「パネライのサブマーシブルはどうして単独コレクションになったの?」
「ダイバーズウォッチ・新生サブマーシブルの魅力や特長が知りたい」
パネライと聞くと、「ルミノール」「ラジオミール」の名前が挙がるかと思います。
事実、パネライはこの二つのコレクションを柱に、多彩な派生モデルを展開してきました。
しかしながら2019年、大きな変革が行われたようです。
と言うのも、ルミノールの中でも「ダイバーズウォッチ」としての機能に特化したサブマーシブルが単独コレクションへと進化。
しかも、従来にはなかった全く新しいコンセプトを携えてリリースされました。
サブマーシブルが単独コレクションになった経緯が知りたいという人は多いのではないでしょうか。
パネライは、2019年にCEOが変わり、コレクションの一新が行われ、サブマーシブルはパネライ・ダイバーズのテイストを存分に味わえるコレクションに生まれ変わりました。
この記事ではサブマーシブルが単独コレクションになった経緯を、GINZA RASINスタッフ監修のもと紹介します。
新作モデルの紹介もしますので、パネライのダイバーズウォッチをお探しの方はぜひ参考にしてください。
出典:https://www.panerai.com/ja/collections/watch-collection/submersible.html
目次
パネライ サブマーシブルってどんなシリーズ?
サブマーシブルは、パネライのフラグシップ・ルミノールの中の一シリーズとして誕生しました。古くからのパネライファンは、「特大ダイバーズウォッチ」と言った印象をお持ちの方もいらっしゃるでしょう。現行モデルの中では非常に歴史が古く、20年にもわたって販売されてきたロングセラーです。
サブマーシブルを解説するには、パネライの歴史に触れなくてはなりません。
パネライはイタリア海軍に任務中の時計を製造したのが時計メーカーとしての始まりです。民生用に時計を開発し始めたのは、1993年頃から。それまでは主に軍用時計を取り扱ってきました。
そんなブランドの歴史の中で、1956年、エジプト海軍潜水特殊部隊用のダイバーズウォッチが誕生します。
出典:https://www.panerai.com/ja/home.html
「エジプシャン」として名付けられたこのモデルは後のルミノールのプロトタイプとして有名ですが、この系譜を大きく引き継いだのが今回ご紹介するサブマーシブル。特大のケース、独特のドットマーカーを配した逆回転防止ベゼルが現在のサブマーシブルと似ていますよね。
ちなみにこのエジプシャンも、「エジツィアーノ(イタリア語でエジプト人と言う意味)」としてリバイバルされています。ケース直径60mmという巨大サイズが「人を選ぶ」などとも言われましたが、世界限定500本生産は圧倒的な需要を以て迎えられたと言います。当店でも入荷しましたが、すぐに売れてしまいました。
↑リバイバルしたパネライのエジツィアーノPAM00341
もちろん通常のサブマーシブルはここまでの大きさではありませんが、47mmまたは44mmサイズと比較的大きめ。さすがデカ厚ブームを牽引したパネライと言うべき特徴を持ちます。
また、独特の逆回転防止ベゼル、太め時針、しっかりとインデックスに塗布された夜光がパネライファンのみならず、「本格的な時計が欲しい」という購買層からのニーズを集め、ルミノールマリーナやルミノール1950、ラジオミールに匹敵する人気コレクションに昇華されました。
なぜパネライはルミノールからサブマーシブルを独立させたか
前述の通り、サブマーシブルはルミノールの派生と言った立ち位置でした。
では、パネライはなぜこの度サブマーシブルを単独コレクションとして打ち出したのでしょうか。
それは、パネライ内部で大きな変革が行われたためです。
パネライは、2019年にCEOが変わりました。
パネライが1997年、リシュモングループ傘下に加わって以降パネライの重鎮を担い、かつ20年近くCEOを務めたアンジェロ・ボナーティー氏が引退。代わってジャンマルク・ポントルエ氏が後を引き継ぐこととなり、コレクションの一新が行われたのです。
ちなみにポントルエ氏はロジェ・デュブイで長らくトップを務めてきた実力派です。
