「デイトナ 16520って何がすごいの?」
「デイトナ 16520のムーブメントついて知りたい」
ロレックスのコスモグラフデイトナ 16520。
時代を経てなお多くのファンを魅了する人気モデルにして、1963年から受け継がれるデイトナの4世代目にあたります。
また、1988年にローンチされてから11年間製造されたロングセラーで、中古となってもなおニーズは高いままです。
そんなロレックスの中でも特別な存在であるデイトナ 16520は、同シリーズ史に大きな変革を起こしたモデルでもあります。
長い製造期間の中でファンによって細やかな体系化が進み、仕様によっては現行デイトナを大きく凌ぐ値付けが行われる個体も!
そんなデイトナ 16520について詳しく知りたいという人は多いのではないでしょうか。
デイトナ 16520は、ロレックス初の自動巻きクロノグラフです。
この記事ではデイトナ 16520の魅力や基礎知識を、GINZA RASINスタッフ監修のもと解説します。
実勢相場についても解説しますので、ロレックスの購入をお考えの方はぜひ参考にしてください。
目次
ロレックス デイトナ 16520とはどのような時計か?
DATA
素材:ステンレススティール
ケースサイズ:直径40mm×厚さ12mm
駆動方式:自動巻き
ムーブメント:Cal.4030
パワーリザーブ:約52時間
防水性:100m
製造年:1988年~2000年
冒頭でもご紹介したように、デイトナ 16520は同シリーズの第四世代として、1988年~2000年まで製造されていました。
同シリーズ初の自動巻きクロノグラフ搭載モデルであり、かつ後世のデイトナのデザイン・アイデンティティを明確に打ち立てた、意義深いモデルでもあります。
本項では、デイトナ 16520とはどのような時計なのか、その特徴と魅力を解説致します。
特徴①エルプリメロをベースにしたCal.4030
まずデイトナ 16520を語る時、様々な側面があるかとは思いますが、ムーブメントに特別な思い入れがある方も多いのではないでしょうか。
16520は、ゼニスのムーブメント「エルプリメロ」Cal.400をベースにした自動巻きムーブメントCal.4030を搭載していることが大きな特徴です。
なぜ大きな特徴と言えるのか。
それは、現行ロレックスは基本的に自社製ムーブメントのみを搭載しているため。
ロレックスはムーブメントの組立はもちろんパーツやケースも同社グループの中で内製化しており、いわゆる完全マニュファクチュールブランドとなりますね。
しかしながらかつて、ロレックスはゼニスが誇るエルプリメロをクロノグラフムーブメントのベースとしていました。これは珍しいことではありません。例えばパテックフィリップも自社製クロノグラフをリリースしたのは2005年で、歴史的にはヴィクトラン・ピゲ製、後にレマニア製を用いていました(そして、いずれもパテックフィリップの名機に搭載するにうってつけの美しきクロノグラフでした)。
つまり、クロノグラフに特化したベンダーも多く(しかも名門ばかり!)、時計ブランド側も汎用機を自社製品に搭載することが非常に多いのです。
ロレックスは初代から、やはり名門の呼び声高いバルジュー社製Cal.72系を搭載してきました。
※Ref.6265(第三世代デイトナ)に搭載されていたCal.727。ちなみに第二世代も同ムーブメント。初代からベースとしてきたバルジューCal.72系の振動数を高速化し高精度化。また耐震装置にキフ・ウルトラフレックスを採用したことでも知られている
しかしながら、バルジューCal.72は手巻きです。
時代は既に自動巻きクロノグラフが十分に普及する1980年代後半。そこでロレックスは、ちょうどエルプリメロの復権を果たしたゼニス社製自動巻きクロノグラフに白羽の矢を立てました。
※余談が続きますが、ゼニスは1969年にエルプリメロの開発に成功するものの、クォーツショックに翻弄され一時機械式時計の生産が休止します。その際エルプリメロ含む製品の設計図面や金型の破棄が上層部から命じられます。しかしながら当時ゼニスの技術者であったシャルル・ベルモ氏は、密かにエルプリメロに関するノウハウを隠しました。その後機械式時計というジャンルが市場で再び花開くとゼニスもまた上層部が変わり、果たしてエルプリメロが復権することとなったのです。
エルプリメロはゼニスの他、タグホイヤーやパネライといった高級腕時計ブランドに採用されてきました。
そしてデイトナ 16520のベースとなったエルプリメロは、Cal.400です。Cal.400はエルプリメロらしいハイビートムーブメントの高精度機で、かつパワーリザーブ約50時間、巻き上げ効率にも優れるという傑作機です。
