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人気高級ブランドの懐中時計(ポケットウォッチ) おすすめ6選~アンティークから現代の銘品まで~
最終更新日:
古い映画のワンシーンやセピア色の写真などで目にする懐中時計。
英語でポケットウォッチと呼ばれるように、ジャケットやスラックスのポケットからさっと取り出す様は、腕時計とはまた違った魅力を感じますね。
この懐中時計、時代遅れなどと思うなかれ。
腕時計ほどのメインストリームではないものの、懐中時計のアンティークらしさは残しつつ、確実に実用面でも進化を遂げてきた逸品です。
さらに近年では、ファッション業界全体がクラシックに流れていることから、その魅力が見直されていることも事実。贈答品として選ばれる方もいらっしゃいます。
この記事ではそんな懐中時計の魅力を語るとともに、現在当店で人気がある高級ブランドの、おすすめ懐中時計を6個厳選してご紹介いたします!
出典:https://www.patek.com/en/home
目次
懐中時計(ポケットウォッチ)を楽しむためには様々な種類を知ろう!
小型で携帯に適した時計の歩みは、懐中時計に始まります。
黎明は17世紀頃。ちなみに女性が装飾品として時計を腕に巻き始めたのが19世紀後半。そして世界初の本格的なメンズ腕時計として「サントス」がカルティエから生み出されたのが20世紀初頭であることを鑑みると、小型時計としてきわめて長い歴史を有することがわかりますね。
日本には19世紀に入り、世界と広く貿易が始まったことで輸入が開始されました。
そんな懐中時計、実は蓋の有無や駆動方式によって種類があります。
この種類を知ることで、ますます「自分だけの懐中時計」を楽しめること請け負いです!
それぞれを解説いたします。
種類①蓋の有無
「懐中時計」と聞いた時、だいたいの方がラウンドケースにチェーンのついた形状を思い浮かべるかもしれません。
12時位置(または3時や6時)にリューズとフックがついており、そこにチェーンを通して衣服から容易に離れないようにした仕様ですね。
しかしながら、蓋の有無によってかなり印象が変わってきます。
最もスタンダードなものは、蓋のないオープンフェイスです。
さっと取り出してすぐに時刻を確認できるタイプになりますね。現代の腕時計の、顔だけのような印象となります。
一方で蓋がついたタイプの懐中時計をハンターケースと呼びます。
風防(ガラス)を保護するための蓋で、ヒンヂ式(蝶番のこと)に開閉して時刻確認したり、再びポケットにしまったりする仕様です。ちなみにリューズが開閉を兼ねることが多いです。
この蓋は文字盤側・ケースバック側両方に取り付けられ、時計を挟むようにしたタイプも存在しますが、上蓋のみが一般的と言えるでしょう。蓋はケースと同一素材であることがほとんどです。
ちなみになぜ「ハンター」かと言うと諸説ありますが、イギリスでhunterは狩猟馬を指し、狩猟中(多くの場合、貴族たちの娯楽としての狩猟であった)に落馬や乗馬の際に加わった衝撃で風防が破損してしまうことを避ける目的で採用された仕様であるためです。
フランス語圏では石鹸(savon:仏)に似ていることから、サボネットと呼ばれたりもします。
なお、冒頭でもご紹介したように、懐中時計もまた腕時計同様に実用面が考慮されており、例えばオープンフェイスではサファイアクリスタルガラスを風防に採用することで、各段に傷つきづらく衝撃にも強くなってまいりました。そのため風防保護には必ずしもハンターケースである必要はありません。
しかしながらハンターケースが廃れたかと言うとそうではなく、今ではデザインアクセントとして幅広く用いられております。
蓋に見事なエングレービングやプリントがなされているものもあり、見た目にも楽しい逸品となっております。
ナポレオンあるいはハーフハンターやデミハンターと呼ばれるものも。
これはハンターケースの真ん中がスケルトナイズされた仕様で、ガラス張りの場合も肉抜きの場合もあります。
つまり、蓋を開けずして時刻の視認が可能、ということです。
ちなみに何故こちらの愛称がナポレオンかと言うと、かの有名なナポレオン・ボナパルト氏(ナポレオン1世)が、蓋の開閉に時間を取られたくないという思いから開発したとか、オーダーメイドのハーフハンター仕様の懐中時計を使っていたとか、言われています。
さらに、蓋とはちょっと異なりますが、文字盤部分やケースバック部分をシースルーにして内部機構を魅せる仕様も流行りの一つ。
近年、腕時計のトレンドの一つにもなっており、メカ好きにはたまりませんね。
懐中時計はその用途から手巻き式がほとんどです。なぜならアンティークが出回っているから。というのに加えて、腕時計と違って使用中に動かすことはあまりないので、自動巻きである必要性は低いためです(もちろん自動巻き式もブランドによってはラインナップされていますが、そう多くはありません)。
すなわち、機械を思う存分楽しめる度合いが高い、ということ!
