「キングセイコーって何がすごいの?」
「キングセイコーの魅力や特長について詳しく知りたい」
セイコーアンティークの雄・「キングセイコー」をご存知でしょうか。
キングの名前の通りグランドセイコーと並んでアンティーク市場で存在感を放ちながら、グランドセイコーやその他高級ヴィンテージ時計と比べてリーズナブル。
さらに付け加えると現代でもきわめて高い精度を叩き出すというセイコー屈指の名作です。
時計ファンから熱烈な支持を集めており、その人気は生産終了から約50年が経過しようとしてもなお健在です。
そんなキングセイコーの魅力や特長について知りたいという人は多いのではないでしょうか。
キングセイコーとは1961年~1975年にかけてセイコーで製造された高級時計です。
この記事ではキングセイコーの魅力や特長を、GINZA RASINスタッフ監修のもと解説します。
おすすめモデルの紹介もしますので、アンティーク時計をお探しの方はぜひ参考にしてください。
目次
キングセイコーとは?グランドセイコーとは違うもの?
キングセイコーは、1961年~1975年頃までセイコーで製造された一大コレクションです。
ちなみにグランドセイコーは1960年誕生。つまり、14年程併売されていたこととなります。
どちらもセイコーが海外高級ブランド時計に追いつけ・追い越せを目標に打ち出したハイエンドとなり、その造り・性能面での見事さには定評があります。
ただ、キングセイコーとグランドセイコー、発売時期のみならず見た目がとてもよく似ています。キングセイコーとグランドセイコーの違いが分からないという方も少なくありませんが、両シリーズには明確な違いがあります。
左:グランドセイコー 右:キングセイコー
それは、コンセプトです。
グランドセイコーは最高級のムーブメント,デザイン,そして技術を用いることで「実用時計の最高峰」「最高の普通」を目指しました。
グランドセイコーのファーストモデルの販売価格は25,000円。当時、小学校教員の初任給が13,000円程度であることを鑑みれば、非常に高級品であることがおわかり頂けるでしょう。ちなみにさらに小ネタを挟むと、当時三種の神器に数え上げられた洗濯機がグランドセイコーと同程度の約25,000円でした。
一方のキングセイコーも高級ラインではありましたが、ファーストの販売価格はステンレススティールモデルなら12,000円。もちろん高級機に違いはありませんが、当時の一般的な国民が「頑張って買える」くらいの価格帯です。
キングセイコーは、戦後の混乱から立ち直り、著しい経済成長の幕開けを迎えていた日本において、一般庶民をターゲットにリリースされたハイエンドコレクションだった、というわけです。
こういった背景から、キングセイコーとグランドセイコーは使われている技術やムーブメントが異なります。当然キングセイコーの方が量産に適した廉価なものが用いられます。
もっとも、キングセイコーは廉価とは言え、その性能や高級感はグランドセイコーと遜色のないものであったことは前述の通りです。
次項で、そんなキングセイコーの系譜をご紹介いたします。
Column:諏訪精工舎と第二精工舎について
キングセイコーとグランドセイコーの違いを語る時、しばしば出てくるのが「製造拠点」の話です。
と言うのも、当時のセイコーは諏訪精工舎と第二精工舎という二つの製造拠点をもっていました。
諏訪精工舎とはその名の通り長野県諏訪市に位置する工場で、後のセイコーエプソン株式会社です。第二精工舎は東京都江東区亀戸に位置していた工場で、後のセイコーインスツル株式会社となります。
両拠点がそれぞれ独立した製品開発を行うことで、技術レベルが高められ、同じメーカーに属しながらも良きライバルとして切磋琢磨し合っていたのです。
そうして1960年、初代グランドセイコーは諏訪精工舎から生み出され、翌1961年に初代キングセイコーが第二精工舎から誕生しました。
異なる拠点において、それぞれ至高の腕時計が輩出されたことがわかりますね。
なお、諏訪精工舎はスイス時計に対抗した時計製造を行い、第二精工舎は諏訪精工舎を意識した時計製造を行っていました。
キングセイコーがグランドセイコーに似ているのはグランドセイコーを意識した時計として作られているからでしょう。
左:グランドセイコー 右:キングセイコー
インデックスから針の形、ケース径に至るまで、キングセイコーはグランドセイコーと瓜二つです。
年式による差はありますが、ぱっと見違いが分からないのも無理はありません。
キングセイコーの系譜
キングセイコーは製造年によって以下の種類に分類されます。
■ファーストモデル:1961年~1964年
■セカンドモデル(44KS):1964年~1968年
■手巻きハイビートモデル(45KS):1968年~1971年
■自動巻きハイビートモデル(56KS):1968年~1974年
■自動巻き「スペシャルクロノメーター」モデル(52KS) :1971年~1974年
■KSバナック(52KS・56KS):1973年~1975年頃
簡単にそれぞれの時代のキングセイコーをご紹介いたします。
まず、初めてのキングセイコーとなるファーストモデル。ステンレススティールと14KGF(ゴールドフィールド。メッキのこと)の二種がラインナップされました。
