「ノーチラス 5711/1A-010が生産終了したら相場はどうなるの?」
「パテックフィリップ ノーチラスの相場について知りたい」
1976年、パテックフィリップ初のステンレススティール製スポーツラインとして登場したノーチラス。
きわめて薄いケースに一体化したブレスレットは美しい仕上げが施され、貴金属とも遜色のない美しさを有します。
こういった魅力から、ノーチラスは世界最高峰のラグジュアリー・スポーツウォッチの呼び声をほしいままにしてきました。
そんなノーチラスはいくつかの系譜を辿ってきましたが、2006年にRef.5711が登場します。
2010年にはフルモデルチェンジが加えられ、現行Ref.5711は完成されていくこととなりました。
近年のRef.5711はその傑出した出来栄えとともに、「世界一高いステンレススティール製時計」としてもしばしば話題にのぼります。
定価自体も高い設定ではありますが、それ以上に実勢相場がステンレススティールとして世界最高峰。
ある程度相場が高くなると買い控えが起きるものですが圧倒的な需要は留まるところを知らず、正規店はおろか並行市場でもなかなか姿を見かけないほどとなりました。
しかしながら2020年、にわかにRef.5711のバリエーションであったホワイト文字盤が生産終了します。
次いで2021年、一番人気のブラックブルー文字盤Ref.5711/1A-010も生産終了、さらに2022年には辛うじて残っていたローズゴールド製Ref.5711/1Rもカタログから姿を消すこととなりました。
そんなパテックフィリップ ノーチラスの相場について知りたいという人は多いのではないでしょうか。
長らく愛され続けてきた5711/1Aの廃盤は、既に大きな波紋を時計業界に広げています。
この記事ではパテックフィリップ ノーチラスの相場について解説します。
ノーチラス 5711/1A-010の魅力や特長についても解説しますので、パテックフィリップの時計に興味がある方はぜひ参考にしてください。
目次
パテックフィリップ ノーチラス 5711/1Aとはどのような時計か
①DATA
ノーチラス 5711/1A-010
[駆動方式]自動巻き
[キャリバーNo.]324SC(2019年頃より順次Cal.26-330SC)
[ケース材質]ステンレススティール
[ケースサイズ]直径43mm×厚さ8.3mm
[文字盤]ブラックブルー
[防水]12気圧
[定価]3,872,000円(税込)
②概要
冒頭でもご紹介したように、ノーチラスは1976年に誕生したステンレススティール製のスポーツウォッチです。
1970年代はクォーツ式時計が機械式時計のシェアを奪っていった時代です。一方で当時、伝統的な機械式時計ブランドが試行錯誤の中で輩出した新ラインには、今も続く名作が少なくありません。
ノーチラスもまた、そんな名作の一つです。
ラインが強調されたオクタゴン(八角形)ケース、ブレスレットおよびエンドピースとシームレスになったラグ、ケース両サイドの「耳」…今ではパテックフィリップを象徴すると言って過言ではない顔立ちですね。
もっとも、1976年当時は非常にユニークすぎる存在でした。なぜなら高級時計と言えば貴金属を用いたラウンドフォルムのドレスウォッチが主流の時代。
確かにレトロ・フューチャーがトレンドになり、様々なデザインが生み出されていた時代でもありましたが、パテックフィリップほどの雲上ブランドが、ステンレススティール製で、しかもなんだかあまり見かけない型のデザインを採用するとは…
さらにはケース直径39mmという大きさ!今でこそなんてことないサイズ感ですが、34mm~36mm前後が主流の当時としてはビッグサイズです。そのため初代ノーチラスは現行よりも小さいですが、「ジャンボ」の愛称で今なお親しまれています。
このユニークながらも人々の心に鮮烈なインパクトを与える―当然、今なお―ノーチラスのデザインを手がけたのは、故チャールズ・ジェラルド・ジェンタ氏です。「時計界のピカソ」とも異名を持つ氏は、後年の時計デザインに大きな影響を与えることとなりましたね。
その4年ほど早く、同じく雲上ブランドであるオーデマピゲのロイヤルオークを同氏がデザインして話題になりました。
ちなみにロイヤルオークは戦艦をモチーフにしており、ノーチラスは潜水艦「ノーチラス号」からインスピレーションを受けています。
こういった出自を持つノーチラス。
さらに「ウェットスーツにもタキシードにも完璧にマッチする時計を」といった理念のもとで製造されたと言われており、スポーツウォッチならではの「防水性」を保ちつつ、上品な「薄型」を実現していることもノーチラスを特徴づける点です。
発表当時からノーチラスは12気圧防水が堅持されており(モデルにもよりますが)、加工技術が発達した今ならいざ知らず、当時としては非常に堅牢なスペックであったことでしょう。
この薄さ×堅牢性を実現しているにもかかわらず、初代ノーチラスは裏蓋を持たないず2ピースケース構造でした。
ベゼルとケース本体のみで構成されたこのケースはきわめて薄く、しかしながらケース両サイドに「耳」と呼ばれる固定パーツを組み込むことで、ケースの気密性やリューズ保護の役割を果たしました。