自動巻きはローターの力でゼンマイの巻き上げを行っているため、どうしても内部機構が隠れがち。
ローターを持たない懐中時計は、より純粋に機械を楽しめる。そこに目をつけてスケルトン仕様が流行しているのです。
なお、かつては高級機に採用されていた仕様ですが、近年風防と同様にサファイアクリスタルガラスの加工技術が進化するにつれ、リーズナブルなモデルでも楽しめるようになりました。
種類②駆動方式(ムーブメント)
先程ちらっと触れましたが、腕時計同様、懐中時計もまた二種類の駆動方式に大別することができます。
まず、昔ながらの機械式時計。
出典:https://monochrome-watches.com/
「ちょっと良い懐中時計を買おうかな」と思った時の選択肢は、多くの場合こちらとなります。
なお、前述したように、スケルトナイズされた文字盤やケースバックから機械を鑑賞できるのもまた機械式ならではと言えるでしょう。
ゼンマイのほどける力を駆動方式としており、また手巻き式であることがほとんどですので、リューズを使って都度ゼンマイを巻く必要があります。
巻く頻度はアンティークなどだと毎日の場合もありますが、近年ではロングパワーリザーブを誇るムーブメントも出回りつつありますので、数日に一回巻けば事足りる製品もあります。
面倒に思うかもしれませんが、この「巻く」という行為こそが機械式ならではの魅力でもあります。
リューズを回すと独特の感触と音を楽しむことができるうえ、定期的にその楽しみに触れることで不具合や故障を見つけやすくなるメリットにも繋がります。
また、構造上メンテナンスさえ行えば末永く使えるのも機械式ならでは。
そのため何十年の前のアンティークと呼ばれる個体も出回っており、ヴィンテージ好きに懐中時計が愛される一つの要素となっております。
出典:https://citizen.jp/news/2018/20180322_9.html
また、現代の腕時計同様、クォーツ式も存在します。高級機には少ないかもしれません。
むしろ、安価に気軽に懐中時計を楽しもうと思った場合、クォーツ式を選択肢に入れる方は多いのではないでしょうか。
クォーツ式の駆動力は電池式で、機械式のように複雑な構造を持たないことから製造にコストがかからず、比較的リーズナブルに販売されている機構となります。
クォーツと言うのは水晶振動子を指し、電圧印加することによって高速振動⇒その振動を備え付けの発振回路が1秒間に1回伝送されるパルス信号に変換⇒秒針として刻まれる、という構造を採っているため、機械式時計に比べて高い精度を誇ります。
さらにクォーツ式懐中時計の中にはソーラー電波を搭載したハイテクな懐中時計も!シチズンやセイコーなどが得意とする手法となります。
従来のクォーツ式時計はボタン電池を駆動力としていたため、定期的な電池交換が必要でした。しかしながらソーラー電波は太陽光などの光源によって蓄電することで、理論上は半永久的に繰り返し使い続けることが可能となります。さらに電波時計としても使えるため、標準電波を受信することできわめて正確な時刻表示を可能としています(もっとも、ポケットに入れている間は太陽光や電波を受け取りづらい環境となりますが・・・)。
一方で電子回路を搭載しているため、この回路に寿命が来てしまうと使い続けることはできません。
しかしながら電池交換を行えば、長年使えるモデルが多く、使い捨てとまでは言えません。
種類③サイズ
腕時計と同様に、懐中時計にもケースサイズに種類があります。
45mm前後~50mm前後が最もスタンダードで、無理なくスーツのポケットに入れられるのではないでしょうか。
また、55mm以上のサイズだと結構大型。通常の腕時計サイズの一回り以上といったサイズ感となります。かつ金無垢製とあれば、かなりずっしりと重め。
ただ、こういった大型の懐中時計は豪華な装飾がエングレービングされていたり、置時計などとして使っても見やすかったりと、根強い人気のあるサイズとなります。
一方で女性でも持ち運びしやすい35mm前後のサイズなどもラインナップされています。
Column:懐中時計の着用方法とチェーン選び
懐中時計をそのままポケットにインすることもできますが、チェーンを付属し、ジャケットやスウェットの一部に引っ掛けて使うのが正統派!
