機械式時計に搭載されている「レトログラード」って、いったいどのような機構かご存知ですか?
複雑機構の一つですが、「名前を聞いたことはあるけど、どんな機構か分からない・・・。」という方も多いと思います。
そこで今回はレトログラードがどのような機構で、どのような魅力を秘めているのか解説いたします。
機械式時計のディープな世界に足を踏み入れてみたい方は是非ご一読ください。
目次
レトログラードとは?
レトログラードはフランス語で「逆行」を意味します。
時計の針は通常「円運動」を基本としますが、レトログラードは「扇形に運針」するように設計されており、まさに常識から逆行した特殊な動きを見せます。
この機構の魅力は何といっても秒針の素早い動きです。
上の写真を基に説明すると、レトログラード秒針は「0」の位置から時を刻み、「30」の位置に到達すると瞬時に「0」へ戻ります。
終点から始点に戻る際にタイムラグが発生してしまうと正確な時間が刻めないため、秒針をダイナミックかつ迅速に始点に戻すのです。
※実際の動きは上の動画でご確認いただけます。
レトログラードが誕生したのは17世紀後半といわれており、18世紀後半まで様々な懐中時計に用いられてきました。しかし、19世紀に入り時計に正確性が求められるようになってからは、その姿を見かけることはなくなります。そんなレトログラードが再び日の目を浴びる様になったのは1990年代のこと。
「レトログラードの魔術師」の異名を持つ時計師ピエール・クンツが秒針が20秒レトログラードを3つ搭載させたモデルを作り上げたことをキッカケに再注目され、現在においてはレトログラードの開発に挑むブランドが増えつつあります。
レトログラードの種類
レトログラードはモデルによってそれぞれ異なる特徴を持ちます。
ここではレトログラードを搭載した名機を見ながら、その種類を見ていきましょう。
レトログラード搭載モデル:ブランパン ヴィルレ ウルトラスリム 6653Q-1529-55B
素材:ホワイトゴールド
ケースサイズ:直径 40.0mm
全重量:103g
文字盤:ブルー
インデックス:ローマン
ムーブメント:自動巻き レトログラード
パワーリザーブ:約72時間
防水性能:30m
世界最古の時計ブランド「ブランパン」。6時位置にレトログラード機構を備えた秒針を配しており、30秒ごとに起点へフライバックします。
レトログラード搭載モデル:ブレゲ クラシック レトログラード 5207BA/12/9V6
素材:イエローゴールド
ケースサイズ:直径 40.0mm
全重量:92g
文字盤:シルバー
インデックス:ローマン
ムーブメント:キャリバー 516DRSR
パワーリザーブ:約65時間
防水性能:30m
懐中時計時代のレトログラードを彷彿させるブレゲ渾身の一本。12時位置にパワーリザーブインジケーター、6時位置に60秒計算のレギュレーターが配されています。ケースサイドのコインエッジ、職人が1本1本手作業で彫り込んだギョーシェなど、シンプルながらも細部まで意匠を凝らした人気モデルです。
レトログラード搭載モデル:ロンジン マスターコレクション レトログラード ムーンフェイズ L2.738.4.71.3
素材:ステンレススティール
ケースサイズ:直径 41.0mm
全重量:121g
文字盤:シルバー
インデックス:ローマン
ムーブメント:自動巻き レトログラード
パワーリザーブ:約72時間
防水性能:30m
ロンジンが作り上げた多機能クロノグラフ「L2.738.4.71.3」。
ムーンフェイズ機能に加え、レトログラード式の日付、曜日、スモールセコンド機能を備えた複雑機構となっています。
価格も手ごろであるため、手が届くレトログラードとしてもオススメです。
レトログラード搭載モデル:ハリーウィンストン オーシャン トリプルレトログラード 400/MCRA44RC
素材:ローズゴールド
ケースサイズ:直径 44.0mm
全重量:189g
文字盤:シルバー
インデックス:アラビア
ムーブメント:Cal.1185
パワーリザーブ:約42時間
防水性能:100m
12時間積算系針と30分積算系針と60秒針をレトログラード機構に改良したハリーウィンストンの傑作。
3つのレトログラードを同時に楽しむことができます。
世界一のジュエラーらしい高級感のあるデザインも魅力的で、今なお需要の高い一本です。
レトログラード搭載モデル:ピエールクンツ パピヨン タヒチムーン A014HMRL AC
素材:ステンレススティール
ケースサイズ:直径 41.0mm
全重量:70g
文字盤:スケルトン
インデックス:アラビア
ムーブメント:自動巻き レトログラード
パワーリザーブ:約42時間
防水性能:100m
レトログラードの魔術師「ピエール・クンツ」の処女作にして、彼の名を世間に知らしめるきっかけとなった「パピヨン」。文字盤上の時分針のレトログラードは、さながら蝶が羽を羽ばたかせるかのような動きで着ける人の目を楽しませます。
レトログラードの内部機構が見えるスケルトン仕様となっており、6時位置のムーンフェイズにはタヒチ産の黒蝶貝があしらわれています。
レトログラード搭載モデル:ピエールクンツ キュピドン PKM102STR
素材:ステンレススティール
ケースサイズ:縦 40.0mm × 横 31.0mm
全重量:101g
文字盤:シルバー/スケルトン
インデックス:-
ムーブメント:自動巻き レトログラード
パワーリザーブ:約42時間
防水性能:100m
20秒ずつリレーを行う3本のレトログラード針を配したピエールクンツならではの究極のレトログラード。それぞれの針の先にはフランス語で「とても」「情熱的に」「狂おしいほど」と記されており、まるで花占いのように、ふと見た文字盤の動いている秒針の位置で相手の、又は自分の気持ちを占うことができます。
遊び心溢れ、コアな時計ファンから愛され続ける名作です。
ピエールクンツについて
ピエールクンツは1959年にスイスのベルンに生まれ、20年以上にわたって時計製作に従事してきた時計師です。フランクミュラーを傘下とする名門「ウォッチランド」にて専属の技術者として技術を磨き、独自のレトログラード開発技術を確立したのちに独立を果たしました。
現在は独立時計師アカデミーの一員としてレトログラード搭載モデルを中心に、独創的な時計の開発に臨んでいます。
当記事の監修者
廣島浩二(ひろしま こうじ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年