そんな経緯があって、コレクションにメスが入りました。
これまでは「ルミノール」「ラジオミール」の二本柱があり、その中でルミノール1950とラジオミール1940が派生。これはケースによる違いとなります。そして2016年より新たに打ち出された薄型ケースが特徴のルミノール ドゥエの五つが主なコレクションでしたね。
↑2016年に登場したルミノール ドゥエ
そこをポントルエ氏は「ルミノール」「ラジオミール」「ルミノール ドゥエ」そして今回ご紹介する「サブマーシブル」の4コレクションに振り分けます。
さらに、それぞれのコレクションにコンセプトを設定したことも新しい試みです。
すなわち、ルミノールは「パネライのエッセンス」、ラジオミールは「「1930年に始まった機械式時計の伝説」、ルミノール ドゥエは「現代的なエレガンス」、サブマーシブルは「サバイバルツール」となります。
これまで「パネライはどれも同じに見える」「シリーズやモデルが分かりづらい」と言った声もありましたが、ぐっとわかりやすくなったように思います。
出典:https://www.instagram.com/panerai/
新コレクションとは言え、サブマーシブルのデザインアイデンティティは変わっていません。また、モデル名は「ルミノール サブマーシブル」と題されているように、根幹にはルミノールが存在するようです。
しかしながらルミノールやラジオミールとはまた違ったパネライ・ダイバーズのテイストを存分に味わえることでしょう。
ただし、文字盤のロゴが「LUMINOR SUBMERSIBLE」から「PANERAI SUBMERSIBLE」へと変更に。
また、ケースサイズも42mm、44mm、そして47mmの3ラインとなりました。ちなみに薄型ケースに順次移行していっており、イタリアンブランドらしいスタイリッシュさがより強くなった印象です。
また、ハイテク素材を巧みに用い、外装面でもスペック面でもより「海のような過酷な状況下でも耐えうる」といった、ダイバーズウォッチ本来の魅力を存分に味わえるようになりました。
なお、一部モデルはまだ国内入荷はしておらず、10月~12月あたりから本格的に流通しそうです。
早く実物を見てみたい方もいらっしゃるでしょう。
今後のパネライ人気をさらに押し上げるかもしれません。そうなると、相場にも要注目ですね!
パネライ サブマーシブルの2019年新作モデル
2019年、サブマーシブルは19モデルの新作をローンチしました。
前述の通り、既に一部モデルは国内で流通しており、早くも注目度が高まっているようです。
新生サブマーシブルの代表モデルをご紹介いたします。
パネライ ルミノール サブマーシブル1950 BMG-TECH
型番:PAM00692
素材:BMG-TECH(ケースバックはチタン)
ケースサイズ:直径47mm
ムーブメント:自動巻きP.9010、パワーリザーブ3日間
防水性:30気圧(300m)
定価:1,576,800円(税込)
こちらは、パネライが革新素材として打ち出している「BMG-TECH」を採用したモデルです。
このBMG-TECHとは2017年から同社で使われているもので、金属ガラス(リキッド・メタル)の一種のこと。BMGはBulk Metallic Gassの略で、バルク金属ガラスという意味となります。ちなみにTECHはテクノロジーですね。
金属ガラスというのは金属でありながらも特殊合金によって非結晶性を有し、ガラス様の特殊な合金となったもの。
通常金属の結晶構造をしていないため、特性としてはステンレススティールを超えて非常に強固。ダイヤモンドなどの劈開(へきかい。一定方向の割れやすさのこと)にも言えることですが、結晶構造が規則正しいと、ある一定方向からの力にもろく、すぐに砕けてしまう、という特性があります。その点このBMG-TECHはランダムな結晶構造であるため、強靭なボディを実現している、というわけです。
さらに言うと衝撃や磁気に強く、また腐食に対する保護にも強化された夢の合金と言えます。
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ちなみに後述しますが、ベゼルにカーボテックというやはり新素材が採用されたモデルPAM00799もラインナップされています(上画像)。