あえて外側から懐中時計の存在をアピールすることもできますし、うっかりポケットから落ちてしまったとしても、地面への落下を防ぐことができるものです。
とは言えあまり使い慣れず、どうやって着けていいかわからないと思う方も多いのではありませんか?でも、覚えてしまえば簡単です!
また、色々なチェーンを選ぶことは腕時計のベルトをカスタマイズするのと同様、日替わりでデザインを楽しむことに繋がりますよ!
まずは、金具のタイプを知りましょう。
金具は懐中時計に引っ掛ける側・衣服に引っ掛ける側があり、懐中時計側はほとんどが輪っかやフックとなっていますが、衣服側に種類があります。
昔ながらのチェーンであれば、衣服側の金具はピンタイプとOリングタイプが存在します。
ピンタイプ(画像出典:https://www.dalvey.com/blog/the-albert-pocket-watch-chain/)
Oタイプ
また、最近だとクリップタイプやナスカンタイプなどもよく用いられております。
クリップタイプ
Oリングとナスカンは、着けたい場所のループやボタンホール、ベルト通しなどにひっかけて使います。
リング部分(あるいはナスカン部分)をチェーン自体に通して長さ調節することもできます。
ピンタイプの方はバーとも呼ばれ、棒のような留め金が付属したチェーン形式となります。
アンティークな雰囲気はもちろんのこと、高級感たっぷり。ハイソな印象を大切にしたい方にお勧めです。一方で年々このタイプは少なくなっていっており、現行品ではラインナップしていないブランドもあります。
ピンタイプはほとんどのものがジャケットやベストなどのボタンホールに棒を引っ掛けて使用します。
ちなみにピンがボタンやブローチ仕様になっているものもあり、同様にひっかけて使うのですが、ワンポイントのアクセントが欲しいという方にお勧めです。
クリップタイプはポケットやベルト部分に直接引っ掛けて使用します。
ただ、あまりにも厚みのあるベルトなどに引っ掛けるとクリップが歪んでしまったり破損してしまったりするので、気をつけましょう。
これらはあくまで一般的な着け方であり、人によってはラペルホールに通したり、内ポケットのループに引っ掛けたりしてもオシャレです。
なお、着けたい場所によっては、チェーンの長さも考慮しなくてはなりません。
また、前述の通りチェーンを日替わりにしたり、チャームが付いたりしているものを使って楽しむ方も少なくありません。特にチェーンは太さや長さ、デザインに素材などが多彩。
ダブルチェーンと呼ばれる二股仕様になっているものもあり、ちょっとオシャレ難易度が高くなりますが、こちらは両側をベストなどの箱ポケットに二つのチェーンを通し、かつボタンホールをピンで留めるとこでセンターから非常に目立たせることができる手法となっております。
出典:https://www.gentlemansgazette.com/pocket-watch-primer/
ちなみに余談ですが、ジーンズやスウェットに「コインポケット」と呼ばれる小さな、本当にコインくらいしか入れられないポケットが付いていますね。
これはかつてはウォッチポケットと呼ばれ、懐中時計を入れるために作られたものでした。
懐中時計もまた大型化していますので、現在では通常のポケットに入れることが一般的にはなりますが、紳士のファッションにはいつも懐中時計が傍にあったことがわかりますね。
それでは次項より、人気高級時計ブランドの、おすすめ懐中時計をご紹介いたします!