しかしロレックスは、エルプリメロをそのままスライドさせるだけに留まりませんでした。ロレックスのCal.4030は、エルプリメロCal.400をかなり改変しています。
ロレックスのCal.4030とエルプリメロCal.400は、テンプの形状や大きさ、ガンギ車、ローター、切替車、香箱など各パーツが異なります。
とりわけ最大のチューンアップと言えば、振動数が挙げられるのではないでしょうか。
前述の通り、エルプリメロCal.400は、毎時36,000振動というハイビートのクロノグラフムーブメントです。しかしロレックスのCal.4030は、あえて毎時28,800振動に抑えています。
なぜこのようなことをしたのか。
この「ハイビート」とは、テンプの振動数を指します。この振動数が高ければ高いほど高精度を叩き出しやすくなりますが、一方でパーツ摩耗がしやすい傾向にあります。ロレックスは、あえて振動数を落とすことで耐久性を担保することとしたのです。
なお、振動数の低減によってテンプが大型化(アームも4本へ!)されているのですが、この大型化は精度の安定化にも繋がり、またフリースプラングの採用をも実現しました。フリースプラングと言うのは簡単に言うと精度調整スタイルの一つで、緻密な調整が可能となっています。
※さらに余談を続けさせて頂くと、Cal.4030に搭載されるフリースプラングは今ではロレックスでお馴染みとなったマイクロステラナットパーツが用いられます。ロレックス独自の手法で、ムーブメントを取り出すことなく精度調整が可能。ロレックスは必要な時以外にムーブメントを外気に晒すことを勧めておらず、ロレックスの耐久性や実用性への姿勢が垣間見えるテクノロジーの一つと言えます。
出典:https://www.rolex.com/ja
つまり、振動数を落としたからと言って精度を放棄したわけではなく、むしろ十二分の配慮がなされていると言えますね。もっともCOSC公認クロノメーターを取得していることからも明白でしょう。
加えてローターが左右どちらに回転してもゼンマイを正しく巻き上げるために「両方向巻き上げ式」がエルプリメロでもCal.4030でも採用されていますが、ロレックスでは切替車を特殊ポリマー加工(アルミナを吹き付ける加工法)によって耐久性のさらなる向上を目指しました。
その他主ぜんまいやそれを収める香箱車(こうばこぐるま)もロレックス仕様に。
堅牢と高精度を旨とする、最高級の実用時計・ロレックスならではのチューンアップといえるでしょう。
ちなみに第4世代のロレックス デイトナ 16520はエルプリメロを改変して活用していますが、第5世代の116520からは自社製ムーブメントを搭載しています。
そしてロレックス デイトナ 16520の前世代である、6265・6263までは、手巻きムーブメントを採用していたことを鑑みると、デイトナ 16520はムーブメントの点で、大きな転換期にある重要なモデルと言えます。
特徴②「デイトナ」のデザインを完成
ロレックス デイトナ 16520は、デザインという観点からも、その後のデイトナの指標となる立ち位置のモデルです。
ロレックス コスモグラフデイトナといえば、どのようなデザインを真っ先に思い浮かべるでしょうか。
まず白黒2展開のパンダ文字盤、ねじ込み式リューズにリューズガード、同じくねじ込み可能なプッシュボタン、バーインデックスなどが印象に強く残りますね。現行モデルではさらに進化したセラミックベゼルを使用していますが、高級感のあるメタルベゼルに統一されたのも4代目デイトナである16520からになります。
それまではプラスチックベゼルが混在しており、インダイアルの白黒も、縁取りではなくインダイアル全体のカラーが反転していました。
インダイアルのカラーリングは印象を大きく変えます。
またスポーツモデルのベゼルは腕時計にとってもう1つの「顔」。
美しく研磨を施されたメタルベゼルが持つ高級感が、重厚さを増したインダイアルにとてもよくマッチしています。
ところで風防にサファイアクリスタルを使用することが基本となったのも、ロレックス デイトナ 16520からになります。
今に受け継がれるデイトナらしいデザインの基礎は、ロレックス デイトナ 16520にあるのです。
特徴③「904L」ステンレススティール素材を採用
デイトナ 16520のみならず、スポーツロレックスの話題では欠かせないステンレススティール。私たちにとって非常に身近な素材ですが、実は種類があるってご存知でしたか?
