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126660と136660の違いとは?ロレックス ディープシー比較【2022年 新作】
最終更新日:
「ロレックス ディープシー126660と136660の違いって何だろう?」
「ロレックス ディープシー126660と136660だったらどちらを選んだら良い?」
2年ぶりにオフラインでのリアル開催が行われた時計業界の新作見本市Watches and Wonders Geneve。
各社から銘品のお披露目が続々行われましたが、ひときわ注目度の高いブランドと言えば、ロレックスではないでしょうか。
2022年、ロレックスからは左リューズのGMTマスターIIや新型エアキング等、特筆すべき新作がローンチされましたが、やや近年の同社の傾向と異なっていたのが新型シードゥエラー ディープシー 136660の存在です。
一見すると「どこが新しくなったのか」わかりづらい126660と136660の違いについて知りたいという人は多いのではないでしょうか。
2つのモデルの違いはマイナーチェンジ程度のものです。
この記事ではロレックス ディープシー126660と136660の違いを、GINZA RASINスタッフ監修のもと解説します。
中身の仕様の違いについても解説しますので、GMTマスターのご購入をお考えの方はぜひ参考にしてください。
出典:https://www.rolex.com/ja
目次
ロレックス シードゥエラー ディープシー新旧モデル 126660と136660
ロレックスの防水技術の歴史を体現するかのような存在がシードゥエラー ディープシーです。
まず1967年、サブマリーナの上位機種としてシードゥエラーが誕生しています。フランスの潜水調査会社コメックス社の協力を経て、当時としては610mという驚異的な防水性を獲得したシードゥエラーですが、世界初のヘリウムエスケープバルブを搭載した飽和潜水対応ダイバーズウォッチでもあります。
※飽和潜水・・・深い地点に長時間潜る際に用いられるダイビング手法で、潜水前にあらかじめ高圧酸素・ヘリウム混合ガスで人体の内部を飽和させた状態にすることです。人体は地上にいる時と比べて、深海の水圧にさらされると体内でガスに含まれる窒素等が溶け込みます。この状態で浮上すると圧力が低下するにつれて体内のガスが過飽和状態となり、減圧症を引き起こしてしまいます。そこで高圧酸素・ヘリウム混合ガスで飽和させておくことで深海の水圧下と同等の体内を作り、しかる後に潜水することで潜水時・浮上時の圧力差を狭める、というのが飽和潜水の考え方です。
この飽和潜水、加圧・減圧時に、ヘリウムを始めとした気体が時計ケース内部に入り込むことがあります。こうなってくるとケース内外に圧力差が生じてしまい、内部機構に影響を与えることがあります。そこでハイスペックなダイバーズウォッチでは、このヘリウムを逃すための「ヘリウムエスケープバルブ」を搭載。可動式バルブによってヘリウムガスを外部に排出する仕組みを備えますが、これに先鞭をつけたのがロレックスとなります。
なお、シードゥエラーは技術進歩によって、後に1,220m防水の実現へと至りました。
一方で2000年代に入ると、ロレックス以外の時計ブランドもハイスペック・ダイバーズウォッチを手掛けていくようになります。現在でも1,000m超えのダイバーズウォッチは驚異的ですが、ロレックスではまだ足りぬと思ったか。2008年に当時まで製造されていたシードゥエラー Ref.16600を生産終了とし、代わって3,900m防水を誇るシードゥエラー ディープシー 116660をリリースすることとなりました。
※2008年に発表されたシードゥエラー ディープシー 116660
発表当初はブラック文字盤のみのラインナップだったものの、2014年に深海を思わせるD-BLUEダイアルを追加(同年にシードゥエラーも回帰)。これは映画監督であり探検家でもあるジェームズ・キャメロン氏の偉業を讃えた特別カラーのモデルとなります。
この偉業とはジェームズ・キャメロン氏が2012年3月、一人乗りの潜水艇「ディープチャレンジャー号」でマリアナ海溝チャレンジャー海淵に到達したことを指しています。チャレンジャー海淵への有人潜水は1960年以来、二度目となり、単独潜水としては初めての偉業です。