人気高級ブランドのおすすめ懐中時計①パテックフィリップ
パテックフィリップは、世界で最も権威あるブランドです。
オーデマピゲ,ヴァシュロンコンスタンタンとともに世界三大時計ブランドに名を連ねますが、その中でも頭一つ飛び抜けているような存在となります。
そんなハイメゾンですから当然歴史も古く、創業は1839年。まさに懐中時計の黄金期の一端を担ったブランドと言っていいでしょう。
さらに、今なお現行モデルに懐中時計を加える稀有なブランドでもあり、同社自身が「稀少なタイムピースの愛好家、コレクターから熱狂的に追い求められている」と自負します。
そのため時計専門店のスタッフとしては、おすすめ懐中時計を挙げるのに、何はともあれパテックフィリップ推しとなってしまうものです。
出典:https://www.patek.com/en/home
基本的なデザインはシンプルですが、インデックスや文字盤仕上げがとにかく上品。
特にラッカー仕上げは見事と言う他ありません。
高級楽器や家具にも使われる装飾技法で、揮発を繰り返すと硬化するラッカー塗装の特性を活かします。どういうことかと言うと、ラッカー塗装を文字盤に薄く均一に何度も吹き付けることで硬質で耐久性の高い文字盤を獲得するのです。
ちなみにただ耐久性能が向上するだけでなく、磨きを加えて上質な光沢感をも醸し出すのがラッカー仕上げの魅力の一つ。ただ、この「薄く均一に何度も」の具合が難しく、製造できるブランドは限られていたり、製造できても量産が難しくて特別モデルにのみ採用するといったブランドは少なくありません。
そのため、レギュラーモデルでラッカー仕上げの懐中時計をラインナップし続けるパテックフィリップの底力というのは、計り知れないものがあることがわかりますね。
もっとも、パテックフィリップは懐中時計にしろ腕時計にしろ、非常に製造に手間暇かかっているため、年間製造本数自体がきわめて少ないという事実はありますが・・・
また、パテックフィリップをお勧めする理由の一つに、ムーブメントの存在は欠かせません。
パテックフィリップがなぜ数ある時計メーカーの中で頂点に立っているか。
その理由は一言では語れませんが、やはりムーブメント製造力とうのは小さくないでしょう。
ある時計メーカーのムーブメントを褒める時、性能が良いとか、信頼性が高いとかがありますが、もちろんパテックフィリップはその点も難なくカバーしております。
加えてパテックフィリップの見事さは、ムーブメントにも丁寧かつ高度な装飾を施していることにあります。
ムーブメントの受けや地板などにペルラージュ装飾を施すことで、遠目に見ても美しい機械を作り上げており、かつアンティークの懐中時計であってもハンターケースを用いることでそれを鑑賞可能にしていることがパテックフィリップらしいと言えますね。
余談ですがパテックフィリップシールと呼ばれる独自のきわめて厳格な製品規格があるのですが、懐中時計・腕時計ともに現行品は同シールの認定機となります。
ちなみに数ある時計の工業規格の中でも非常に厳しく、限られた個体しか認定しないジュネーブシール(そもそもスイス ジュネーブで製造されていないといけませんが)については、パテックフィリップは無条件で認定機となっており、それをさらに上回るのがパテックフィリップシールということになります。
出典:https://www.patek.com/en/home
なお、パテックフィリップは前述の通り非常に長い歴史を持っているため、アンティークと呼ばれる年代のものでも比較的市場に出回っているのが嬉しいところ。中には20世紀初頭の個体も取引されています。
パテックフィリップクラスになると年式を経ても日常使いできることがほとんどであり、現行品よりも価格は抑えられるケースが多いので、初めて懐中時計を所有するという方にも自信を持っておすすめできます。
パテックフィリップ オープンフェイスポケットウォッチ
ケースサイズ:直径48mm
素材:イエローゴールド
駆動方式:手巻き
形状:オープンフェイス
文字盤側はオープンフェイス、裏蓋側がハンターケースとなっており、ムーブメントが鑑賞できる仕様となっている懐中時計です。
さらに、現行品には使われていない「ルイ15世ハンド(針)」がミソ。アンティークの手鏡やジュエリーなどにも用いられるデザインで、当時の華やかなアール・ヌーヴォを感じさせますね。
アンティークの良いところは、こういった今はないデザインや仕様を思う存分楽しめるところにありますね。
