いつも腕元で時を刻んでくれる腕時計。
現在腕時計のムーブメントには様々な種類がありますが、伝統的なタイプと言えば巻き上げたゼンマイがほどける力を利用して針を動かす「機械式」になります。そして、そのゼンマイを巻き上げるのに「腕の振り」を利用し、リューズを手動で巻かずとも針を動かすのが「自動巻き」です。
ただ、この自動巻きという機構。実はさらに色々な種類に分かれることをご存知でしょうか?
マイクロローター式、センターローター式、リサーバー式、ラチェット式。
今回は自動巻きのメカニズムについて解説致します。
目次
自動巻きのメカニズムの種類
回転するローターの力でゼンマイを巻きあげる機構。
自動巻きを一言で表すと上記の通りとなりますが、メカニズムに関してはいくつかの種類があります。
その違いは大きく分けると「ローター」と「巻上げ方式」によって分類され、ローターの回転システムにおいては4種類、巻上げ方式においては3種類の方式が存在します。
ローターの回転システムの違い
ローターの回転システムは以下の4つに分類されます。
■センターローター式
■マイクロローター式
■ペリフェラルローター式
■バンパーローター式
現行の自動巻きは大半がセンターローター式が採用されていますが、他のローターが採用されているモデルも存在します。
センターローター式
グランドセイコー メカニカルハイビート36000 SBGH039
センターに軸を置いたセンターローター式は大きなローターを用いることができるため、強い慣性を得られることが特徴です。
腕の振りが小さくでもゼンマイは巻き上がり、実用性に優れます。
ただ、センターローター式はムーブメントにかぶせる様にして乗せられるため、機械式特有の歯車の美しさを隠してしまうという欠点もあります。
機械のメカニズムを楽しみたいという方は手巻き式やマイクロローター式を検討するのも良いでしょう。
カレラ キャリバー ホイヤー02 クロノグラフ CBG2A10.BA0654
なお、近年はくりぬきタイプのローターが使われるなど、視覚的なデザイン性に趣を置いたセンターローター式も増えています。
18Kゴールドローターやプラチナローターといった高級素材が使われたモノもありますので、時計の購入の際には是非ケースバックもチェックしてみてください。
マイクロローター式
パテックフィリップ パーペチュアルカレンダー 5140R-001
マイクロローター式はムーブメントのベースにマイクロローターを埋め込んだ回転システムです。
薄型化しやすく、視覚的にも美しいため、パテックフィリップ等の高級機によく採用されています。
ローターが小さいため、センターローターよりは巻上げ効率が悪くなりますが、比重の重い素材を使用することによってカバーしています。
ペリフェラルローター式
出典:https://www.bulgari.com/ja-jp/
ペリフェラルローター式はムーブメントのフチをローターが回転する画期的な回転システムです。
自動巻きでありながらもローターが歯車を覆うことがありませんので、機械式ならではの視覚的な美しさを楽しむことができます。
製造コストが高いため、高級機に採用されることが殆どであり、現在は「カール F.ブヘラ」「ブルガリ」「ヴァシュロンコンスタンタン」「ピアジェ」など、ごく僅かなブランドにしか使用されていません。
バンパーローター(ハーフローター)式
ゼニス 1955年製モデル
アンティークウォッチにのみ見受けられるバンパーローターは1950年代まで自動巻きの主流として使われていた古き良き回転システムです。
ローターの芯と丸穴車が中間車で繋がれており、わかりやすくシンプルな構造となっています。
現在はその姿を見ることはなくなりましたが、コアなファンからは未だに厚い支持を受けています。
巻上げ方式の違い
自動巻きの回転システムには4種類があることが分かりました。しかし、自動巻きは巻上げ方式によってさらに3種類のタイプが存在します。
切り替え車を使用したリバーサー式。ツメ巻上げを使用したラチェット式。遊動車を使用したスライディング・ギア式。
こちらもそれぞれにメリット・デメリットがあります。
リバーサー式
タグホイヤー カレラ キャリバー5 WAR211A.FC6180
両方向に回転するローターの動力を「切り替え車」とよばれるパーツで整え、香箱芯と重なる歯車「角穴車」にエネルギーを伝える方式。
これがリバーサー式です。
複雑なメカニズムを使わずに歯車のみを使って巻上げメカニズムが構成されているため、量産しやすいのが大きなメリットとなっています。
デメリットとしてはパーツ数がどうしても多くなってしまうことから厚みがでやすいこと。また、常にゼンマイに力を伝達させているため、パーツが摩耗しやすいことも挙げられます。
ラチェット式
IWC ポルトギーゼ パーペチュアルカレンダー IW502213
ローターの回転をカギヅメと呼ばれるパーツの運動エネルギーに変換するラチェット式。シンプルな作りとなるため薄型にしやすく、歯車ではなく耐久性の高いカギヅメが使われるため、摩耗にも強いです。
