傷ついてしまった
ケースやブレスレットだけでなく、面の大きい風防(ガラス)もまた傷つきやすい箇所のうちの一つ。
視認性の邪魔をしてしまうほどなら、きちんと対処することをおすすめします。
対処法:風防の新品仕上げ
費用の目安:プラスティック風防の場合、ショップによっては無料
ケース・ブレスレット同様、研磨対応となります。
ちなみに風防用研磨剤は市販されているので、ご自分で行うこともできます。
最近はサファイアクリスタルという傷つきづらい素材を使用したモデルも多くなってきたので、昔に比べてこのトラブルは減りました。
しかし、サファイアクリスタルだと新品仕上げはできず交換となるため、10,000円~費用がかかってきます。
③風防が割れてしまった
風防が割れてしまった場合、できるだけ早い対処をおすすめします。
割れたガラスの破片でケガをしてしまったり、ムーブメント内部に欠片が侵入してしまう恐れがあるからです。
対処法:風防の交換
費用の目安:10,000円~(サファイアクリスタルの場合)
プラスティック風防だと5,000円~交換と割安となります。
今流行りのヴィンテージ風ドーム型やフランクミュラーなどは風防がケースより出っ張っているため、不意にぶつけないよう取扱にも注意する必要があります。
④ねじ込み式リューズがねじ込めない
出典:https://www.rolex.com/ja/watches/baselworld/new-sky-dweller/m326933-0001.html
防水性・気密性を高めるねじ込み式リューズ。
ロレックスやシャネル、タグホイヤーなど防水モデルではお馴染みの仕様ですね。
このリューズが閉まらない、というお問合せは少なくありません。
多少固い場合もありますが、リューズ側とケース側のねじ山がかみ合わない場合は交換が必要となります。
対処法:リューズまたはパイプの交換
費用の目安:10,000円~
かみ合わない原因は、経年によるねじ山の摩耗やゴミを挟んだまま閉め続けたことによる破損など。
こうなると交換が必要で、小さいパーツながらかなりの出費となります。
リューズを扱う時は丁寧に、ゆっくりまっすぐ開け閉めすることが長持ちの秘訣です。
⑤リューズが巻き芯ごと抜けた
アンティークなど年式の古いモデルだと、リューズが巻き芯から抜けてしまうことがあります。
原因の一つは巻き芯を固定する「オシドリ」に不具合が生じていること。
対処法:オーバーホール
費用の目安:18,000円~(シンプルな自動巻きモデルの場合)
緩む、摩耗する、破損するなど・・・
これはオーバーホールの中でメンテナンスすることが可能。
より軽症な場合は、ネジを閉め直すだけで改善することがあります。
またジョイント式リューズの場合は、パーツが噛み合って接合されているだけですので強く引っ張ると抜けてしまうことがあります。これは故障ではなく仕様ですので、リューズ穴に垂直に入れて軽く押せば接合し、再び使用することができます。
⑥針が軸から外れてしまった
時計に強い衝撃が加わると針が軸からはずれてしまうことがあります。
滅多に起こることではありませんが、オーバーホールを繰り返していると軸に固定させる針の穴が広がってしまい、外れやすくなってしまうのです。
対処法:オーバーホール
費用の目安:18,000円~(シンプルな自動巻きモデルの場合)
オーバーホールをし、針の穴を正常な大きさに戻し、再度軸と固定する、というケア方法がとられます。
ただ単にまたはめるだけ、とはいかないようです。
⑦いつの間にかプッシャーがない
近年人気の高いクロノグラフやムーンフェイズなどのためのプッシャー。
意外と外れてしまったという問い合わせは多いものです。
対処法:プッシャーの交換
費用の目安:5,000円~
プッシャーを強く打ち付けてしまうと、外れてしまうことがあります。
プッシャーは決して大きくはないので、外れてそのままどこかへやってしまった、ということも。
こちらは交換での対応となります。
⑧外装に頑固な汚れが付着
あまりにも長い間堆積してしまった塵やホコリなどは、傷と同様に外装仕上げが必要となります。