搭載するムーブメントはパネライ社製P.9010。これまでデカ厚が売りであった同社ですが、一転して薄型でスタイリッシュな機械となります。
パネライ サブマーシブル カーボテック
出典:https://www.panerai.com/ja/collections/watch-collection/submersible.html
型番:PAM00960/PAM01616
素材:カーボテック
ケースサイズ:直径42mm/47mm
ムーブメント:自動巻きOP XXXIV/P.9010(パワーリザーブともに3日間)
防水性:30気圧(300m)
定価:2,073,600円/2,138,400円(ともに税込)
カーボテックもまた、パネライが誇るハイテク素材のうちの一つです。
炭素繊維であるカーボンの一種となります。しかし、カーボンが時計に使われることは、これまでは滅多にありませんでした。そもそも高級時計と言えば金無垢やプラチナ、次いでステンレススティールがシェアの大半を占めており、わざわざカーボンを使う必要がなかったのでしょう。
しかしながら近年、多くのブランドで様々な新素材が使われるようになります。例えばウブロやリシャールミルがその顕著な例ですね。
そういった流れの中でパネライもまた新素材を続々ラインナップに加えることとなりますが、カーボンの特性に目をつけた形です。
出典:https://www.instagram.com/panerai/
と言うのも、カーボンは強靭で軽量な素材で、過去ロケットやレーシングカーなどに用いられてきました。
さらにパネライでは、このカーボンを成形する際、薄いシートをランダムに重ねており、原子構造を複雑にすることによって通常のカーボンよりも強靭さを高めています。先ほどご紹介した、BMG-TECHと同様の手法と言うわけですね。
また、この製法によってシート構造が個体によってまちまちになり、結果として木目のような独特の模様を獲得しました。一つとして同じものがない、という独創性も、個体数がそう多くはないパネライの「特別感」をさらに高めることになりそうです。
なお、47mmサイズは最近パネライお馴染みの自社製ムーブメントP.9010が搭載されていますが、42mmモデルの方はリシュモングループ内でベースとして用いられるOP XXXIV。P.9010よりも若干薄型となります。
パネライ ルミノール サブマーシブル 1950 オートマティック
型番:PAM00973
素材:ステンレススティール
ケースサイズ:直径42mm
ムーブメント:自動巻きOP XXXIV、パワーリザーブ3日間
防水性:30気圧(300m)
定価:1,036,800円(税込)
こちらは、20年近くサブマーシブルの基幹モデルを担ってきたPAM00682の後継機にあたります。
外装面はそう大きくは変わっていませんが、ムーブメントが自社製のP.9010⇒OP XXXIVへと変更になりました。
どちらも高精度・高性能に加えてロングパワーリザーブであるため使いやすいことに変わりはありませんが、新作モデルの方が若干ながら薄型となります。
定価も変わらずとあって、前作の人気がそのまま引き継がれそうですね。
パネライ サブマーシブル マイク・ホーンエディション
出典:https://www.instagram.com/panerai/
型番:PAM00984
素材:エコチタン
ケースサイズ:直径47mm
ムーブメント:自社製自動巻きP.9010、パワーリザーブ3日間
防水性:30気圧(300m)
定価:2,473,200円(税込)
実は新生サブマーシブルは、多彩なスペシャルエディションが打ち出されたことでも話題となりました。その一つが、こちらの冒険家「マイク・ホーン氏」をオマージュしたモデルです。
マイク・ホーン氏とは何北両極をメルセデスGクラスとヨットで制覇したり、アマゾン川を単独で下ったりと、前人未踏な冒険の数々を成し遂げてきた冒険家です。
特筆すべきは、BMGやカーボテックとともにパネライハイテク素材として語られる、エコチタンがケースに採用されていること!
