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1999年、オメガはコーアクシャル脱進機を発表します。これは2世紀に渡って機構に大きな変化がなかった脱進機に、革命を起こすような代物でした。
さらに2013年には、業界最高水準となる15,000ガウスもの耐磁性能を同機構で実現(しかも、シースルーバック仕様で)。これを公的認定させるマスタークロノメーター規格の登場にも、驚かされた業界人は少なくなかったものです。
そして2023年。新たなる「スピレート システム」によって、オメガはまたしても時計業界に大きな一石を投じることとなりました!
この記事では、オメガが2023年新作として放つ、スピードマスター スーパーレーシングについて解説いたします!
目次
オメガ 2023年新作 スピードマスター スーパーレーシング 329.30.44.51.01.003 スペック
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スペック
外装
ケースサイズ: | 直径44.25mm×厚さ約14.9mm |
素材: | ステンレススティール |
文字盤: | ブラック |
ムーブメント
駆動方式: | 自動巻き |
ムーブメント: | Cal.9920 |
パワーリザーブ: | 約60時間 |
機能
防水: | 5気圧 |
定価: | 1,562,000円(税込) |
オメガ スピードマスター スーパーレーシング 新作概要
ブラックとイエローがデザインの基調となった、スピードマスター スーパーレーシング。既存のスピードマスター レーシングを思わせるクラシカルなデザインを有する一方で、スピレート システムが備わりました。
直径44.25mm×厚さ14.9mmとダイナミックなケースに納められるのは、21世紀の最先端機械式ムーブメントです。
スピレート システム搭載Cal.9920とは?
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スピレート システムは、オメガがシリコン製ヒゲゼンマイを再設計し、超精密な調整を可能とした新機構です。これによって日差0~±2秒というきわめて高精度ウォッチを実現することとなりました。ちなみに一般的に機械式時計の精度は-10秒~+20秒程度と言われています。
「超精密な調整」がどれくらいかと言うと、テンプ受けの特別な偏心チューナーによってシリコン製のヒゲゼンマイ自体を触って剛性を調整することで、0.1秒単位の調整が可能となったのだとか!独特の形状をしたヒゲゼンマイに、目を奪われます。
この新システムをより理解するためには、機械式時計の構造について、そしてオメガの革新性の歴史を振り返る必要があるでしょう。
機械式時計はゼンマイのほどける力を利用して駆動します。このゼンマイを制御して調速する立役者が「脱進機(エスケープメント)」です。
脱進機について簡単に補足すると、「テンプ」「アンクル」「ガンギ車」によって構成されるパーツで、テンプには膨張・収縮を繰り返すヒゲゼンマイが備わります。このヒゲゼンマイの膨張・収縮によってテンプは一定周期で振動し、調速に役割を担います。
そしてヒゲゼンマイにゼンマイのエネルギーを供給し、かつテンプのテンポによって調速され、各歯車を制御するのが「アンクル」「ガンギ車」です。
この一連の構造はレバー脱進機(スイスレバー式)と呼ばれます。18世紀頃に原型が誕生し、今なお機械式時計の主流となっております。小型化や薄型化は図られど、200年以上も変わらず用いられてきた当機構。いち早く革命を起こしたブランドの一つが、オメガでした。
そう、冒頭でもご紹介したように、オメガは1999年にコーアクシャル脱進機を搭載したデ・ヴィルを発表したのです。今でこそスイスレバー式に代わる革新的な脱進機を手掛けるブランドは結構挙げられますが、いち早くメスを入れたのがオメガとなります。
コーアクシャル脱進機の開発者は時計師ジョージ・ダニエルズ博士です。コーアクシャル脱進機は製造コストが高く、また量産化が難しいとして他社は使用に踏み切らなかったようですが、オメガは量産・市販化に踏み切り、現在ではお家芸となっているのだから、さすがオメガと言うべきか。
※コーアクシャル脱進機とは?