時計業界でよく用いられるのがアメリカ鉄鋼協会により設けられたAIS規格(American Iron and Steel Institute)で、304とか316とかの表記を見たことがあるかもしれません。ちなみに頭にSUSが付くことがありますが、これはJISの定めるSteel Special Use Stainless規格を指し、AISとほぼ同じです。
そしてロレックスでは、このAIS規格の中でも904Lステンレススティールを採用しています。
904Lステンレススティールとは、医療用ステンレス・サージカルスチールなどと呼ばれる316Lスチールの上を行くスチール素材です。
そもそもステンレスとは、鉄にクロムなどを合わせた合金で、錆びにくくキッチンのシンクやカトラリーなど幅広く使用されています。腕時計にも多用される合金で、一般的には304スチールが使用されます。安くて加工しやすい点がステンレスのメリットだからです。
しかし多くの高級腕時計ブランドでは、サージカルスチールでアレルギーの不安が少ない、高級な316Lスチールを使用しています。
ロレックスは堅牢で品質の高い「オイスタースティール」を使用していることで知られていますが、これが904Lスティールを指しているのです。
904Lスチールはサージカルスチールを上回る高品質素材で、化学機器や航空宇宙業界などでも使用される、安全性が高く腐食しにくいハイレベルなスチールです。
製造コストがかかり、加工も困難なため、長らくロレックスしか扱えない合金でした。実はこの超高級ステンレススティール904Lをいち早く採用したモデルが、ロレックス デイトナ 16520という説が有力です。
ロレックス デイトナ 16520は、ロレックスのフラッグシップモデルとして世に出ました。
そのため、貴金属と同じくらい貴重で、比べ物にならないほどの堅牢さをあわせ持つ904Lステンレススティールが、一足早く導入されたと考えられています。
ロレックスでは、金無垢はもちろんのこと、ステンレススティール製のスポーツモデルも非常に高価です。
ムーブメントなどの精巧さだけでなく、ステンレススティールの品質そのものも、数ある時計ブランドの中でずば抜けているのです。
見つけたら買い!ロレックス デイトナ 16520のレア仕様
ロレックスは何かと謎の多いブランドである、と言われます。
その謎が如実に表れるのが「年代によって異なる仕様」。ロレックスは情報公開に対して大変慎重なため、どのモデルにどのような仕様が存在し、それらは何年に製造されたのか…なんてことを教えてはくれません。
そこで先人の愛好家たちが研究を重ねてくれた結果、近年では過去のロレックスモデルの仕様・個体が体系立てられてくるようになりました。
しかしながら、今度はこの「仕様の違い」によって、数万円~数十万円,時には100万円以上の値付けの違いが発生するケースも増えてきています。特にデイトナのような人気機種は仕様一つで(しかもパッと見はわからないような!)大きく価格が変わるコレクションの代表格。知らないと、購入時や売却時に思わぬ損をしてしまうかもしれません。
そこで本項では、デイトナ16520の「出会えたら僥倖(ぎょうこう)!買っておきたい」レア仕様についてご紹介致します。
①文字盤の仕様は「段落ち」「4行表記」「逆6」がレア!
