ほとんどの腕時計に付いている時計の重要部品「リューズ」。
一般的な時計であれば文字盤の3時側に配置され、時刻合わせの際に活用されます。
リューズは内部の部品を自分で動かすため、基本的な取り扱い方を知らないまま操作すると、内部機械を破損させてしまう恐れがあります。
そこで今回は知っておきたいリューズの取り扱い方や注意点について、詳しく解説していこうと思います。
目次
リューズとは?
リューズは時計のケースサイドに備えられた突起のある部品です。
3時位置の横に位置するモデルが多く、引っ張ったり押し込んだりして作動させます。
なお、リューズには大きく分けて2つのタイプが存在し、それぞれ特徴が異なります。
一つは「引き出し式」もう一つは「ねじ込み式」です。
引き出し式・・大半の時計で採用されているリューズを引き出すことで作動させる方式。一般的なクォーツ時計、シンプルな3針機械式によく使われます。
ねじ込み式・・ダイバーズウォッチによく見受けられる方式。防水性を高めるためにリューズをねじ込む設計となっています。
リューズの役割
リューズの役割はおおむね2つ。
1つはリューズを巻くことで「ゼンマイ」を巻き上げること。もう1つは時刻や日付を合わせることです。
1段引き、2段引きといった具合に引き出した位置によって役割が異なり、用途に合わせてリューズを引き抜きます。
- 通常ポジション=ゼンマイ巻き
- 1段引き=カレンダー設定
- 2段引き=時刻設定
※ねじ込み式リューズの場合は、リューズを反時計回りに回してロックを解除してください。解除された状態が通常ポジションになります。
いずれの項目も大半のモデルが右回し方式を採用しており、時刻や曜日を進める時には右に回して調整します。
操作自体は機械式時計もクォーツ式腕時計も同じです。
出典:https://citizen.jp/support/useful/crown01.html
(通常ポジション) ゼンマイ巻き
通常ポジション(引き出さない状態)は機械式時計であればゼンマイを巻くという非常に重要な役割があります。
ゼンマイを巻くには、リューズ側からみて右回しに回します。
人差し指と親指でつまんで、まずはゆっくりと回してみてください。ジーッジーッと音がすればゼンマイが巻き上げられています。コツと力加減がわかれば、そのままどんどん回し続けてください。だいたい40~50回巻けばゼンマイは巻き上げられます。
なお、手巻き式時計には「これ以上巻くことができなくなる」巻き止まりが存在します。ずっと回し続けていくとだんだん重たく感じるようになり、最後には引っかかるような感覚があり、それ以上巻けなくなります。
初めてリューズを巻く方にとっては、どのくらいで止めて良いのか、どこで一杯なのかがわかりにくいかもしれません。巻き止まっているのに無理に巻き続けるとゼンマイが切れてしまい、故障の原因になりますので注意が必要です。
(1段引き) カレンダー調整
1段引きはカレンダー調整の機能があてがわれており、右回りに回す(機械によっては左回りの時もある)と日付や曜日合わせの表示が切り替わります。当然ですがこの調整ができるのはカレンダー機能を搭載しているモデルのみです。備えられていないモデルは1段引きが時刻調整となります。
※カレンダー機能がない場合は、リューズは1段階しか引けません。
(2段引き) 時刻合わせ
2段階引いてリューズを回すと、長針が動き時刻を合わせることができます。
注意点としては必ず時刻が進む方向に回すこと。多少なら問題ありませんが、逆回しを多用するとパーツに負担がかかり、故障の原因となります。
※モデルによって左回しの個体もあるので、詳しくは取扱説明書をご確認ください。
硬い・緩い・外れてしまうなどリューズの不具合の原因
リューズは不具合が起きやすいパーツです。そのまま放置していると機械全体の故障へとつながってしまうため、下記の症状に該当する時計はオーバーホールに出すことをお勧めいたします。
リューズが緩い・空回りする・重い
リューズを回した際に手ごたえが少ないのは、リューズの先にある歯車や部品が経年劣化によって破損してしまっている可能性が高いです。構造内部の油が切れている、油が乾燥して凝固している、ゼンマイが金属疲労を起こしているといったことが原因に考えられます。
