1940年代にロレックスが与えたペットネームを、今なお受け継ぐ「エアキング」。このペットネームは、現行ロレックスの中では最古としても知られています。
長らくオイスターパーペチュアルの中の1モデルでしたが、2016年にプロフェッショナルモデルとして独立。以降、エアキングは他コレクションとはまた違った独自路線を突き進むこととなりました。
そんなエアキング、2022年にモデルチェンジを果たします。型番はRef.116900からRef.126900へと変更されました。
内外ともに刷新された新型エアキングは、いったいどのような腕時計へと生まれ変わったのでしょうか。
この記事では、ロレックスの2022年新作エアキング Ref.126900を、先代Ref.116900と比較しながら実機レビューしていきます!
目次
ロレックス エアキング 126900と116900の概要
冒頭でもご紹介した通り、エアキングのペットネームは既に1940年代から誕生しておりました。
ペットネームとは、ロレックスが多彩な文字盤に与えていた愛称です。1940年代当時は「スピードキング」「コマンダーエベレスト」などといったペットネームが存在していましたが、現存する最古のものは「エアキング」となります。
ただ愛称を与えるのみならず、文字盤には独特の筆記でAir-Kingと記されるのも、エアキングの大きな特徴の一つですね。
そう、エアキングはその後も連綿とロレックス史の中で受け継がれていきますが、オイスターパーペチュアルの中の1モデルであったため、商品名などにはオイスターパーペチュアル エアキングと表記されます。
※上記画像は1990年頃~2000年頃まで製造されていたRef.14000 オイスターパーペチュアル エアキング。多彩な文字盤展開を行っており、またロレックスが高値続きの昨今においても、お得感の強いモデルとしても知られています。
そんなエアキング、2014年にオイスターパーペチュアルの文字盤からペットネームが消されます。
ついに生産終了かと思いきや、2016年、プロフェッショナルモデル 「エアキング Ref.116900」としてリニューアル。「空の王者」と訳されることからもイメージできるように、ロレックスではエアキングを「飛行のパイオニアたち、そして壮大な飛行史においてエアキングをオイスター(ロレックスの防水ケース)が果たした役割へのオマージュ」と位置付け、航空時計として独自路線を歩んでいくこととなりました。
そして2022年には、Ref.126900として、後続機が発表されます。
エアキング Ref.116900
素材:オイスタースティール
ケースサイズ:直径 40.0mm
駆動方式:自動巻き
ムーブメント:Cal.3131
パワーリザーブ:約48時間
防水性:100m
定価:793,100円(税込)
2016年にリニューアルした、Ref.116900エアキング。航空時計のコンセプトを有しますが、まず特徴的な文字盤が目に飛び込んできます。
12時位置の大きな三角形のマーク、3時・6時・9時位置のアプライドインデックス、5分刻みの大ぶりなミニッツスケール・・・これは、同モデル発表時期にロレックスがスポンサードしていた「ブラッドハウンドSSC」というプロジェクトの、航空ジェットエンジン搭載スポーツカーに用いられていたクロノグラフ計器と酷似します。
なお、ミルガウスのようにインナーケース(磁気シールド)を備えており、耐磁モデルとしても注目を浴びました。
緑のロレックスロゴと秒針が他のコレクションにはない個性を演出します。
エアキング Ref.126900
素材:オイスタースティール
ケースサイズ:直径 40.0mm
駆動方式:自動巻き
ムーブメント:Cal.3230
パワーリザーブ:約70時間
防水性:100m
定価:816,200円(税込)
対してWatches and Wonders Geneve 2022にて発表された新生エアキング Ref.126900。
計器を彷彿させる個性的なデザインはそのままに、より現代的なスペックに進化を遂げています。
なお、詳細なスペックは後述しますが、インナーケースはなくなっており、外装にもブラッシュアップが加えられています。
ロレックス 新型エアキング 126900を実機レビュー!
それでは実機を見ながら、新しいエアキング Ref.126900を知っていきましょう!
