時計好きでもなかなか手を出しづらいアンティーク時計の世界。
比較的キレイで10万円以下の個体もあれば、相当な使用感で100万円超えなんていうものも・・・
でも、ヴィンテージ好きの方、実は気になっていませんか?
そうでなくとも、有名ブランドの時計が現行モデルよりかなり安く買える。または現行モデルにはないデザインを楽しめる。これらの理由からアンティークの世界に入る方もいます。
アンティーク時計の購入を躊躇する方は「どれがいいのかわからない」「普段使いできるか」や「故障しやすいのか」。
こういった不安を持っているかと思います。
そこで今回はアンティーク初心者に向けて、「時計選び→購入店選び→購入→普段の使用」の順序で徹底ガイドいたします!
目次
初めてアンティーク時計を購入する心構え
アンティークに手を出す時、まず知っていてほしいことがあります。
それは、時計のクセに合わせた配慮が必要だ、ということ。
腕時計で言うところのアンティークとは、1980年代以前に製造されたモデルとなります。
機械式時計がいくらメンテナンスすれば一生使えるといえど、精密機器としては経年を経た個体です。
そのため、新品のような高い精度や防水性が保たれていることはほとんどありません。
扱いには、その時計に合わせた配慮が必要です。
もちろん、時計のクセと付き合っていくことは味わい深いものであることも併せて述べておきます。
アンティーク時計はどこで買うのがおすすめ?
購入したいアンティーク時計が一点モノで、どこを探してもない、またはこのモデルでなくては嫌だ!というのであればそれを扱う店で買うしかありません。
しかし、「どれがいいかはモノを見て決めようかな?」という方は購入店を厳選しましょう。
この購入店選びは、かなり重要。
アンティークの扱いは時計屋によって本当に差があり、どこまでメンテナンスをして売りに出すか、というのに基準のようなものはありません。
と言うのも、アンティークの市民権がここまで広がったのはここ最近。とりわけ日本国内ではアンティークロレックスですらまだ認知度は低い方です。
昔は、大金を払って壊れたアンティークを掴まされても、「勉強代」で済まされたもの。
しかしながら、今はきちんとした購入店を選べば、普段使いのできる自分だけの時計が手に入ります。
では、購入店選びのポイントをご紹介いたします。
①まずは「時計専門店」で選ぶこと!
アンティーク時計は、質屋などでも見かけることがあると思いますが、なるべくなら時計専門店で購入するようにしましょう。
質屋だと時計に関するノウハウがないことがほとんど。
そのため、売りに出す時にきちんとメンテナンスがされていなかったり、購入後に故障があっても面倒を見てくれないことがあります。
時計店であれば提携している修理工房もありますので、そちらでお願いすることが一般的です。
②実際に手に取ってみよう!
現行モデルだとそこまでではありませんが、アンティーク時計は写真で見るよりも傷や退色が目立つ場合があります。
また、リューズを回してみて違和感を覚える。視認性がイマイチだった、などのトラブルも考えられます。
一度現物を手に取ってみて、状態確認することをおすすめします。
③通販で買うなら「返品保証制度」があるところを!
遠方に住んでいる。お店に足を運ぶ時間がない。
そんな方は通信販売で購入することになると思いますが、中古やアンティークは「返品保証制度」があるところを選びましょう!
返品保証制度とは、届いた商品が思ったのと違った、などの理由で返品したい時、条件付きでそれが可能な保証制度のこと。
もちろん安心できる、といった理由もあります。
加えて、こういったサービスが豊富な店というのは繁盛店である可能性が高く、きちんと消費者から信頼されて実績を出しているところと言えます。
また、通販の購入ページに、「いつオーバーホールをしているか」「商品の状態」が細かく記載しているところも安心できます。
ちなみにオーバーホールは3~4年の間に行われていれば概ね問題はないでしょう。
いざ購入!アンティーク初心者におすすめのブランドとは?
新品購入と変わらず、どのブランド・モデルを選ぶべきかは好みもあると思います。
絶対ロレックス!とかオメガ!とか決めている方もいるかもしれませんね。
しかしことアンティークとなると、実際に使用し、何かあった時のアフターケアについて最初のうちによく考えておく必要があります。
そう、何よりもまず修理がしやすいかどうか、コレが重要!
