ラッカーダイヤルは、ラッカー仕上げと呼ばれる装飾技法で作り出された文字盤のことを指し、独特の光沢感や高い耐久性を備えています。
エナメルのような高級感のある艶や、カラフルで複雑な色みを楽しめることから、ラッカーダイヤルが使用されているモデルは、どれも高い人気を誇っているのです。
今回は、そんなラッカーダイヤルを生み出す「ラッカー仕上げとは何か?」や、その魅力について、詳しく解説します。
目次
腕時計の文字盤「ラッカー仕上げとは何?」
ラッカー仕上げとは『文字盤に「ラッカー」という塗料を薄く、均一に吹き付け、乾燥させる』という工程を何度も繰り返す塗装方法のことです。
ラッカーには無色と色付きの両方の塗料が存在し、使い分けることで素地の色みを活かすこともできれば、塗装による鮮やかな色みを楽しむことも可能です。
なお、塗料を吹き付ける回数は、耐久性や塗装による色みの出し方などによって異なりますが、一般的に5〜6回程度で仕上げられます。
また、近年は「ポリッシュラッカー」と呼ばれる新しいラッカー仕上げの手法が主流になってきています。
これはラッカーを何層にも重ねて表面を研ぎ上げる手法のことで、塗料の進化によって以前よりも多く塗料を重ねてもひび割れが生じにくくなったことにより、可能になりました。
ポリッシュラッカーは従来のラッカー仕上げに比べてより鮮やかな発色と、優れた耐久性が得られるというメリットがあります。
ちなみに、H.モーザーの「フュメダイアル」は、文字盤の外観が濃く内側が薄くなっていく独特のグラデーションが特徴で、こちらもラッカー仕上げによるものです。
このように、ラッカー仕上げの手法を用いれば、文字盤の内側と外周で塗料の吹き付け方に変化をつけることができ、文字盤に複雑な表情を与えることが可能になるのです。
ラッカー仕上げ文字盤「ラッカーダイヤル」の魅力
ラッカーダイヤルの魅力は、一体どこにあるのでしょうか?
まず、塗料を何層にも重ねることから、耐久性が高められるという特徴があります。
また、艶感のあるしっとりとした上品な色みに仕上がるのも魅力の一つです。
最近は、より鮮やかな色みの文字盤が流行る傾向にあるため、ラッカーダイヤルが使用された時計は今後も広まっていくでしょう。
さらに、ラッカー仕上げのダイヤル表面を磨き上げることでエナメルに似た独特の光沢感を出せるのも、ラッカーダイヤルの特徴の一つです。
別名「ミラーダイヤル」と呼ばれ、コレクターの間では非常に人気が高く、高値で取引されています。
ラッカーダイヤルのおすすめ腕時計
ラッカーダイヤルの魅力について触れたところで、この項目ではラッカーダイヤルが使用されているおすすめの腕時計を厳選して紹介します。
ご紹介するラッカーダイヤルが美しいブランドの時計は、以下の4つです。
- ロレックス「オイスター パーペチュアル 41」
- グランドセイコー「SBGR325」
- オーデマピゲ「CODE 11.59」
- オメガ「スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル」
次の項目から、それぞれ詳しく解説します。
ロレックス「オイスター パーペチュアル 41」
型番:124300
素材:ステンレススティール/SS
ケースサイズ:直径 41mm (リューズ含まず)
文字盤:グリーン/Green
駆動方式:自動巻き/Self-Winding
ロレックス「オイスター パーペチュアル 41」は、ヴィヴィッドなグリーンの文字盤が印象的なモデル。
この鮮やかな色彩を作り出しているのが、まさにラッカー仕上げです。
真鍮の文字盤の上には合計6層ものラッカー塗料が丁寧に重ねられ、ムラのない美しい色みに仕上げられています。
さらに、工程の最後でニスが塗られ、磨き上げられることで輝きと深みが加えられています。
グランドセイコー「SBGR325」
型番:SBGR325
素材:ステンレススティール/SS
ケースサイズ:直径 37mm (リューズ含まず)
文字盤:スカイブルー/Sky Blue
駆動方式:自動巻き/Self-Winding
グランドセイコー「SBGR325」は、グランドセイコーの「キャリバー9S 」の25周年記念限定モデルとして発売されました。
キャリバー9Sの製造地「グランドセイコースタジオ 雫石」がある岩手県には、日本百名山にも選定されている岩手山があります。
グランドセイコー「SBGR325」は、この岩手山の山頂から中天を見上げた情景をダイヤルと回転錘で表現したデザインとなっています。
澄み切った空のようなスカイブルーのダイヤルは、ラッカー仕上げによるもの。
爽やかさと透明感を兼ね備えた非常に美しいモデルです。
オーデマピゲ「CODE 11.59」