POINT①ケースのブラッシュアップ
基本的なデザインは先代から踏襲された新型エアキング Ref.126900。ヘアライン仕上げを基調としつつ、ベゼルやケースサイドといった随所にポリッシュ仕上げを施すコンビネーションによって、ラグジュアリーとスポーティーを両立させている点も、受け継がれています。
しかしながら、ケースが大きくブラッシュアップされており、従来とは趣を異にしています。
ブラッシュアップの最大のポイントは、リューズガードの採用ではないでしょうか。
左:新型 126900 右:旧型 116900
ロレックスのレギュラーモデルにおいて、過去、スムースベゼル×リューズガードの組み合わせは見受けられませんでした。ロレックスのリューズガードは、サブマリーナーやエクスプローラーII、ヨットマスター等、メモリ付きのベゼルを有したモデルへ搭載されてきたのです。
しかしながら新生エアキング Ref.126900において、スムースベゼル×リューズガードのデザインコードが確立することとなりました。
リューズガードは内部機械に影響を与えやすいリューズの堅牢性を高めるとともに、スポーツモデルらしい精悍な雰囲気が強まりますね。
ちなみにリューズも巨大化したと言われています。
リューズガードの搭載に伴ってか、ケースラインもまたリニューアルしていることが見て取れます。
従来、エアキングはラグからリューズにかけて、ふんわりと丸みのあるラインを描いており、デイトジャストなどを彷彿とさせるドレッシーな印象をも備えていました。しかしながら新生エアキング Ref.126900ではサブマリーナーやエクスプローラーIIなどと同様に、直線ラインが描かれ、ケース全体がシャープな印象をまとうこととなりました。
左:新型 126900 右:旧型 116900
このシャープな印象は、ケースが薄型化されたことも多分に寄与していることでしょう。
エアキングは新旧ともに直径40mmのケースサイズとなっておりますが、前述の通り、Ref.116900では採用されていたインナーケースが新生エアキングからは取り払われ、厚みが抑えられたというわけです。
ちなみに、このインナーケースはロレックスの耐磁モデルとして名高いミルガウスと同様、磁気シールドの役割で知られています。
さらに、近年の新作ロレックスで見られるブラッシュアップの一つにラグ・ブレスレット幅のリファインが挙げられますが、新生エアキング Ref.126900でも見て取れます。
ラグのテーパーがシャープになったことでブレスレットのセンターリンクの幅が僅かながら広がっており、より精悍な顔付きになりました。
全体的な重量も変化しており、Ref.116900が156g程度であったことに対し、Ref.126900は145gほどです。
薄型化・軽量化は、装着感向上に寄与していることも、特筆すべき点でしょう。
スポーツウォッチは堅牢性や耐久性を高めるために、ケース厚や重量が大きくなりがち。
デカ厚時計もカッコいいですが、装着感といった点ではやはり薄型ドレスウォッチに軍配が上がる傾向にあります。そこへきてロレックスはプロフェッショナルモデルでありながらも、新生エアキングのケース厚を約11mmほどにまとめ上げており、さすが実用時計の王者と言わざるをえません。
POINT②ブレスレット・バックルはよりスポーツへ
左:新型 126900 右:旧型 116900
ケース・ラグのリファインに伴い、前述の通りブレスレット幅が僅かながら広がりました。
かと言ってボリューミーすぎる印象はなく、全体的なバランスの整った、良いプロポーションを実現します。
さらに、バックルが従来のオイスタークラスプからセーフティキャッチ付オイスターロッククラスプになったこともミソ!
いっそうの堅牢性を備えたことは言わずもがな。
イージーリンクによってバックル部分で5mmの微調整ができるようになったため、より腕にフィットさせてエアキングを楽しむことができるでしょう。なお、腕にフィットさせられることも、前述した心地よい装着感への要因の一つとなります。
ケースのみならず、ブレスレット・バックルともに、高級スポーツウォッチとしての機能を強めたと言えますね。
POINT③針・文字盤もブラッシュアップ
左:新型 126900 右:旧型 116900
2016年以降、エアキングを特徴づけた一つが、独特な文字盤デザインです。
「Air-King」のロゴのみならず、ミニッツサークルおよびアラビア数字でミニッツインデックスが配されたブラック文字盤は、どのスポーツモデルとも趣を異にしており、これがエアキングの大きな特徴であり魅力となっていたものです。
このデザイン自体は踏襲されたものの、細かなディテールが改良され、ユーザビリティがより高くなっていることが新生エアキング Ref.126900からは感じられます。
まず大きな違いとして挙げられるのは、夜光です。
従来のエアキング Ref.116900は時分針の他、12時の三角マーカーにのみ夜光が塗布されていました。しかしながらRef.126900では3・6・9インデックスにも夜光がたっぷりと塗布され、暗闇での視認性はいや増しています。
さらにミニッツスケールの最初の「5」が「05」に変更されていますね。インデックスが全て2桁になることで、統一感と視認性が高まりました。