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コーアクシャル脱進機についても説明を加えると、三つの爪をもつアンクル(従来は二つ)と風車のような形の三層式ガンギ車で構成されていることが特徴です(ちなみに発表当時とは異なっており、改良に改良を重ねたオメガの歴史を感じます)。この構造を採ることによってパーツ摩耗とエネルギーロスを低減。高効率な稼働によってオーバーホールスパンを延長することとなりました。
さらに2013年。オメガはシーマスター アクアテラ Ref.231.10.42.21.01.002を発表します。
このモデルはコーアクシャル脱進機を搭載するとともに、シリコン製ヒゲゼンマイを採用し、業界トップクラスとなる15,000ガウスもの耐磁性能を実現した、これまた驚きに値する一本でした。
※オメガの超耐磁性能について
耐磁時計とは、その名の通り磁気帯びに耐えうる時計といった意味合いです。
磁気はアナログ式時計にとって大敵。一度帯磁すると精度が狂ってしまい、専用脱磁機での磁気抜きが必要となります。
スマートフォンのスピーカー部分。バッグのマグネット。磁気治療器・・・磁気発生源が身近な昨今、耐磁性能はデイリーユースの腕時計にとって、必要なスペックと言えるのではないでしょうか。
そんな中で、15,000ガウスもの耐磁性能を実現したオメガ。なぜオメガが人気なのか、その一端を垣間見る思いです。
ちなみにJIS(日本産業規格)では、1種耐磁時計を4,800A/m、2種耐磁時計を16,000A/m以上と規定しています。1,200,000A/m(15,000ガウス)が、いかに突出しているかおわかり頂けるのではないでしょうか。
なお、インナーケースによって磁気をシャットアウトする手法は割とポピュラーだったのですが、オメガはシリコンによってこれを実現。そのためシースルーバックからムーブメント鑑賞できるのも嬉しいところです。
オメガはこの高耐磁のコーアクシャル脱進機(マスターコーアクシャル)を規格として認定させるため、2015年にスイス連邦計量・認定局(METAS)と共同でマスタークロノメーターという新たなる公的規格を設立。以降、マスタークロノメーター認定機をレギュラーモデルの標準装備としつつあることも特筆すべき点です。
前置きが長くなりましたが、このように機械式時計に革新を起こしてきたオメガが2023年に放ったCal.9920は、従来通りマスタークロノメーター認定かつコーアクシャル脱進機を備えていることは言わずもがな。毎時28,800振動へとハイビート化したことに加えて、新たな微調整システムを搭載しているのは前述の通りです。
これまた業界トップクラスとなるであろう、日差(一日の時計の遅れ・進み)0秒~±2秒という高精度を獲得しており、オメガの性能の訴求はずば抜けていると感じずにはいられません。
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またまた脱進機のメカニズムの話に戻りますが、機械式時計はテンプの往復回転の数(以下、振動数)が多ければ多いほど精密な時間計測がしやすくなります。振動数が多い個体をハイビート、少ない個体をロービートなどと呼びますね。
テンプの振動数はヒゲゼンマイの長さによって左右されるため、この有効長を変えたり(緩急装置による調整)、テンプの慣性モーメントを変えたりすることで精度調整が行われることが一般的です。割れやすいシリコン製ヒゲゼンマイでは、後者のテンプの慣性モーメントを変える、フリースプラングテンプが一般的です。
この精度調整は時計師の腕の見せ所の一つでもありました。一方でかなり精密な調整を行うには、もともとの機構や時計師のノウハウに左右されるといった側面もあります。とりわけフリースプラングテンプはこの傾向にあります。
オメガの新スピレート システムでは、特別な偏心チューナーによってヒゲゼンマイの剛性を調整することで、0.1秒単位の調整が可能となった。すなわちシリコン製ヒゲゼンマイであるにもかかわらず、緩急装置の調整が可能になったことが、いかに驚きに値するかがおわかり頂けるのではないでしょうか。「シリコン製ヒゲゼンマイ自体を触ることで剛性を調整」というのが、さらに革新的ですね。
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この新機構搭載のCal.9920は、もちろんシースルーバックからご鑑賞頂けます。
デザイン・外装にも溢れる特別なディテール
