近年、ますます普及している腕時計のGMT機能。
通常の腕時計は一つの時刻を示しますが、GMT搭載機であれば第二時間帯,モノによっては第三時間帯の表示が可能となりますね。
では、このGMTとは、いったいどのような用語なのでしょうか。
また、ロレックスやチューダー、オメガ等からは「GMTモデル」がリリースされていますが、IWCやモンブラン、ジン等からは似たような機能なのに「UTCモデル」が登場しています。GMTとUTCに違いはあるのでしょうか。
この記事ではGMTおよび腕時計に用いられるGMT機能を解説するとともに、UTCやJSTと言った関連用語も併せてご紹介いたします!
目次
GMTとは?UTCとはどう違う?
GMTとは、Greenwich Mean Timeの略称です。世界標準時、グリニッジ平均時、グリニッジ標準時等と訳されます。
グリニッジというのはイギリス ロンドン南東部に位置する街です。高名なグリニッジ天文台を有することが特徴であり、GMTとは、グリニッジ天文台の標準時という意味で使われることが多いです。
GMTを知るためには、グリニッジ天文台と、世界標準時について理解しましょう!
①グリニッジ天文台と世界標準時
世界各地には、天文台が存在しますね。
この天文台は、今でこそ天体に関する研究機関といった表情が強いですが、古くは天体の動きによって正確な時刻や暦を制定する機関、という役割を持ちました。
そのため時計業界では天文台が高精度のシンボルのように扱われており、時計メーカーが精度を競うコンクールが開催されてきた歴史を持ちます。
そして、グリニッジ天文台の標準時は、世界の標準時を担っています。
※グリニッジ天文台のシンボル「Time Ball」
標準時とはある地域での共通時刻のことです。
グリニッジ天文台で標準時刻への訴求が始まったのは18世紀、大航海時代真っ盛りの頃。ただ、当時は高精度な時刻表示というよりも、経度の正確な測定が目的でした。
と言うのも、経度は船の現在地を知るために欠かせません。現在地を見失ってしまっては、遭難や座礁を余儀なくされてしまうためです。
そこでイギリス、スペインといった海運国家は経度測定法を励行し、グリニッジ天文台でも研究が進められていました。
なお、1761年にハリソンが海上での湿気や波の揺れに影響されづらい高度なマリンクロノメーターを開発したことで、イギリスの航海技術を急速に発展させたことは有名です。
経度は標準時から算出されます。経度が15度異なると1時間の差が出てきます。そのため、船員らを中心に標準時という概念が広まるようになりました。
ただ、標準時とはどのように決まるのかが問題ですね。従来は各地域ごとに太陽の位置によって時間を合わせる「平均太陽時(Mean Solar Time)」が用いられていました。
グリニッジ天文台でも、グリニッジ子午線(グリニッジ天文台に対し南北に走る子午線)における平均太陽時が標準時として用いられました。
ちなみに子午線とは、地球の南極点と北極点を赤道に直角になるよう結んだ大きな円です。この子午線上を太陽が2度正中する間隔を一日と数え、その24分の1を1時間とする、というのが平均太陽時の基本的な考え方です。
お気づきの方もいらっしゃるでしょうが、この平均太陽時の難点は「地域によって時刻が異なる」ということ。
そこでイギリスの船員たちは航海中、その土地ごとの平均太陽時ではなく、いつもグリニッジ標準時(グリニッジ子午線における平均太陽時)を基準とするようになり、GMTと呼んで親しみました。
その後19世紀に入ると鉄道が普及し、より標準時へのニーズが高まりました。
これまでには考えられなかった広範囲を移動できることに加えて、地域によって異なる平均太陽時を用いていると、思わぬ事故を誘発してしまうことがニーズ拡大の主な要因です。
そこで1884年、アメリカ合衆国ワシントンD.C.で開かれた国際子午線会議において、世界標準時という概念が定義されるようになりました。
そして世界標準時にはGMTすなわちグリニッジ天文台の標準時が用いられることとなり、本初子午線(経度0度0分0秒の地点)と制定された、という歴史があります。
このグリニッジ子午線が経度0となるため、世界の時差はイギリスを起点に変わっていき、世界標準時を使って地方標準時(ローカルタイム)を算出することとなります。
日本はイギリスとの時差が9時間ですが、これはイギリスから経度135度分離れていることを意味します。
②UTCとは?
