「ジャン・クロード・ビバー」
現在の時計業界はこの人の存在なしには語れません。
ビバー氏はクォーツ時計の台頭によって苦境に立たされていたスイス時計業界を立て直し、数々の人気ブランドにおいて革新をもたらした人物です。
2014年からはLVMHグループの時計部門トップに君臨し、時計業界を牽引し続けてきました。
ただ近年は体調不良に悩まされていたとも聞きます。
そして2018年9月。
遂にビバー氏は45年のキャリアに一区切りをつけ、時計業界の第一線を退くことを発表しました。
https://www.hublot.com/ja/news/mr-jean-claude-biver-biography
目次
ジャン・クロード・ビバー氏の功績
常に時計界を牽引し、革新を与え続けてきたビバー氏。改めてそのキャリアを確認してみると、如何に時計界に影響を与えてきたのかがわかります。
ここでは彼の功績を再確認してみましょう。
世界最古の時計ブランド ブランパンの復興
まず最初の大きな功績。それは1983年にブランパンを買収し、復興を果たしたことです。
当時のスイス時計界はセイコーがクォーツ時計の開発に成功したことで、瀕死の状態に陥っていました。
安い上に正確であるクォーツ時計を人々は求めるようになったからです。
しかし、ビバー氏は機械式時計は必ず復活できると信じ、世界最古の時計ブランドであるブランパンを買収し、再興に尽力しました。
ビバー氏が行った戦略は「機械式時計にしかない魅力を全面的に打ち出す戦略」です。
具体的には「ウルトラスリム」「ムーンフェイズ」「パーペチュアルカレンダー」「スプリットセコンドクロノグラフ」「トゥールビヨン」「ミニッツリピーター」という機械式時計ならではの機構や特徴を取り入れた時計を1年ごとに発表することで、機械式時計の素晴らしさを世界に発信しました。
結果的にこの戦略は功を奏し、機械式時計の存在を忘れかけていた人々の心に大きな影響を与えます。
オメガにおいてアンバサダー戦略を根付かせる
ビバー氏の功績はブランパンの復興だけに留まりません。
続いてビバー氏はオメガでマーケティング活動に従事し、アンバサダー戦略によるブランド力の向上に努めました。(1990年代)
出典:https://www.omegawatches.jp/ja/planet-omega/sport/rio-2016/ambassadors-in-rio
アンバサダー戦略はアスリートや著名人とパートナー契約を結ぶことで、ブランドのイメージと知名度を格段に上げる戦略です。
今現在はどのブランドも積極的にこの戦略を打ち出していますが、元を辿ればビバー氏が始めた戦略といっても過言ではありません。
オメガが人気ブランドとして君臨している背景にはビバー氏の功績があるのです。
ウブロ ビッグバンの開発
2003年末からは当時新興ブランドであったウブロのCEOに就任し、商品開発に携わります。
それまで目立つブランドではなかったウブロですが、ビバー氏は「融合の技術」というコンセプトのもと、フラッグシップモデルであるビッグ・バンを開発。
その革新的なデザインは時計界に大きな衝撃を与えました。
高いマーケティング能力に加え、固定概念を覆す彼独自のセンス。
ブランパン・オメガ・ウブロという時計界を代表するブランドを蘇らせたビバー氏は時計界の救世主として崇められるようになりました。
LVMHグループウォッチ部門のプレジデントに就任
2014年1月からはLVMHグループウォッチ部門のプレジデントになり、同年12月からはタグ・ホイヤーCEOに就任。ウブロ、ゼニスを統括しながらの多忙な生活を送るようになります。
タグホイヤーにおいては積極的にアンバサダー戦略を打ち出し、商品開発においても「ホイヤー01」の発表により新たなる世界観を構築しました。
ただ、巨大グループのCEOというポジションは体の負担が重く、ここ数年は常に体調不良が続いていたようです。
70歳という節目の歳を迎え、一線を退く選択をしたことは自然なことなのかもしれません。
後任について
ビバー氏の後任としては、以下の人物がそれぞれ重要なポストに就任します。
■時計部門最高経営責任者(CEO): ステファン・ビアンキ氏
■タグホイヤー ストラテジー&デジタルディレクター: フレデリック・アルノー氏
11月1日付けでCEOに就任するステファン・ビアンキ氏は時計界に携わっていた人物ではありませんが、フランスの化粧品ブランド「イヴロシェ」の中心を担っていた経験をもち、コンサルティングや経営管理に関しては超一流の能力を持っていると聞きます。
また、タグホイヤーのストラテジー&デジタルディレクター(ブランド戦略部門)に就任するフレデリック・アルノー氏はLVMH会長兼CEOであるベルナール・アルノーの三男です。
23歳という若さでの就任となるため、その手腕が試されます。
ちなみにビバー氏は完全に引退するわけではなく、今後は同部門のノン・エグゼクティブ・プレジデントになり、アドバイザーの役割を担います。
本人も「これからは45年の経験を新たなチームに引き継ぐことに力を注ぐ」と語っており、一線を退くとはいえ、まだまだ現役で時計界に携わっていくことになりそうです。
当記事の監修者
南 幸太朗(みなみ こうたろう)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 買取部門 営業企画部 MD課/買取サロン プロスタッフ
学生時代に腕時計の魅力に惹かれ、大学を卒業後にGINZA RASINへ入社。店舗での販売、仕入れの経験を経て2016年3月より銀座本店 店長へ就任。その後、銀座ナイン店 店長を兼務。現在は営業企画部 MD課 プロスタッフとして、バイヤー、プライシングを務める。得意なブランドはパテックフィリップやオーデマピゲ。時計業界歴13年。