ロレックス デイトナ 16520の文字盤は、マークIからマークVIIダイアルまで、7種類に分けることが可能です。
この7種の中で特筆すべきレア仕様がいくつか存在しますが、一般的には年式の古いものほど流通が限定的ゆえ稀少性は高く、とりわけマークIは激レアです。
詳細をそれぞれ解説いたいます。
◆マークⅠダイアル…1988年~1989年頃
デイトナ 16520の中でも最も古い文字盤で、R番に見られる仕様です。特筆すべきは段落ち・逆6・ダブルTが存在する個体。
まず王冠マーク下の印字は5行で、最後の「COSMOGRAPH」の行だけ、一行あけて記されています。
そのため「段落ち」(フローティングコスモグラフ)と呼ばれる、非常に希少性の高い文字盤です。繰り返しになりますが、R番のみの仕様であるためです。
ちなみに、この頃は6時位置のインダイアルの「6」の字もひっくり返っており、数字の9に見えます。これを逆6と呼んでいます。なお、逆6はマークIVダイアル(1990年~1992年頃)まで見られる仕様です。
左:通常 右:逆6
さらに文字盤の最下部には「T SWISS MADE T」といったように、SWISS MADEをはさむようにふたつのTが刻印されています。
上:T付き 下:Tなし
なぜこのような表記かと言うと、夜光がトリチウムであるため。16520の多くの個体はトリチウム夜光のため当該表記がなされますが、経年によって焼けて風合いよろしくなった個体は、きわめて高い価値を誇ります。
◆マークⅡダイアル…1989年~1990年頃
デイトナ 16520のマークⅡダイアルは、マークⅠダイアルと同じように初期に製造されたモデルで、L品番に多いモデルです。
王冠マーク下のクロノメーター印字が5行から4行に変わり、「COSMOGRAPH」の上の空行も詰まりました。「OFFICIALLY CERTIFIED」(正式認定)という行が無くなったのです。そのため、4行表記と呼ばれるレアモデルとして、段落ちに次ぐ希少性が評価されています。
なお、逆6・トリチウム夜光表記「T SWISS MADE T」となります。
◆マークⅢダイアル…1990年頃
デイトナ 16520のマークⅢダイアルでは、マークⅡで4行になった印字が5行に戻ります。
パッと見ただけであれば、現行モデルでもおなじみの形に近づきました。
しかし現行モデルとはまだまだ違う点があります。それが、6時位置にあるインダイアル。6時位置のインダイアルの「6」の字が、ひっくり返ったままの逆6になっています。
左:マークIII 右:マークV
◆マークⅣダイアル…1990年~1992年頃
わずかな違いですが、ROLEX直下の4行フォントがシンプルになっています。マークIIIまではヒゲ文字などと呼ばれることもある装飾フォントが採用されていましたがそれがROLEXのみとなりました。
ちなみにマークIVダイアルは逆6最終世代となります。
◆マークVダイアル…1992年~1994年頃
デイトナ 16520のマークVダイアルでは、マークIVで最後となった6時位置のインダイアルに記された「6」が、逆ではなく正しい向きになりました。逆6に対して「正6インダイアル」などと称することもあります。スポーツウォッチであるコスモグラフデイトナらしく視認性が考慮されたのでしょう。
しかしSWISS MADEを挟んで存在する、最下部のふたつのT字は変わらず存在しています。なぜなら夜光がトリチウムであるためです。
◆マークⅤIダイアル…1995年~1999年頃
正6インダイアル、テキスト5行となり、よく普及してきた世代でもあります。
マークVダイアルとの違いとして、5行テキストが12時位置に寄っているというものがあります。「COSMOGRAPH」部分が両側インダイアルの上に位置しているのが見分け方…とか。
なお、マークVIがトリチウム最終世代となります。
◆マークⅤIIダイアル…1999年~2000年頃
デイトナ 16520のマークⅤダイアルからは、SWISS MADEを挟む2つのTの字が消えます。トリチウムではなく夜光塗料はルミノバに変わりました。そのため、ダブルのT表示も無くなります。
品番としてはA番後期、そして最終のP番で見受けられます。
なお、数々のレア仕様は置いておいて、このマークVIIもまた市場できわめて高い評価を獲得しています。なぜなら後述しますが、こういった年式の古いモデルは製造年が新しいものほど価値が高くなるためです(高年式、などと称されることもありますね)。
とは言え文字盤だけをとっても、このように多彩なデザインの違いがみられるのが、デイトナ 16520の特徴です。
②タキメーターの仕様は「200タキ」がレア!