画像では布製の紐が付属していますが、アンティーク感満載のピンチェーンやダブルチェーンをつけても味わい深いでしょう。
1901年製造の個体です。
パテックフィリップ ポケットウォッチ 973J
ケースサイズ:直径44mm
素材:イエローゴールド
駆動方式:手巻き
形状:オープンフェイス
こちらは、ブレゲ数字とブレゲ針がとても上品な逸品です。
パテックフィリップの現行品の懐中時計やカラトラバなどでも見られるデザインで、同社にとっては長年の大切なコードであることがおわかり頂けるでしょう。
裏蓋はソリッドとなっておりムーブメント鑑賞はできませんが、美しい名機が収められていることに間違いはありません。
パテックフィリップ ポケットウォッチ 600/2J
ケースサイズ:直径42mm
素材:イエローゴールド
駆動方式:手巻き
形状:オープンフェイス
バーインデックス×ドーフィンハンドと、やはりカラトラバなどでも用いられている、パテックフィリップらしい文字盤仕様を持った逸品です。
42mmと小ぶりなため、女性の方でもお楽しみ頂けるでしょう。
こちらもオープンフェイスとなっており、蓋の開閉をせずにすぐに時刻を確認することが可能となっております。
人気高級ブランドのおすすめ懐中時計②IWC(インターナショナル・ウォッチ・カンパニー)
IWCはパテックフィリップ同様にスイスの老舗時計メーカーとなりますが、ドイツにほど近いシャフハウゼンで発展したブランドであることが特徴です(ジュネーブなど、普通スイスの時計聖地はフランスより)。
ちなみになぜブランド名がドイツ語でもフランス語でもないかと言うと、創業者がアメリカ人のフロレンタイン・アリオスト・ジョーンズ氏であったため。
そのため質実剛健な側面とアメリカ近代工業の合理主義的側面が融合しており、長年良い時計を堅実に作り続けてきたことで名を馳せているメーカーでもあります。
その心は、「見やすく」「正しく」「長持ちする」。
その証拠に、ポルトギーゼ,パイロットウォッチ,ポートフィノ,アクアタイマーなど多彩ななラインナップは、いずれも時計にうるさい愛好家たちを魅了してきました。
このIWC、実は2018年に創立150周年を迎えたのですが、記念モデルとしてある歴史的な懐中時計のリバイバルを行いました。
それは1884年。IWCが「パルウェーバー」なる懐中時計を世に送り出しましたが、これは世界初となるデジタル表示機構を有した製品です。回転ディスクにプリントされた大型の数字が切り替わることでデジタル表示を行うという当時としては奇抜とも言える機構。今でこそデジタル表示はそこかしこで見かけますが、それは電子回路あってこそ。当時は、金属パーツを組み立てた機械式ムーブメントでそれを実現していたのだから、驚きを禁じえませんね。
出典:https://www.iwc.com/ja/home.html
このリバイバルこそ腕時計で行われましたが、そんなIWCが歴史的に名作と呼ばれる懐中時計を作っていたことは間違いないでしょう。
もちろんムーブメント製造にも一家言持っており―持ちすぎる側面があると言っていいかもしれませんが―、早い段階からムーブメントの性能向上に尽力してきました。
例えばIWCは今のように「デカ厚」が流行る以前から比較的大きいサイズの時計を製造していたのですが、これはムーブメントの耐久性やパワーリザーブを考慮してこそ。どうしても小径薄型の機械は衝撃や振動に弱くなってしまうものです。そこでIWCでは、頑丈なムーブメントを使った比較的大振りの時計(ポルトギーゼが最も代表的ではないでしょうか)を製造しつつ、文字盤デザインや針、インデックスを徹底的に美しくすることで「上品さ」をも訴求し、大人メンズに愛される銘品を世に送り出し続けてきました。
出典:https://www.iwc.com/ja/home.html
こういった背景があるためか、懐中時計も比較的大きめの製品が多くなります。
しかしながらそれで野暮ったさがあるかというと全くそのようなことはなく、前述の通り細部にまでスイスメイドの時計らしい気遣いを見せており、むしろ上品。製造当時、貴族などのセレブリティから慕われてきたことがおわかり頂けるでしょう。
もう一点、IWCの懐中時計をお勧めする理由。
それは、IWCもまた高級時計ブランドとなるのですが、性能が良くデザイン性が評価されているにもかかわらず、比較的手に届きやすい価格帯で流通している、ということ。
