腕時計を選ぶ際に重要なポイントの一つが防水性能です。
特に10気圧防水の時計は日常生活から軽い水上スポーツまで幅広く対応できるため、非常に実用的です。
本記事では、10気圧防水の意味とその特徴、日常での使い方やお手入れ方法について解説します。
さらに、10気圧防水の時計とダイバーズウォッチの違いや、防水性能が高いおすすめモデルも紹介します。
あなたのライフスタイルに合った時計選びの参考になれば幸いです。
目次
10気圧防水の意味
10気圧防水は、水深100mに時計を置いた場合、その水圧に耐えられることを意味します。
1気圧は水深10mの水圧に相当し、10気圧はその10倍の水深100mに相当します。
「10Bar」とも表記されることがあります。海外では「Water Resist 100m」と表記されることもありますが、これはダイバーズウォッチの「1種潜水」の100m防水とは異なります。
どちらも耐えられる水圧は同じ100mですが、潜水用のダイバーズウォッチとして認定されるには、耐水圧以外にもさまざまな評価項目をクリアする必要があります。
10気圧防水は日常生活での水濡れは可能
10気圧防水の腕時計は「日常生活用強化防水」と呼ばれ、日常生活での水濡れに問題がないとされています。
具体的には、洗顔や雨はもちろん、ヨットなどの水上スポーツや漁業、農業などの水仕事にも使用できます。
さらに、スキンダイビング(空気ボンベを使用しない潜水)にも耐えられる性能があります。
10気圧防水で耐えられないシーン
10気圧防水の時計は、スキューバダイビング(空気ボンベを使用する潜水)や飽和潜水(ヘリウムガスを使用する潜水)には適していません。
また、水泳は一般的に使用可能とされていますが、飛び込みなどで一時的に10気圧を超える水圧がかかると浸水のリスクがあります。
さらに、防水性能を保つパッキン(多くはゴム製)は高温に弱いため、温泉やお風呂での使用はお勧めできません。
高温によりパッキンが変形し、その隙間からお湯が侵入してしまう可能性があります。
また、温泉の成分がパッキンに悪影響を及ぼすことも考えられます。
加えて、化粧品類との接触もパッキンを劣化させる原因となるため、注意が必要です。
もし、水によって時計に不具合が起こった際は、すぐに乾燥やオーバーホールで対処しましょう。
10気圧防水は水深何メートルまで潜れる?
10気圧防水の時計は、水深100mまで潜ることができるわけではありません。
10気圧防水は、100mの水深に時計が突然置かれても浸水しないことを意味しています。
実際に100mの水深まで潜る場合、移動中に10気圧以上の水圧がかかる可能性があり、浸水のリスクがあります。
また、水深100mで微動だにしないことも現実的には難しいため、基本的に10気圧防水の時計は100mまで潜ることができないと考えられます。
10気圧防水と20気圧防水の違いは何?
どちらも「日常生活用強化防水」に分類されますが、10気圧防水は水深100m、20気圧防水は水深200mの圧力に耐えることができます。
これらはスキンダイビング(空気ボンベを使用しない潜水)に使用できますが、スキューバダイビング(空気ボンベを使用する潜水)や飽和潜水(ヘリウムガスを使用する潜水)には適していません。
5気圧防水や3気圧防水との違い
5気圧防水は「日常生活用強化防水」に分類され、ヨットなどの水上スポーツや漁業などで使用できるとされています。
一方、3気圧防水は「日常生活用防水」に分類され、日常で一時的にかかる水滴程度に耐えるとされています。
具体的には、洗顔や雨などが該当します。
ダイバーズウォッチと10気圧防水の時計の違いは?