また、逆にリューズが重く感じるケースもあります。こちらもパーツの摩耗や破損が原因ですが、空回りとは異なり「錆」が発生している可能性があります。また連れ回り(手巻きをした際にローターが一緒に回転してしまう症状)を起こしているケースも考えられます。
リューズが戻らなくなった
買ったばかりの時計であっても、リューズを引き出した際に元の位置に戻せなくなることがあります。
これは時計内部の不具合というより、ゴミが入り込んでしまったことが原因である場合が多いです。またリューズと機械をつないでいる巻き芯の不具合も考えられます。
精度に問題がないからと、そのまま使い続ける方もいますが、リューズと本体に隙間がある場合、防水性能が働かないために錆や歯車の劣化といった致命的な故障に繋がることもあるので、修理を行ってください。
リューズが巻き芯ごと取れてしまった
リューズは巻き芯と呼ばれる細い芯に取り付けられ、機械本体に差し込まれています。リューズを引き抜く際には巻き芯の先端が摩耗しますし、リューズを回すことで巻き芯とリューズの接合部分の溝がどんどん削れます。
リューズだけが外れる場合もありますが、巻き芯ごと取れてしまうこともあります。
いずれの状態も放置してしまうと隙間から埃や水分が侵入し、時計にさらなる被害を与えてしまいます。とくに巻き芯ごと取れてしまった場合は、なるべく早く修理専門店に持ち込んで修理を依頼しましょう。
リューズに不具合がある時の応急処置
リューズが重い、戻らない、取れてしまった。
ご自身で直そうと無理に回したり、分解を行おうとするとリューズ以外の部品の破損につながるため、これ以上悪化させないためにも時計修理店に出したほうが賢明です。
なお、悪化させてしまったケースでよく見受けられるのは下記のような行動です。
- 外れたリューズ(巻き芯)を元の位置に差し込む
- 工具を使ってリューズと巻き芯をはめ込む
巻き芯ごと取れてしまった場合はケースサイドの穴に再び差し込めば戻ると思われがちですが、機械式時計はそこまで単純な構造ではありませんので、元に戻りません。
巻き芯が折れる可能性があるので、外れた巻き芯とリューズをもって修理に出したほうが良いでしょう。
※パテックフィリップなどに使用されているジョイント式リューズの場合は直ることもあります。
なお、リューズだけが取れてしまった場合、ネジ式のリューズであれば、ご自身で専用の工具を使うことで巻き芯に再度留めることもできます。
ただし、正確かつ安全にリューズを再接着させるためには熟練の技術が求められますし、リューズを回す際の負荷に耐えうるように固定するには一度ムーブメントを外す必要があります。
素人がうかつに手を出すとガラスに傷をつけたり、ムーブメントの破損にもつながるので、リューズだけが外れた場合も修理に出しましょう。
結局のところ、リューズに不具合が発生した時の応急処置は修理に依頼することしかできません。
放置するのも、自分で無理に直そうとするのも良くありませんので、不具合を見つけたらお早めに修理に出しましょう。
日々のメンテナンスが何よりも大切
リューズは繊細なパーツなので、適正に扱っていても不具合が生じる場合があります。
故障の度合いが大きくなればなるほど修理代金もかさむため、リューズの故障を起こさないためにも「定期的なメンテナンス」を行うことをおすすめします。
リューズに関する故障は油切れやパーツも摩耗が原因です。
機械式時計においては4年~5年に1度のオーバーホールが推奨されているので、定期的なオーバーホールを行うことでリューズに不具合が起きる確率を減らすことができます。
時計は人間と同じでメンテナンスを施すことで健康な状態をキープすることができます。
長年使い続けている方はこの機会に是非オーバーホールを検討してみてください。
まとめ
ゼンマイ巻き、カレンダー調整、時刻合わせ。
リューズは様々な調整に関与する時計において非常に重要なパーツです。
しかしながら、使用頻度の多さから故障しやすいパーツでもあり、扱い方を誤ってしまうと機械全体に不具合を及ぼすとても繊細な部品でもあります。大切な時計を長く愛用するためには、リューズへの配慮、そして定期的なメンテナンスが重要です。消耗品ともいえる部品ではありますが、だからこそ慎重に取り扱うことを心がけましょう。
当記事の監修者
廣島浩二(ひろしま こうじ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年