「セイコーのスプリングドライブって何がすごいの?」
「スプリングドライブのメリット・デメリットについて知りたい」
国内のみならず海外からも高い評価を獲得しているセイコー独自の機構「スプリングドライブ」。
自動巻きとクォーツの良いとこ取りの機械とよく言われていますが、具体的にどのような機械なのか知る人は少ないです。
そんなスプリングドライブのメリット・デメリットについて知りたいという人は多いのではないでしょうか。
スプリングドライブは、機械式時計の精度に不満を持っていた方におすすめの機構です。
この記事ではスプリングドライブのメリット・デメリットを、GINZA RASINスタッフ監修のもと解説します。
機械についての詳細や寿命についても解説しますので、セイコーウォッチの購入をお考えの方はぜひ参考にしてください。
目次
スプリングドライブとは?
スプリングドライブは機械式時計のギミックを持ちながらもクォーツ時計の精度を持つハイブリットな機構です。
セイコーによって開発された画期的なムーブメントであり、他社では決して真似できない独自の技術がふんだんに盛り込まれています。
出典:https://www.grand-seiko.com/jp-ja/special/milandesignweek/2019/springdrive/
スプリングドライブの外観はどこから見ても機械式ムーブメントです。
動力源はゼンマイ。針を動かしているのは歯車になります。
ここまでは完全に機械式時計です。
ただ、針の動きを制御する調速機構、機械式ではテンプ・アンクルで構成されている部分がクォーツ時計に使われている水晶振動子やICに変わっています。
つまり、ほぼ機械式の構造の中で心臓部といってもいい調速機構のみクォーツ式にしたものが「スプリングドライブ」ということになります。
クォーツの精度を持つ機械式時計。
テンプが無いので衝撃に強い。
などなど、機械式時計とクォーツ時計のいいとこ取りな時計として高い評価を集めています。
グランドセイコーにはメカニカル(自動巻き)・クォーツ・スプリングドライブの3つのラインナップが用意されています。
どのモデルもそれぞれ異なる特徴を持ちますが、スプリングドライブは他の2つよりもケース径が大きく厚みがあるという特徴を持ちます。
スプリングドライブは構造上ムーブメントに厚みが出やすく、それに伴い時計本体の大きさも迫力のあるサイズ感となっています。
そのため、メカニカルやクォーツよりもスポーティーな印象を与え、力強いデザイン性をもつモデルが多いです。
スプリングドライブのメリット
世界で唯一セイコーしか作ることができない画期的なムーブメント「スプリングドライブ」。
一般的な機械式時計やクォーツ時計にはない魅力的なメリットが多数存在します。
メリット1.流れるように動くスイープ運針
クォーツムーブメントはカチカチと1秒ごとに針が進むステップ運針、機械式時計はチチチチとスムーズに運針するスイープ運針です。
スプリングドライブに関しては駆動方式が機械式なのでスイープ運針が採用されています。
電子制御されているせいか、一般的なスイープ運針よりも流れるように動くのが特徴です。
ちなみにスプリングドライブは運針の音がありません。非常に静かに動くため、これもメリットと言えるでしょう。
メリット2.圧倒的な精度
スプリングドライブは制御システムにクォーツを使用しているので、月差±15秒程度しか誤差が生まれません。
機械式時計は日差±15秒程度は当たりまえですので、精度に関しては機械式時計を遥かに凌駕する高精度を誇っています。
なぜそこまで精度に差が出るのかというと、セイコーのクォーツ(水晶)は、3か月間かけてエイジングさせ、厳しい基準をクリアした水晶だけを選別して採用しているからです。
数多く量産されている一般的なムーブメントに採用されている水晶とはまるで品質レベルが違います。
メリット3.クォーツよりもトルクが強い
クォーツ時計は正確な精度を誇りますが、機構の性質的にトルク(ねじりの強さ)が弱く、重い針を乗せることができません。そのため、針の質感が貧相になりがちなのが欠点です。
しかし、スプリングドライブは歯車によって力を伝達しているため、機械式時計と同等のトルク力を持ちます。
搭載できる針の幅が広く、デザインに幅があるのも大きなメリットです。
スプリングドライブのデメリット
スプリングドライブは万能なムーブメントですが、完璧ではありません。デメリットも存在することを知っておく必要があります。
デメリット1.価格が高い
スプリングドライブはハイブリット機構であるが故、どうしても平均価格が高くなります。
セイコーの機械式時計は低価格モデルであれば2~3万円程度で購入することができますが、スプリングドライブは製造コストがかかるため、20万円以下のモデルは殆ど存在しません。
予算の少ない方にとっては、手が出にくい機構だといえます。
デメリット2.時計の選択肢が少ない
スプリングドライブが発表されたのは2004年のことで、それから約15年の間に多くのスプリングドライブ搭載機が世に放たれました。
しかし、まだまだ豊富なラインナップが用意されているとはいえません。
デザインが拘りぬかれた人気モデルは幾つも存在しますが、スプリングドライブの名が世界に浸透するにはもう少し時間がかかりそうです。
デメリット3.修理が難しい
スプリングドライブを手にするうえで、気にしておかなければならないのは修理が難しいということ。
アナログな機械式ムーブメントとは異なり、スプリングドライブは電子制御を使用しているため、症状によっては民間の修理業者では修理ができません。
そのため、メンテナンスの依頼はメーカーでの正規修理が基本となります。
スプリングドライブの寿命
機械式時計はメンテナンスを怠わることをしなければ、一生モノの時計として使えます。対して、クォーツ時計はどうしても電子回路の劣化があるため、約10年という寿命があります。
ではスプリングドライブはどうなのでしょうか?