秒針のドットがボリューミーに、またベンツ針の先端が若干伸びたこともまた、視認性を高めるための改良と思われます。
POINT④新世代ムーブメントCal.3230
出典:https://www.rolex.com/ja
Ref.116900とRef.126900の決定的なもう一つの違いは、搭載ムーブメントです。
Ref.116900にはCal.3131が搭載されていますが、Ref.126900にはロレックスが「新世代」そして「最高の性能」と称する、Cal.3230が新たに採用されました。
ちなみにCal.3131は、ミルガウスにも搭載されている耐磁仕様のムーブメントです。
これまでミルガウス・エアキングのみは磁気シールドおよび専用ムーブメントが搭載されてきた形ですが、新生エアキングではエクスプローラーIやサブマリーナー ノンデイトなどと同様のCal.3230へと変更が加わりました。
もっとも、これは新生エアキングに耐磁性能が備わらなくなった、ということは意味しません。
新世代ムーブメントCal.3200系には、ニッケル・リン合金製のクロナジーエスケープメントやブルーパラクロムヒゲゼンマイといった耐磁性に優れた心臓部が採用されているのです。
またロレックスらしい高精度や耐衝撃性を有しつつも、約70時間のパワーリザーブを実現していることもCal.3200系の大きな特徴です。Cal.3131が約48時間のパワーリザーブであったことを鑑みれば、おおよそ一日分も延長された、というわけですね。
エアキング Ref.126900は、デザインは大きく変更されていないながら、内外ともに進化を果たしていることが随所から読み取れる新型機でした。
ロレックス 新生エアキング Ref.126900の国内定価と実勢相場
2022年3月末、時計業界の新作見本市Watches & Wonders Geneveで発表された新生エアキング Ref.126900。
徐々に国内流通もスタートしています。
エアキング Ref.126900
素材:オイスタースティール
ケースサイズ:直径 40.0mm
駆動方式:自動巻き
ムーブメント:Cal.3230
パワーリザーブ:約70時間
防水性:100m
定価:816,200円(税込)
国内定価は816,200円。
先代Ref.116900は793,100円でしたが、Ref.126900は新型ムーブメントが搭載されていること。また近年ではメーカーの定価改定が相次いでいることを鑑みれば、2万円ちょっとの価格差はむしろお値打ちと言えるのではないでしょうか。
もっとも、近年ロレックスを定価で購入することは、なかなか難しいと言わざるをえません。
人気モデルを中心に正規店では品薄が加速しており、ショーケースの展示物すら少ないなどといった声も聞こえます。
これは、ロレックスの供給・流通を遥かに上回る需要が世界的に高まっているため。これに伴い実勢相場は急騰の一途を辿っており、現在では少し落ち着きつつあるとは言え、現行プロフェッショナルモデルではまだまだ定価を下回るような相場下落は見受けられません。
とりわけ新作のように出回り始めの個体は、実勢相場も高値が続きます。
エアキングは他のプロフェッショナルモデルと比べるとお得感が強いモデルではありましたが、それでも近年では定価超えの実勢相場が続いており、新型エアキングも初値は190万円超を記録。
じょじょに出回りとともに落ち着いていくこととなりましたが、現在でも新品の並行相場は150万円台~と、プレミアム価格が続きます。
一方の先代エアキング Ref.116900、新作発表前後では170万円超の実勢相場を記録するも、現在では中古であれば110万円台~程度となっております。
とは言え、近年のロレックス相場は短期間でアップダウンを繰り返しています。
今後もエアキング相場から目を離さず、動向を追っていきたいと思います!
まとめ
2022年ロレックス新作エアキング Ref.126900を実機レビューしました!
オイスターパーペチュアルの派生モデルとして誕生したエアキングですが、Ref.126900にて完全なる独立したモデルへと進化を遂げました。
116900においてはオイスターパーペチュアルとミルガウスの中間的な存在でしたが、126900では個性的かつスポーティーなデザインに。
高級感あるブラック文字盤とインデックスはそのままに、より時計ファンに愛される一本に生まれ変わっています。
もっとも、生産終了となった116900もまた、名作であることは間違いありません。
つまり、旧型116900も新型126900も、ロレックスの注目モデル!
普段使いしやすい時計として、今後も人気を博し続けるでしょう。
当記事の監修者
池田裕之(いけだ ひろゆき)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 買取部門 営業企画部 MD課/買取サロン 課長
39歳 熊本県出身
19歳で上京し、22歳で某ブランド販売店に勤務。 同社の時計フロア勤務期に、高級ブランド腕時計の魅力とその奥深さに感銘を受ける。しばらくは腕時計販売で実績を積み、29歳で腕時計専門店へ転職を決意。銀座ラシンに入社後は時計専門店のスタッフとして販売・買取・仕入れを経験。そして2018年8月、ロレックス専門店オープン時に店長へ就任。時計業界歴17年