時計製品を除き、GMTよりもUTCという用語の方をよく目にするかもしれません。
UTCはCoordinated Universal Timeの略称で、協定世界時と呼ばれます。これは、平均太陽時を基準としたGMTと異なり、原子時計が基準となります。
原子時計は1949年に開発され、「一秒の定義」について大きな影響を及ぼしたとされる、比較的新しい時計です。
ただ、この初号機はクォーツに精度では及びませんでした。1955年、イギリス国立物理学研究所にて、「セシウム133原子時計」が開発されたことでその歩みを大きく進めます。
この原子時計、とにかく高精度なことが特徴です。一年間に100分の1秒ほどもズレが生じない、セシウム原子の振動数によって時刻制御を行います。ちなみにこれは300年に1秒しかズレない、ということ。
前述した「一秒の定義」と言うのは、セシウム原子によって秒の長さを定義したことに由来します。
一秒は地球が一回自転するのにかかる時間とされていますが、この運動は潮汐(ちょうせき)等によって少しずつ変化しています。つまり、従来の天体による時間の定め方では、一秒の長さにズレがいずれ生じてしまうことを意味します。
そこで、一秒間とは「セシウム133原子が91億9263万1770回振動する時間」として定義されることとなりました。
ちなみに原子時計は今ではGPSに搭載され、現在地情報をきわめて正確に表示させます。
この原子時計を基準に、1958年1月1日0時0分0秒の世界時を起点としてスタートしたのが国際原子時です。
ただしグリニッジ標準時と異なり、国際原子時は「どこの国にある原子時計」ということを意味しません。国際原子時は、世界各国にある原子時計約300個の平均によって出されたものです。これは、国際度量衡(どりょうこう)局によって管理されています。
なお、この国際原子時は「地球の自転」と合わせて考えなくてはなりません。
確かに一秒間は「セシウム133原子が91億9263万1770回振動する時間」となりましたが、前述の通り地球の運動は少しずつ変化しています。すると、暦などともズレてしまうことになりますね。
そこで、国際原子時には「うるう秒」が考慮され、国際原子時とGMTとの差が0.9秒以上開かないように調整されています。この調整されたものがUTCです。精度面ではきわめて正確な国際原子時を採り、一方で天体運動をも考慮したのがUTCということですね。
ちなみにうるう秒はいつなんどき追加されるかは定まっていません。地域によっても変わってきます。ただ、日本では「必要な月の各末日のさらに翌日、UTCの後へ1秒挿入または引き抜く」こととされているそうです。
以降、GMTよりもUTCが世界の標準時として認識されてきました。
もっとも、私たちが日常生活を送るうえで、GMTとUTCはほぼ同義です。
時計の機能にGMTが搭載されているかUTCが搭載されているかで、機能が著しく異なる、等と言うことはありません。ただ、ここ最近リリースされたものは、UTCの名称を用いたものが多くなってきました。
ロレックスなどはGMT機能を1950年代と早い段階で製品化していたため、当時はまだUTCという概念は出てきていませんでした。そのため、伝統的にGMTマスターという商品名を受け継いでいるのでしょう。イギリスは今なおグリニッジ平均時(GMT)を使っており、ロレックスがイギリス生まれであることも関係しているのかもしれません。
また、単純に時計業界ではGMTという名称の方が広く普及しているので、わかりやすいということも大きいでしょう。
③JSTとは?