現在は懐中時計は製造しておりませんので主にアンティーク市場からお探し頂くこととなりますが、他社と違って金無垢のみならずステンレススティール製懐中時計も製造しており、コンディションにもよりますが10万円台~購入できるものも。IWCの現在の価格帯は平均すると大体50万円台~ですので、かなりお得にIWCを楽しめると言えるでしょう。
もちろんこれまたパテックフィリップ同様、もともとの性能が良いため、メンテナンスを行えば末永く愛用していけるものがほとんどです。
IWC ポケットウォッチ Cal.9520
ケースサイズ:直径45mm
素材:ステンレススティール
駆動方式:手巻き
形状:オープンフェイス
ローマンインデックスにブレゲ針と、現行IWCにはない雰囲気の懐中時計です。
現行品はどちらかと言うとモダンな印象のデザインが多いのですが、古き良き時代のドレスウォッチを思わせますね。
なお、Cal.9520というのは、IWCの懐中時計に搭載されるムーブメントの金字塔とも呼ばれる一つです。
パーツが18金で製造されており、シースルーバックから鑑賞して楽しい逸品でもあります。
セパレートのプレートで機械を支えているため、衝撃や振動に比較的強いのも嬉しいですね。
一方でステンレススティール製であるため、高級ブランドのアンティーク懐中時計の中ではリーズナブルにご購入頂けますので、これまた初めて懐中時計に挑戦する方にもお勧めです。
IWC ポケットウォッチ
ケースサイズ:直径51mm
素材:イエローゴールド(K14)
駆動方式:手巻き
形状:オープンフェイス
1930年頃に製造された、きわめて稀少なIWCの懐中時計です。
前述の通り、現行のIWCはモダン・デザインが多いため、こういったアンティーク基調の逸品はなかなか今では味わえないと言っていいでしょう。
ケースサイドにはコインエッジ、文字盤外周や裏蓋には丁寧なエングレービングが施されており、まるで工芸品のような様相ですね。
なお、こちらは裏蓋側がハンター式となっており、ムーブメントを鑑賞することが可能です。
人気高級ブランドのおすすめ懐中時計③オメガ
今でこそオメガは月面着陸したスピードマスター、映画『007』の劇中でジェームズ・ボンドの腕元を彩るシーマスター,さらにオリンピックの公式計時として数々のスペシャルエディションなど、話題性に富んだ時計を世に放ち続けるブランド、といったイメージがあるかもしれません。
実際、オメガほど華麗なストーリーを有しているブランドというのも、そう多くはありません。
しかしながらオメガもまた歴史的に連綿と良い時計を作り続けてきた、屈指の老舗メーカーです。
当然ながら懐中時計の黄金時代を支えた一社であり、早い段階から信頼性の高い製品(とりわけムーブメント)で名を馳せていきました。
出典:https://www.omegawatches.jp/ja/chronicle/1901
そんなオメガの懐中時計は1900年代~の個体が出回りますが、実は1970年代、腕時計が世界を既に席捲していた時代に作られたものも比較的流通しています。
この当時、オメガはスピードマスターの派生モデルなど、デザイン的にもシリーズ的にも挑戦の時代を経ていました。クォーツショックに対抗しての動きと思われますが、かといって歴史をないがしろにせず、コストをかけて懐中時計を作り続けていたことにオメガの理念のようなものを感じますね。
ただ、やはり懐中時計ラインになると、その時代時代に合わせたアンティークな印象のデザインが多くなります。これが懐中時計が通好みと言われる所以かもしれません。
ファンシーダイアルや陶器製ダイアルなど、高級感溢れる、それでいて今のオメガにはない風合いを楽しめるでしょう。
出典:https://www.omegawatches.jp/ja/chronicle/1901
一方で「オメガらしさ」として、比較的リーズナブルな点も挙げておきます。
と言うのも、金無垢製の個体ももちろんリリースされた背景がありますが、ゴールドプレート(金メッキ)や銀製なども少なくないこと。さらに古くから優れた生産ラインを獲得することで大量生産を可能にしていたことから、コスパ抜群の懐中時計を実現しているのです。
「懐中時計と言ったらアンティーク」
「でも、アンティークは高額商品が多いかも・・・」
そんな風に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、オメガであればこういった背景から、初心者も入りやすい懐中時計としてお勧めです。