ジェームズ・キャメロン氏の世界最深部への挑戦という話題性もさることながら、D-BLUEダイアルの美しきグラデーションカラーが功を奏し、ディープシー人気は一気に高まっていくこととなりました。
2017年、かの有名な「赤シード」のリバイバルを添えて1,220m防水のシードゥエラー 126600もカタログに誕生したことで、ロレックスのハイスペック・ダイバーズウォッチのラインはいっそうの華やぎを増していきます。
※余談ですが、1950年代~60年代にテストモデルとしてロレックスから「ディープシー スペシャル」が製造されています。
これは水深10,000m防水仕様のウォッチであり、潜水艇「トリエステ号」の船外に装着することで試作が行われました。1960年にはトリエステ号のマリアナ海溝潜水時に船外にて装着され、1万916mもの深さに耐えたことが確認されています。
肉厚ケースに水圧でも割れない球体ガラスを有していることがディープシー スペシャルの大きな特徴となり、ほとんど一般市場には出回らないものの、ロレックスの優れた防水技術とその革新に触れられるテストモデルと言えます。ちなみに前述したジェームズ・キャメロン氏のチャレンジャー海淵到達時、潜水艇にディープシー スペシャルを載せていたと言います。
出典:https://www.rolex.com/ja
なお、このディープシー スペシャルは2021年11月のフィリップス及びクリスティーズと二つのオークションにそれぞれ出品されたことで大きな話題になりました。前者の個体(No.35)は105万8500スイスフラン、後者の個体(No.1)は189万スイスフランで落札されたとのことです。
さて、赤シードが発表された翌2018年、シードゥエラー ディープシーからも新作の発表が行われ、従来の116660から126660へとリファレンスチェンジしました。10年越しのモデルチェンジです(D-BLUE文字盤は2014年発表のため4年越し)。この際、大きく変わったのはムーブメントです。Cal.3135からCal.3235へと進化を果たしました。
ロレックスでは2015年以降、1980年代後半から長らく基幹機として用いられてきたムーブメントCal.3100系を、3200系へと順次載せ替えしていっています。Cal.3100系も傑出したムーブメントですが、3200系ではパワーリザーブが約70時間へと延長(3100は約48時間)。また耐磁性能に優れるブルーパラクロム・ヒゲゼンマイや耐震装置パラフレックス・ショック・アブソーバーが標準装備になったこと。カレンダー操作禁止時間帯がなくなったことなど、実用面で画期的な進化を遂げたことが大きな特徴です。ちなみに、3100系は運針を進めるリューズ操作が時計回り、3200系は反時計回りとなっております。
さらにこれまたロレックスの近年の新作傾向ですが、ラグがシャープ化してコマが幅広となるなど、外装にテコ入れが加えられています。
デザインや3,900m防水というハイスペックは先代から踏襲したものの、確実にアップデートされたシードゥエラー ディープシー。
しかしながら2022年、またもモデルチェンジが敢行され、リファレンスは136660へと変遷していったのです。
新旧でスペックを比較してみると、下記の通りとなります。
ディープシー126660 |
ディープシー 136660 |
|
---|---|---|
発表年 | 2018年 | 2022年 |
ケース径 | 44mm | 44mm |
防水性能 | 3900m | 3900m |
ムーブメント | Cal.3235 | Cal.3235 |
定価(黒/D-BLUE) | 1,538,900円/1,574,100円 | 1,538,900円/1,574,100円 |
ほとんど「変わらない」ことがおわかり頂けるでしょう。ムーブメントはもちろん、ダイナミックな直径44mmケースやブラック・D-BLUEの二色展開など、親しまれてきたディープシーがここにはあります。
しかしながらそこはロレックス。いくつかの仕様変更を経ております。
次項でご紹介いたします。
2022年ロレックス新作シードゥエラー ディープシー 136660は何が変わった?