※JSTのシンボルの一つ・明石市立天文科学館
なお、UTCとともにJST(またはJSTM)という用語もよく耳にするかもしれません。
これはJapan Standard Time Meridianの略称で、メリディアンは子午線、つまり日本の標準時(ローカルタイム)です。
日本の標準子午線は兵庫県明石市から淡路島の淡路市を通り、和歌山県和歌山市沖ノ島西端に至った後太平洋へと続きます。ただ、明石市が最も「子午線のまち」として有名ですね。
当然ながらJSTはUTCよりも9時間のズレが生じます。
このように、地域によって標準時が定められているため、それぞれで略称を持つのです。
腕時計としてのGMTを徹底解説!
では、腕時計としてのGMTについて解説いたします。
前述の通り、厳密にはGMTとは世界の標準となる時間のことを指します。ただ、腕時計においてGMT機能(またはUTC機能)と言った時、多くの場合「現在地の時間以外の第二あるいは第三時間帯を表示できる機能」を指します。
そのため「デュアルタイム」「ツインタイム」「UTC」といった様々な呼び方があり、特に決まりはありません。
ただ、時計業界ではGMT=グローバルウォッチという認識が強いため、最もよく用いられる概念でしょう。
かつての大航海時代のように、現在はグローバル化が進んでいますね。
そのため海外出張や旅行はもちろん、母国にいても海外のある地域の時間を知りたい・・・そんな風に思う方もいらっしゃるでしょう。
こういった背景から重宝されるようになったGMT機能。ただ、ロレックスのGMTマスターが有名なように思いますが、様々な種類や驚くべき使い方があります。
そんな腕時計としてのGMTを徹底解説いたします!
①24時間ベゼルの秘密
後述しますが、ひとくちにGMTウォッチと言っても、その種類やデザインは多種多様。
ただ、24時間表記のついた回転ベゼル(インナーベゼルや、文字盤にプリントされたものもありますが)を思い浮かべる方は少なくないでしょう。このベゼルを用いて、第二時間帯や昼夜判別はもちろん、結構色々なことを実現できます。
まず、GMT針が単独稼働しない場合、ベゼルを使って第二時間帯を表示させることが可能です。
こちらは、ロレックスのGMTマスター 1675です。
GMT針は15度刻みで一周するため(時針は30度刻み)、この画像ではローカルタイムが朝10時10分、GMT針は時針と連動しているため、朝10時であることを示します。
もし時差が+3時間の地域であれば、ベゼルの「12と14の間の●(13時)」をGMT針に合わせることで第二時間帯を設定できます。
GMT針が単独稼働する場合は、第三時間帯の表示が可能です。
例えばこちらのGMTマスターII 126710BLRO。
現在、ローカルタイムは10時10分(または22時)ですが、GMT針は8時を示しています。
もし時差が-6時間の地域に行く場合、回転ベゼルを「2」の位置まで移動してあげると、第三の時間帯を表示することができます。なお、第二時間帯は「4時」ではなく、24時間表記に即するため「8時」となります。
GMT針の単独稼働の有無にかかわらず、ベゼルだけ回転させてメインの時分針で第二時間帯を読み取ることも可能です。
さらに言うと、このベゼルを使って簡易コンパスの役割をすることもできます。
メインの時針とGMT針を同時刻に設定してから時針の先端を太陽の方角に向けると、GMT針の先端はほぼ北を指し示すためです。
このように、24時間ベゼルは様々な役割を果たすことができます。
なお、ブランドによってはベゼルが付いていなかったり、第二時間帯の表示方法が様々だったりします。
次項では、そんなGMT搭載時計の、代表的な種類について解説いたします。
②GMTの種類
GMTの表示方法には、いくつかの種類があります。
最も一般的なものは、センターに時分針とは別にGMT針(副時針)が取り付けられたタイプです。
オメガ シーマスター プラネットオーシャン 232.92.44.22.03.001
前述した回転ベゼルと一緒に、時刻表示を行います。
このGMT針が単独稼働する仕様・しない仕様とがあり、前者は第三時間帯の表示が可能なことも、前項でお伝えいたしました。