出典:https://museum.seiko.co.jp/en/collections/watch_previousterm/collect036/
ファーストモデルは手巻きCal.54Aを搭載していました。
このムーブメントは「クロノス」と呼ばれる、第二精工舎で1958年に開発された機械となります。
きわめて薄く高性能なことが特徴ですが、当時既にリリースされていたグランドセイコーと異なり歩度証明書がなかったこと。加えて秒針規制(ハック機能)が付いていなかったことから、廉価版と呼ばれる所以になりました(実際、価格もグランドセイコーに比べて低いものでしたが)。
その後、第二世代として44KSがリリースされます。ちなみにこの第二世代は今でもよく流通しており、キングセイコーを購入しようと思ったらまず候補に挙がる個体でしょう。
出典:http://timetapestry.blogspot.com/
なぜ44KSと呼ばれるか、それはムーブメントが手巻きCal.44になったため。
ファーストにはなかったハック機能が搭載され、またケースもスクリューバックにアップデートされ防水性を加味した個体がリリースされるようになりました。
なお、第二世代からはクロノメーター化が図られ、「キンクロ」と親しまれた個体がリリースされています。
とは言え当時はまだクロノメーターは非公認。
1968年に日本クロノメーター協会が設立されたことで、正式にクロノメーター化した、と言えるでしょう。
とは言えクロノメーター化を機に、キングセイコーの精度は目覚ましい進化を遂げます。
1968年以降にムーブメントの振動数が格段にアップし、手巻きハイビートのCal.45系へと世代交代を果たしました。
また、同時期、グランドセイコーと同様に諏訪精工舎で製造された自動巻きハイビートムーブメントCal.56系もリリースされます。ちなみにこれらハイビート45・56系は同時期のグランドセイコーにも搭載されていたため、機械スペックはGS・KS同一ということを意味します。
この第三世代のハイビートキングセイコーはセカンド同様に流通量が多く、グランドセイコーと同一機械を搭載しながらも比較的安価に流通しています。これまたキングセイコーを購入しようとした時、重要候補に挙がるでしょう。
この56系のさらなるハイエンドとしてリリースされたのが、「キングセイコー スペシャルクロノメーター」です。
出典:https://www.grand-seiko.com/nz-en/special/10stories/vol5/1/
実は、この52系スペシャルクロノメーターが、亀戸の第二精工舎で作られたキングセイコー最終世代となります。
キングセイコーで唯一「スペシャル」のロゴが文字盤にあしらわれた他、「ハイビート」「オートマティック」「クロノメーター認定」といった現代的な仕様のロゴもご確認頂けます。
その後Cal.56や52を搭載したVANAC(バナック)と呼ばれる個体も2年程製造されました。
出典:https://vintageseiko.nl/blog/king-seiko-vanac-glitz-from-the-seventies
中身はキングセイコーなのですが、従来とは全く異なるデザインコードを有していることが特徴です。
上記画像のようなカットガラスやカラーバリエーション豊富な文字盤を使い、またケースやブレスレット形状もユニークなフォルムになりました。
当時はオメガのスピードマスターを代表するように、多くの機械式時計で個性的なデザインが果敢に挑戦されていました。
その理由は、1969年にセイコーがリリースしたクォーツ時計「アストロン」によって巻き起こされた、クォーツショックにあります。
機械式時計と比べて安価にもかかわらず高精度を容易に叩き出すことができるクォーツ時計が時計市場を占領するようになり、昔ながらの時計メーカーは戦略変更を余儀なくされました。
その戦略変更の一環として、独創的なデザインコードを用いることで、クォーツ時計との差別化を図ったのです。
同じセイコーから出ているキングセイコーでも、クォーツショックによる影響は無視できませんでした。
そこでバナックを打ち出すことで起死回生を目論んだのでしょうが、機械式キングセイコーは1975年で廃盤となり、セイコーのカタログから姿を消しました(もっとも、2000年に2000本限定で復刻されましたが)。
なお、「機械式キングセイコーは1975年で廃盤」と申し上げましたが、キングセイコーの名前自体はしばらく残りました。
1975年以降、キングセイコーはクォーツ化のためにペットネームを「KING QUARTZ(キングクォーツ)」と改め、最高級クォーツとして売り出されることとなったのです。
こちらもアンテイーク時計として人気がありますが、一般的にキングセイコーと呼ばれるのはクォーツ化される前の機械式モデルです。
キングセイコーの魅力
出典:https://vintageseiko.nl/blog/king-seiko-vanac-glitz-from-the-seventies
キングセイコーの魅力は、何と言ってもその性能、そして当時セイコーが世界に誇る「粋」を詰め込んだ、洗練されたデザインと高級感!