初めてアンティークを購入する場合は、「よく出回っていたムーブメントを搭載した個体」を選ぶことおすすめします。
と言うのも、ムーブメントの流通量が多いということは、修理がしやすいということ。
例えばパーツ交換やオーバーホールの時でも、既に生産終了したレアなムーブメントだとメーカーでも対応できなかったり高額になる可能性があります。スイス送りになって何年も時間がかかることも・・・
大量生産されていたムーブメントは非常に有名ですので、お店のスタッフに問い合わせればすぐに教えてくれるでしょう。
実際に代表的なおすすめブランドをいくつかご紹介いたします。
①ロレックス
アンティークの世界でも非常に有名なロレックス。
早い段階から技術を確立していたこともあり、年代を経ても実用性の高さに定評があります。
また、同じ機械をベースにムーブメント開発を行っていた経緯から、現代でも修理やオーバーホールがしやすいことにかけては高級アンティーク市場の中ではナンバーワンではないでしょうか。
デイトナやGMTマスターなど一部のモデルは超高騰していてなかなか手を出しづらいかもしれませんが、20万円~30万円台で購入できるものも存在します。
代表的なものとしては、まずオイスターパーペチュアル デイト Ref.1500。
1965年頃に製造されたオイスターパーペチュアル・デイト。
防水性の高いオイスターケースと、全回転式ローターを搭載したパーペチュアル機構はこの時代から既に完成していました。
文字盤デザインの豊富さや、デイトジャストに比べリーズナブルな価格帯が魅力です。
息の長いモデルのため搭載されたムーブメントも一つではありませんが、最もおすすめできるものは1960年代に搭載されたCal.1560もしくは1965年~1980年代後半までに活躍したCal.1570を搭載したモデル。
オイスターパーペチュアルのみならずエクスプローラーなどにも搭載された大量生産機であるためメンテナンスが受けやすい、といったメリットもあります。
現行ムーブメントにも採用されている機構が初めて使われた機械であることなどから、超優秀3針キャリバーと名高いのです。
精度・耐久性ともに優れていて、アンティーク市場の中でも非常に評価が高い逸品と言えるでしょう。
Ref.1500の相場は大体30万円台~40万円台となります。
同様の理由で、デイトジャスト Ref.1601もおすすめできます。
Cal.1560かCal.1570などの1500系を搭載したものが多く、また製造期間の長さから手に入れやすいシリーズです。
ただしデイトジャストは素材にゴールドを使用しているので、モデルによってはやや高値となります。
そうは言っても現行ロレックスに比べればリーズナブルで、30万円台~50万円台がおおまかな相場です。
また、オイスターデイト プレシジョン Ref.6694もおすすめ。
1950年代後半~70年代あたりで製造されていたオイスターデイト プレシジョン。
今では珍しい手巻きロレックスで、自動巻きに比べシンプル構造・そして幅広いシーンで活躍するシンプルデザインから、アンティーク入門機としても挙げられます。
ちなみにプレシジョンとは、「正確な」という意味の英語。
手巻きムーブはデイトナ6264/6263などに搭載されていたCal.727等もありますがかなり高価格。その点Ref.6694に搭載されていたCal.1210を始め1215や1225は流通量も豊富でリーズナブル。もちろん信頼性にも定評があります。
相場は大体20万円台後半~30万円台後半となります。
ただし、上の画像のようにロレックスは経年で文字盤がブラウンがかったトロピカルブラウンダイアルやミラーダイアルといった個体が存在します。こちらは高額になるのでご注意ください。
②オメガ
オメガもまた、ロレックス同様に古くから実用時計としての技術開発に余念のなかったブランドです。
また、オメガは「良いものをたくさん作る」という大量生産ラインも早い段階で確保していました。そのため、1950年代の個体であっても手に入れやすいアンティーク代表格。
日本国内でのオメガ人気もその流通量に一役買っていますね。
最も有名どころとしてはシーマスターでしょうか。
センターセコンドの三針のCal.500番台ムーブメントは名機。
とりわけ1958年発表のCal550/560系(550がノンデイトで560がデイト付き)は精度と実用面で評価が高く、オメガ自動巻きの傑作とまで称されるほど。
ちなみに今でこそ普通ですが、シーマスターにカレンダー機能が付き始めたのはこのムーブメントが出始めた1950年代からとなります。
550系以降、リバーサー(切替車)と呼ばれる両方向巻き上げシステムが導入され、巻き上げ効率が向上しただけでなく薄型化し、より実用に即した形状となりました。
安いものだと10万円台、平均しても30万円台ほどで手に入ります。まさにコスパのオメガですね!