ダイバーズウォッチは「日本産業規格」(JIS)の潜水に関わる試験項目をクリアしている腕時計のことです。(日本における解釈として)
国際的にダイバーズウォッチとして認定されるには、スイスに本部を置く非政府機関「国際標準化機構(ISO)」が定める「ISO規格」の潜水に関わる試験をクリアすることが条件です。
一方、10気圧防水の腕時計は10気圧の防水試験にはクリアしていますが、潜水に関わる試験項目はクリアしていません。
潜水に関わる試験内容は「日本産業規格」と「ISO規格」で大きな技術的差異はありません。試験内容には、タイムプリセレクティング装置(回転ベゼルに代表される時間測定装置)の有無、判読性、耐衝撃性、耐塩水性などが含まれます。
ダイバーズウォッチには、スキューバダイビング(空気ボンベを使用する潜水)まで対応する「空気潜水用防水」(100mから300m防水)と、ヘリウムガスを使用する飽和潜水に対応する「飽和潜水用防水」があります。
つまり、ダイバーズウォッチと10気圧防水の腕時計の両者の明確な違いは、耐混合ガス性試験をクリアしているかどうかです。
JIS規格では、裏蓋や文字盤に「Air Diver’s XXXm」と記載があれば「空気潜水用防水」、「He・GAS Diver’s XXXm」と記載があれば「飽和潜水用防水」を示しています(XXXには防水性に応じた数字が入ります)。
記載の文言にはいくつかの規格があり、言い回しが異なるものもあります。回転ベゼルがあっても上記の表記がない時計は、ダイバーズウォッチ風の腕時計である可能性があるため注意が必要です。
心配な場合は販売店で店員さんに確認することをお勧めします。
防水性能が高い時計おすすめモデル
ロレックス|ディープシーチャレンジ Ref.126067
画像引用:ROLEX公式HP
防水性の高さでは頂点ともいえる、11,000m/36,090フィート防水のヘリウム排出バルブ搭載モデルです。
このモデルは、ヘリウムガスを使用する飽和潜水に対応する「飽和潜水用防水」仕様です。
プロダイバーは、ヘリウム混合ガスで満たされた高圧室で深海と同じ圧力に加圧した状態で作業を行います。
この過程で腕時計にもヘリウムガスが侵入しますが、海上へ戻る際には徐々に減圧し、腕時計から速やかにヘリウムガスを排出しないと、時計内部に悪影響を及ぼし、風防ガラスが外れるなどの故障に繋がります。
そこで、ヘリウム排出バルブが内部の圧力が高まるとヘリウムを排出する機能を持つことが重要です。
一般生活では高圧室に入る機会はまずありませんが、このモデルの価値はその防水性能が冒険の歴史と密接に結びついている点にあります。
1960年、ジャック・ピカール(海洋学者)とドン・ウォルシュ(アメリカ海軍大尉)が水深10,916m(35,814フィート)に到達した際、ロレックスの「ディープシー スペシャル」が同行しました。
ピカールは帰還後に「ロレックスの腕時計は水深11,000mでも陸地同様に正確に動いていた」と報告し、ロレックスの技術力を証明しました。
その50年後の2012年、探検家で映画監督のジェームズ・キャメロンがマリアナ海溝に潜航し、水深10,908m(35,787フィート)に到達。この時、同行したのが今回紹介しているディープシーチャレンジの試作品です。
この時計を所有する喜びは、ロレックスと冒険家たちの偉業を共有することにあります。
さらに、このモデルはケースとバンドに「RLXチタン」を採用し、スチール製だった試作品よりも30%軽量化されています。
高い防水性を持つ腕時計は通常、部品が厚く重くなる傾向にありますが、本モデルはチタンの採用により見た目ほど重くないため、冒険のロマンを感じながら日常使いが可能です。
オメガ|シーマスター ダイバー 300M 210.30.42.20.03.001
こちらも300mの高い防水性を持つダイバーズウォッチです。
オメガのシーマスターシリーズの代表的なモデルで、オメガのダイバーズウォッチといえばこのモデルを思い浮かべる方も多いでしょう。
この時計は飽和潜水に対応するためにヘリウムエスケープバルブを搭載しており、水中でバルブが開いても50mまでは防水性を保つという安心の性能を持っています。
また、多くのダイバーズウォッチが浸水経路を減らすためにシースルーバックを採用しない中で、このモデルはシースルーバックを採用しており、裏蓋から見える機械の動きを楽しむことができます。
防水性以外の特徴としては、回転ベゼルの数字が書かれた表示板と文字板が同じセラミックで作られているため、色のズレがなく一体感のある仕上がりになっています。
文字板の波模様はレーザーで描かれており、硬いセラミックを割らずに装飾する技術的な工夫が施されています。
この点も、このモデルの魅力の一つです。
グランドセイコー|SBGA461
グランドセイコーが誇るダイバーズウォッチであるこちらのモデルは、200m空気潜水用防水仕様です。
グランドセイコーはスタンダードなビジネスウォッチのイメージが強いですが、セイコーはダイバーズウォッチを進化させてきた日本を代表するブランドの一つです。
セイコーのダイバーズウォッチでは特殊なパッキンの採用や外胴と呼ばれるプロテクターを持ったケース構造など、ダイバーズウォッチに求められる様々な創意工夫を凝らしてきました。
そうしたノウハウが結集されているのが、グランドセイコーのSBGA461です。
ムーブメントにはスプリングドライブが採用されており、滑らかな秒針の動きを楽しめると同時に、このモデルは海外でも販売されているため、ISOとJIS両方の衝撃性能に準拠していると考えられ、安心して使用できます。
ベゼルはアフターサービスで分解できる構造になっており、汚れた際には掃除ができます。
さらに、ケース裏面はエッジが丸められており、肌触りが良いため、水中やレジャーで肌がふやけた際にも快適に着用できます。
このように、細部にまで気遣いが行き届いたダイビングウォッチと言えます。
ウブロ|ビッグ・バン ウニコ チタニウム セラミック 421.NM.1170.RX
こちらはダイバーズウォッチではなく、10気圧防水の腕時計です。
デザイン性で注目を集めるウブロですが、このモデルはしっかりとした防水性も兼ね備えており、扱いやすさが特徴です。
ラバーストラップを採用しているため、レジャーシーンにもよく似合い、水で痛む心配もありません。
ダイバーズでなくとも10気圧防水であれば、5気圧防水の腕時計よりも一般的には風防のガラス厚が厚くなったりと防水性を担保するために頑丈な作りになっているため安心です。
メタルバンドがファッション的に硬すぎる、またはダイバーズウォッチが過剰に感じる場合にお勧めのモデルです。
10気圧防水腕時計の日々のお手入れについて
時刻修正後のリューズの締め忘れにご注意ください。
10気圧防水でも、リューズが解放されたままでは浸水してしまいます。
日頃、汗や水分が付着したまま放置すると、リューズや裏蓋周辺に腐食が発生する可能性があります。
柔らかい乾いた布で丁寧に拭き取ることが大切です。
もし海水が付着した場合は、真水で洗い流し、水分をしっかり拭き取ってください。
ただし、水道水を直接蛇口からかけるのではなく、過度な水圧がかからないように注意します。
10気圧防水の腕時計は水洗いできる?
