高級時計を買うとき、新品を買うか中古を買うか迷われる方は多いです。
一般的に品質を求めるのであれば新品、少しでも安く買いたいのであれば中古を買うというのが通例ですが、高級時計に関しては少々これが複雑です。
今回は新品のメリット・デメリット、中古のメリット・デメリットを踏まえ、どちらで購入するのがオススメなのかを解説していきます。
迷っている方は是非ご一読ください。
目次
高級時計を中古で買うということ
中古時計は一度誰かが使った時計になります。
新品は時計店でのみ購入することが可能ですが、中古時計に関しては時計専門店・質屋・リサイクルショップ・メルカリ・ヤフオクといった様々な店舗、サービスから購入することが出来るため、選択肢が非常に広いです。
新品は最新モデルしか販売していませんが、中古品は最新モデルからアンティークウォッチまで多種なため、新品の数十倍の選択肢があります。
また、状態によって価格が異なるため、予算に合わせて購入することができます。
中古価格はどう決まる?
販売価格を決定する基準は時計の状態によって決まり、コンディションの良い時計であれば高値がつき、付属品が揃っている時計の方が価値が高くなるのが基本です。
ただし状態だけで価格が決まるわけではなく、国内需要や為替によって価格は大きく変動します。
ブランドリユース品は、業者間でオークションが開催されており、そのオークションの売値によって価値が決まります(これが一番大きな理由です)。
業者間オークションでは先月100万円の値が付いた時計が今月は110万円の値が付くということは珍しくありません。株や為替のように毎日変動するのです。
ロレックス専門店、低価格帯の時計をメインに扱う店舗、レディースに力を入れている店舗。オークションに参加する業者の販売スタイルは様々ですが、並行店であれば殆どの業者がオークションを通じた取引を大なり小なり行っていると思って良いでしょう。
その値によって小売りの売価が決まります。そのため売価をきちんと管理している店舗では業者間オークションをまめに確認し、自社の在庫が高過ぎ、安過ぎにならないよう毎週価格調整を行っているのです。「あれ?先週は100万円だったのに今週は95万円だ・・」というのは上記の理由で起こっています。
また、価格差が生じる理由として、仕入れルートの違いも挙げられます。
店舗が商品を調達するルートは、業者間オークション、個人買取、海外仕入れなどがありますが、業者間オークション経由で仕入れられた時計よりもユーザーから直接買取した時計の方が仕入れ値が安いです。そのため個人買取に長けている店舗はより価格優位を築けると言えます。逆に、個人買取を行っていない、または買取力が弱い店舗は安価に仕入れられないため高値で売らざるを得ません。
各店舗の買取力を測る指標の一つとしては「品揃え」が挙げられます。買取が強い店舗は相対的に品揃えが豊富になる傾向があります(業者間オークションは各業者間で在庫の取り合いになるため、この仕入れルートだけで豊富な品揃えを築くのは難しいです)ので、購入される前にその店舗がどれくらいの在庫を抱えているのか確認してみるのもよいでしょう。
高級時計(20万円以上の時計と仮定)においては、1,000本以上在庫を持っていたら、非常に品揃えが豊富な店舗といえます。
また、ブランドによってショップ間で販売価格に差が出やすいモデルとそうでないモデルがあるのも特徴です。
例えばロレックスやオメガといったブランドは比較的価格差が生じにくい傾向にありますが、オーデマピゲ、ブレゲ、フランクミュラーなどは同じ時計であっても、ショップ間で価格が大きく異なることがあります。
なぜならロレックス、オメガは国内流通量が多く、どの店舗も多く在庫を抱えているため、店舗間で価格競争に陥る傾向があります。その反面オーデマピゲ、ブレゲは国内流通量が少なく、自店舗しかその時計を持っていない、または数社しか持っていないという状況が起こるので、価格だけで勝負をする必要がない(顧客は選択肢が少ないので多少高値でも買ってもらえる)のです。
また、店舗によって得意なブランドや苦手なブランドが存在します。
例えば弊社ではパテックフィリップやオーデマピゲ、ウブロといった超高級ブランドにおいては他社より販売力があると自負しております。そのため高値で買い取ることができますし、安値で販売できます(高値で買い取ってもすぐに販売につなげられるのでキャッシュフローに問題がない)。逆にそういったブランドに販売実績がない店舗は、長期在庫として抱えてしまうリスクがあるので高値では買い取れないのです。
各店舗の得意なブランド、苦手なブランドの見分け方としては、単純ですが、店舗のHPを見てそのブランドの取扱数が多ければ得意、少なければ苦手であることが多いです。
高級時計を中古で購入するメリット・デメリット
では、高級時計を中古で買う際、どのようなメリットデメリットがあるのでしょうか?