オメガ デビル ポケットウォッチ 131.1746
ケースサイズ:直径44mm
素材:ゴールドプレート
駆動方式:手巻き
形状:オープンフェイス
1974年頃に製造されたと思われる、オメガの懐中時計です。
ゴールドプレートケースのため、ゴージャスな印象の一方でリーズナブルなのが嬉しいところ。
ちなみに「デ・ビル」は現行オメガの一シリーズでもあります。1960年からシーマスターの派生モデルとして始まりました。
これは「都会」という意味で、「時代の最先端をいく」ことを目的に、洗練されたデザインコードを基調としたドレスウォッチをリリースしていることが特徴です。
そんなシリーズ・コンセプトの通り、アプライドされたバーや一面ゴールドカラーの外観は、とてもオシャレな懐中時計に仕上がっております。
また、チェーンもオメガの純正仕様で、オメガマークがクリップについているのがファンにはたまりませんね。
44mmとスタンダードなサイズ感ですので、万人にお楽しみ頂ける一つではないでしょうか。
人気高級ブランドのおすすめ懐中時計④ヴァシュロンコンスタンタン
ヴァシュロンコンスタンタンは前述したパテックフィリップと並んで世界三大時計ブランドに数え上げられる、名門中の名門です。
創業は1755年。2020年で265周年を迎えることとなり、「一度も途切れることなく経営が続いてきた時計メーカー」としては、世界最古となることも特徴です。
ヴァシュロンコンスタンタンが時計業界に与えた功績は数知れず。
例えば鉄道のひし形集電装置でおなじみのパンタグラフ。これはヴァシュロンコンスタンタンが発明し、時計の工作機械として導入した歴史があります。また、1790年という非常に早い段階で(まだパテックフィリップも創業していなかった!)コンプリケーション(複雑機構)の製造を成功させており、時計業界に与えた影響は決して少なくありません。
出典:https://www.vacheron-constantin.com/jp/manufacture/heritage.html
繰り返しになりますが懐中時計は、腕時計以前に小型携帯ウォッチの主流です。
そのため歴史ある時計メーカーは、その時代の懐中時計の立役者として存在していたことは間違いありません。
また、この頃の顧客というのは王族や貴族などのセレブリティばかりであったことから、美しく、荘厳で、信頼性が高いという、「セレブたちのお眼鏡にかなう」ことが大前提でした。
つまり、大「懐中時計」時代から活躍してきた時計メーカーというのは、技術力や審美性が歴史的に約束されたブランドということをも意味するでしょう。
そんなヴァシュロンコンスタンタンは、当時から、そして今なお世界トップクラスのうちのブランド。今なお極上と言っていいアンティーク個体が市場で根強い人気を誇っています。ちなみに1800年代ときわめて古いモデルも・・・!
出典:https://monochrome-watches.com/vacheron-constantin/
また、現行品では懐中時計はラインナップしていませんが、スペシャルエディションとしてローンチされることもあり、ブランドの「箔」にもなっています。
とりわけ2015年に数量限定で打ち出した「史上最も複雑」な懐中時計(上の画像)は、3名の時計職人が約8年に渡って開発を手掛けたまさに傑作。2800ものパーツで組み上げられた同製品はきわめて美しくも超複雑で、ほとんどの時計メディアが大々的に報じたものです。
このようにヴァシュロンコンスタンタンは世界最古にして今なお最先端の懐中時計をも製造する実力を持っており、これまた懐中時計ネタには欠かせない存在と言っていいでしょう。
ヴァシュロンコンスタンタン ポケットウォッチ 4348
ケースサイズ:直径44mm
素材:アルミニウム
駆動方式:手巻き
形状:オープンフェイス
アルミ製のため、軽量で経年に強い仕様の懐中時計です。
1970年頃製造されたと思われます。
オープンフェイスの文字盤からは上品なブレゲ数字、ブレゲ針を目にすることができ、懐中時計の良さ存分に楽しめますね。
44mmと小径ケースですがスッキリとシンプルなため、視認性は保たれます。
なお、搭載するムーブメントは手巻きCal.439/8もまた、懐中時計に搭載される名機として語られています。
人気高級ブランドのおすすめ懐中時計⑤ティファニー
え、ティファニーが懐中時計?ジュエリーブランドじゃないの?