視覚的にも個性があり、人気のあるメカニズムとなっています。
デメリットとしては、厚みこそでませんが、その分ムーブメントの直径が大きくなること。
縦に歯車を重ねるリバーサー式に対してラチェット式はカギヅメを水平方向に動かすスペースが必要となるため、ラチェット式が採用されたモデルの大半はビッグサイズです。
スライディング・ギア式
ノモス チューリッヒ ZR1E3BR2(823)
ローターの回転方向によって傾きを変えるユニークなパーツ「遊動車」を採用することでゼンマイを巻きあげるスライディング・ギア式。
左右の回転を片方向の動きに制御します。
非常にコンパクトな設計で作ることができるため、薄型と小型を両立することが可能です。その性質からマイクロローターとの相性も優れています。
なお、遊動車が1個のタイプと2個のタイプがありますが、どちらが良いといった大きな違いはありません。
一見万能にも思えるスライディング・ギア式ですが、デメリットも存在します。
それは調整が非常に難しいことです。遊動車は傾きを変える性質をもつことからパーツの摩耗によって空回りしてしまうことが多々あります。
遊動車が空回りしてしまった場合、ローターの動力で巻上げが行われなくなるため修理が必要です。
ロングパワーリザーブに注目
一般的な自動巻きはゼンマイがフルに巻かれていたとしても、40時間程度で全てほどかれてしまいます。
対してロングパワーリザーブは週末に時計を外して一度も身に着けなかったとしても時計が止まらない70時間以上のパワーリザーブを持ちます。
購入する前は40時間でも十分に思えますが、いざ時計を手にしてみると時計が頻繁に止まってしまうことに気づくため、時計を快適に使いたい方はロングパワーリザーブを選ぶのがオススメです。
また、ロングパワーリザーブは精度が安定しやすいというメリットも持ち合わせます。
時計はゼンマイの残量が少なくなるにつれ精度が悪くなりますが、ロングパワーリザーブは持続時間が長い分、精度が安定している時間も長いです。
オススメモデル:ハミルトン スピリット オブ リバティ H42415031
素材:ステンレススティール
ケースサイズ:直径 42.0mm
全重量:161g
文字盤:ブラック
インデックス:バー
ムーブメント:Cal.H-10
パワーリザーブ:約80時間
防水性能:50m
香箱から脱進機までの一連の運動連鎖の改良によって標準持続時間80時間を実現したムーブメントH-10を搭載したハミルトンの人気モデル。
10万円以下で買えるリーズナブルさとスタイリッシュなデザイン性が高い評価を得ています。
ローターにはブランドの頭文字「H」を象ったカットアウトが施されています。
回転システムはセンターローター式。巻上げ方式はリバーサー式が採用されています。
オススメモデル:グランドセイコー スプリングドライブ SBGA011
素材:ブライトチタン
ケースサイズ:直径 41.0mm
全重量:100g
文字盤:ホワイト
インデックス:バー
ムーブメント:Cal.9R65
パワーリザーブ:約72時間
防水性能:100m
ゼンマイの解ける力を動力源としながらクォーツと同等の高い精度を持つ”スプリングドライブ”を搭載したセイコーのブライトチタンモデル。パワーリザーブは約72時間のロングパワーリザーブです。
背面はシースルーバックとなっており、ムーブメントの美しさを堪能することができます。
回転システムはセンターローター式。スプリングドライブはゼンマイではなく水晶の力を使って駆動しているため、巻上げ方式には独自の方式が採用されています。
ただ、動力がゼンマイから水晶に切り替わっただけなので、メカニズムはリバーサー式と殆ど変わりません。
オススメモデル:パネライ ルミノールマリーナ 1950 3デイズ PAM00312
素材:ステンレススティール
ケースサイズ:直径 44.0mm
全重量:163g
文字盤:ブラック
インデックス:バー/アラビア
ムーブメント:Cal.P.9000
パワーリザーブ:約72時間
防水性能:300m
ツインバレルによる、3日間(72時間)のパワーリザーブを実現した自社製ムーブメントCal.P.9000を搭載したモデルです。3時位置にカレンダー窓、9時位置にスモールセコンドを配したP.9000シリーズの中でも最もシンプルなモデルです。
パネライの定番として近年注目を浴びており、高い評価を獲得しています。
回転システムはセンターローター式。巻上げ方式はリバーサー式です。
まとめ
現在の機械式時計の主流として製造されている自動巻き。どれも同じメカニズムを持つと思われがちですが、実はこんなにも種類があります。
自動巻きのメカニズムまで気にするのは中々マニアックですが、突き詰めると機械式時計の良さをさらに味わうことができるため、時計の購入の際は是非細部までチェックしてください。
当記事の監修者
廣島浩二(ひろしま こうじ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年