出典:https://www.grand-seiko.com/jp-ja
国内外でファンを増やし続けるグランドセイコー。
これまで世界トップレベルの実用時計の作り手として名を知られてきましたが、近年では高級機として申し分のない風格でも大きな話題を呼ぶようになってまいりました。
例年意欲的に新作を投入するブランドでもありますが、2022年明けてすぐに打ち出されたグランドセイコー エボリューション 9 SLGA009、通称「白樺」は、内外ともに新しさを感じさせる逸品となっております。
そんなグランドセイコー SLGA009が、東京 銀座の高級時計専門店GINZA RASINに入荷してまいりました!宣材通りの美しい高級機を、この記事では徹底レビューします!
目次
グランドセイコー Evolution 9 SLGA009「白樺」とは?
グランドセイコー エボリューション9 SLGA009
ケースサイズ:直径40mm×厚さ11.8mm
素材:ステンレススティール
駆動方式:スプリングドライブ自動巻き
ムーブメント:Cal.9RA2
パワーリザーブ:最大120時間(約5日間)
防水性:10気圧
定価:1,045,000円(税込)
2022年1月に発表された、グランドセイコー Evolution 9(エボリューション9) Collection SLGA009。コレクション名として冠されたエボリューション 9は、前年に発表されていたSeries 9(シリーズ9)をアップデートした、グランドセイコーの新たなる一大シリーズとなります。
なお、この文字盤デザインに既視感を覚えている方も多いのではないでしょうか。
それもそのはず。2021年にシリーズ 9として発表されたRef.SLGH005の文字盤装飾が踏襲されていることが見て取れます。
この文字盤は、通称「白樺」。
2021年発表のSLGH005は、グランドセイコーにとって最新世代の機械式(メカニカル)ムーブメントとなるCal.9SA5を搭載させていたことがミソですが、「同社の高級機械式時計が製造される岩手県 雫石市に位置するグランドセイコースタジオから望める、白樺林を文字盤装飾に落とし込んでいる」、ということでも、発表当初から国内外のメディアで大きく取り上げられたものでした。
そして2022年に発表されたSLGA009もまた「白樺」なのですが、こちらは、最新世代のスプリングドライブムーブメントCal.9RA2を搭載しているのです。
ちなみに同じ白樺林でも、こちらはスプリングドライブが製造されている長野県「信州 時の匠工房」周辺の白樺林がモチーフになっているとのことです。ちなみにCal.9RA2自体は最新世代であるものの、既出です。2021年に発表されたムーブメントで、さらにその前年にあたる2020年に発表された9RA5と設計を同じくします。
しかしながら2021年時点ではまだこの最新スプリングドライブは限定生産に留まっており、2022年の今作SLGA009で以て、通常生産モデルに至ったということになります。
なお、国内定価はメカニカルのSLGH005、スプリングドライブSLGA009ともに同一の1,045,000円です。
100万円台の大台ともなるとなかなか強気な価格設定とも思いますが、そのお値段も納得の出来栄えであることが、細部を見ると伝わってきます。
次項より、グランドセイコー エボリューション 9 SLGA009の細部を徹底レビューしていきます!
グランドセイコー Evolution 9 SLGA009「白樺」を実機レビュー!
グランドセイコー エボリューション 9 SLGA009を、「デザイン」「ムーブメント」「文字盤」に分けてレビューしていきます。
①Evolution 9 Collectionとは?
前述の通り、エボリューション 9はグランドセイコーが掲げる新たなコレクションであり、また新たなデザイン文法でもあります。
では、いったいどういうコレクションなのかと言うと、グランドセイコーが長年掲げてきた「セイコースタイル」をもとに、日本の美意識を取り入れた新しいデザイン文法である、と。ちなみにこれまた前項で言及していますが、2021年に発表された方の「白樺」ことSLGH005はシリーズ 9と掲げ、セイコースタイルの正統進化と称されていました。2022年にエボリューション 9として、アップデートされたのでしょう(現在はSLGH005もエボリューション 9としてラインナップされています)。
ではセイコースタイルとはいったい何なのか。
セイコースタイルは1967年にグランドセイコーが発表した「44GS」から現代に至るまで継承されてきた、デザイン文法です。
※1967年発表 グランドセイコー 44GS(画像出典:https://www.seikowatches.com/jp-ja)
グランドセイコーは1960年に誕生しました。
そして44GSは、グランドセイコーの第二作目となります。この「44」は手巻きCal.4420系が搭載されていたことにちなんでいます。2022年は「44GS」誕生55周年ということもあり、いくつかの記念モデルが発表されました。
44GSの製造期間は二年ほどと、ロングセラーというわけではありません。しかしながらセイコースタイルを築き上げた名機として、今なおオールドセイコーファンにとって特別な存在となっております。
セイコースタイルには9つのデザイン要素があるのですが、基本コンセプトは「燦然と輝くウォッチ」です。