新品で購入する時との違いを踏まえ、解説いたします。
メリット①価格が安い
当たり前のことですが、中古で時計を買う最大のメリットは「価格」です。新品では手が届かない憧れのブランドであっても中古ならば手が届くこともあり、安く時計を購入したい方にとってはこれ以上ない選択肢だといえます。
どれだけ安くなるかは状態やモデルにも依りますが、正規新品の半額程度で購入できるモデルも多いです。
タグホイヤーの人気モデル、カレラ キャリバー5 WAR211A.BA0782を例に挙げてみましょう。
この時計はタグホイヤーの中でも特に人気が高いモデルであり、定価275,400円という価格で販売されています。
しかし中古であれば15万円前後で購入することが可能です。同じモデルであっても10万円以上安く買えます。
また、購入する時だけでなく、売るときも中古にはメリットがあります。
高級時計は新品で購入しても、中古で購入しても、売るときの価格は一緒です。たとえ新品で時計を購入しても一度でも身に着けてしまえば同じ「中古」となります。
そのため、数年後に売却を考えているのであれば、中古で買ったほうが確実にお得です。
WAR211A.BA0782の買取価格は約12万円程度(状態による)のため、15万円前後で購入した場合、差額3万円程度で高級時計が楽しめます。
色々な時計を楽しみたいという方にとっても中古はおすすめです。
メリット②生産終了モデルを購入できる
中古で時計を購入する場合、生産終了モデルを買うことができるのも見逃せないポイントです。
冒頭でお伝えした通り、正規店で時計を購入する場合は現行モデル(最新モデル)しか購入することができません。
しかし、中古であればこれまでに製造されたありとあらゆるモデルが購入の対象となります。
例えば、ロレックス サブマリーナ デイトの場合。
サブマリーナ デイト(SS)の現行モデルは2020年に発表された126610LN/126610LVです。それ以前に発売された 116610LN/116610LVや16610などは、全て製造終了品となっており、正規店で購入することができません。
しかし中古であれば、いずれのモデルも購入することが可能です。
中古品は生産期間が関係しない為、販売できる状態が続く限り、1世代前や2世代前のモデルをお買い求めいただけます。
新品と比べると選択肢の幅が圧倒的に広く、好みの時計を選ぶ楽しみを存分に味わうことができます。
デメリット①メーカー保証期間
高級時計をお得に買える中古ですが、もちろんデメリットもあります。
ブランドによってアフターサービスに差はありますが、新品で時計を購入すると保証期間が付きます。ロレックス・オメガ・ブライトリング・オーデマピゲは5年間という長期保証があり安心感が強いです。しかし、中古で時計を買う場合は保証期間がどうしても短くなってしまい、個体によっては保証がない場合もあります。
そのため時計店では店舗独自の保証期間(新品2年間、中古1年間など)を設けているケースが多いです。購入前には必ず保証期間やアフターサービスに関して確認することをお勧めいたします。
リサイクルショップや一部の質屋では保証が付かない、アフターサービスは外部に丸投げといったところが多いので注意が必要です。メルカリなどのフリマアプリは保証が付かないどころか偽物を購入するリスクがありますのでお勧めいたしません。
デメリット②コンディションの見極め
中古時計は状態が様々です。傷が残っている時計もあれば、新品同様の時計もあります。
傷一つない状態を理想としてしまうとガッカリするかも知れません。
ただ、優良店は研磨で取り除いてから売り場に出します。また、革ベルトも新品に交換しているため「中古=汚い」のイメージは当てはまりません。
新品と見間違えてしまうほど綺麗な状態であることも珍しくありませんので、中古時計をお探しになる場合は複数の店舗を回ってみると良いでしょう。
また、内部機械においても注意が必要です。
機械の動作確認を行わずに時計を陳列する店舗もあり、そのような店で時計を購入してしまうと、すぐに不具合が出る可能性があります。せっかく時計を中古で安く購入したとしても、オーバーホール費用が掛かってしまったら結局損をしてしまいます。
ただ、これも優良店で購入することで回避することが可能です。優良店は販売する前に精度や防水性能を細かくチェックし、厳しい検品をパスした時計のみを売り場に並べます。