もっとも近年では前述の通り時計製造技術が発達していることから、3ピース構造でも約7.5mmというきわめて薄いケース構造を有しています。ちなみに3ピースになったのは、今回ご紹介するRef.5711(2006年~)が最初でした。
しかしながらノーチラスは基本的にオリジナルを今に至るまで踏襲しており、耳は変わらずアイコンとしてノーチラスの独創性に一役買っています。
そんなノーチラスは2021年で生誕45年。
長い歴史の中でいくつかの系譜を持つこととなりますが、現在のノーチラス人気を牽引したのは2006年に登場したRef.5711/1A-001です。
※2006年~2010年頃まで製造されたRef.5711/1A-001
※2010年頃~製造されたRef.5711/1A-010
5711は2010年にRef.5711/1A-010としてフルモデルチェンジを果たしますが、主な旧型と新型の違いは「ブレスレット」。
ではブレスレットがどう違うかと言うと、コマの連結部分がピン式かネジ式か、になります。
2010年頃からブレスレットのコマ連結がネジからピンに変更されており、リファレンスも変わっていくこととなりました。
2012年には白文字盤の5711/1A-011がリリースされます。
※ちなみに5711系のバリエーションとしては、2007年にリリースされたYGケースのRef.5711J,2015年にリリースされたオールRG製5711/1R,2016年にノーチラス40周年としてリリースされたプラチナ製限定700本モデルRef.5711/1P等が存在します。
さらに2020年頃からは、従来の薄型自動巻きムーブメントCal.324 S Cに代わってCal.26-330 S C搭載モデルが順次出回るようになりました。
このノーチラス 5711/1A、現在世界的な需要に流通は全く追い付いておらず、驚くべき価格高騰を遂げています。
もともとステンレススティール製時計としては非常に高い価格設定がなされており、税込定価は3,872,000円(2020年~)。しかしながら並行市場ではさらにそれを上回る倍以上の実勢相場が当たり前となっており、もはや1000万円を切ることはなくなりました。
一度、上がりすぎた実勢相場の反動や新型コロナウイルスの影響下で相場が下落した時もありましたが、それでも生産終了前の一年半ほどは700万円台が当たり前。その後2021年明けてすぐにブラックブルー文字盤の生産終了が決定するとさらに急騰。現在、ブラックブルー文字盤の5711/1A-010・ホワイト文字盤の5711/1A-011ともに2000万円間近という驚くべき相場に(ブラックブルー文字盤の方は、2022年1月現在既に2000万円超が当たり前といった相場観です)!年式を経た中古であってもこの相場から大きく値を落としておらず、「高くても買いたい」という購入マインドの根強さを感じます。
さらには上がりすぎた相場が話題となって「資産価値」への購入マインドが促進、ますます需要が高まり続けることとなり、結果としてノーチラス以外のモデル―主にアクアノートとカラトラバ―もまた需要が集中。パテックフィリップ製品全体の品薄に拍車がかかっている状況です。
こういった背景を受けてパテックフィリップでは2020年2月、購入制限を設けたりもしましたが、品薄は解消されておらず。むしろ並行市場でもどんどん流通量は減っており、これに伴い相場高騰は続いていくこととなりました。
そんな中、2021年明けてすぐに5711/1A-010の生産終了したことは前述の通りですが、4月のWatches & Wonders Geneve(旧SIHH)では、新作モデルが発表されています。
次項で詳細をご紹介いたします。
パテックフィリップ SSノーチラスが生産終了!5711/1Aに後継機が登場するも生産はわずか一年
前項でもご紹介したように、ノーチラス 5711/1Aは驚くべき価格高騰が続いています。
パテックフィリップは大量生産とは無縁の高級時計ブランド。製造本数はそう多くはなく、ステンレススティールモデルとなればさらに生産は限られてくるでしょう―事実、パテックフィリップのCEOティエリー・スターン氏はSSモデルだけが人気を牽引していく状況に懸念を示唆してきました―。少なくとも中国やインドといった人口大国の、パテックフィリップの顧客・あるいはこれから顧客になる富裕層のニーズに応えられるような本数ではありません。
2020年、パテックフィリップはスイス ジュネーブ近郊に位置するプラン・レ・ワットに新しい時計工房を竣工させますが、これは年間製造本数を増やす目的ではなく、同社の生産にかかわる工程を統合すること・歴史を重ねるにつれ増えたパーツやノウハウを収めることが目的です。
そのため、新型コロナウイルス下で海外仕入れがしづらい状況が続くことも相まって、ノーチラスの品薄は加速していくばかりでした。
さらに2020年には、ホワイト文字盤として2012年にバリエーションに加わったノーチラス 5711/1A-011が、カタログから姿を消して生産終了となります。
ノーチラス 5711/1A-011
[駆動方式]自動巻き