2022年ロレックスの新作シードゥエラー ディープシー 136660のディテールを、先代126660と比較しながら見ていきましょう。
ロレックス ディープシー 126660と136660の違い①フリップロック エクステンションリンクの有無
出典:https://www.rolex.com/ja
ダイビングスーツの上からでも脱着できるよう、ダイバーズウォッチにはバックルにエクステンション機能が搭載されていることが多いです。
エクステンション機能は、工具を使わずにブレスレット内寸を延長するシステムです。
ディープシーにはグライドロック エクステンションシステムが搭載されており、取り付けられたセンターパネルを手前に引き出すことでバックル部分のブレスレットを、約2mm単位で最大約20mmの延長・短縮が可能となります。工具を使ってコマを外すことなく伸び縮みさせられるため、厚みのあるダイビングスーツの上からでも脱着可能というわけです(シードゥエラーにもグライドロック機能は搭載されていますが、こちらはセンターパネル式ではなく、ブレスレットを引き出すことで微調整を行います)。
さらにこのグライドロックに加えて、ディープシーにはフリップロック・エクステンションリンクも搭載されてきました。
グライドロックを利用してブレスレットを最大限延長させると、折り畳み式エクステンションをご確認頂けます。これがフリップロック・エクステンションリンクです。折り畳まれたリンクを開くことで、さらに約26mmの延長が可能になっているシステムです。
※画像の個体は116660となります
シードゥエラーではコンビの126603でこのフリップロック・エクステンションリンクが取り払われましたが、新作ディープシー 136660でも採用されなくなり、バックル延長機能はグライドロックシステムのみとなりました(なお、現在ロレックスのホームページ上では126600からもフリップロック・エクステンションリンクの文言が消えています)。
フリップロック部分の裏面には王冠マークが印字されていたのですが、通常コマと同一仕様になったのでしょう。
ロレックス ディープシー 126660と136660の違い②RLXチタン
シードゥエラーはリングロックシステムによって3,900m防水を実現していることは有名です。
出典:https://www.rolex.com/ja
このリングロックシステムは厚さ5.5mmのドーム型サファイアクリスタル,ミドルケースに内蔵された窒素合金ステンレススティール製(航空業界で使われるようなステンレスだとか)耐圧リング,グレード5のチタン製裏蓋によって構成されてきました。
深海へと近づくにつれて水圧は高まっていきますが、リングロックシステムはこの圧力を吸収して互いを締め付けあい、密閉性を高めていくというテクノロジーです。リングロックシステムはきわめて高い気密性と強度を持つのみならず、3,900m防水ながら約18mmという常識的なケース厚をも両立していることが特筆すべき点です。
ロレックスのスポーツモデルは基本的に外装にオイスタースティール(904Lスティール)を採用する一方で、ディープシーのリングロックシステムの裏蓋はグレード5チタンです。そしてこのグレード5チタンの名称が、RLXチタンへと変更されたようです。
チタンは強靭である一方で軽量な利点を持ち、また耐蝕性にも優れることから多くのブランドがダイバーズウォッチに採用してきました。ロレックスではケース素材に用いられることはありませんでしたが、リングロックシステムの裏蓋として重宝されています。
この裏蓋のグレード5チタンの名称が、RLXチタンとなったようなのです。
RLXチタンは聞き馴染みがありませんが、ロレックスが2021年、イギリスのセーリングの名選手ベン・エインズリー氏のために製造したプロトタイプのチタン製ヨットマスターの、素材がRLXチタンと称されていたようです。
ロレックスは「エバーローズゴールド」等、独自合金素材にロレックス由来の名称を付けることが珍しくありませんが、RLXチタンもまたそのうちの一つなのでしょう。
ロレックス ディープシー 126660と136660の違い③ベゼル・文字盤のディテール
出典:https://www.rolex.com/ja
新型シードゥエラー ディープシーではベゼルが僅かにスリムになり、またデイト窓も僅かに拡大したとのことです。
文字盤ディテールを改良してさらに視認性をアップしたり、デザインのバランスを整えるところにも、進化を止めないロレックスらしさを感じますね。
ロゴ等は変わっていないように見受けられ、ブラック文字盤の方は白と黒のコントラストが、D-BLUE文字盤の方はイエローグリーンの差し色がメリハリとなっています。
出典:https://www.rolex.com/ja
リファレンスチェンジの際に6時位置の王冠マークの有無が取り上げられることがありますが、ディープシーは126660の発売当初から既に王冠マークが存在する仕様でした。
ロレックス ディープシー 126660と136660、定価は変わらず
先代シードゥエラー ディープシー 126660の最終定価は黒文字盤が1,538,900円、D-BLUE文字盤が1,574,100円でした。新型シードゥエラー ディープシー 136660でも同一価格となっております。
ロレックスは2022年明けてすぐに定価改定を行い、ディープシーもその対象となりました。
新旧で大きくスペックを変えていないため、据え置きとなったのでしょう。
まだロレックスの新作モデルの入荷については聞きませんが(2022年4月現在)、今後の新旧相場が気になるところです。
2022年ロレックス新作シードゥエラー ディープシー 136660は中身も変わっていないのか?検証してみた!