例えば平面を主体に二次曲面でデザインを構成すること。これら各面はザラツ研磨を用いて、歪みのない鏡面(ポリッシュ)仕上げを施すこと。針・インデックスには多面カットを採り入れること等が挙げられます。こういったルールによって、シャープで光り輝くデザインを獲得することとなるのです。
事実グランドセイコーは、昔から「外装の見事さ」「美しさ」がとみに語られたものでした。
そして202年、セイコースタイル発足から55年を経て、ここに「光と陰が織りなす美」「光を美しく流す造形」といった、日本の美意識を採り入れている、と。
出典:https://www.grand-seiko.com/jp-ja
確かに外装に目をやると、歪みのない美しい鏡面とヘアライン仕上げのコンビネーションが見て取れます。
ちなみにザラツ研磨というのはグランドセイコーやミナセなどといった国産高級時計メーカーが得意とする、研磨時の下地処理手法の一つです。ゆがみの無い完璧な鏡面と完璧な角を生み出す一方で、熟達した職人技を要するため、誰にでもできるものではありません。グランドセイコーの外装技術への高い評価を、長年下支えしてきた技術と言って良いでしょう。
もっともSLGA009を見ると、グランドセイコーは仕上げが本当に美しいのですが、その美しさにいっそう磨きがかかったような印象を覚えます。
これは2021年発表のSLGH005でも言えることなのですが、ベゼルやケースサイドを下に向けて絞るような意匠とすることで、逆斜面状のフォルムを実現しており、これが従来品とはまた違ったシャープさを演出しています。また「面」が増えたことで複雑な造形を実現しており、いっそう立体感を感じさせますよね。
ちなみにブレスレットも幅広となっており、これは後述するCal.9RA2(およびCal.9RA5)が低重心に設計(ケースバック寄りに設置。リューズが裏蓋側に近くなる)されていることと併せて、エボリューション9でさらに快適な装着感を実現するための工夫とのことです。
ステンレススティール製のため重さは175gほどと、軽いわけではありません。しかしながらケース厚が11.8mmに抑えられていること。加えて上記の装着感の改良によって、あまり重さを感じさせないのは、さすがエボリューション 9!ちなみにバックルも新たに薄く設計されました。
かつてグランドセイコーは、プロモーションの巧拙について喧々諤々されたものでした。素晴らしい外装やムーブメントについて、もっと宣伝した方が良いのではないか、と。
しかしながら2017年にセイコーから独立して以降、高級化路線へとシフト。シリーズ 9に続きエボリューション 9によって外装の見事さが巧みに示されたと言え、今後のグランドセイコーの正統評価へと繋がっていくことを予感させるのではないでしょうか。
②最新世代スプリングドライブCal.9RA2
2021年に発表されたSLGH005は、最新世代のメカニカルムーブメントが搭載されていました。
このムーブメントCal.9SA5は2020年、グランドセイコー60周年を記念してローンチされたことは前述の通りですが、その時に最新世代スプリングドライブもまた発表されています。
スプリングドライブについて簡単におさらいすると、セイコーが誇る独自機構となります。その心は、メカニカルとクォーツの良いとこ取り!「第三のムーブメント」などと称されることもあります。
スプリングドライブは、1999年に発表されました。まずはセイコーとクレドールに搭載されたようですが、2004年にはグランドセイコーで搭載機がリリースされています。もっとも構想自体は1977年からあったようですが、実用化に至るまでにさらに歳月がかかった、と。
「良いとこ取り」がどういうことかと言うと、機械式時計のようにゼンマイで駆動しつつも、水晶振動子(クォーツ)によって精度を制御していることがミソ。すなわち、機械式時計のように力強いトルクを持ちつつも、クォーツ式時計のように正確な時刻を表示させることに特化した、まさに夢の機構ということになります。
このスプリングドライブ、なぜ実用化に時間がかかったかと言うと、一つにはパワーリザーブ(持続時間)が理想よりも足りなかった、といった背景があったようです。
スプリングドライブの販売時には約72時間のパワーリザーブを実現していましたが、この度の最新機種では、なんと最大巻き上げ時で120時間、実に約5日間の超ロングパワーリザーブの獲得に成功しているのです。
出典:https://www.grand-seiko.com/jp-ja
このパワーリザーブの仕組みは、デュアルサイズバレルに拠ります。
バレルは香箱とも呼ばれ、ゼンマイが格納された歯車です。近年では機械式時計の実用化の進化の一つとしてパワーリザーブ延長が挙げられます。各メーカーは香箱を二つ備えたり(ツインバレル)、香箱の容量を上げたりすることでゼンマイをたくさん格納させ、いっそうの持続時間を実現してきました。
グランドセイコーの次世代機でもツインバレルが採用されていますが、ちょっと他とは違うのが、大小二つのバレルを搭載している―デュアルサイズバレル―、というもの。メインの駆動を大きい方のバレルが担い、こちらのゼンマイがほどけていってトルクが下がった時に小さい方のバレルが駆動を担うという仕組みになっております。
これによって省スペース化しつつ、高効率な駆動を実現するに至りました。