アンティークオメガはコンステレーションもいいですね。
コンステレーションはオメガ初の自動巻き腕時計であり、全製品が公認クロノメーターという革命的なシリーズ。
1958年以降はCal.550/560系が搭載されています。
シーマスターは現行モデルも非常に人気が高く「人とかぶる」といった声が聞かれます。
かぶりを避けるためにアンティークオメガを選ぶ方も多いため、今扱っている時計店も増えつつあります。
③その他
こういった「ムーブメントの流通量」から見ると、他にIWCやセイコーも初心者にとってとっつきやすいでしょう。
IWCは1960年~1970年代には同じムーブメントを搭載した多彩なモデルが多く生産されました。
また、セイコーアンティークなんかは街の小さな時計屋さんでも売ってたりするほどメジャー。当然修理もしやすいです。
もちろんここに挙げたブランド以外でも、ムーブメント会社から供給された機械をベースにしたものなど、メンテナンスしやすさでおすすめしたい個体はまだまだあります。
しかし、一般の方々にとってはどれが大量生産機にあたるか判断がつかないでしょう。
購入の際は、とにかくスタッフに納得いくまでとことん質問・相談することが重要です。
※相場は2018年9月現在のものとなります。また、コンディションなどによって変わってくる可能性もございます。
アンティークよくあるトラブル。その対処法は?
実物が手元にきて、使用してみた!そんな時によくあるトラブル例と対処法を解説いたします。
実際の購入の際、確認すべきコンディションとも繋がりますので、ぜひご確認ください。
①時計が遅れる、または進む
時間の進みがどれくらい正確かを「精度」という言葉で表します。
通常、新品でも機械式時計にはある程度の精度基準が決まっており、日差(1日の進み・遅れの度合い)-10~+15秒くらいが許容範囲となっています。
しかしアンティークの場合、日に1分ほどずれることは当たり前です。
そのため、少しくらいの時間のズレは手動で訂正して、根気よく付き合っていきましょう。
気を付けたいのは、日に3分以上の遅れや進みがある時。
製造年代やもともとのスペックにもよるのですが、これはなんらかの不具合が起きている可能性も疑ってみてください。
まず考えるべきは磁気帯び。
アンティーク時計は現代のように耐磁性能を備えていないモデルがほとんどですので、携帯電話や家電の横に置いておくだけで影響されてしまうことがあります。
軽度の磁気帯びであれば購入店や修理店で1,000円程度ですぐに脱磁してもらえますが、重症だとパーツ交換が必要となり、高額になる可能性も忘れてはなりません。
②姿勢差によって精度が変わる・または止まる
現代はパーツ改良が進んでいるため滅多に気になりませんが、時計は平置き・縦置きなど姿勢差によって時間の進みにズレが生じる現象があります。
アンティークはこういった姿勢の影響が少なくないことを知っておきましょう。
姿勢差によって完全に止まってしまう場合は、パーツ変形や損傷が考えられます。
強い衝撃が加わるなどしてムーブメントの一部が破損してしまっているとこういった症状が出ます。
例えば天真の不具合。テンプは上下で支えられているので、この天真が片方壊れても姿勢によっては動き続けます。そのためこういった姿勢差にまつわる症状が出てくるのです。
現代はムーブメントに耐震装置が備わったため姿勢差にまつわるトラブルは格段に少なくなりましたが、1940年以前のムーブメントにはこの機能はほとんどありませんでした。
なお、天真の交換には1万円ほどかかります。
③水につかってしまった
壊れたなら動かさなければいいだけですが、水が入ったらすぐに対処しましょう。
アンティーク時計が製造されていた年代は、今ほどタフ仕様なモデルは非常に少なく、シンプルなドレスウォッチが主流でした。
そのためほとんどが非防水です。