答えとしては、寿命はありません。
定期的なオーバーホールを施せば機械式時計と同じく一生使い続ける事ができます。
スプリングドライブは水晶振動子やICを使用していますが、電子回路は使用していません。駆動自体は一般的な機械式時計と変わらないため、クォーツ時計のように明確な寿命は無いのです。
仮にIC回路に不具合が生じたとしても、該当パーツだけを交換すれば再び時を刻むようになります。
スプリングドライブの海外での評価
グランドセイコーは2010年から海外市場に本格参戦し、2017年にはグランドセイコーとしてセイコーから独立しました。
まだ市場に出回ってから約10年しか経過していませんが、海外からの評価は年々高まっています。
また、グランドセイコーの評価だけでなく、「スプリングドライブ」という機構に対しても海外から絶大な評価を集めています。
国際的な展示イベントにおいてもスプリングドライブ搭載機は圧倒的に注目を浴びており、アジアは勿論、ヨーロッパやアメリカでも圧倒的な人気を博しています。
当店においてもロレックスの次くらいに問い合わせが多く、楽天のグローバルマーケットでも高級時計の1番人気はグランドセイコーです。
ラインナップの中でスプリングドライブが売れ筋であることは言うまでもありません。
さて、では何故これほどまでにスプリングドライブは海外から評価を受けているのでしょうか?
それはスイス時計には存在しない圧倒的な差別化が図られているからでしょう。
日本が生み出した超高性能ムーブメント「スプリングドライブ」はグランドセイコーだけにしか作り上げる事ができない世界屈指の技術によって製造されています。
ロレックスやオメガといった名門であっても真似することはできず、グランドセイコーならではの特別感があります。
また、海外のコレクターはグランドセイコーの時計が「完全自社生産」によって創り上げられていることにも注目しているようです。
パーツの一つ一つを自社で製造しているブランドは世界を見渡しても殆どなく、その一角を占めるセイコーには尊敬のまなざしが向けられています。
「オートクォーツ」「キネティック」「メカクォーツ」との違い
スプリングドライブと「オートクォーツ」「キネティック」「メカクォーツ」の違いが分からないという方も多いので、こちらも解説致します。
まず、オートクォーツとキネティックは呼び方の違いだけで同じ機構のことを指します。
どちらも発電式クォーツになり、クォーツのムーブメントを自動巻きのローターを使って充電用電池を充電して動かす機械になります。
↑キネティックムーブメント
次に、メカクォーツ。
基本はクォーツ時計ですが、クロノグラフの0に戻す機構のみを機械式にしたユニークなムーブメントです。
動力源は電池で動いています。
これら3つは、クォーツに少し手を加えている機構であり、機械式時計とは全く異なる機構と言えます。
まとめ
機械式時計と良さとクォーツ時計の良さを兼ね備えるスプリングドライブ。機械式時計の精度に不満を持っていた方にとっては、これ以上ない選択肢だと思います。グランドセイコーはスプリングドライブに年々力を入れていますので、これから私たちの心を魅了する素敵な名作が誕生していくことでしょう。
今から10年、20年後。セイコーのスプリングドライブが世界中で評価されることが楽しみでなりません。
当記事の監修者
廣島浩二(ひろしま こうじ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年
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