当時、ロレックスやオメガを見据えた高級機であったため、アンティーク市場においてはそういった当時の人気ヴィンテージ機種に匹敵する造りは、現代でも十分通用します。
前述の通り、グランドセイコー(諏訪精工舎の工法)に追随してきた歴史があるためでしょう。
また、セイコーは1960年代当時、既に機械式ムーブメントの量産化に成功していました。実際、初代キングセイコーに搭載されたムーブメント「クロノス」などは、1950年代~60年代当時の多くのセイコーで活躍したものです。
そのため比較的メンテナンスノウハウが国内で出回っており、アンティーク品でありながら修理やオーバーホールを施しやすい・何かあった時に相談できる体制が整いやすいという側面をセイコー全体で有しています。
せっかく買った時計、アンティークだからと言ってすぐ壊れたり長く使い続けられなかったりするのは悲しいですよね(もちろんアンティークなのでいつまで動く、という保証はありませんが)。
セイコー製品なら、そういった心配をぐっと低減することができるでしょう。
出典:https://monochrome-watches.com/seikos-affinity-to-hi-beat-movement-part-two/
キングセイコーはこういった時計としての上質さを楽しめる一方で、さらにリーズナブルな価格が魅力として挙げられます。
グランドセイコーよりも廉価であったことから、今なお「お得に買えるアンティーク時計」としての立ち位置を崩しません。
コンディションや年式などによって相場は異なりますが、10万円以下でもコンデションの良い個体を買えるのは大きな魅力です。
裏蓋のキングセイコーの刻印も楽しもう
キングセイコーのもう一つの魅力であり、楽しみ方。
それは、裏蓋の刻印です。
グランドセイコーの裏蓋には主に獅子のエンブレムが刻まれていますが、キングセイコーにはシンプルなKGや盾の刻印が刻まれています。
個体やモデルによって様々なバリエーションがありますが、こちらもグランドセイコーとの大きな違いだといえるでしょう。
ちなみに、文字盤や裏蓋のメダリオンに雷のようなマークが入った個体が散見されますね。
これは、亀戸の第二精工舎のロゴであり、当地で製造されたことを意味します。
グランドセイコーには、諏訪精工舎のマークが入った個体があります。
こういった二者の違いをデザイン面で楽しむことができるのも、アンティークセイコーの醍醐味の一つですね。
狙うならこれ!キングセイコー オススメモデル
キングセイコーはシンプルなバーインデックスに美しいドルフィン針を配したデザインが基調をなっていますが、前述の通り年式によってロゴが異なったり、搭載ムーブメントが異なったりと多種多様なラインナップが存在します。
現在も中古市場で多くの個体が取引されており、未だ人気が健在であることがわかります。
セイコー キングセイコー 45KS 45-7001 アンティーク
素材:ステンレススティール×ゴールドプレート
ケースサイズ:直径36.0mm
文字盤:シルバー
ブレスレット:ブラウンレザー
駆動方式:手巻き
風防:ドーム型プラスチック
防水性:-
ムーブメントに10振動の手巻き式Cal.4500Aを搭載したキングセイコー。「45KS」の呼び名でも知られていますね。当時のセイコーの中で最も完成されていたと名高い名機です。
デザインもシンプルさと実用性を具現化した、半世紀という時を経てもなお「飽き」を感じさせないモデルです。
文字盤6字位置にはキングセイコーを意味するKSのロゴが配され、その直下にはHI-BEATの印字が刻まれています。
ケースは現代においては少し控えめの36mmサイズ。
このサイズ感が好きという方も珍しくありません。
素材はステンレススティールにゴールドプレート(金メッキ)があしらわれており、見た目以上に高級感があります。
セイコー キングセイコー セカンドモデル 44999 アンティーク
素材:ステンレススティール
ケースサイズ:直径36.0mm
文字盤:シルバー
ブレスレット:ブラックレザー
駆動方式:手巻き
風防:ドーム型プラスチック
防水性:-
