出典:https://www.girard-perregaux.com/ja/laureato/
ジラールペルゴの人気スポーツウォッチ「ロレアート」。
往年のノーチラスやロイヤルオークを彷彿とさせるデザイン性に加え、リーブナブルな価格で販売されていることから、2016年に復刻されて以来右肩上がりに評価を高めています。
さて、そんなロレアートですが、一体誰がデザインしたモデルかご存知でしょうか?
多くの方は天才時計デザイナー「ジェラルド・ジェンタ」氏がデザインしたモデルだと思われていますが、実は違います。
目次
ジェンタデザインではないのか?
現行デザインのロレアートは2016年に誕生したモデルですが、オリジナルモデルは1975年に発表されています。
「八角形と円を組み合わせた重層構造のベゼル」そして「ケースからブレスレットまで一体感のある作り」。
このデザインは時計好きであれば誰もが知るジェラルド・ジェンタ氏が手掛けたオーデマピゲ ロイヤルオーク、パテックフィリップ ノーチラスに非常に似ており、発売当初からロレアートもジェンタがデザインしたモノではないか?と噂されました。
左:ロレアート 右:ロイヤルオーク
1972年に誕生したロイヤルオークと1975年に誕生したロレアート。
どちらも現代のニーズに合うようアレンジが加えられていますが、基本的なデザインは当時のままです。
写真をご覧いただければ、お分かりいただける通り、とにかくこの2つのモデルは似ています。
同じデザイナーがデザインしたモデルと言われれば、間違いなく信じてしまうでしょう。
左:ロレアート 右:ノーチラス
こちらは1975年誕生のロレアートと1976年誕生のノーチラス。どちらかといえばロイヤルオークの方が似ていますが、ノーチラスとも似ているといえるでしょう。
ロイヤルオークとロレアートを元に、ジェンタ氏がノーチラスをデザインした。
当時の時計ファンや時計関係者がこう考えるのも自然です。
デザインが似ている上に、各モデルが誕生した時期もほぼ同時期。
あまりにも共通点が多いため、ロレアートが復刻を果たした今現在においても「ジェンタ氏がデザインしたモデル」であると時計ファンのみならず、時計業界人も信じている人が大勢います。
しかしながら、ロイヤルオークとノーチラスはジェンタ氏のデザインだとメーカーから公表されていますが、実はロレアートだけはジェンタ氏のデザインであると公表されていません。
つまり、ロレアートのデザイナーが誰であるかは謎に包まれています。
スイス時計業界 冬の時代に生まれたデザイン
ロイヤルオーク、ノーチラス、ロレアート。
これらのモデルが生まれた時代はクォーツ時計の台頭により、スイス時計業界が冬の時代を迎えていた時期です。
この時期のスイス時計界では「今までにない斬新な時計」を開発し、クォーツ時計との差別化を図る試みが多く行われていました。
特に各社が力を入れていたのはラグジュアリースポーツモデルと称される「薄型スポーツウォッチ」の開発です。
「ロイヤルオーク」「ノーチラス」「ロレアート」はどれも薄型設計であり、デザインも似ています。
ただ、これはジェンタデザインの個性というよりも、この年代にデザインされたスポーツウォッチの流行りであったといえるのではないでしょうか?
例えば、ヨルグ・イゼック氏がデザインを担当したヴァシュロンコンスタンタンのスポーツウォッチ「222」。
1977年に誕生したモデルであり、ロレアートやノーチラスと殆ど同時期にデザインされたモデルです。
ヴァシュロンコンスタンタン 222コレクション 44018/411
後にオーヴァーシーズの原型となる222ですが、このモデルもケースからブレスレットに至るまで一体構造で作られています。
ベゼルデザインこそジェンタデザインと異なる特徴を持ちますが、全体的な雰囲気はよく似ています。
この時代は各社がラグジュアリースポーツウォッチの開発に躍起になっていた時代なので、ジェンタ氏に近いデザインが製造されても何ら不思議ではありません。
実際圧倒的なカリスマ性を放っていたジェンタ氏のデザインをインスパイアしたモデルも数多く生まれたと言われており、初代ロレアートもその一つだったと思えばデザインが酷似していることも辻褄があいます。
結局のところ、ジラールペルゴがデザイナーを公表しない理由は、ジェンタ氏のデザインを真似したと推測されるのを嫌ったからではないでしょうか?
インスパイアしたモデルと知れ渡ると、どうしても本家ジェンタデザインよりも格下だと思われてしまうため、それを避けたかったのでしょう。
なお、これもまた噂の域をでませんが、ロレアートのデザイナーはイタリア人建築家「アドルフォ・ナタリーニ」氏が手がけたとも言われています。
アドルフォ・ナタリーニ氏も有名なデザイナーなので、デザインを真似したわけではないと思いますが、如何せん先に発表されたのがロイヤルオークであったため、インスパイア疑惑を避けるためにデザイナーを公表しなかったのかもしれません。
初代ロレアートは機械式ではなくクォーツ式
ロイヤルオークもノーチラスも発売当時は評価が上がらず、売れるまで苦しみましたが、現在はブランドの顔と呼ばれるほどに成長しました。
しかし、ロレアートに関しては発売後も評価は上がらず、ヒット作を出すことなく製造終了になっています。
なぜ当時のロレアートはヒットしなかったのか。
それは「クォーツ時計」として開発されたことが要因に挙げられます。
出典:https://www.girard-perregaux.com/ja/
当時のスイス時計産業はまだクォーツ時計を受け入れる体制が整っていませんでした。
そのため、似たデザインであってもクォーツ時計であるロレアートはロイヤルオーク・ノーチラスに出遅れてしまった感が否めません。
また、当時のジェラルドジェンタ氏は機械式時計を如何に薄く設計し、防水性を保つかに焦点を置いて時計のデザインを行っていました。
ロイヤルオークとノーチラスはその集大成であり、彼の知識と拘りが詰まっています。
そんなジェラルドジェンタ氏がわざわざクォーツ時計のデザインに携わるでしょうか?
これらの背景を掘り下げてみると、やはりデザイナーは彼でないことが想像できます。
結論
ジラールペルゴ ロレアートのデザイナーは誰なのか?
この問いに対する回答は、分からないと答えるしかありません。
未だにジェラルドジェンタ氏がデザインしたという説も残っていますが、「ジラールペルゴ本社に存在する資料を紐解いてもジェラルドジェンタ氏が関与した記述は一切残っていなかった」というコメントが正規店から公表されています。
そうなると有力なのは、ジェラルドジェンタ氏のデザインをデザイナーがインスパイアした説であり、デザイナーの名誉を守る為にメーカーがデザイナーの公表を避けていると考えられるでしょう。
当記事の監修者
南 幸太朗(みなみ こうたろう)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 買取部門 営業企画部 MD課/買取サロン プロスタッフ
学生時代に腕時計の魅力に惹かれ、大学を卒業後にGINZA RASINへ入社。店舗での販売、仕入れの経験を経て2016年3月より銀座本店 店長へ就任。その後、銀座ナイン店 店長を兼務。現在は営業企画部 MD課 プロスタッフとして、バイヤー、プライシングを務める。得意なブランドはパテックフィリップやオーデマピゲ。時計業界歴13年。