エコチタンは天然資源の採掘からではなく、現存するチタンのリサイクルによって作られていると言う、エコロジーが自慢のハイテク素材。チタン特有の軽量さや強靭さはそのままですので、ダイバーズウォッチとしてもアクティブシーンでのスポーツウォッチとしても申し分ありません。
ちなみにブラックのストラップもまたリサイクル素材で、再利用されたPETによって生み出されているとのこと。
出典:https://www.panerai.com/ja/collections/watch-collection/submersible.html
画像だとわかりづらいのですが、ブランド・モデル名とスペックが文字盤ではなく、風貌にシルクスクリーン加工であしらわれているところも、既存のサブマーシブルとはまた違ったデザインとなっております。
なお、購入者はマイク・ホーン氏の北極圏への氷河旅行に参加できるそうです。
パネライ サブマーシブル クロノ ギョーム・ネリーエディション
出典:https://www.panerai.com/ja/collections/watch-collection/submersible.html
型番:PAM00982
素材:チタン
ケースサイズ:直径47mm
ムーブメント:自社製自動巻きP.9010、パワーリザーブ3日間
防水性:30気圧(300m)
定価:2,311,200円(ともに税込)
もう一本、ご紹介したいスペシャルエディションがローンチされています。
こちらのブルーラバーベルトとグレーの文字盤がさわやかなサブマーシブル。フリーダイビング(酸素ボンベを使わずにダイビングすること)で有名なフランス人プロダイバー「ギョーム・ネリー氏」へのオマージュモデルです。
ギョーム・ネリー氏は水深200mまでをフリーで潜るという偉業を成し遂げており、そのパフォーマンスを称えるためにパネライが独自に打ち出したモデルとなります。
堅牢なのに軽快なチタンケースを採用していること、また、自社製キャリバーP9010はフライバック及びゼロリセットセコンドを備えるという、機能性充実のスペシャルエディションです。
ちなみにこのチタンは先ほどご紹介したエコチタンではありませんが、ステンレススティールに比べて軽量、それでいて傷や衝撃に強いという特性を有します。
出典:https://www.instagram.com/panerai/
なお、チタンをDLCコーティングし、精悍なブラック基調としたモデルも同時にリリースしております。
DLCコーティングとは「ダイヤモンド・ライク・カーボン」の略で、ダイヤモンドのように硬いコーティングのこと。軽量ではあるものの、ステンレススティールに比べるとやや傷つきやすいチタンの弱点をカバーするために用いられる手法です。文字通り、他素材に影響を受けないダイヤモンドのような傷つきづらさを有します。
この実用性もさることながら、ステンやチタンとは全く異なる質感、そしてブラック基調のカラーリングを楽しめることも魅力のうちの一つ。
カルティエのカリブルダイバーやブルガリのオクトなど、デザインが自慢のジュエラーもこぞって採用してきました。
ちなみに購入者は、フレンチポリネシアの海をギョーム・ネリー本人と探検するツアーに参加できるそうです。
まとめ
新CEOを迎えて新しくなったパネライ。その第一弾として新しくなった、サブマーシブルについてご紹介いたしました!
従来のサブマーシブルのデザインやスペックを踏襲しつつも、ハイテク素材や新コンセプトを打ち出し、パネライファンはもちろんこれまでパネライに興味のなかった層も引き込みそうな新シリーズでしたね。
文中でもご紹介したように、まだ国内入荷は一部モデルのみに留まっていますが、今後パネライの旗艦シリーズを担うことは疑いようがなく、そのため今後流通し、また新しくパネライブームを引き起こしそうです。
当店でも入荷を頑張りますので、乞うご期待!
当記事の監修者
新美貴之(にいみ たかゆき)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 店舗営業部 部長
1975年生まれ 愛知県出身。
大学卒業後、時計専門店に入社。ロレックス専門店にて販売、仕入れに携わる。 その後、並行輸入商品の幅広い商品の取り扱いや正規代理店での責任者経験。
時計業界歴24年