[キャリバーNo.]324SC
[ケース材質]ステンレススティール
[ケースサイズ]直径43mm×厚さ8.3mm
[文字盤]ホワイト
[防水]12気圧
[定価]3,575,000円(当時)
ノーチラスの一番人気はブラックブルー文字盤の5711/1A-010ですが、文字盤以外は外装もスペックも同一のRef.5711/1A-011。やはり定価を大きく上回る実勢相場が続いており、ブラックブルーほどではないものの、現在では2000万円の大台に肉薄している、といった様相です。ちなみにパテックフィリップの生産終了品はだいたい例年1月末頃に判明するのですが、5711/1A-010もやはり1月末に廃盤決定となりました。
ブラックブルー文字盤 5711/1A-010の生産終了ともなれば、時計業界も、時計愛好家も騒然とならざるを得ません。
もっとも、完全にSSノーチラス5711系がなくなる、と言ったことも考えづらかったことは事実です。なぜなら5711/1Aがなくなると現行SS3針ノーチラスはレディースラインのRef.7118のみになるためです。
そのため5711/1Aの後継機の噂が如実に囁かれており、新ノーチラスの型番まで出回っていたものです。曰く6711/1Aと。
実際に4月にパテックフィリップから新作として発表されたのは、コスメティック・チェンジしたRef.5711/1A-014でした。
出典:https://www.patek.com/en/home
スペックや外装は従来のノーチラス5711系を踏襲しつつ、これまでのパテックフィリップにはあまりなかったオリーブグリーン文字盤を採用した一本です。ブラックブルー文字盤の生産終了には惜しむ声が今なお少なくありませんが、このグリーンカラーもまたノーチラスの魅力を引き上げますよね!
奇しくも2021年はオーデマピゲやIWC,パネライにジャガールクルト,ブライトリングといった数々の名門ブランドがグリーンカラー文字盤をラインナップに加えました。中でもソレイユ仕上げを施したノーチラス 5711/1A-014は、美しい輝きを放っていたように思います。
なお、スペックは変わらないこともあり定価は4,015,000円。5711/1A-010が3,872,000円であったことを鑑みれば、良心的な価格設定と言えるでしょう。
「ブラックブルー文字盤は生産終了したが、5711自体はカタログに残った」
そう安堵したファンは多かったようですが、新色5711/1A-014は、一年限りの生産予定。そしてこの新色ノーチラス Ref.5711/1A-014の実勢相場は5000万円超えと・・・!
通常、人気ブランドの人気モデルだと多くの場合で新作発表時は「ご祝儀価格」のような高値が続くものです。しかしながら定価400万円少しのステンレススティールモデルの相場が5000万円などという値段がつくことは前代未聞!
並行市場に流れることはほとんどないレア新作ということもありますが、まさかこれほどまでの高値を記録するとは、想像もできませんでした。
ちなみにこのグリーンの5711/1A-014がリリースされた同年12月、ティファニーとのWネームモデルがリリースされています。
出典:https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-12-06/patek-philippe-and-tiffany-co-announce-the-last-ever-nautilus-5711
パテックフィリップとティファニーの関係性170周年を祝って、世界限定わずか170本で製造されたモデルです。
事実上、Ref.5711/1Aのウィニングランとなったことをご存知の方も多いでしょう。このティファニーブルーが美しいRef.5711/1A-018は、フィリップスオークションで約7億3500万円で落札されました。
グリーン文字盤ノーチラスもティファニーブルー文字盤ノーチラスもきわめて限定的なモデルであることは前述の通り。
では、Ref.5711/1Aは完全にカタログから姿を消してしまったのでしょうか。初代ノーチラスを受け継ぐ当該モデルは、生産終了なのでしょうか。
結果は「応」のようです。2022年1月、5711/1Aのリファレンスはカタログから完全に姿を消しました。
ちなみに冒頭でもご紹介したように、唯一レギュラーとして残留していたローズゴールド製ノーチラスRef.5711/1Rも同様にカタログ未掲載となり、生産終了が判明しています。
Ref.5711系は、ベーシックな3針と日付表示を機能とする、初代ノーチラスの系譜を受け継ぐ基幹モデルでした。この基幹モデルが完全になくなってしまうとは考えづらいところです。
またパテックフィリップは2019年頃から、既存の薄型自動巻きムーブメントCal.324SCからCal.26-330SCへと載せ替えしてきたのは前述の通りですが、であれば新型ムーブメントで(Cal.26-330SCであるにせよないにせよ)、新世代ノーチラスを発売すると予測するのは難しくないのでは?さらに2026年はノーチラス誕生50周年の節目となり、初代を踏襲した何らかのモデルをパテックフィリップが隠し玉としている!?
