ゼンマイを巻くとき。時刻を合わせるとき。日付を合わせるとき。
私たちにとってなじみ深いパーツであるリューズ。
宝石の付いた宝飾性が高いもの。
ねじ込みロック式の機能性の高いもの。
一言に「リューズ」と言っても形状も素材も様々です。
しかし私たちがよく目にしているものとは少し毛色の変わったリューズも存在します。
それがパテックフィリップ製の時計に多く見られる「ジョイント式リューズ」です。
今回はジョイント式リューズについてお話ししたいと思います。
目次
1.リューズの構造
「リューズ」は通常3時位置に取り付けられているパーツで、ネジ頭のような部分とムーブメント内部まで届く筒状の「巻き芯」の2つの部品を合わせたものです。
通常のリューズの巻き芯は一本のパーツなのですが、ジョイント式リューズはその名の通り二本の短いパーツが「ジョイント」されたもので、リューズの先端の凹んでいる部分に巻き芯の凸の部分が寄木細工のように噛み合って一つのパーツになるという特殊な形をしています。
リューズはケースの外側から内側に差し込むように取り付けられているため、手を洗った時の水分や日常の汗などがそのままになっているとリューズから巻き芯を伝って水分や湿気がムーブメントの内部に侵入し、故障の原因になります。
毎日のお手入れとして、柔らかい布で時計全体を軽く拭くようにしてください。
2.ジョイント式リューズが使われるケース
多く用いられるのが、ワンピースケースと呼ばれる裏蓋とケースが一体となっているケースです。
裏蓋側に溝が無く、裏蓋から開けることができないので防水性・防塵性に優れ、耐久性にも優れています。
そのため修理の際はガラスを外して文字盤側からムーブメントを取り出します。
ワンピースケースにジョイント式リューズを用いる利点としては、巻き芯を外さなくてもリューズを外すだけでムーブメントを取り出せる仕組みになっていることです。
3.リューズが外れてしまった時には
通常のリューズも頭の部分を巻き芯がねじ込んでいる構造になっていますので頭の部分と巻き芯のねじ込みが外れてしまったり、衝撃が加わって巻き芯が折れてしまったりすることで頭の部分が取れてしまったり、また巻き芯ごと外れてしまうことがあります。
殊にジョイント式リューズの場合は二本のパーツが噛み合って接合されているだけですので強く引っ張ると抜けてしまうことがよくあり、お問い合わせを頂くことが多々あります。
接合部分が外れただけですのでリューズ穴に垂直に入れて軽く押せば接合し、再び使用することができます。
しかしながら接合部分が折れてしまっていることや経年劣化で緩んでしまっていることもあります。押し戻してみてもパチンと嵌った感触が無く、緩んでいるようでしたり抜けてしまうようでしたら一度時計店にご相談することをお勧めいたします。
また、ジョイント式でないリューズが抜けてしまった場合は更に注意が必要です。
無理に戻そうとすると内部のムーブメントを破損させる可能性があります。リューズが抜けてしまった場合には自分で戻そうとせず、テープなどでリューズが抜けてしまった穴から水分や埃が入らないように保護してお店にお持ちください。
折れてしまっていたり経年劣化が起きていた場合には取り寄せが必要になる可能性もありますが、リューズが抜けてしまっただけでしたらすぐに直せることもあります。
4.リューズの引き方のコツ
リューズは「つまんで引くだけ」とはいうものの、強く引っ張り過ぎると抜けてしまうことがあると言われれば不安になる方もいらっしゃるのではないでしょうか。普通の力で引けば抜けてしまうことはそうはありませんがコツと力加減を掴むまでは緊張されると思います。
そこでいくつかのリューズのタイプについてコツをご紹介したいと思います。
隙間が少ないタイプ
リューズの下に隙間が少なく埋まっているようなものはリューズを引きにくく、力の入れ方が難しいと感じると思います。
そのようなリューズの場合には爪の先をリューズの下に差し込んで親指と人差し指の指先でリューズの下をつまむように指を差し入れて真っ直ぐに引いてみて下さい。
また、爪の弱い方や爪を大切にされている方は人差し指の第一関節の先と親指の腹でしっかりとリューズを挟んでみて下さい。
リューズが丸いタイプ
人差し指の第一関節辺りにリューズを載せるような感じで親指と人差し指でリューズをしっかりとはさみます。
時計が動かないように、もう片方の手で時計を固定して引き上げてみてください。
リューズ自体が小さいタイプ
アンティーク時計によく見られるタイプで指でつまむのが難しいくらい小さく、リューズと時計の隙間も少ないので力加減が難しいと思います。
隙間が少ないタイプと同様に爪の先をリューズの下に差し込み、親指と人差し指の指先でリューズをつまむように差し入れ、時計が動かないようにもう片方の手でしっかりと時計を固定し、釘を抜くようなイメージで爪先を使ってリューズを真っ直ぐに引き上げます。
リューズを引くときの基本は「ゆっくりと丁寧に」。
ゆっくりと力を強くしていき、引ける力になるとカチッとリューズは引きあがります。急に力を掛けず、優しく引いてみて下さい。
5.ジョイント式リューズ搭載モデル
ご自身の時計のリューズが抜けてしまった時にジョイント式のリューズが外れてしまったのかだけでも分かると安心されると思います。
今一度ご自身の時計のモデルがどのようなリューズを搭載しているのか確認をしておくと焦らないかもしれません。
しかし取扱説明書を捨ててしまったという方のためにいくつかの搭載モデルをご紹介します。
パテックフィリップ カラトラバ オフィサー 5053R
インデックスにブレゲ数字とブレゲ針を採用しており、クラシカルで上品なデザインです。
開閉式のハンターバックケースを備えており、Cal.315/202の精巧な作りをご覧頂けます。
パテックフィリップ カラトラバ オフィサー 5022R-010
パテックフィリップ カラトラバ オフィサー 5022R-010
2005年に生産終了したモデルです。
クラシカルかつ上品に仕上がっているモデルで、他のカラトラバとは趣が異なり、アラビアインデックスがカジュアルなイメージを与えています。
ちなみに上の写真は世界屈指のジュエラー・ティファニーとのWネームです。
パテックフィリップ ノーチラス 3800/1A
オリジナリティあふれるオクタゴン型(八角形)のケースフォルムに、薄型で軽量化されたCal.335SCを搭載。
精度、視認性、耐久性、装着感などあらゆる点で実用時計の最高峰を追求したパテック・フィリップの最高級ウォッチです。
当記事の監修者
廣島浩二(ひろしま こうじ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年