腕時計の外装には様々な素材が採用されていますが、その中でも「ゴールド」「チタン」「ステンレススティール」は外装素材の定番となっています。
世に出回っている高級時計の大半は上記の3素材で作られており、これらの素材について詳しく知ることは時計選びにおいて非常に重要です。
そこで今回は「ゴールド」「チタン」「ステンレススティール」に関する基礎知識をご紹介します。
柔らかい・硬い。軽い・重い。
それぞれの特性を知ることで着用する際の注意点も見えてきます。
是非この機会に時計の知識として覚えておきましょう!
目次
外装素材としてメジャーな3つの素材について
時計の外装素材としては「ステンレススティール」「チタン」「ゴールド」といった金属素材が定番です。
近年はウブロやタグホイヤーを中心にセラミックやカーボンといった異素材が使用されることが増えましたが、高級時計の大半は金属素材が使われています。
最もシェア率が高いのはサビに強く耐久性のあるステンレススティール。それに続き、金属アレルギーが起こりにくく軽量なチタンと圧倒的なステータス性をもつゴールドが続きます。
ここまでは意外と知られている内容ですが、今回はさらに詳細な特性について解説致します。
ステンレススティールの基礎知識
ステンレススティールは鉄にクロムやニッケルを混ぜた合金です。耐食性が優れ、サビにも強いという特徴を持ち合わせます。
高級時計で最もよく使われる素材であり、入門機からハイエンド機まで幅広く用いられます。
ステンレススティールにはいくつかのグレードがあり、モデルによって使われる素材が異なることも特徴です。
定番なのは「SUS304」。量産に向いたステンレスであり、入門機を中心にあらゆる時計に使用されています。
また、ハイブランドのステンレススティールモデルになると「SUS316L」が用いられることも多いです。
こちらはサージカルステンレスとも呼ばれるステンレススティールであり、医療用メスに使われるほどサビに強い素材として知られます。
ステンレススティールは全て同じだと思われがちですが、実はグレードがあるということを覚えておきましょう。
ちなみにロレックスのステンレススティールは科学分野で使われる「SUS904L」が使用されています。
これは「SUS316L」よりもさらにサビに強い素材になっており、ロレックスの実用性をさらなる高みに押し上げています。
PVDについて
タグホイヤー カレラ キャリバーホイヤー02T CAR5A8W.FT6071
PVDは、金属の表面処理技術のひとつで「physical vapor deposition」の頭文字からきた略称になります。
高真空装置の中で、チタン、ジルコニウム、炭化水素といった薄膜の材料となる物質を加熱させ、蒸発・イオン化。そこに反応ガスを吹き込むことで、物質(時計ケース)に蒸着させます。
高級時計においての用途は、ステンレススティールにチタンや炭化水素を付着させ「黒いケース」を形成させることが多いです。
外装の摩耗耐性もアップさせることができるため、積極的にPVDを採用するブランドも増えています。
チタンの基礎知識
チタンはステンレススティールよりも軽量な素材であり、この素材が使われた時計は見た目よりも遥かに重量が軽いです。
サビにも強く、そして金属アレルギーを起こしにくい性質から次世代の時計素材として注目を集めています。
加工が難しいためステンレススティールより普及はしていませんが、時計を買うならチタン一択というほどチタンにこだわる方も少なくありません。
チタンはステンレススティールと比較するとクスミが強く、やや黒っぽい色をしています。ヴィンテージな雰囲気を持つため、カジュアルデザインの時計が多いのも特徴です。
また、チタンはステンレススティールよりも更に「強度」を高めた金属素材として知られています。
耐久性が高いため、傷つきにくいのも大きなメリットです。
何故チタンはアレルギーに強いのか?