型番:15210BC.OO.A068CR.01
素材:ホワイトゴールド/WG
ケースサイズ:直径 41mm (リューズ含まず)
文字盤:バーガンディ/Burgundy
駆動方式:自動巻き/Self-Winding
オーデマピゲ「CODE 11.59」は、少し大振りなサイズ感でありながら、シンプルなドレスウォッチのように上品で主張しすぎない存在感が魅力です。
また、時計を横から見ると、オーデマ ピゲのアイコンである8角形のインナーケースがサンドイッチされており、さまざまな角度からその造形美を楽しむことができます。
こちらの個体は、ホワイトゴールドのケースにラッカー仕上げによって作り出されたダークトーンのバーガンディーカラーの文字盤が、美しくクラシカルな印象のデザインとなっています。
オメガ「スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル」
型番:310.30.42.50.04.001
素材:ステンレススティール/SS
ケースサイズ:直径 42mm (リューズ含まず)
文字盤:ホワイト/White
駆動方式:手巻き/Hand-Winding
オメガ「スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル」は、アポロ11号の宇宙飛行士が人類史上初めて月面着陸した際に着用していた第4世代のスタイルを採用しています。
モノトーンの文字盤に赤い「Speadmaster」の文字がアクセントとなっているデザインは、宇宙飛行士が着る宇宙服の色にインスピレーションを得たものだそう。
さらに、全体にはラッカー仕上げが施されていて、独特の艶が高級感を与えてくれています。
ラッカーダイヤルとエナメルやガルバニックダイヤルの違い
時計の文字盤には、ラッカーダイヤル以外にもエナメルやガルバニックダイヤルといった種類があります。
エナメルダイヤルは、その名のとおり文字盤の表面にエナメルのような艶があるのが特徴です。
これに対してラッカーダイヤルは、塗料の吹き付け方や表面の磨き上げ方によって独特の光沢感が得られ、この光沢がエナメルダイヤルのそれとよく似ていることが知られています。
また、ガルバニックダイヤルは、ラッカーダイヤルと同じく耐久性に優れているとされています。
では、ラッカーダイヤルとエナメルやガルバニックダイヤルには、どのような違いがあるのか、不思議に思った方も多いでしょう。
じつは、エナメルやガルバニックダイヤルは、ラッカーダイヤルとはまったく違う技法で作り上げられているのです。
次の項目から、詳しく解説します。
エナメルダイヤルとは?
エナメルダイヤルは、文字盤の表面に釉薬を塗り、高温で焼き上げることにより作り出されます。
その作り方にもいくつか技法が存在し、1000度以上の高温で焼成させる技法は「グラン・フーエナメル」と呼ばれます。
これは、炎が出るほどの高温を用いることから、フランス語で炎を意味する「feu」に由来するのです。
また、文字盤の地金を彫って絵柄を描き、描いた絵柄に合わせて釉薬を流し込んで焼き上げるという技法もあります。
この技法は、絵柄の描き方によっても呼び方が異なり、土台となる金属の上に1mmにも満たない金線を貼り付けて輪郭線を描き、できた枠内を釉薬で埋める技法のことを「クロワゾネエナメル」と呼びます。
また、地金に立体的なポケット状の穴を彫り、そこに釉薬を流し込む技法を「シャンルベ」と呼ぶのです。
[釉薬・・・素焼きの段階の陶磁器の表面などに塗っておく薬品のこと。焼成によってガラス質に変化し、水の浸透を防いだり、光沢を出したりする効果がある。]
[焼成・・・ある材料や品物を高熱で焼いて性質を変化させること。]
ガルバニックダイヤルとは?
ガルバニックダイヤルは、文字盤の表面をメッキ加工したダイヤルのことです。
メッキ加工することにより文字盤の表面がコーティングされ、元々の材質にはなかった耐腐食性や耐久性が生まれます。
メッキ加工とは
対象物を溶液に浸すことで、表面に金属の皮膜を作り出す加工方法のこと。
まとめ
ラッカーダイヤルは、美しい艶と鮮やかな色みを兼ね備えており、それゆえに複雑でバリエーションに富んだ表情を作り出すことが可能です。
近年ではより鮮やかな文字盤を備えた時計が好まれる傾向にあるため、トレンドに敏感な方にもおすすめできるモデルといえるでしょう。
ラッカーダイヤルはさまざまなブランドウォッチで採用されているので、ぜひ自分の好みに合った一本を探してみてはいかがでしょうか?
当記事の監修者
廣島浩二(ひろしま こうじ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年