ロレックス デイトナ 16520ではタキメーターの仕様にもレア度の違いがあります。
ベゼルに刻印されたタキメーター仕様を、レア度が高い順にご紹介致します。
◆200タキ
200km/h刻印ベゼルは、手巻きムーブメントだった頃のデイトナと同じ仕様です。
このころは手巻きデイトナ同様、タキメーターは原則として200㎞/hまででした。
200km/h刻印ベゼルを持つデイトナ 16520、つまり200タキは、文字盤でも大変希少性の高い、マークⅠダイアルにセットされることの多いベゼル。前述の通りマークⅠダイアルは、5段階の文字盤バリエーション中、段落ち・逆6を備える最も古いスタイルです。
マークⅠダイアルかつ200タキの個体は、1988年頃のごく初期に製造された、良質な個体も少ない貴重な存在です。
◆225タキ
225km/h刻印ベゼルは、200タキの後に登場した225タキと呼ばれるタキメーター刻印ベゼルです。
実際には400km/hまでのタキメーターですが、一時期だけ、200と250の目盛りの間に、窮屈ではありますが225という目盛りを置いた仕様となっています。
L品番に見られる225タキは、200タキに次いで希少性の高いデザインです。
◆400タキ
400km/h刻印ベゼルは、400まで目盛りがふられた、ロレックス デイトナ 16520のレギュラー仕様です。
400までのタキメーターは現行に発表されたデイトナ各モデルでも共通で、この時期に現在のデイトナの基本形が整ったことを示唆します。
③激レア!「ブラウンアイ(パトリッツィ)」
ロレックス デイトナ 16520には、これまでご紹介したものよりもはるかに希少で、出会うことはもはや奇跡と言われる特殊な個体があります。
そのひとつが、「ブラウンアイ」または「パトリッツィ」と呼ばれる個体です。
ブラウンアイは、画像を見ていただくと一目でその名の由来が分かります。ブラック文字盤のインダイアルは、オフホワイトで縁取りがされています。このオフホワイトの部分が、琥珀のようなブラウンに変色しているのです。ブラウンの虹彩と黒い瞳のようなカラーから、「ブラウンアイ」と呼ばれています。ちなみにパトリッツィとは、ブラウンアイという現象を発見したイタリアの研究家オズワルド・パトリッツィ氏の名に由来しているそうです。
デイトナ 16520のブラウンアイは、1994年~1995年にかけて製造されたS番~W番によく現れ、もっとも美しく色づく現象です。
ちなみに1993年製造のS番や1996年~1997年製造のT番・U番でも出現することがあるのですが、あまり濃く色づくものは見つかっていません。S番~W番の個体すべてが色づくわけではなく、色の付き方にも個体差があります。
そしてデイトナ 16520のブラウンアイは、経年変化ということ以外、なぜ起きる現象なのかはっきり解明されていない、という点もポイントでしょう。
トリチウム塗料使用時の個体に現れるため、トリチウム塗料が関係していると考えられていますが、トリチウムの焼けとも言い切れない不思議な現象なのです。
秘密のヴェールで包まれた、奇跡のブラウンアイ。弊社にも過去何度か入ってきましたが、美しく濃く色づいているものは本当に稀少です。
ずっとお探しの方も多いのではないでしょうか。
④激レア!「ポーセリンダイアル」
ロレックス デイトナ 16520には、まだまだ激レアモデルが存在します。それが「ポーセリンダイアル」です。
ポーセリンダイアルは段落ち・逆6・ダブルTが揃う希少なマークⅠダイアル、しかもホワイト文字盤にのみ見られる激レアモデル。
1988年というデイトナ 16520の創成期製造のホワイトダイアルのみが、陶器―ポーセリン―のような輝きを持っているとのこと。
私自身も実機は見たことがなく、画像で確認したのみです…死ぬ前に見たい「絶景」ならぬレアロレックスの一つです。
⑤その他知っておきたい年代による仕様の変化
そのほかにも、ロレックス デイトナ 16520の知っておきたい年代による仕様の変化をご紹介します。
購入する際の参考にしてみてくださいね。
◆バックル
デイトナ 16520のバックル(クラスプ)部分は、当初シングルロック式を採用していました。つるんとしたバックルは王冠マーク以外の装飾はなく、武骨なまでにシンプルです。
しかしその後、1995年~1998年にツインロック式に変更されています。
左:シングルロック 右:ツインロック
ツインロック式にはブレスに似せたパターンを型押しし、ダブルロックの上にクラウンマークが乗せられるようになりました。
バックルに関しては年式が新しいということもあり、シングルロック式よりもツインロック式の方が高く評価されています。