対処法:外装の新品仕上げ
費用の目安:18,000円~
しかし、汚れはセルフケアで防げる場合がほとんど。
一日中腕時計を身に着けていれば、当然汗や汚れがケースやブレスレットにこびりついてしまいます。
そのため、一日の終わりにクロスで拭き取れば、仕上げが必要な程度の汚れが固着することはあまりないでしょう。
また、ケースとブレスレットの接合部や細かなブレスの間など隙間にも溜まりやすいので注意。
衛生的にも心配なので、小まめにチェックすることをおすすめします。
⑨回転ベゼルが回らない
回転ベゼルが重い・回らなくなったという原因、実は前述した「汚れ」に関わってくることが多いです。
対処法:外装の新品仕上げ
費用の目安:18,000円~
回転ベゼルとケースの間に塵やホコリが溜まると、うまく作動しなくなることがあります。
固着した汚れが頑固な場合は仕上げをしてキレイな状態にすることが必要。
また、汚れ以外の原因としてパーツ自体が破損していることもあり、その際は交換となります。
⑩逆回転防止ベゼルが両回転する
ダイバーズウォッチおなじみの逆回転防止ベゼル。
ロレックスやオメガのシーマスター、タグホイヤーのアクアレーサーなど、今やおしゃれとしても欠かせないアイテムと言えます。
ダイビングタイムの誤計測を防ぐために反時計回りにのみ回転する仕様となっていますが、稀に両回転できてしまうという事例があります。
対処法:逆回転防止バネの修復
費用の目安:3,000円~
この事例の原因はベゼルではなく、ケース側に搭載される逆回転防止のバネ(ツメ)が破損したことによるもの。
バネが伸びてしまったり切れてしまったりといったことが考えられます。
実際この機能を日常で使っている方はあまりいらっしゃらないかもしれませんが、時計は精密機器のため一部の破損が思わぬ故障に繋がることも。
気づいた時にすぐに対処することが最善策でしょう。
⑪文字盤の色が変化した
長年にわたり同じ時計を使い続けていると、経年によって文字盤の色が変化したり腐食してしまうことがあります。
例えば真っ白だったものが少しクリームがかったアイボリーになったり茶色になったり・・・
対処法:文字盤のリダン
費用の目安:15,000円~
文字盤が変色するほどの歳月を生きている個体は、リダン(補修や書き換え)して元の色を復刻させることになります。
このリダン、実は修理人の技術力に大きく左右されます。
文字盤は時計のまさに顔であるため、できるだけ失敗は避けたいものです。リダンを依頼する際は、必ず実績のある修理店を選びましょう。
またメーカーに持ち込めば文字盤を交換してもらえるケースもあります。
↑黒文字盤が経年で茶色に変化したエクスプローラーのトロピカルブラウンダイアル
一方でアンティーク時計は文字盤の経年による変色を「アンティークの味わい」とする方もいらっしゃいます。
実際、ロレックスのデイトナは経年で変化した「ブラウンアイ」や「クリームダイアル」などがプレミア価格を記録しており、非常に高い価値を持ちます。
もちろん視認を邪魔するほど腐食が激しいものは時計自体の価値を落としてしまいますが、色合いの変化や経年による焼け、色褪せは現行モデルにはない味として時計マニアに好まれているようです。
⑫文字盤の夜光が剥がれ落ちた
現行モデルを購入された方にとっては滅多にないケースではありますが、夜光塗料が剥がれ落ちてしまった時は再塗布の必要があります。
対処法:夜光の再塗装
費用の目安:1,000円~/針1本あたり
全く同じ塗料を使うことはありませんが、きちんとした職人さんであればオリジナルの色味に合わせて違和感のないようにしてくれるでしょう。
また、経年で変色・退色した時などにも有効な措置となります。
⑬風防の内側に水滴がついている・曇っている
このケースは、危険度MAX。
リューズ、裏ブタ、風防の縁などから、水が侵入してしまいました。
普通に動いていたとしても、一刻も早く修理に持ち込む必要性があります。
対処法:外装のチェック&オーバーホール
