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速報!2022年H・モーザー新作モデルを発表!by Watches & Wonders Geneve
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出典:https://www.h-moser.com/ja/
毎年さまざまなコンセプトの、ユニークなマニュファクチュールタイムピースで私たちを楽しませてくれるH.モーザー。
今年も、期待を裏切らない素晴らしい腕時計を発表しました。
工業技術を極めることでこの上なく洗練された美になる、ということを教えてくれるH.モーザーの、2022年の「実用に耐える芸術品」たちをご紹介しましょう。
目次
2022年H.モーザー新作①パイオニア・シリンドリカル トゥールビヨン スケルトン
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パイオニア・シリンドリカル トゥールビヨン スケルトンは、シリンドリカル トゥールビヨンを搭載した「圧倒的な」新作です。
H.モーザーは常にユニークな取り組みを行うことで知られるメゾンですが、このタイムピースには同メゾンが持つ芸術性が詰め込まれています。
まず注目したいのは、6時位置を占めているトゥールビヨンの存在です。
シリンドリカル トゥールビヨンと呼ばれるこの機構は、三次元構造を持つムーブメントとして2020年に初めて登場しました。
2020年にはジュネーブ・ウォッチメイキンググランプリにてエンデバー・シリンドリカル トゥールビヨンH. モーザー X MB&Fモデルが、Audacity(大それた)賞を受賞しています。
そして今回、新作では、その立体的かつSF的な姿をスケルトン機構の下部に惜しげもなくさらしています。
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シリンドリカル トゥールビヨンを搭載したムーブメント・Cal.HMC811は、H.モーザーと姉妹会社であるプレシジョン・エンジニアリングによるマニュファクチュールです。 セラミックベアリングを採用し、石留めではなく土台から垂直に、立体的にヒゲゼンマイが伸びる特殊な構造です。
実は18世紀後半にイギリスの天才時計師によって、円筒形の原型は作られていましたが、これまで再現、利用する者はいませんでした。
H.モーザーでは円筒形(球形)ヒゲゼンマイを発展、再開発させることに成功、2020年に腕時計へ搭載したのです。
円筒形のシリンドリカル トゥールビヨンは立体的なヒゲゼンマイの重心がほぼ完全であることから、一定の振動周期を生み出すことができます。
姿勢差やゼンマイの残量に左右されることなく、ヒゲゼンマイを同心円状に振動させることができるシリンドリカル トゥールビヨンは、非常に高い等時性を持ちます。
このシリンドリカル トゥールビヨンは、近年ヴァシュロンコンスタンタンや、マニュファクチュール中のマニュファクチュール、ジャガールクルトなどにも供給しているとか。
特殊なヒゲゼンマイに両端にブレゲ曲線を備えたフライングトゥールビヨンは、優雅に舞うような動きで私たちを魅了します。
アンスラサイトPVDコーティングとアングラージュ(面取り)をされた受け板、オープンワークの無垢ローターが、スケルトン機構をより美しく際立たせるタイムピースです。
パイオニア・シリンドリカル トゥールビヨン スケルトンには、シリンドリカル トゥールビヨン以外にも注目してしまうポイントがあります。
12時位置に取り付けられた、美しいブルーのグラデーションをもつオフセンターダイヤルです。
このブルーは、ファンキーブルーフュメと呼ばれるもので、海中から空を眺めるような、不思議な揺らぎを持つ色です。
サンバースト仕上げを施した文字盤は光を受けて色味を変化させ、スケルトン機構の中で優雅なドーム型で鎮座しています。
非常に見やすいアプライドインデックスはスーパールミノバを塗布したものではなく、素材そのものが光るグロボライト®という特殊なセラミック製です。
スペック
外装
型番: | |
ケースサイズ: | 直径42.8mm厚さ15.3mm |
素材: | ステンレススティール |
文字盤: | スケルトン、ドーム型ファンキーブルーフュメ(サンバースト仕上げ)のインダイアル |
ムーブメント
ムーブメント: | Cal.HMC811 |
駆動方式: | 自動巻き |
パワーリザーブ: | 約74時間 |
機能
発売予定: | 2022年 |
予価: | 11,275,000円(税込) 手縫いのブラック アリゲーター、ステンレススティール製フォールディングクラスプ、Moser ロゴのエングレービング |
2022年H.モーザー新作②エンデバー・センターセコンド コンセプト ライムグリーン
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シャフハウゼンのH.モーザーからは、もうひとつ、目も覚めるようなグリーンのタイムピースがリリースされました。
H.モーザーの腕時計は文字盤のカラーリングが常に注目されますが、今年はファンキーブルーフュメに引き続き、透明感あふれるライムグリーンの登場です。
インデックスも何もない、ただ3針だけが静かに時を刻む腕時計の文字盤は、一度見たら忘れられないほど鮮烈なグリーンに輝いています。
これは伝統的なエナメル製法のひとつ、グラン・フー(高温焼成)エナメル製法に、現代的な技術をプラスして加工されることで生まれた、特殊なカラーです。
文字盤はゴールドのベースで作られています。
そこにハンマーで細やかな模様を打ち出して、幾星霜を経たヒカリゴケのように特徴的な質感を生み出します。
さらに3つの異なるグリーンカラーの顔料を一度湿らせ、細かく砕いてから打ち出しを行った金属に塗っていくという工程です。