ロレックスのサブマリーナやオメガのシーマスターなど、1960年代に製造が始まったダイバーズウォッチでしたら、これらに比べて稀に高い防水性を有している可能性はありますが、それでもパーツが変形していたりと気密性は保証できるものではありません。
水没とまではいかなくても、風防が曇ってたら内部に水や湿気が入ってしまっています。
こうなると数日でサビが進行しムーブメントがダメになったり文字盤が浮いたりと、取り返しのつかないことになりかねません。
なんにせよ、すぐに購入店や修理店に相談してください。
④外装に傷や変色が見られる
精度や防水性の他に気になることと言えば外装。
傷や変色はヴィンテージ感に一役買ってくれますが、視認性などの普段使いに影響があっては本末転倒です。
アンティーク年代のモデルの多くはゴールドやステンレスなど金属外装がメインとなってきます。
そのため、傷だけでなく、経年による退色や変色が気になることは多いでしょう。
ある程度のメンテナンスをすればあまり目立たなくすることが可能です。
一方でアンティークはオリジナルに近いほど価値が高くなりますので、研磨はあまりおすすめしません。
傷や退色も、ヴィンテージとして楽しんでみてはいかがでしょうか。
ちなみにプラスティック風防のキズなら磨いてとれますが、割れてしまうと交換となります。
⑤自動巻きなのにすぐ止まってしまう
アンティーク時代に製造されていた自動巻きムーブメントは、今ほど巻き上げ効率が改良されていないため巻き上げ不足やパワーリザーブが短かったりとで思ったより早く時計が止まってしまうことがあります。
一度リューズを巻いて、きちんとゼンマイを巻けているか確認してください。
面倒くさいかもしれませんが、これもまたアンティーク時計ならではの味わいです。
きちんと巻いてもすぐ止まるなら、故障の原因もあるので修理に持っていくことをおすすめします。
アンティーク時計は飽きたら売れるの?
上記の写真は、現在160万円以上の価格がつくアンティークGMTマスターI 1675。
今、アンティークは投資家にも注目されつつあり、当然個体によっては高値がついてきます。
「掘り出し物」もあるかもしれませんが、高価値のアンティークのほとんどはロレックスやパテックフィリップ。
そもそもアンティークロレックスですら日本で流行りだしたのは最近です。
また、高値がついた時計であっても実は針などが交換されて新品になってしまっていたり、自分自身が修理に出した際にパーツ交換をされていると価値が落ちてしまう可能性もあります。
オリジナルのコンディションのままを重視するかどうかはお店によります。
説明責任があるわけでもありません。
そのため、もし投資目的などでアンティークの世界に入ろうとするのであれば、後で損をしないためにもある程度の勉強が必要となってきます。
まとめ
初めてアンティーク時計の世界に入る方のために、購入から実際の使用について解説いたしました。
お願いしたいのは、ご自分のアンティーク時計ととことん付き合ってほしいこと。
じっくり買いたいモデルと購入店を選び、納得いくまで店員に話を聞き、個体のクセに合わせた使い方をする・・・
ちょっと手がかかりますが、それだけ愛着が湧くことも確か。
世界でたった一つの、自分だけのアンティーク時計。自分色に育ててみてくださいね。
当記事の監修者
田所 孝允(たどころ たかまさ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 営業物流部長/p>
1979年生まれ 神奈川県出身
ヒコみづのジュエリーカレッジ ウォッチメーカーコース卒業後、かねてより興味のあったアンティークウォッチの世界へ進む。 接客販売や広報などを経験した後に店長を務める。GINZA RASIN入社後は仕入れ・買取・商品管理などの業務に従事する。 未だにアンティークウォッチの査定が来るとついついときめいてしまうのは、アンティーク好きの性分か。
時計業界歴18年。