費用の目安:25,000円~(シンプルな自動巻きモデルの場合)
時計の内部に水が侵入していると、ムーブメントにもその影響が及んでいると思われます。
このまま放置してしまうと錆びてしまい、取り返しのつかないことになりかねません。
外装・ムーブメント全てをチェックしてもらいましょう。
⑭ブレスレットのコマが伸びてヨレてしまった
メタルブレスレットはずっと使い続けていると「伸び」てしまうことがあります。
ロレックスのデイトジャストに採用されるジュビリーブレスなど、細かいコマのものだとその傾向が顕著。
対処法:ブレスレットの交換
費用の目安:ブレスレットのヨレのみの修理は滅多にないため、購入店や修理店に応相談となります。
伸びきったブレスレットは見た目にも悪く、また皮膚をはさんでしまったりと装着感にも影響が出ます。
ブレスを構成するコマとピンの連結を再調整することにより、ある程度の状態に復元できることもあります。
⑮レザーベルトが汚い・異臭がする
レザーベルトは湿気や汗に弱く、消耗品となります。
丁寧に扱うことで長持ちさせることは可能ですが、毎日使っている方なら1~2年程度で交換することがおすすめ。
対処法:ベルトの交換
費用の目安:1,000円~、高級品は10,000円~
時計店に依頼せずとも、専用工具があればご自身での交換が可能です。ただし慣れていないと傷をつけてしまう恐れがありますので、時計店で行ってもらう方が良いと思います。
パネライやカルティエなど、ワンタッチでベルトを交換できるシステムを導入しているモデルもあります。
交換するベルトによって価格はまちまち。
メーカー純正品でなくても、モレラートやカミーユフォルネなど極上の革ベルトを提供しているショップは少なくありません。
3.時計のトラブル~ムーブメント編~
時計の心臓部にあたるムーブメント。
細かなパーツで構成されているため、非常に繊細かつ緻密。
そのため、異変に気づいたらすぐに対処することが求められます。
①時間が遅れる・止まる
ムーブメント関連の不具合で最も多く気づきやすいことが精度異常。
ほとんどの場合が潤滑油が劣化し、精度を司る歯車などがスムーズに機能しなくなることが原因です。
対処法:オーバーホール
費用の目安:18,000円~(シンプルな自動巻きモデルの場合)
前述のように、オーバーホールはパーツを分解し新たに潤滑油を指す作業。
これをすることによって時計はまた順調に時を刻むことになります。
あまりに摩耗が激しいとパーツ交換が必要になり、修理の値段も高額化。
やはりオーバーホールは定期的に行うことが大切ですね。
②時間の進みが早い
最も多いケースはヒゲゼンマイの不具合。
ここに異常があると精度に何らかの影響があります。
出典:https://www.grand-seiko.com/jp-ja/
対処法:オーバーホール
費用の目安:18,000円~(シンプルな自動巻きモデルの場合)
時間の進みが早い場合も、パーツに不具合が生じている可能性があります。
変形している場合は補正したり、パーツ交換が必要に。
ヒゲゼンマイだけを見ることは難しいので、オーバーホールを行うことになります。
ただし緩急針(かんきゅうしん)の調整で簡単に直せるケースもありますので、一度時計店に持ち込んで状態を確認してもらうのがよいでしょう。
また、磁気帯びも時間が早く進む原因の一つとして考えられます。軽度な磁気帯びであれば脱磁機で簡単に直すことができます。
③久しぶりに使ったら精度が悪い
もちろん毎日使っていてもパーツに負荷がかかり消耗していきますが、ずっと使わないままにしておくのムーブメントにとってはあまりいいことではありません。
ムーブメントに使われた潤滑油が凝結し、正常に機能しなくなるためです。
こうなったらやはりオーバーホールが必要となります。
対処法:オーバーホール
費用の目安:18,000円~(シンプルな自動巻きモデルの場合)
これを防ぐ手段として、日常的にゼンマイを巻く、使用することが求められます。
複数本所持している方はローテーションしたり、あるいはワインディングマシーンを使うのも手です。