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このように、またしても新しいシステムによってムーブメント革命を起こしたオメガですが、デザイン・外装にも特別なディテールが溢れます。
冒頭でも述べたように、基本スタイルはクラシックです。レーシーなスピードマスター レーシングでも見受けられるツーカウンタークロノグラフに、アイコニックな非対称ケースはお馴染みですよね。
さらにブラック×イエローの二色構成には、理由があります。
それは、前項でもご紹介した2013年発表シーマスター アクアテラ 15,000ガウスから範を取っているためです。
2023年は、この15,000ガウスの耐磁モデルの発表10周年。そのアニバーサリーに新たなるコーアクシャル マスタークロノメーター認定Cal.9920が公開されたとあって、カラーをオマージュしたとのことです。新作スピードマスター スーパーレーシングのインダイアル60分積算計の針が、シーマスター アクアテラ 15,000ガウスを踏襲しますね。
ただ針やロゴの色が変わったのみならず、セラミック製タキメーターベゼルのスケールもイエローに。ちなみにこれは、グラン・フー・エナメルで表現されました。グラン・フー・エナメルのグランフーは「偉大な炎」を意味しており、800~1000度もの熱で焼き上げる手法です。これによって美しくも堅牢なエナメルを実現します。
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新作スピードマスター スーパーレーシングも、グラン・フー・エナメルの仕事も手伝って、レーシーながらラグジュアリーな質感を有するに至っています。
アンティークオメガなどでも見受けられるハチの巣を思わせる「ハニカム」模様の文字盤はサンドイッチ状になっており、イエローの色合いを引き立てますね。
また、立体的なインデックスやアロー針のスーパールミノヴァ夜光もイエローに染まっているため、暗所でもブラック×イエローのマリアージュをお楽しみ頂けるでしょう。
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スピードマスター レーシングらしく6時位置にデイト窓が搭載されておりますが、なんでも「10」だけ特別なフォントを用いているのだとか。これはSpeed Masterのロゴに用いられているフォントとなっており、オメガの遊び心を感じます。
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さらにスピードマスターの顔立ちとよくマッチする3連リンクのブレスレットの他、付属品としてブラック×イエローのNATOストラップが備わっているのも嬉しいところですね。
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気分を変えつつ、オメガのスピードマスター スーパーレーシングを思う存分お楽しみ頂けるでしょう。
国内定価
新しいスピードマスター スーパーレーシングの国内定価は税込1,562,000円です。
ブラックにイエローのステッチが施された、ハニカム模様のスペシャルボックスとともに販売されます。
特に限定生産ではないようですが、新たなるシステムということで、2023年はどれくらい製造されるのかはまだわかりません。
特に近年、オメガの新作モデルは非常に大きな話題となり、ウェイティングリストが長蛇の列となることも珍しくない状況です。発売から1~2年以上経過してなお、なかなか出回らないなんてことも。
この見事なスピードマスター スーパーレーシングもまた、人気は必至。早く手に取って眺めてみたい一本です!
まとめ
2023年もまた時計業界は騒がしくなる。そんなことを予見させる、オメガの新作モデルでした!
オメガは知名度やとにかくかっこいいデザインで取り沙汰されることも多いですが、技術力と開発力においても、他の追随を許さないことを示唆してもいますね。
なお、オメガはまだまだ続々新作発表を行っていくのでしょう。
当サイトでは、2023年もオメガの動向に注目していきたいと思います!
当記事の監修者
新美貴之(にいみ たかゆき)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 店舗営業部 部長
1975年生まれ 愛知県出身。
大学卒業後、時計専門店に入社。ロレックス専門店にて販売、仕入れに携わる。 その後、並行輸入商品の幅広い商品の取り扱いや正規代理店での責任者経験。
時計業界歴24年