ちなみに2000年頃、王冠マークの小径化が図られました。
左:1995年頃製造の16520 / 右:P番の16520
◆中央コマの仕上げ
デイトナ 16520の3連オイスターブレスレットは、コマ全体がオールサテン仕上げでした。
しかしやはり1995年、中央コマがポリッシュ仕上げとなり、高級感が付加されることとなります。
絹のようなオイスターブレスに挟まれた鏡面コマが品格と高級感を際立たせることに。なお、ブレスレットの評価も新しいものの方が高くなっています。
◆フラッシュフィット
フラッシュフィットとは、ケース本体から出ているラグと、ブレスレットをつなぐブレスの両端にあるパーツです。ラグとベルトの間に隙間をフラッシュフィットを置くことで埋め、耐久性を向上させる狙いがあります。
デイトナ 16520のフラッシュフィットは、初期型において分離型を採用していました。手巻きの前世代が分離型だったので、その流れをくんだものです。
しかし1999年に、デイトナはフラッシュフィットを一体化にチェンジしました。
左:フラッシュフィット分離型 右:フラッシュフィット一体型
ブレスの端のパーツはこれまでもしっかり接続しているように見えていましたが、一体化によってその違いが歴然となりました。
一体化したフラッシュフィットはなめらかにケースからベルトへと視線を流し、どこにも継ぎ目のない美しさを実現したのです。
堅牢度もぐんとアップし、ロレックスのフラッグシップモデル・デイトナとしての威風堂々とした風格を感じさせるようになりました。
こちらも初期より一体化したものの方が、価値がアップします。
ロレックス デイトナ 16520の実勢相場【2021】
ロレックス デイトナ 16520は、近年高騰を続けるスポーツロレックス各モデルの中でも、とびぬけて価格上昇率の高いモデルです。
デイトナ 16520の過去5年間の価格上昇率は、なんと200%超え。つまり、ほぼ倍ということです。そろそろアンティークと呼ばれる時代を経てもなお、価格が倍に跳ね上がった超人気デイトナなのです。
前項でご紹介したレア仕様を備えた個体やA番または最終品番といった高年式の個体は500万円~700万円超の値付けが行われることもしばしばです。そして特にレア仕様ではない通常個体でも、実勢相場は300万円超えが当たり前という状況です。
ちなみに高年式の個体が16520の実勢相場を底上げしているとも言われており、その値付けはもはや青天井です。状態の良い個体は年々市場から減っていくと思われるので、欲しい方はまだ手に入るうちに、探しておきましょう。
なお、デイトナ 16520に限らず、年式の古いロレックスを購入する際に気をつけたいこと。それは、兎にも角にも「信頼できるお店で購入する」ということ!
ロレックスは永久修理を掲げているわけではないうえ、手巻きデイトナを含むアンティーク個体の正規メンテナンスが受け付けられなくなってきました。特にパーツ交換には対応できない場合もあるようで、16520も2021年6月現在では日本ロレックスで修理受付可能ですが、いつ変更になるとも限りません。
そのためメンテナンスノウハウがしっかりしている、きちんと整備された個体を販売している、信頼できる時計店を選びたいものですね。
まとめ
ロレックス初の自動巻きクロノグラフとしてデビューしたデイトナ 16520。
ロレックスのフラッグシップモデルという重責を見事に果たしたデイトナ 16520は、代替わりをした今でも人気が衰えず、むしろ上がっていくばかりです。
ロレックスという唯一無二のブランドと、その旗艦モデルを確と形作ったデイトナ 16520は、ブラウンアイのような魔法も現れる魅惑の腕時計です。
激レアモデルも有名なため、見つけ次第手に入れたくなってしまう魅力にあふれています。
デイトナ 16520は、熱狂的ファンが世界中にいるタイムピースであるだけに、お買い上げは信頼できるお店で、よく吟味したものをおすすめします。
当記事の監修者
池田裕之(いけだ ひろゆき)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 買取部門 営業企画部 MD課/買取サロン 課長
39歳 熊本県出身
19歳で上京し、22歳で某ブランド販売店に勤務。 同社の時計フロア勤務期に、高級ブランド腕時計の魅力とその奥深さに感銘を受ける。しばらくは腕時計販売で実績を積み、29歳で腕時計専門店へ転職を決意。銀座ラシンに入社後は時計専門店のスタッフとして販売・買取・仕入れを経験。そして2018年8月、ロレックス専門店オープン時に店長へ就任。時計業界歴17年