精度に問題ある場合は店頭に出す前にオーバーホールを施しますので、お客様が購入後にオーバーホールをしなければならない事態にはならないケースが殆どです。
中古時計には確かにデメリットがありますが、これは購入する店舗を間違えたことによって発生するものです。
購入前にインターネットで口コミを調べ、評価の高い優良店で買えば殆どのデメリットを回避することができます。
そのため、中古時計のデメリットは「一度誰かが使った時計である」という点を除けば殆ど気にならないといっても過言ではないでしょう。
高級時計を新品で買うということ
中古品は一度でも消費者に渡ったことのある商品を指しますが、新品は消費者に渡る前の段階の時計を指します。
主にメーカーから直接代理店や小売店に出荷された商品を新品と呼び、大きく分けて「正規品」と「並行輸入品」の2つの新品が存在します。
知っておきたい正規品と並行輸入品
高級時計における新品には正規販売代理店で販売される「正規品」と、並行輸入品として海外から仕入れてきた「並行輸入品」があります。
どちらも同じ新品には変わりありませんが、仕入れルートや価格が異なります。
■正規品・・メーカーの正規店で販売された商品。定価での販売となるため割高ですが、正規店で購入した時計のみが受けられるサービスがあるなど、ブランドによっては優遇されることもあります。
■並行輸入品・・正規代理店を通さず国内に入荷された商品。販売店が自由に価格を決められるため正規品よりかなり安い価格で手に入れることができます。時計自体は正規品と同じです。正規品と並行輸入品でアフターサービスや保証に差をつけているブランドも存在します。
正規店はメーカーと代理店契約を結んだ「正規輸入品」を販売する店舗です。対して並行店は、海外直営ショップや海外量販店などで一般に流通している商品を買い付け、国内で販売している店舗になります。いずれも新品を販売しているのは同じですが、並行店は店舗によってサービスに違いがある為、信頼できる並行店で購入するのが重要です。
高級時計を新品で購入するメリット・デメリット
高級時計を中古で購入する場合、何より価格にメリットがあります。
対して新品で購入する場合は、高い満足感が味わえます。
自身が初めのオーナーという特典は中古では得られない魅力であり、時計に対する思い入れも大きくなります。
メリット①安心感
時計を「新品」で購入するメリットは、安心感です。
中古時計はどうしても店舗や個体によってコンディションが異なるため、良し悪しを選ぶのが難しい場合があります。
しかし、一度も使用していない新品であれば、状態を心配する必要はありません。
外装の傷や機械の精度、付属品の有無に関して気を使う必要はありませんので、予算に余裕がある方は新品を買うのがおすすめです。
また、新品は中古品より保証期間が長く設定されていることも魅力的です。
ロレックスやオメガは5年間のメーカー保証がつくため、安心して時計を使用することができます。
加えて、正規品であれば保証書や説明書も日本仕様のモノが手に入ります。
並行輸入の新品では、輸入した国によって取扱説明書に記載される言語が異なりますが、日本正規品であれば日本語で記載されています。
日本語の説明書が欲しい方は正規店でのご購入を検討してみてください。
メリット②高い満足感を得られる
正規店で購入した場合は「正規新品を買った」という満足感が得られます。
保証書には自身の名前が刻まれ、高級時計のファーストオーナーになるという特別な体験をすることができます。
購入金額に関しては、中古で購入するよりも大きく跳ね上がってしまうことでしょう。
しかし、格式高い正規ブティックで時計を購入したというエピソードは、お金では買うことのできない経験となります。
メリット③最新作をいち早く購入することができる
高級時計の最新作はまず新品として市場に出回ります。
その後、新品が売却されることで中古が流通しますが、製造本数がそもそも少ない場合、中古の流通量も少なくなります。
最新作を安く買おうと中古の流通を待っている間に、トレンドが次の新作に移ってしまうことも珍しくありません。
最新モデルはそれでだけで価値があり、注目の的になります。
しかし、その恩恵は発売してから時が経つにつれ薄まりがちです。
すぐに最新作が欲しい。人に自慢したいという方にとって、いち早く最新作を手に入れることができる新品はメリットが大きいと言えるでしょう。
