「セイコー キネティックって何?」
「セイコー キネティックって何がすごいの?」
クォーツ時計の普及、スプリングドライブの開発など、これまで日本のトップブランドとして時計界に大きな影響を与えてきたセイコー。
技術力の高さはスイス時計業界からも一目置かれており、まさに日本人の誇りといえる名門ブランドです。
そんなセイコーの現在の主力はクォーツ・メカニカル・スプリングドライブの3つの機構ですが、「キネティック」という機構を搭載したモデルも存在します。
セイコー キネティック機構について知りたいという人は多いのではないでしょうか。
キネティックはローターを動かすことで、電気エネルギーへと変換する、という原理が採られた機構です。
この記事ではキネティック機構の仕組みや特長について、GINZA RASINスタッフ監修のもと解説します。
おすすめモデルも紹介しますので、セイコーの腕時計に興味がある人はぜひ参考にしてください。
目次
キネティック機構とは?
キネティックは、時計が動かされる度に自動的に発電及び充電を行い、クォーツ時計を駆動させるセイコー独自の機構です。
1988年に「世界初自動巻き発電クォーツウォッチ;オートクォーツ」という謳い文句とともに市場に送り出されました。
ちなみにリリース当初の機構名はAGS(Automatic Generating System;自動生成システム)でしたが、後に現在のキネティックへと変更されています。
機械式時計(自動巻き)だと、ローターが左右に振れることでゼンマイが巻かれますが、キネティックは「駆動力」が異なります。
詳しく解説いたします。
①原理
前述の通り、「腕の動き」を利用してローターを動かし、ゼンマイを巻き上げる機構はすなわち自動巻きです。
しかしながらキネティックはローターを動かすことで、「電気エネルギー」へと変換する、という原理が採られています。
イメージとしては、超小型の発電機が搭載されている、と言ったところでしょうか。
キネティックのムーブメントは、裏蓋側から見て
ローター⇒発電ローター(AGローター)⇒発電用コイル⇒コンデンサ(二次電池)⇒クォーツ回路(水晶振動子・ステップモーター用コイル・ステップモーター)
といった構造になります。
腕を動かしてローターを回すのですが、このローターには歯車が取り付けられています。歯車は、しばしば増速装置として用いられますね。そのためローターの回転は約100倍に増幅され、結果として高速回転が可能となります。
すると電磁誘導が発生・コイルには磁界の変化によって電流が流れることとなります。
この流れた電流がコンデンサに蓄電され、クォーツ回路に供給されます(コンデンサは電圧を持たない電子回路側へ放電する特性があるため)。
これが、キネティックが電気を発生・充電させる仕組みです。
ちなみにこちらで使われるコンデンサはキネティックE.S.Uと名付けられています。正式名称は「KINETIC ELECTRICITY STORAGE UNIT」で、ここから同シリーズは名前をちなみました。なお、キネティックとはギリシア語で【動力・動く】を意味します。
なお、放電される側の回路は「クォーツ」ですので、自動巻きムーブメントよりも高精度となります。
つまり従来のクォーツのように一次電池を必要とせず、当然電池切れによる交換はいらず(劣化による交換は必要)、にもかかわらずクォーツならではの正確性を実現した、というわけですね。
ちなみに機械式とクォーツの良いとこどりとしては「スプリングドライブ」が有名ですが、こちらが機械式寄りの機構になっているのに対し、キネティックはクォーツ寄りの機構だと言えます。
②オートリレー機能
キネティックを語るうえで、知っておきたい便利機能があります。
と言うのも、時計を振って発電する仕組みであるキネティック機構には消費エネルギーを最小限に抑える「オートリレー機能」が備えられているのです。
コンデンサは、放っておくと蓄えた電荷がなくなるまで放電を続けます。つまり、時計を着けていない時にも電流を流し続けるため、きわめて低効率であると言えます。ずっと動かし続けることは二次電池のみならず、機械的な稼働部をも劣化させるのですから。
そこでオートリレー機能として、時計を外している状態が約72時間以上続くと自動的に全ての針が止まる「パワーセーブ機能」が備わりました。
一方で「止まってしまったら、また時刻合わせをしなくてはならないのか」と思いますよね。
しかしながらそこはセイコー。実はステップモーター部分にさらに「ローター」が取り付けられており、例え使っていなくともこちらが時刻を刻み続けています。
使用を再開する際に振動を検知すると、時分針が高速ステップモーターで駆動し、ローターで記憶していた回転数を現在時刻に追いつけることができるのです。これは、「自動時刻復帰機能」と呼びます。
※カレンダーは手修正が必要です。また、コンデンサが放電しきったら電流は流れなくなりますが、大容量のため最大で4年間は機能するようです。
この「パワーセーブ機能」および「自動時刻復帰機能」合わせた「オートリレー機能」によって、無駄なエネルギー消費をカット。ムーブメントや時計そのものの寿命を延ばせる仕組みを確立しました。
キネティックの評価は?