そんな風に思う方もいらっしゃるかもしれませんが、実はティファニーは19世紀より時計製造に着手していた稀有なジュエラーです。
もっとも、もともとジュエリー製造と時計製造は親和性が高く、かつスターリングシルバーを確立したり、カラーダイヤモンドをジュエリーとして登用したり(当時は透明なダイヤモンドが重宝されており、特に価値が低いとされていたイエローダイヤをジュエリーとして昇華した功績は小さくない)、前衛的な側面のあったティファニーというブランドを鑑みれば、なんら不思議ではないかもしれませんね。
そんなティファニーは、1840年代からパテックフィリップに製品供給を受けてきました。
そのため、実はパテックフィリップのアンティーク時計の中に、ティファニーとのWネームが存在します。ちなみにロレックスとのWネームも超稀少ですがあります。
さらに言うとティファニーが1870年代に時計製造から撤退した折に、所有していた工房を売却したのもパテックフィリップでした。
こういった背景から、懐中時計市場にもティファニーは存在感を発揮しています。
特に1900年代前半で状態の良いものが多く、またIWCやロンジンなどといった時計メーカーの高性能ムーブメントを使いつつも、外観はティファニーらしいデザインが生き生きとしている・・・そんな懐中時計の逸品が少なくありません。
なお、ティファニーは現在では時計製造を手掛けていますが、懐中時計はリリースしていません。
そのためやはりアンティーク市場からお探し頂くこととなりますが、その当時の瀟洒でエレガントなデザインウォッチを楽しむことができるでしょう。
ティファニー ポケットウォッチ Cal.77
ケースサイズ:直径45mm
素材:イエローゴールド
駆動方式:手巻き
形状:オープンフェイス
ティファニーらしいエレガントなアプライドインデックスに、サークルインデックス、そして特徴的な時分針が美しい逸品です。
この文字盤はよくよく見ると非常に作り込まれており、ティファニーの職人魂を感じられる逸品でもあります。
搭載するムーブメントはIWCから供給された手巻きのCal.77です。
これは、累計10,500個のみ製造されたレアな機械となっております。
また、ケースはIWCのハイエンド懐中時計に用いられるクレスアロー社製の金無垢。
歪みのない美しいケースは、時代を超えて愛され続けていることを物語ります。
人気高級ブランドのおすすめ懐中時計⑥ロンジン
ロンジンの懐中時計と日本人の関係性は密接です。
なぜなら日本に懐中時計が輸入された黎明期、薩摩藩主の島津忠義の手にその一つが渡りますが、それがロンジンでした。
金無垢製の、非常に瀟洒な懐中時計で、その後西郷隆盛に贈られたと言います。
そんなロンジンは1832年、スイスのサンティミエで生まれた時計ブランドです。
その懐中時計製造の腕前は欧州はおろか、海を越えてアメリカにまで知れ渡っており、大航海時代において船乗りたちにも重宝されていました。
さらに時代を下ると歴代の万国博覧会で数々のグランプリを受賞しており、最も受賞数の多いブランドとしても名を馳せています。
出典:https://www.longines.com/search/pocket%20watch
こういった背景からロンジンもまた、高性能の懐中時計を製造し続けてきたブランドです。
やはり現行品にはありませんのでアンティーク市場からお探し頂くこととなりますが、ロンジンのアンティークの多くに言えるのが、ケースも文字盤もムーブメントも比較的コンディションの良いものが出回っている、ということ。
もちろんオーナーの使い方にもよりますので絶対とは言えませんが、ロンジンは前述のようにもともと高性能製品で名を馳せてきた歴史があるため、「一生もの」であることが前提なのです。つまり、親から子へ、さらにその孫へ・・・世代を超えても色褪せない、普遍的なスペックとデザイン性を有します。
出典:https://www.instagram.com/longines/
なお、ロンジンは華麗な歴史を持っているにもかかわらず、優れたコストパフォーマンスを発揮していることも特徴の一つ。
アンティーク市場でも価格帯は落ち着いている個体が多いので、初めて懐中度駅やアンティークに挑戦する、という方は、ぜひロンジンも視野に入れてみてくださいね。
まとめ
懐中時計の種類や魅力をご紹介するとともに、人気の高級時計ブランドが手掛けてきたお勧め品をご紹介しました!
多くがアンティーク市場からお探し頂くこととなりますが、現役でラインナップしているブランドもあります。また、今回は基本的に当店で取り扱いのあるブランドを中心にご紹介しましたが、オーデマピゲやシチズン、セイコーなど各社の魅力的な懐中時計も出回っていますので、ぜひチェックしてみてくださいね。
当記事の監修者
田所 孝允(たどころ たかまさ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 営業物流部長/p>
1979年生まれ 神奈川県出身
ヒコみづのジュエリーカレッジ ウォッチメーカーコース卒業後、かねてより興味のあったアンティークウォッチの世界へ進む。 接客販売や広報などを経験した後に店長を務める。GINZA RASIN入社後は仕入れ・買取・商品管理などの業務に従事する。 未だにアンティークウォッチの査定が来るとついついときめいてしまうのは、アンティーク好きの性分か。
時計業界歴18年。