デメリット①リセールバリューが中古と変わらない
当たり前ですが新品は中古と比較すると高額です。並行輸入品であれば定価よりも安く買えますが、中古と比較してしまうと、割高感は否めません。
特に正規新品と中古を比べてしまうと同じ時計で数十万円の差が生まれることも珍しくないのが現状です。
また前述のとおり、リセールバリューは中古と変わりません。そのため購入価格と売却額の差は中古で購入した時より大きくなってしまうでしょう。
もし将来的に時計の売却を考えているのであれば、中古を買っておいた方が得となります。
デメリット②選べるモデルの幅が狭い
中古であれば現行モデルだけでなく、製造終了品からも時計を選ぶことができます。
しかし、新品の場合は基本的に現行モデルを購入することになるので、選択の幅が狭いです。
色々なモデルの中から時計を選びたいという方にとっては、少し物足りなく感じてしまうでしょう。
また、欲しいモデルが生産終了していた場合、新品で買いたいと思っていても、中古で買うしかありません。
新品に拘るかモデルで選ぶかは人それぞれですが、新品で購入できるモデルには限りがあることを覚えておきましょう。
高級時計の新品VS中古を価格帯で比較してみた
高級時計は新品よりも中古で買った方が価格面においてお得です。
新品と中古の価格差はブランドやモデルによって大きく異なり、新品と中古で10万円以上の差があるモデルもあれば、数万円の差しかないモデルもあります。
10万円〜50万円
エントリークラスの時計において近年急速に評価を高めているノモス。フラグシップである「タンジェント TN1A1W2」も中古であればお得に購入することができます。タンジェント TN1A1W2の平行新品価格は15万円前後、中古相場は12万円台となっており、3万円ほど安くお買い求め頂けます。
50万円〜100万円
ヴィンテージ感溢れる独特な雰囲気が魅力的なオメガ シーマスター 300 マスターコーアクシャル 233.30.41.21.01.001。入荷後すぐに完売してしまう今話題の時計です。
こちらは定価(正規新品価格) 712,800円、平行新品価格は約54万円となっていますが、中古であれば45万円前後で購入できます。
新品と中古の差は10万円近く。定価(正規新品価格)と比較するとその差は25万円以上です。
スティーブ・マックイーンが1971年公開の名作カーレース映画『栄光のル・マン』の中で着用したモデルとして知られるモナコ。こちらはキャリバーホイヤー02を搭載させた2019年発表モデルです。
定価(正規新品価格) 704,000円のモデルですが、並行新品相場は40万円台後半。中古価格は40万円前後〜となっております。
もともと定価と比較するとお得に買えるモデルですが、中古であれば更にお得に購入が可能です。
個体や店舗にもよりますが、定価の6割ほどの価格で手に入れることができます。
100万円~
ウブロ屈指の人気モデル「ビッグバン スティール セラミック 301.SB.131.RX」。
こちらはの定価は1,584,000円となりますが、平行新品相場は100万円前後となります。
中古であれば90万円台後半で購入することができます。
定価と比較すると、その差は50万〜60万円にもなります。
まとめ
新品と中古を比較すると、それぞれにメリット・デメリットがあることが分かります。
どちらを選ぶかは買う方の考え方によって異なるので、一方を絶対的に良いと断言することはできません。
ただ総合的に考えると「状態の良い中古品」を買うのが一番お得かもしれません。
何故なら研磨が施されたケースは新品と何ら遜色がなく、ムーブメントに関してもメンテナンスが施されているのであれば大差がないからです。
さらに購入金額を抑えることができ、数年後に売却した際、その差額が少ないです。
時計専門店で勤務している方の多くがご自身の時計に中古を選ぶことから考えても、中古のメリットは大きいと感じます。
当記事の監修者
新美貴之(にいみ たかゆき)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 店舗営業部 部長
1975年生まれ 愛知県出身。
大学卒業後、時計専門店に入社。ロレックス専門店にて販売、仕入れに携わる。 その後、並行輸入商品の幅広い商品の取り扱いや正規代理店での責任者経験。
時計業界歴24年