44999はキングセイコーのセカンドモデルで、ハック(秒針停止)機能を備えたキャリバー44Aを搭載しています。シルバーダイヤルにアプライドインデックス、ドルフィンハンドとシンプルながら上品な印象の時計です。
1960年代に製造された個体であり、クラシカルなKING SEIKO ロゴを持つことも見逃せません。
ケース直径は36.0mm。風防にはドーム型プラスチックが配されています。
製造年数も短かく現存数も少ないことから時計ファンの中でも入手困難なモデルとして知られていますが、相場自体は10万円以下で購入することが可能です。
見かけたら是非手にしてみてください。
セイコー 44KS キングセイコー 4402-8000 アンティーク
素材:ステンレススティール
ケースサイズ:直径35.0mm
文字盤:ブラック
ブレスレット:ブラックレザー
駆動方式:手巻き
風防:ドーム型プラスチック
防水性:-
4402-8000はハック機能、両方向カレンダー早送り機能を備えたCal.4402を搭載したモデルです。
裏蓋はスクリューバックとなっており、アンティークながら実用性も保持しています。リューズはオリジナルのSWリューズで刻みの少ないタイプです。
キングセイコーはシルバー文字盤が多いですが、シックなブラックも素敵です。
製造から半世紀近く経過していることから、文字盤やインデックスには相応の劣化も見受けられてますが、それもまた魅力だといえます。
こちらも相場は10万円以下となっており、手に入れやすいアンティークウォッチとして知られます。
セイコー キングセイコー ヒストリカルコレクション 2000本限定モデル SCVN001
素材:ステンレススティール
ケースサイズ:直径36.5mm
文字盤:シルバー
ブレスレット:ブラックレザー
駆動方式:自動巻き4S15
風防:ドーム型プラスチック
防水性:-
1975年に製造終了したキングセイコーですが、2000年に2000本限定で「キングセイコー復刻モデル」を発売しました。
そして、このSCVN001こそが復刻モデルです。
ケースにはザラツ研磨が施されており、歪みなく輝く鏡面研磨が特徴のセイコースタイルを忠実に再現。レトロ感を演出しつつも現代的な技術を駆使して作られています。
ムーブメントには当時の第四世代キングセイコーにも搭載されていた第二精工舎製52系キャリバーを改良した高振動4S15キャリバーを搭載し、デザイン・精度共に申し分ないスペックに仕上がりました。
6時位置にはKSのロゴを配置。3時位置にはシンプルな美しさを持つデイトが備えられています。
工業製品としてスタートした国産時計機械の美しさが極まった逸品でとして、今なお人気を博し続けています。
現在の相場に関しては当時の定価157,500円に近い14万円前後で取引されていことが多いです。
なかなか手に入りにくいレアモデルとなっているので、今後価値が上がっていく可能性もあります。
まとめ
セイコーアンティークの中でも特別な存在感を放つ、キングセイコーについてご紹介いたしました!
キングセイコーとは1961年~1975年にかけてセイコーで製造された高級機であること。グランドセイコーとの共通点は多いものの、コンセプトや製造拠点が異なること。
製造から50年ほど経過する今なお実用性に富み、また価格のリーズナブルさも相まって時計ファンから厚い支持を集めていることをお伝えできたでしょうか。
文中でもご紹介したように、状態の良い個体が結構流通しています。気になる方は、ぜひ一度お手に取ってみてくださいね。
当記事の監修者
田所 孝允(たどころ たかまさ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 営業物流部長/p>
1979年生まれ 神奈川県出身
ヒコみづのジュエリーカレッジ ウォッチメーカーコース卒業後、かねてより興味のあったアンティークウォッチの世界へ進む。 接客販売や広報などを経験した後に店長を務める。GINZA RASIN入社後は仕入れ・買取・商品管理などの業務に従事する。 未だにアンティークウォッチの査定が来るとついついときめいてしまうのは、アンティーク好きの性分か。
時計業界歴18年。