チタンとステンレスの大きな違いは塩化物イオンに対する耐性です。ステンレススティールの不動態皮膜は塩化物イオンに弱いという欠点をもっていましたが、チタンは塩化物イオンに強く、簡単には溶けません。
そのため、アレルゲンを作り出す金属が肌に当たることがなく、アレルギーが起こりません。
ゴールドの基礎知識
ゴールド・プラチナが採用された時計の高級感と美しさは格別です。特にビジネスシーンでも身に着けやすいホワイトゴールドは日本人にとって扱いやすく、世代年齢問わず高い人気を得ています。
抜群のステータス性を持ち、各ブランドの上位モデルばかりに採用されます。
ゴールドもステンレススティールやチタンと同様にサビにくく長期間使用できる素材ではありますが、特別傷が付きにくい素材というわけではありません。
金は柔らかい素材であるため衝撃に弱く、丁寧に扱う必要があります。
また、比重が高いため、他の素材と比較すると時計の重量が重くなるのがデメリットです。金の重みを体感できるという面もありますが、長時間時計を身に着けていることが多い方は気にされた方がよいかもしれません。
ゴールド素材のバリエーション1.ピンクゴールド
ピンクゴールドはイエローゴールドと同じく純金(75%)・銅・銀の3種類を混合して作られるゴールド色の一種です。混合率がメーカーによって違うため、同じピンクゴールドでもメーカーや時計によって色合いが違うことも特徴です。
なじみやすく人気のあるカラーですが、銅の配分が多いため、他の18kゴールドと比べるとアレルギーが起こりやすいゴールドともいえます。
ゴールド素材のバリエーション2.ホワイトゴールド
ホワイトゴールドは白い輝きをもつ金属です。ジュエリー色の強い時計によく使用されており、パテックフィリップやハリーウィンストンといったブランドでよく採用されています。
ホワイトゴールドは白く輝く銀系の色ですが、本来の色は名前の通りの純金(Au:ゴールド)です。この純金(75%)に銀・パラジウム(合金)の3種類を混合しすることで鮮やかな白さに仕上げます。
複数の素材を混ぜて作られるため完璧な白銀にはなりませんが、表面にロジウムメッキをコーティングすることで見た目は殆どプラチナ同様の色味となります。
ゴールド素材のバリエーション3.イエローゴールド
イエローゴールドは純金(75%)・銅・銀の3種類を混合して作られるゴールド色の一種。銀よりも若干銅の割合が多く、イエロー色の強いゴールドに仕上げられます。
時計メーカーによって比率が異なり、名称はイエローゴールドであってもモデルによって色合いに違いがあるのも特徴です。
ゴールド素材のバリエーション4.レッドゴールド
IWC ポートフィノ オートマチック IW356511
レッドゴールドは金75%に銅、およびその他の金属を混ぜることによって作り出される合金です。イエローゴールドと比較すると赤みを帯びたエレガントな色合いとなっています。よくピンクゴールドと比較されますが、レッドゴールドはピンクゴールドよりも銅の配分が多く、赤みが強いです。
配分や素材の呼び方はがメーカーによって大きく異なるため、明確にこの色がレッドゴールドであるという決まりはございません。
定期的なメンテナンスの必要性
高級時計に使用される金属素材はどれも耐久性に優れますが、常に身に着けて生活していれば少なからず小傷や汚れが付いてしまいます。
素材のスペックを過信しすぎて全くメンテナンスを施さなかった場合、美観が損なわれてしまうことも少なくありません。
例えばステンレススティールの場合。
大切に扱っていれば大きなトラブルに発展することは稀ですが、汚れをずっと放置してしまうとサビが発生したり、腐食をおこす可能性があります。
これに関しては時計を外した後に「きめ細かいクロス」にて時計を拭くクセをつけることで避けることができます。
尚、ブレスレットにしつこい汚れが付いた場合は、丁寧にブレスを外した後に柔らかいブラシを使って水洗いをすれば大抵は綺麗になります。
夏場は特に汚れが付きやすくなるので、毎日のケアは欠かさず行う様にしましょう。
修理業者による外装メンテナンスについて
日々のセルフメンテナンスをしていても、不意に大きな打ち傷や落としきれない汚れが付いてしまう場合があります。
そのような場合はオーバーホールと一緒に外装の洗浄と研磨を依頼したいところです。
時計修理技術は年々進化を遂げており、大きな傷であっても修復できるケースが増えています。
新品仕上げを依頼すれば傷だらけになったケースであっても本当に新品同様になります。
ただ、新品仕上げを施すとケースが徐々に痩せていってしまうため、この処理を行える回数は5~6回が限度です。
また、深すぎる傷は研磨対応では対処できないこともありますが、それも時計の歴史と考えれば、そこまで神経質にならなくてもよい気がします。
【参考外装メンテナンス料金:新品仕上げ 18000円~】
まとめ
ステンレススティール・チタン・ゴールド。
サビに強いのは共通事項ですが、「傷に対する強さ」「重量」「耐アレルギー性能」など、様々な項目で異なるスペックを持ち合わせます。
どの素材を選ぶかはオーナー様の好みと予算によりけりですが、どれを選んでも外装の美観を保つために定期的なセルフケアが必要になることは覚えておきましょう。
当記事の監修者
廣島浩二(ひろしま こうじ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年