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ちなみに従来のスプリングドライブと比べて、新世代9RA2は薄型設計になっていることが一つの特徴ですが、これにはオフセットマジックレバーが良い仕事をしております。
マジックレバーはセイコーが1959年に開発した自動巻き巻き上げ機構ですが、従来中心に設置されていたこれをオフセット配置することで、厚みを抑えることに成功しました。薄いと耐久性が下がってしまうこともありますが、ワンピースセンターブリッジと呼ばれるブリッジによって衝撃や振動への耐性をも実現しています(従来は三枚岩で支えていたが、こちらが一枚岩になった形)。
さらには高精度スプリングドライブパッケージICによって、水晶振動子と制御のためのICをワンパッケージとし、月差±10秒というスプリングドライブであっても驚きの高精度を実現しつつ、温度変化への耐性も強いムーブメントを完成させました。
すなわちグランドセイコー最新作 Cal.9RA2は、薄さと堅牢性と高精度のマリアージュを実現した、高級実用時計の最高峰と言って良いのではないでしょうか。
ムーブメントの仕上げ・装飾の見事さを見れば、高級機として申し分のない風格を伴っていることも見て取れます。
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これまた信州の情景がモチーフの一つとなっている、とのこと。信州地方の初冬、霧氷の木々やその隙間から覗く星空をイメージした仕上げや装飾が施されており、日本のわびさびが感じられますね。
ちなみにCal.9RA2は2020年発表のCal.9RA5をリファインしたものと前述しましたが、違いはパワーリザーブインジケーターの位置です。
スプリングドライブは文字盤上にパワーリザーブインジケーターを配置してきましたが、これが裏蓋側に移動した形となります。インジケーターの青針が、美しい仕上げのワンポイントになっていますね。
何から何まで美しく、それでいていっそうの実用性を獲得した逸品ですね。
③文字盤「白樺(しらかば)」
新コレクションとしての外装もムーブメントも素晴らしいSLGA009ですが、やはりまず文字盤に目を奪われるという方が多いのではないでしょうか。
近年、グランドセイコーが快進撃を続ける要因の一つに、他社にはない見事な装飾や仕上げを施した文字盤があります。
ギョーシェ彫等、腕時計の文字盤には特殊な機械を用いて装飾を施す手法は一般的となっております。とは言え、規則正しいパターンを並べるといったデザインが多いように思います。
あまりにも有機的な装飾は、視認性を妨げたり、あるいは美しく施すことの難易度が高かったりといった背景があるのでしょう。
一方のグランドセイコーは、他社が手掛けてこなかった文字盤装飾を得意とします。
それは絶妙なカラーリングにも言えることですが、醍醐味と言えば有機的な装飾にあります。
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繊細ながらどこか力強い白樺のテクスチャが文字盤上に描かれているのが見てとれますね。
これはプレスで模様を型打ちし、切削した後に丁寧にメッキ処理・塗装を行っているとのことです。ちなみにシルバーは塗装のみならず、銀メッキを用いており、鮮烈な凹凸を実現しました。
仕上げのクリアラッカーは分厚く、経年にも強い耐性を実現しています。
光を受けてキラキラを輝く文字盤は、まるで雪を抱いた白樺林のよう。一度実機を手に取って、様々な表情をご堪能頂きたい一本です。
グランドセイコー Evolution 9 「白樺」SLGA005とSLGH005の違い
2021年にリリースされ、一世を風靡したグランドセイコー SLGH005「白樺」。
SLGA009の白樺と違いは機構(ムーブメント)だけかと思いきや、実はよく見ると文字盤の意匠が異なります。
写真だとわかりづらいですが、メカニカルのSLGH005はシルバーの光沢が強く、スプリングドライブのSLGA009の方が柔和な輝きとなっております。
同じ白樺林と言えど、岩手県と長野県の工房からでは望めるものが違うと言うのでしょう。またテクスチャの細かさも若干異なるようです。
とは言え「燦然と輝くウォッチ」としては、あまり大きな違いは見受けられませんでした。どちらもグランドセイコーを代表する、新たなる高級腕時計としての
まとめ
グランドセイコーの2022年新作「白樺」SLGA009について、ご紹介致しました。
最新のデザイン文法、最新のスプリングドライブムーブメント、そしてこれまでと変わらない高い実用性と美しさを有して堂々誕生したSLGA009。
なお、当店での初出価格は948,000円を予定しております。
気になる方は、ぜひ一度実機を手に取ってみて下さいね。きっと、雄大な白樺の美しさに見入ってしまうことでしょう。
当記事の監修者
田中拓郎(たなか たくろう)
高級時計専門店GINZA RASIN 取締役 兼 経営企画管理本部長
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
当サイトの管理者。GINZA RASINのWEB、システム系全般を担当。スイスジュネーブで行われる腕時計見本市の取材なども担当している。好きなブランドはブレゲ、ランゲ&ゾーネ。時計業界歴12年