④時計を落としたら動かなくなってしまった
衝撃は時計にとって決して小さくない影響を与えるもの。
落とした先がかたい床などであればなおさらです。
対処法:オーバーホール
費用の目安:18,000円~(シンプルな自動巻きモデルの場合)
衝撃により、テンプの破損やヒゲゼンマイが外れてしまった、などが考えられます。
いずれにせよ、一度分解して調べなくてはなりません。
最近ではロレックスやオメガなどが衝撃に強いムーブメント開発で活躍していますが、衝撃は外装の傷などの原因にもなるし、ましてや相手は高級品。
着け慣れていても、取り扱いには注意したいものですね。
⑤時計の中から音がする
時計の中からカタカタというような音がする場合は、パーツが外れてしまった可能性大。
パーツを繋ぐネジは衝撃などで外れてしまうのです。
また、手巻きに比べ自動巻きは装着するとずっと動いているため、ネジが緩みやすい傾向にあります。
対処法:オーバーホール
費用の目安:18,000円~(シンプルな自動巻きモデルの場合)
問題なく動いていたとしても、すぐに分解して調べてもらいましょう。
脱落したパーツが他のパーツを傷つけてしまったら大変です。
また自動巻き時計をお使いの方でローターが回転するシャー、シャーという音を異音と勘違いする方がいらっしゃいます。自動巻き時計はローターが回転することでゼンマイを巻き上げ作動しますので、この音は不具合ではありません。
⑥リューズを回しても空回りする
リューズを回しても空振りする。
なんの感触もない。
そんな時はゼンマイが切れていると考えて良いでしょう。
ゼンマイを交換しなくては時計は動きません。
対処法:ゼンマイの交換
費用の目安:5,000円~
ゼンマイは私たちが思っていいる以上に細く繊細。
そのため巻きすぎると切れてしまうことも。
特に手巻き式時計をお持ちの方は、ゆっくり、巻き止まりを守ってお使い頂くことが必要です。
⑦ローターを回すと金属がこすれあうような音がする
ローターの異音の多くは裏ブタが当たってしまっているため。
ローターがずれてしまうと接触してしまうのです。
対処法:ローターのネジを締め直す
費用の目安:ローターネジ締めのみの修理は滅多にないため、購入店や修理店に応相談となります
ローターを固定するネジはムーブメントの中でも最も緩みやすい箇所。
それゆえ締め直すだけで簡単に解決するし、多くの場合が精度面にほぼ問題はありません。
しかし、異音はとかく気になるもの。
気づいたら、時計店で状態を見てもらうことをおすすめします。
⑧日付が切り替わらない
0時を過ぎているのに日付が切り替わらない。
これは、ムーブメントの「日送り車」が破損している可能性があります。
対処法:日送り車の交換
費用の目安:3,000円~
この箇所の不具合を防ぐには、「カレンダー操作禁止時間帯」にデイト操作を絶対に行わないこと!
午後8時~午前4時までの間が一般的な禁止時間帯ですが、この時間帯はカレンダーディスクの歯と日送り車のツメが噛み合っており、カレンダーの早送りを行うと故障の原因となります。
出典:https://www.alange-soehne.com/ja/#home
機械式時計を初めて購入した方は、禁止時間帯があることを知らずにカレンダーを早送りし、壊してしまうことがあります。
手動調整の際は取扱説明書をよく読みましょう。
尚、現在はロレックスやブライトリングなどがカレンダー操作禁止時間帯がないムーブメントを開発しています。
⑨日付が中途半端な位置で止まった
日付が半目になったまま動かない。
その際も日送り車やカレンダーディスクにダメージがあることが考えられます。
対処法:日送り車の交換
費用の目安:3,000円~
これも防ぐ手立ては「カレンダー操作禁止時間帯」を守ること。
交換の際、汎用機であるETA社ムーブであれば3,000円~5,000円で交換できますが、ロレックスなど自社製だと1万円を超えてしまうこともしばしば。
こういった痛い出費をなくすためにも、手動操作は最新の注意を払いましょう!
