機械式時計を購入する醍醐味として、今愛好家の中で「シースルーバック」が人気です。
折角機械式時計を手に入れるなら、その精密なムーブメントの動きが見たいと思うことは当然のこと。
今回は高級時計を趣味にするなら知っておきたいシースルバックの基礎知識について解説致します。
目次
シースルーバックとは?
シースルーバックは「裏スケルトン」「トランスパレントバック」とも呼ばれるガラス張りの裏蓋のことです。
サファイアガラスが普及する前は殆ど見受けられなかった仕様ですが、現在はどんどん普及率が増え、数多くの一流ブランドに採用されるようになりました。
ただ、面白いのはブランドによってシースルバックを好むブランドと好まないブランドがあることです。
例えばパテックフィリップやランゲ&ゾーネ、タグホイヤー、パネライといったブランドはシースルーバックを好みますが、ロレックスやブライトリングはシースルーバックを採用していません。
そして、各ブランドのシースルーバックへの姿勢を分析すると、メリット・デメリットが浮き彫りになります。
シースルーバックのメリット
一般的なソリッドバック(シースルーバックではないこと)は堅牢度は高いものの、歯車が精密に絡み合う姿は見ることができません。
しかし、シースルーバックであれば、サファイアガラスに見える機械式ムーブメントの美しさを堪能することができます。
これこそがシースルーバックの一番のメリットです。
高級時計はカジュアル時計よりも趣味性が高いため、ムーブメントが見れる見れないは非常に重要なポイントとなります。
時計の精度やステータス性はもちろんのこと、芸術性や装飾も評価の対象となるため、シースルーバックを採用するメリットは実に大きいです。
シースルーバックのデメリット
シースルーバックを採用するうえでネックとなるのが耐久性の問題です。
いくらキズが付きにくいサファイアガラスといえども、大きな衝撃を与えてしまうと割れてしまいます。
全面サファイアガラスである以上、衝撃に対する強さは劣るというわけです。
また、シースルーバックにはムーブメントに注されたオイルが乾きやすい、防水性が下がる、磁気に弱くなるといったデメリットもあります。
ブランドごとのシースルーバック採用状況
シースルーバックのメリット・デメリットがわかったところで、どんなブランドのどんなモデルにシースルーバックが採用されているのかをご紹介いたします。
あなたが気に入ったモデルは果たしてシースルーバック仕様なのか否か。
この機会に確認してみましょう!
ロレックス
ロレックスの時計は実用性を何よりも重視しています。ムーブメントも機能性重視であり、視覚的な美しさには趣をおいていません。
そのため、ケースバックにはシースルーバックではなく強固な防水性を持つねじ込み式裏蓋を採用しています。
モデルによって仕様は異なりますが、シースルーバックを採用したモデルは存在しません。
パテックフィリップ
時計界の頂点に君臨するパテックフィリップ。ムーブメントの装飾や美しさを非常に重要視しているため、ノーチラス・アクアノートといったスポーツウォッチを中心に、シースルーバック搭載機が目立ちます。
左:ノーチラス 右:アクアノート
どのモデルもサファイアガラスから美しいムーブメントを眺めることが可能ですが、ノーチラスに搭載されたマイクロローターはパテックフィリップならはメリットがあります。
通常自動巻きローターはその利便性と引き換えにムーブメントの外観を塞いでしまいますが、マイクロローターはその面積を抑えることで、視覚的な美しさと機能性を両立させることに成功しています。
これは雲上時計ブランドだからこそ成せる匠の技です。
オーデマピゲ
オーデマピゲもパテックフィリップと同様に、シースルーバックが多いです。
定番人気モデルのロイヤルオークに関しても、現行15500STと旧型15400STはシースルーバックです。
左:15500ST 右:15400ST
ロイヤルオークのすごいところはシースルーバックでありながらも100m防水を実現していることです。
全てではないにしろ、堅牢性が低いというデメリットを見事に克服しており、時計ファンの理想を見事に体現することに成功しています。
ランゲ&ゾーネ
世界一美しいムーブメントを作るブランドと称されるランゲ&ゾーネ。ケースバックはもちろん自慢のムーブメントが前面に楽しめる設計となっています。
高級機ばかりがラインナップされているブランドということもあり、シースルーバックから覗けるムーブメントはどれも美術工芸品と呼べる仕上がりです。これほどまでにシースルーバックを生かすブランドはランゲ&ゾーネの他に見当たりません。
ブライトリング
プロの計器として玄人から絶大な支持を集めるブライトリングの時計。ロレックスと同じく実用性と信頼性を何よりも重視しているため、シースルバックを採用せず、堅牢度を極限まで追求しています。
パイロットウォッチ、ナビタイマー、スーパーオーシャン。どのコレクションもケースバックはステンレスです。
オメガ
オメガは柔軟にシースルーバックとソリッドバックを使い分けている印象を受けます。同じコレクションでケースバックの仕様がモデルによって異なるため、時計選びの際はよくチェックしておく必要があります。
311.30.42.30.01.005
311.30.42.30.01.006
例えば定番人気モデルのスピードマスターにはシースルータイプとステンレスタイプが存在します。
IWC
おしゃれ時計の代名詞といえるIWCですが、実はシースルーバック仕様のモデルは少なく、ポルトギーゼ・ポートフィノ・パイロットウォッチといったフラグシップモデルの多くは裏蓋にステンレスを使用しています。
IWC IW371446 青針
一番人気のポルトギーゼもケースバックはステンレス。
ただ、定価100万円を超えるハイエンドモデルに関してはシースルーバック仕様のモデルが多く、その中でも背面全体をサファイアガラスにしたキャリバー52010搭載モデルは人気が高いです。
ポルトギーゼ オートマティック IW500701
このIW500701は機械式ムーブメントの精密さを体感できる名作です。何よりも機械式の美しさを感じたいという方にとっては最適なモデルでしょう。
タグホイヤー
タグホイヤーはシースルーバックの採用率が高いブランドです。ダイバーズウオッチであるアクアレーサーはステンレスやブラックチタン製の裏蓋が採用されていますが、カレラやモナコにおいてはタグホイヤーが誇る自社製ムーブメントの精密な動きが楽しめます。
左:カレラ ホイヤー02 右:モナコ
なお、タグホイヤーはシースルーバックでありながらも耐久性が重視された設計となっています。
性能に対するコストパフォーマンスの高さは目を見張るものがあります。
まとめ
シースルーバックは背面をガラス張りにした高級時計ならでは美しい仕様です。
サファイアガラスを配することで、機械式ムーブメントの美しさを引き立たせることに成功しています。
ムーブメントを視覚的に楽しめる楽しめないは時計を買う上で大きなポイントとなりますので、購入の際はぜひ裏面をチェックしてみてください。
当記事の監修者
田所 孝允(たどころ たかまさ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 営業物流部長/p>
1979年生まれ 神奈川県出身
ヒコみづのジュエリーカレッジ ウォッチメーカーコース卒業後、かねてより興味のあったアンティークウォッチの世界へ進む。 接客販売や広報などを経験した後に店長を務める。GINZA RASIN入社後は仕入れ・買取・商品管理などの業務に従事する。 未だにアンティークウォッチの査定が来るとついついときめいてしまうのは、アンティーク好きの性分か。
時計業界歴18年。