このように、エコで便利なキネティック。
国内での知名度はそこまで高くないかもしれませんが、海外では非常に人気が高いようです。
理由としては単純にキネティック機構が海外のファンに受けたこともありますが、国内では「ソーラー時計」の需要が高いことも理由として挙げられます。
ソーラー時計は日光を浴びることによって充電され、モノによっては照明器具の光であっても十分蓄電できます。
しかし、キネティックは飽くまでもベースは機械式なので、身に着けていないと動きを止めてしまいます。
単に「電池交換不要」という利便性だけを求めるのであればソーラー時計のほうが使い勝手が良いのは否めません。また、ライバルであるシチズン「エコドライブ」の存在も大きいでしょう。
キネティックの修理・電池交換。その費用は?
キネティックのオーバーホール周期は8年から10年ごとが推奨されています。
これはクォーツ機構とほぼ同様です。
ただ、キネティックは特殊な機構であるため民間の修理業者で電池交換及びオーバーホールを行うのが難しく、メンテナンスはセイコーサービスセンターのみとなっています。また充電池交換だけを受け付けてはもらえず、必ずオーバーホールを行わなければなりません。価格は12,000円~です。
民間修理業者で受け付けてくれるところもあるようですが、独特な機構であるため、あまりお勧めはできません。また、使用頻度によって寿命が変化するため、あまりお使いにならないと5年持たずして電池交換が必要になることもあります。
どれだけ時計を身に着けるのか、どれだけ大事にできるのか。
キネティックを最大限楽しむには、相応の時計に対する愛情が試されます。
キネティックの充電方法
キネティックは完全に充電がなくなってしまうと、稼働させるのに時間がかかります。
キネティックはリューズではなく、時計を振ることで充電され、説明書には「1秒間に2往復の早さで、約20cmくらいの距離を往復させるように振る」と書かれています。
約100回で6時間ほど使用できる状態となり、約200~250回振ることで1日の充電量を確保することができます。
日常的に時計を使用しているのであれば問題ありませんが、デスクワークの仕事であまり動かない方だとたまに振らなければならないかもしれません。
ただ、この手間はキネティックの魅力でもあります。
キネティックの豊富なデザイン
その使い勝手から好みが分かれるキネティックですが、ソーラー時計のようにソーラーパネルを露出させる必要がないためデザインの制約は少ないです。
そのため男らしいスポーツウォッチや端正なドレスウォッチなど多種多様なバリエーションが存在します。
今回は日本限定で販売された魅力的なモデルをご紹介させて頂きます。
セイコー ランドマスター サウスポール セラミック 大場満郎 限定800本 SBCW023
素材:チタン×セラミック
ケースサイズ:直径 41.0mm
全重量:134g
文字盤:ブラック
インデックス:ルミノバ夜光
ムーブメント:キネティック
防水性能:200m
1999年に800本限定で販売された「ランドマスター サウスポール」。
冒険家大場満郎氏が世界で初めて北極海単独徒歩横断に成功したことを記念して作られたモデルです。
軽く丈夫な時計であることをコンセプトに作られたため、ケースにはチタンが採用されています。簡易方位計として使用されるベゼルは、万が一の破損を避けるためにステンレスよりも軽く強度の高いセラミックを使用しています。
セイコー ランドマスター 大場満郎モデル SBCW009
素材:チタン
ケースサイズ:直径 45.5mm
全重量:107g
文字盤:ブルー
インデックス:バー
ムーブメント:キネティック
防水性能:200m
こちらも冒険家大場満郎の北極海単独徒歩横断に成功記念モデルです。踏破距離である1877キロにちなみ、1877本限定で発売されました。
文字盤には北極海の地図が描かれ、大場満郎氏が徒歩横断をした時のスタート地点とゴール地点がマークされています。
軽量の純チタンが採用されており、迫力のケースサイズを持ちながらも非常に軽いモデルです。
セイコー クラウン クロノグラフ 限定300本 SBCG003
素材:ステンレススティール×セラミック
ケースサイズ:直径 45.0mm
全重量:165g
文字盤:シルバー
インデックス:-
ムーブメント:キネティック
防水性能:100m
国産初のクロノグラフウォッチ「クラウンクロノグラフ」の誕生40周年を記念した300本限定モデルです。
セラミックに黒べゼルを採用し、シースルーの裏蓋には日の丸をモチーフとしたマークが入っています。 独特なダイヤルデザインを持つため、キネティック搭載モデルの中でも人気が高いです。
当記事の監修者
廣島浩二(ひろしま こうじ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年