⑩クロノグラフ針の位置がずれている
クロノグラフ針をリセットして帰針させても、ゼロ位置から少しズレていることがあります。
その原因の多くは「ハカマ」の緩み。
対処法:ハカマの再調整
費用の目安:10,000円前後
ハカマとは、針を支える筒状のパーツのことです。
本来しっかりと固定されていますが、衝撃や経年により位置がずれてしまうことがあります。
このハカマを締め直せばゼロ位置に戻すことが可能です。
ハカマの締め直しのみであれば高額修理になはなりませんが、別作が必要となると、時間も費用もかかってきますので要注意です。定期的なオーバーホールを行っていれば、未然に防げるトラブルであることは知っておきたいところです。
⑪ムーブメントが磁気帯びしている
時計にとって三大よくないことといえば、水、衝撃、そして磁気。
携帯電話やパソコン等、磁気を発する電化製品などに時計を近づけてしまうと、精度に狂いが生じます。
軽症なら再度時刻合わせをすれば問題ありませんが、重度の場合は磁気抜きをします。
対処法:磁気抜き
費用の目安:1,000円~
磁気抜きはけっこう簡単。
修理店では専用機器を置いているので、それにかざします。
また、ご自身の時計が磁気帯びしているかどうかは方位磁石に近づけてみて、方位磁石の針が大きく動けばかなりの磁気を帯びています。
⑫クォーツの電池が液漏れした
出典:https://www.grand-seiko.com/jp-ja/support/battery/
クォーツ式は機械式ムーブメントほどのトラブルは少ないと言われていますが、やはりそこは精密機器。
取扱に注意を要します。
とりわけ電池の液漏れは深刻で、深刻なケースになると回路だけでなくムーブメント全体にいきわたり、ムーブメントそのものを交換しなくてはならないことに・・・
電池がなくなった状態で放置していると液漏れを起こしますので、電池がなくなったら早急に新しい電池に交換をすることをお勧めします。
対処法:電子回路の交換
費用の目安:5,000円~
軽度の場合は回路交換となり、汎用機であれば5,000円ほどで対応できます。
4.これって故障の原因になる?時計にまつわる素朴な疑問まとめ
最後に、取扱説明書などには明確に書いてないけど、使用の上でふとした瞬間湧きがちな疑問をまとめてみました!
Q.機械式時計の針は逆回ししてもいいの?
A.針の逆回転で壊れる可能性は低いですが、お勧めは致しません。
針は時計回りで動かすことが基本とはなりますが、シンプルなものであれば逆回ししても歯車への影響はそこまではありません。しかし機械に負担がかかりますのでやらない方がベストです。
しかし、永久カレンダーなどのコンプリケーションはムーブメントが複雑なので、時計回りを守りましょう。
また、年式の古いアンティークはムーブメントも古くなっているため、避けた方が無難です。
Q.自分で裏ブタを開けてもよいの?
A.あまりお勧めはできません。
裏ブタを開けるためには「オープナー」という工具を用いますが、扱いに慣れていないとケース自体に傷がついてしまったり、ムーブメントに触れてしまったりといったトラブルも。
鑑賞するだけなら問題ありませんが、何が起こるかわからないのでおすすめはできません。
現在は裏蓋や文字盤がスケルトンになったモデルも多いので、メカ好きはそういったモデルを購入してみてはいかがでしょうか。
Q.ゼンマイはフル巻きじゃないと精度が悪いの?
A.フル巻きの方が精度は安定しますが、そうでなくても精度の違いはほとんど気づかないレベルです。
ゼンマイが最大まで巻き上がっている方がパワーがあるため精度は良いですが、ほどけていても気にならないレベルの精度の違いです。
どうしても気になる方は、パワーリザーブインジケーターがついたモデルを選べばどれくらいの巻き上げかが文字盤を見るだけでわかります。
まとめ
機械式時計は高価格帯のモデルがほとんどで、購入した時は大切に扱おうと思うもの。
しかし、メンテナンスやアフターケアのことになると、あまり知らない方が多いことは事実です。
一生を共にするかもしれない腕時計は、ご自身の体と一緒。
何かあった時は早めに適切な対処をして、ずっと健康に過ごしていきましょう!
※記載している「費用の目安」は修理専門店でのものとなります。
製品や症状、ショップによって大きく変動いたしますので、ご了承くださいませ。
当記事の監修者
廣島浩二(ひろしま こうじ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年