高級時計のスペック欄や商品ページを見ると、ほとんどのモデルに「石数」の記載があります。
一般的に石というと鉱物質のかたまりを連想しますが、腕時計で扱われる石は一般的な石とは異なる意味を持つます。
この記事では腕時計における石数の意味について解説致します。
時計選びの豆知識として、ぜひご一読ください。
目次
高級時計の石数とは
高級時計のスペック欄に書かれている石数は「軸受に使われている石の数」を表します。
ほとんどの機械式ムーブメントと一部のクォーツムーブメントには、人工ルビーが軸受として使われており、「石数=人工ルビーの数」として認識されています。
ムーブメントは地板と受け板でガンギ車やテンプといった機構を挟み込む設計となっており、各歯車の中心には軸が通っています。
軸は歯車の回転や往復運動で摩耗しやすいです。その摩耗を最小限に抑えるため、軸が接する部分に軸受となる穴石が設けられており、そこに宝石(ルビー)がはめ込まれます。
ルビーが選ばれる理由は至ってシンプル。硬く、圧力に耐えうる性質を持っているからです。
モース硬度ではダイヤモンドが10、ルビーおよびサファイアが9となっていますが、その中でも摩耗に強い性質を持つルビーが軸受として採用されるようになりました。
以前はダイヤモンドが使われることもありましたが、硬すぎて軸受を磨耗させてしまうことから、現在はルビーを用いることが一般化されています。
ルビーがはめ込まれた軸受は油の皮膜で保護されており、摩擦を抑えながら軸を支えます。アンクルの爪や振り石などにもルビーは用いられており、ムーブメントを分解すると至る所にルビーが存在することが分かります。
なお、現代の軸受に使用されているルビーは本物のルビーではなく、人工ルビーです。
本物が用いられた時期もありましたが、コストの兼ね合いから18世紀以降はその殆どが人工ルビーに置き換わっています。(近年は樹脂ベースの石も存在する)
石数を確認する方法
時計に使用されている石数を確認する方法は以下の通りです。
- 商品カタログを見る
- 正規店の商品ページを見る
- ムーブメントの刻印を見る
カタログや商品ページをご覧いただくのが一番確実ですが、製造終了品といった確認困難なモデルの場合はムーブメントに刻まれた刻印を見ることで判断することができます。
表記方法はメーカーによって異なりますが、概ね「21 JEWELS」のように刻印されていることが多いです。
石数によって生じる差
高級時計に用いられる石数が増えると、ムーブメントの耐久性が上がり、安定性が向上します。
しかしながら、石数が多ければ多いほど時計としての品質が上がるわけではありません。
機械式時計の石数は最低7石、多くても21石程度で十分だと言われています。
時計としての機能を果たす為だけであれば、これ以上増やしても大きな効果は得られません。
一般的にアンティーク時計であれば7石、現代の時計であれば「19石」「21石」を基準にして時計を選べば、日常使いで不便を感じることはないでしょう。
※クロノグラフやトゥルービヨンといった複雑機構を搭載するモデルを選ぶ軸受け自体が増えるため、石数が増える傾向にあります。
なお、必要最低限の石数を超え、50石以上のルビーが用いられたムーブメントも存在します。
これらのムーブメントは時計としての耐久性を高めるためだけでなく、装飾としてルビーが使われていることが大半です。
近年シースルーバックが人気となっていることから、視覚的な美しさをより引き立たせるためにルビーを多く取り付けることが増えました。
石数を必要以上に増やしてもスペックに大きな影響を与えることはありませんが、ルビーを多く埋め込むことで、時計に華やかな印象を与えてくれます。
ただ、石数が増えれば増えるほど時計の価格は上がってしまうので、石数が多い時計を購入する場合は予算と相談することになります。
まとめ
高級時計における石数はムーブメントの軸受として用いられる人工ルビーの数を表しています。
一般的な3針モデルに必要な石数は7石〜21石となっており、それ以上は複雑機構や装飾に使われることが多いです。
石数を見ることで、そのムーブメントがどれくらい凝った作りになっているか、どれくらい装飾に力が入れられているかが分かります。
時計選びにおいて重視される項目ではありませんが、この機会に石数についても是非ご注目してみてください。
当記事の監修者
廣島浩二(ひろしま こうじ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年