また、GMT針の単独操作ができる個体の多くがカレンダー操作の禁止時間帯を持たず、扱いやすい時計と言えます。もっとも、カレンダーのクイックチェンジを持たないものも少なくなく、その場合はクルクル時針を回して日付合わせを行います。
こちらは文字盤一部を肉抜きし、小窓表示したタイプです。
ジャガールクルト マスターコンプレッサー デュアルマティーク Q1738470
ジャガールクルトのマスターコンプレッサーやIWCのUCTウォッチ等で用いられます。
定番どころではありませんがデジタル表記となるため視認しやすく、またデザインアクセントにもなり、文字盤にメリハリが効きますね。
GMT針と並んで比較的メジャーなのが、インダイアルで表示するタイプです。
文字盤上に別途インダイアルを設け、そこで第二時間帯表示を行います。GMTと言うより、「デュアルタイム」と呼ばれることが多いでしょう。
ちなみにフランクミュラーのマスターバンカーでは、二つのインダイアルを設けており、第三時間帯までの同時表示が可能となっております。
なお、同じGMT針やインダイアル表示型でも、操作方法は各ブランドによって異なります。どのようなムーブメントを用いているかで変わってくるためです。
そのため、GMTウォッチをご使用の際は、付属の取扱説明書に必ず目を通すようにしましょう。
GMT機能が搭載された腕時計のメンテナンスについて
最後に、メンテナンスについてご紹介いたします。
クロノグラフやワールドタイム、GMTと言った機構は、シンプルな3針モデルに比べて構造が複雑で、デリケートな取扱いを求められます。
とは言えGMTは、他のコンプリケーションに比べれば比較的扱いやすいと言えるでしょう。
前述の通り、個体によってはカレンダーの操作禁止時間帯が無かったり、スポーツウォッチであることが少なくないため堅牢な造りになっていたりする。こういった背景を持ちます。
ただし、時計は精密機器です。そのため、オーバーホール等、しっかりとメンテナンスを施してあげることが求められます。
GMT搭載腕時計でありがちなトラブルとしては、針の単独稼働のためのパーツが破損してしまったり、劣化してしまったりするケースです。また、GMT針を繋ぐ軸がゆるむと、メインの時分針と擦れ合って傷や摩耗の原因となることもあります。
こういった事態を回避するためには、定期的にオーバーホールに出しましょう。
オーバーホールではパーツを分解し洗浄・注油を行ったうえで再組立てを行いますが、その際に劣化や破損などが見られればパーツ交換となります。
なお、オーバーホールの推奨頻度はメーカーによって異なりますが、一般的には3~5年に一度程度と言われています。
また、回転ベゼルがついた個体は、ベゼル裏にホコリが溜まりがちです。
こちらも定期的にメンテナンスに出すことで洗浄してもらい、清潔に保ちたいですね。
ちなみにベゼルは時計の中でも傷つきやすい箇所です。近年ではセラミック素材を使ったり特殊コーティングを行ったりして傷に強くはなっていますが、あまりにガンガンぶつけていると視認性に影響を及ぼしてしまうので、気をつけましょう。
もっとも、時計の傷は使ってきた証のようなものなので、神経質になる必要はないでしょう。
まとめ
腕時計の機能としてよく聞くGMTについて、またUTCやJSTについて解説いたしました!
文中でもご紹介したように、GMT機能はグローバル化がますます拡大していく中で、とても利便性の高いものとなっております。
また、比較的扱いやすいコンプリケーションですので、初めて高級時計を所有するという方にもオススメです。
各ブランドが力を入れているラインでもあるので、ぜひGMTウォッチを探してみましょう!
当記事の監修者
南 幸太朗(みなみ こうたろう)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 買取部門 営業企画部 MD課/買取サロン プロスタッフ
学生時代に腕時計の魅力に惹かれ、大学を卒業後にGINZA RASINへ入社。店舗での販売、仕入れの経験を経て2016年3月より銀座本店 店長へ就任。その後、銀座ナイン店 店長を兼務。現在は営業企画部 MD課 プロスタッフとして、バイヤー、プライシングを務める。得意なブランドはパテックフィリップやオーデマピゲ。時計業界歴13年。