10気圧防水の腕時計は水洗いが可能です。
ただし、手順や方法を間違えると浸水のリスクがありますので、正しい方法で行うことが重要です。
また、レザーバンドや布製のバンドは水に濡れると傷んでしまうため、バンドを外して洗う必要があります。
バンドを外すには専用工具と技術が必要ですので、時計修理専門店にクリーニングを依頼することをお勧めします。
次の項目から10気圧防水の腕時計を水洗いする方法・手順を解説いたします。
10気圧防水の腕時計を洗う方法・手順
1.リューズの締め込み確認
多くの時計でケースの3時側についている時刻修正用の部品を「リューズ」と呼びます。
時刻修正を行う際、リューズを引き出す、またはネジロックを開ける必要がありますが、その後、リューズをしっかり押し込む、またはネジを確実に閉めないと浸水の原因になります。
取扱説明書をよく読んで、リューズが正しく締め込まれているかを確認しましょう。
2.水をボウルなどの容器に溜める
蛇口から直接水を時計にかけると、瞬間的に10気圧以上の圧力がかかり浸水してしまう恐れがあります。
浸水を防ぐために、ボウルなどの容器に溜めた水の中で静かに洗いましょう。
以下の準備の留意点をお知らせします。
お湯では無く「水」を使う
ボウルに溜めるのはお湯ではなく「水」である必要があります。
防水時計は、多くの場合、部品と部品の間に「パッキン」と呼ばれる輪ゴムのようなものを使って隙間を埋め、水の侵入を防いでいます。
この「パッキン」はお湯の温度で変形する可能性があり、防水性が失われることがあります。
そのため、常温の水を使用して洗浄してください。
時計を水洗いする容器はプラスチック製がお勧め
ボウルは金属製よりもプラスチック製が望ましいです。
洗浄中に時計がボウルに接触しても傷がつきにくい利点があります。
水の中で時計を落としてしまうことも考えられますが、プラスチック製の容器なら、金属製に比べてこすり傷がつきにくく、安心して洗浄できます。
洗剤は入れない
腕時計の防水性能を担保している部品の「パッキン」はゴム製である場合が多く、洗剤がそのゴムを劣化させる可能性があります。
そのため、洗剤を使うことはお勧めしません。
水洗いで汚れが落ちない場合は、時計修理専門店にクリーニングを依頼する方が安心です。
3.柔らかい布や柔らかいブラシで洗う
多くの時計は金属製であるため、柔らかい布やブラシを使用して優しく汚れを落とすことで、傷を防止しながら洗浄することができます。
時計は普段使っていると傷が増えるため、傷つきやすいことがわかります。
力を入れて磨くのではなく、柔らかい布やブラシを優しく当てて、汚れだけを落とすことを目指しましょう。
4.乾いた柔らかい布で拭き上げる
水分が付着したまま放置すると、リューズや裏蓋周辺に腐食が発生する可能性があります。
洗い終わったあとは、しっかりと水分を取り除きましょう。
しっかり水分を取り除こうとして、ドライヤーなどで乾かすことを思い浮かべる方もいると思いますが、絶対にやめましょう。
高温になり腕時計に悪影響を与える可能性があるため、乾いた柔らかい布で優しく水分を拭き取ることをお勧めします。
10気圧防水の腕時計は日常生活での使用に十分な防水性を備えており、洗顔や雨、軽い水仕事にも使用できます。
ただし、時刻修正後のリューズの締め忘れに注意することが重要です。
正しい手順でのお手入れを心掛けることで、時計の防水性能を長く保つことができます。
使用シーンに合わせて最適な防水性能を選び、適切なケアを行うことで、長く快適に愛用できるでしょう。
まとめ
10気圧防水の腕時計について、特に覚えておきたいことは「水深100mに時計を置いた場合」という条件です。
勘違いされやすいこととして、水深100mまで潜って使用できるということですが、あくまで水深100mという環境のみを考えたときに耐水性ですので、水に潜って使用できる時計ではないことを頭に入れておきましょう。
また、日常的なお手入れについても水圧に注意して、優しくお手入れすることが大事です。
もしダイビングなどで使用したいということであれば、ダイバーズウォッチをセレクトすると良いでしょう。
当記事の監修者
廣島浩二(ひろしま こうじ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年