などと個人的な願望が多分に入った予測とはなるものの、新型ノーチラスの存在に大いに期待するところです。
2022年のパテックフィリップ新作発表の舞台は2021年と同様にWatches & Wonders Geneve。開催は3月30日から。
2022年の、パテックフィリップからの新作発表を待ちましょう!
パテックフィリップ ノーチラス 2022年の相場はどうなる?
最後に、当店での平均中古販売価格をもとに、生産終了直前までの過去5年間のノーチラスの実勢相場の上昇率をグラフにしてみました!
中古モデルは状態や付属品の有無によって相場が変わってきますが、このグラフから見えてくること。それは、ノーチラスの凄まじいまでの人気ではないでしょうか。
◆ノーチラス 5711/1A-010 ブラックブルー文字盤
◆ノーチラス 5711/1A-011 ホワイト文字盤
どちらも2016年時点では定価を下回る300万円台でしたが、この頃から円安や空前のインバウンド増加、そしてインドや中国といった大国の宝飾品需要の高まりが追い風となり、一気に相場を高騰させていくこととなります。
さらに2018年以降は高級時計市場が過去類を見ないほど広がったことも追い風となります。あっと言う間に500万,600万を超えていき、2019年の時点ではホワイト文字盤が600万円台、ブラックブルー文字盤が700万円超えとなりました。
こういった中で高級時計の「リセールバリュー(資産価値)」が一般ユーザーからも購入要素の一つとして考えられるようになると、パテックフィリップやロレックス、オーデマピゲといった買取率の高いブランドの人気モデルに需要が集まるようなりましたが、この経緯もまたノーチラスの相場形成に一役買ったのでしょう。
上記グラフは中古販売価格がベースとなりますが、2019年6月~9月頃にかけてと2020年3月の一時期、新品並行相場は1500万円すら記録しています。
もっとも、さすがに買い控えがあったか、新型コロナウイルスの情勢不安が続いたせいか、2020年の一年間を通しての販売価格は2019年とほぼ横ばい。しかしながら個体数は激減しており、これはコロナ禍でメーカーが減産せざるを得なかったり、海外仕入れがしづらかったりしたことが影響しています。
ちなみに某大手ショッピングモールのWEBマーケティング担当者が語るところによると、新型コロナウイルス下にあっても時計の売上は比較的堅調だとか。
つまり、今なお品薄は止む気配がなく、生産終了による供給停止も相まって、二次流通市場での相場は2000万円の大台が通常といって良いような状況は、前述の通り。
いかんせん個体数が少ないので、2022年のノーチラス 5711/1Aがどうなるかは断言しづらいところがあります。また、後継機の存在も気になるところ。
とは言え新型が出たとしても、製造数が格段に上がるとは思えず…そのためノーチラスの価格が下落するとは考えづらいと言うことができるでしょう。
いずれにせよ、2022年もノーチラスの相場から目が離せません!
まとめ
パテックフィリップ ノーチラスのSS基幹モデル Ref.5711系の生産終了についてお伝え致しました!
長らく愛され続けてきた5711/1Aの廃盤は、既に大きな波紋を時計業界に広げていることは本稿で述べている通りです。
今後もさらに流通個体は減っていくことが見込まれますが、当店でも入荷を頑張っていきたいと思います!
当記事の監修者
新美貴之(にいみ たかゆき)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 店舗営業部 部長
1975年生まれ 愛知県出身。
大学卒業後、時計専門店に入社。ロレックス専門店にて販売、仕入れに携わる。 その後、並行輸入商品の幅広い商品の取り扱いや正規代理店での責任者経験。
時計業界歴24年