顔料を加える作業は慎重を期し、顔料を加えて専用の炉で熱し、酸化させてからムラのできないように溶融させます。
もちろんエナメル加工は一度で終わる作業ではありません。
塗っては焼成することをなんと12回も繰り返して、この腕時計が持つ不思議な濃淡や透明感が生まれます。
離れて見た感じ、近づいて見た感じでまた異なる印象を持ち、太陽の下、電灯の下でも変わる不思議な色。
昨年、時計業界ではグリーンが爆発的に流行しましたが、そのどれとも異なる、H.モーザーならではのグリーンです。
さらに組み合わされた針の中でも、注目したいのが秒針。
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メタリックパープルです。
ヒカリゴケに似た透明感のある輝かしいグリーンに、やはりメタリックに光るパープルを合わせているのです。
H.モーザーのデザイナーでなければ思いつかない、「やられた!」と額を打つような組み合わせの妙と言えるでしょう。
文字盤の美しさにとらわれてしまいますが、実は搭載するムーブメントも特筆に値するものです。
マニュファクチュールムーブメントのCal. HMC 200で、ダブルヘアスプリングを備えており、メゾンの象徴であるモーザーダブルストライプも彫られています。
エングレービングされた大型ローターを持つ優れたムーブメントは、約3日間のパワーリザーブを誇ります。
スペック
外装
ケースサイズ: | 直径40mm×厚さ11.2mm |
素材: | ステンレススティール |
文字盤: | グラン・フー(高温熱成)エナメル製ライムグリーン フュメ |
ムーブメント
ムーブメント: | Cal.HMC 200 |
駆動方式: | 自動巻き |
機能
発売予定: | 2022年 |
予価: | ス3,575,000円(税込) グレークーズー レザーストラップ |
2022年H.モーザー新作③ストリームライナー・フライバック クロノグラフ “Blacker Than Black”
出典:https://www.facebook.com/MoserWatches
2022年のW&Wでは、H.モーザーからもう1本(本当に1本だけ)、「色」にこだわり抜いたコンセプトモデルが発表されました。
ストリームライナー・フライバック クロノグラフ “Blacker Than Black”です。
ストリームライナー・フライバック クロノグラフは、2020年にグレーダイヤルで最優秀クロノグラフ賞を受賞した、インダイアルを持たないセンター表示のフライバック クロノグラフです。
受賞したのはグレーダイヤルですが、ファンキーブルーフュメ文字盤モデルも高く評価され、人気のあるモデルです。
W&Wジュネーブ2022のH.モーザーの会場において、ファンキーブルーフュメ文字盤のストリームライナー・フライバック クロノグラフも飾られています。
なぜか左に寄せて飾られた腕時計の右側には、宙に浮く4本の針が……。
実はこの展示は、ストリームライナー・フライバック クロノグラフをベンタブラック®で全体コーティングした、“Blacker Than Black”の展示なのです。
ベンタブラック®は2014年にイギリスで開発された特殊な物資で、現在人工的に作りうる中で最も黒いとされています。
当たる光の99.965%が吸収されてしまうため、ブラックホールのように私たちの目には真っ黒、真の闇としか見えません。
H.モーザーはムーンフェイズなどいくつかの時計の文字盤に、このユニークな闇色の物質を採用してきました。
出典:https://www.facebook.com/MoserWatches
そして今回、なんとストリームライナー・フライバック クロノグラフをベンタブラック®でコーティングしてしまったのです。
バックもベンタブラック®なので、真正面から見ても、針しか目に入りません。
横から見ると、黒いバックから時計型の影が立ち上がったように見えます。
厚さ100万分の1mmのカーボンナノチューブを利用して、ベンタブラック®コーティングしています。
その黒さは、「黒ってこんなに黒かっただろうか」と疑問を抱くほど。
実はベンタブラック®という物質は、とてももろく、コーティングには向かない性質の持ち主です。
H.モーザーでは非常に苦労してこのタイムピースを輸送し、会場に持ち込みましたが、いずれ身につけられる強度を持つ素材として利用できるよう開発を進めているそうです。
誰もが「これは何の展示だろう?」と首をかしげ、正体に気付くとギョッとする、なんともH.モーザーらしい展示スペースとなっています。
輸送・持ち込みに苦労した甲斐があったのではないでしょうか。
そしてH.モーザーなら、数年のうちにきっと「身につけられる真の闇」を開発してしまうに違いない、という期待も確実に生まれています。
スペック
外装
コーティング: | ベンタブラック® |
文字盤: | ベンタブラック® |
機能
発売予定: | 2022年 |
予価: | コンセプトモデル |
まとめ
H.モーザーの新作は、フィギュアスケートのような回転と揺らめくブルーが美しいモデル、輝かしいグリーンのモデルと、2022年もたっぷり目を楽しませてくれました。
もちろん、優れたシリンドリカル トゥールビヨンをはじめ、マニュファクチュールムーブメントの精度の高さも称賛に値するものです。
1828創業の老舗は、シャフハウゼンの地から、これからも時代の最先端を牽引していくタイムピースを生み出し続けることでしょう。
当記事の監修者
田中拓郎(たなか たくろう)
高級時計専門店GINZA RASIN 取締役 兼 経営企画管理本部長
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
当サイトの管理者。GINZA RASINのWEB、システム系全般を担当。スイスジュネーブで行われる腕時計見本市の取材なども担当している。好きなブランドはブレゲ、ランゲ&ゾーネ。時計業界歴12年