繰り返しになりますが、デザイン面でもスペック面でもそう大きな変化は見られない新作シードゥエラー ディープシー 136660。
でも、それとは分からない箇所に変更を加えている可能性もあるのでは・・・?
そこで「リングロックシステム」に着目して、こちらに変更が加えられていないか検証してみました!
検証方法としては、先代126660のリングロックシステムを分解してみて、公式ホームページの最新版の図(すなわち136660の構造)と比較してみる、というものです。併せてムーブメントや文字盤も、136660の公式画像と126660に違いがないかを目視で検証していきます。
リングロックシステムを完全に分解してしまうと防水性が損なわれる可能性があるため、全てのパーツを細分化することはできませんでしたが、できる限りまで新型と比較検討してみました。
前項でも掲載いたしましたが、公式ホームページに掲載されている、リングロックシステムの構造はこちらの通りです。
出典:https://www.rolex.com/ja
前述の通りリングロックシステムは「厚さ5.5mmのドーム型サファイアクリスタルガラス」「窒素合金ステンレススティール製耐圧リング」「グレード5のチタン(現RXLチタン)製裏蓋」の3要素が主な構成となっております。
裏蓋は一般的な防水ウォッチに見られるねじ込み式ではなく、耐圧リングに圧着されています。
先代ディープシー 126660だと、裏蓋部分をこのように分解できました。
こちらが、グレード5チタン製の裏蓋です。
通常の防水ウォッチ同様、ゴムパッキンも用いられています。
耐圧リングはミドルケースとなっており、防水性を維持する観点から分解できませんでしたが、厚みのあるドーム型サファイアクリスタル風防とよく密着し、気密性を感じさせます。
なお、当店GINZA RASINの時計技師にホームページの構造と分解後の個体を比較してもらいましたが、これといった変わりは画像だけでは見受けられないとのことです。
ちなみにグレード5チタンの裏蓋は軽量であるにもかかわらず強靭さを感じさせます。
せっかくだからと文字盤・ムーブメントも目視でホームページの最新136660と比較・検証するものの、やはり日付窓以外に大きな変更点は見つけることができませんでした。
時計技師曰く、「現時点では何もわからないが、ムーブメントにチューニングが加えられているのかも」とのことでした。
確かに2018年発表のディープシー シードゥエラーに搭載されたCal.3235は前年のシードゥエラー 126600にも採用されるなど、比較的早い段階からリリースされているため、量産されていく中でなんらかを変更した部分もあるのかもしれません。
ともすれば地味とも捉えられがちな今回のディープシーのモデルチェンジですが、その地味さがミステリアス。
2022年に発表された新作のうち、最も新旧比較してみたいと思わせるモデルでした!国内入荷を待ちましょう!
まとめ
2022年にロレックスより発表された、新型シードゥエラー ディープシー 136660について、先代126660と比較しながら変更点を探ってみました!
フリップロック エクステンションリンクの撤廃や裏蓋の名称等、現時点ではマイナーチェンジと言える変化に留まる、新作モデル。ロレックスらしく、実直な改良が行われたということでしょうか。
当店GINZA RASINでも136660の実機が入荷しましたら、また改めて比較してみたいと思います!
当記事の監修者
池田裕之(いけだ ひろゆき)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 買取部門 営業企画部 MD課/買取サロン 課長
39歳 熊本県出身
19歳で上京し、22歳で某ブランド販売店に勤務。 同社の時計フロア勤務期に、高級ブランド腕時計の魅力とその奥深さに感銘を受ける。しばらくは腕時計販売で実績を積み、29歳で腕時計専門店へ転職を決意。銀座ラシンに入社後は時計専門店のスタッフとして販売・買取・仕入れを経験。そして2018年8月、ロレックス専門店オープン時に店長へ就任。時計業界歴17年