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じょじょに新型コロナウイルスの影響による制限が緩和されてきた2023年。時計業界でも、今年は大規模新作見本市で一般公開日が設けられるなど、かつての活気がほぼ元通りになりつつありますね。

そんな時勢もあってか、2023年、各社で新作時計が非常に豊富!美しいデザインや画期的な機構等、そのバリエーションは多岐に渡ります。

そこでこの記事では、華やかな2023年の新作腕時計のうち、特筆すべき10本を厳選してご紹介いたします。

ロレックス,パテックフィリップ,パネライにグランドセイコー・・・2023年、最も熱い一本はこれだ!!!

 

2023年新作①ロレックス ヨットマスター42 RXLチタンモデル

ロレックス ヨットマスター42

出典:https://www.rolex.com/ja

スペック

外装

ケースサイズ: 直径42mm
素材: RLXチタン
文字盤: ブラック

ムーブメント

駆動方式: 自動巻き
ムーブメント: Cal.3235
パワーリザーブ: 約70時間

機能

防水: 100m
定価: 1,670,900円

まず最初にご紹介するのは、ロレックス!例年、最も新作動向が注目されている時計ブランドの一つと言って過言ではありません。

2023年はデイトナやスカイドゥエラーのフルモデルチェンジ、あるいはエクスプローラー40の登場などといった数々の新作が話題を席捲しましたが、「10傑」の一つとして取り上げたいのが、こちらのヨットマスター42 RXLチタンモデルです!宣材写真で見てもわかるツール感、とてもカッコイイですね!

42mmサイズのヨットマスター42からリリースされていることから、実機もスポーティーが強調されていることでしょう。

ロレックス ヨットマスター42 2023年新作

出典:https://www.rolex.com/ja

とは言え、これまでのヨットマスターにツール感は皆無でした。むしろ優雅でエレガントなテイストの方が強かったかもしれません。

そもそもヨットマスターがどのようなコレクションかと言うと、1992年に誕生したマリンウォッチです。サブマリーナーのような回転式ベゼル(ヨットマスターは両方向回転ですが)や視認性の高い文字盤を有しつつも、誕生当初はイエローゴールド製のラグジュアリーライン。1997年にはステンレススティール×ゴールドのロレゾール(コンビ)を、1999年にステンレススティール×プラチナの「ロレジウム」を追加しますが、どこかしらにプレシャスメタルを用いてきたことからもわかる通り、ダイビングではなくヨットやクルーザーのオーナーをターゲットとしたコレクションと言われてきました。

なお、2019年にこれまで40mmまたは37mm(過去にはレディースサイズや34mmサイズもラインナップされていましたが)であったケースを42mmへとアップサイジングしたヨットマスター42が登場します。

ロレックス ヨットマスター42 226659

※2019年に登場したヨットマスター42 Ref.226659

このヨットマスター42はメタルベゼルが慣例であったヨットマスター初のセラクロム製ベゼルインサートを有していることで大きな話題となりました。オイスターフレックス(ロレックスの堅牢なラバーストラップ)と相まって、非常にスポーティーな立ち位置ですよね。とは言えホワイトゴールド製(2022年にはイエローゴールド製モデルが追加)であったことからも、ヨットマスター特有の「プレシャスメタルを素材に使ったラグジュアリーなスポーツウォッチ」といったテイストは堅持されました。

 

しかしながら2023年、オールRXLチタン製、しかも、かなりスポーティーに寄った新作Ref.226627が登場した、と!オイスターフレックスはゴールド製モデルに搭載されてきたため、新作はブレスレットもチタン製となりました。セラクロム製ベゼルインサートの、独特のエンボス加工は従来のヨットマスター42を踏襲するものの、従来モデルとは全く違った顔立ちであることを感じさせます。

ロレックス ヨットマスター42 2023年新作

出典:https://www.rolex.com/ja

ちなみに「チタン」素材であることも、この新作を際立たせます。

ロレックスの外装と言うと、これまでは高性能なオイスタースティール(904L スティール)がスタンダードでした。しかしながら2022年11月、突如としてRKLチタン製の新作モデル「ディープシー チャレンジ」がロレックスから発表されます(ちなみにこのモデルはチタン製のみならず、ケース直径50mm&11,000m防水というモンスター級のダイバーズウォッチとしても大きな話題となりました)。

RXLチタンとは、ロレックスのグレード5チタン合金です。

グレード5というのは合金をしたチタンのことで、純チタンはグレード2です。チタンそのものは加工がしづらく、とりわけ高級腕時計に欠かせない「仕上げ」の難易度が高くなります。そこで他の金属を含有させて合金とすることで、この弱点を克服するのがグレード5チタンです。

なお、「突如」とは言え、実は同年の3月に既存のシードゥエラー ディープシーがモデルチェンジした折、従来のグレード5チタンの裏蓋がRXLチタンと名称変更されていました。

この流れの中で「何らかのチタンモデルがロレックスから発表されるのでは?」といった噂はありましたが、よもやラグジュアリーなヨットマスターからローンチされるとは(ただし2021年、イギリスのセーリングの名選手ベン・エインズリー氏のために、ロレックスはプロトタイプのチタン製ヨットマスターを製造しています。このチタンが既にRXLチタンと称されていたようです)!

ロレックス ヨットマスター42

出典:https://www.rolex.com/ja

新作ヨットマスター42は、ただチタンを用いるのみならず、これまではポリッシュ仕上げが基調であった外装をサテン仕上げにしたことも特筆すべき点です。これによってツール感がいっそう際立ちますね。一方でロレックスらしい丁寧な仕上げや面取り、そして立体感ある針・インデックスによって、高級感も忘れない仕様に完成されています。

 

チタンは堅牢なのに軽量であるため、快適な装着感をも実現していることが予測できます(もっとも、ロレックスの着け心地の良さはもともと定評がありますが)。チタンは金属アレルギーを誘発しづらいことから、待望のモデルと思われている方も多いのではないでしょうか。

ロレックス ヨットマスター42

出典:https://www.rolex.com/ja

なお、バックルにはイージーリンクが搭載されているため、コマを抜かずに5mmまでの微調整が可能となっております。

ヨットマスター同様、ムーブメントはCal.3235が搭載されており、パワーリザーブは約70時間。防水性は100mとスペック面は大きく変わりません。

 

国内定価は1,670,900円と発表されています。

ただし、ここ最近の新作ロレックスのほとんどに言えることですが、しばらくは入手の困難さを覚悟しなくてはなりません。初年度だからなかなか出回らないというのもありますが、近年ロレックスの人気モデルは正規店はおろか並行輸入店ですら品薄傾向!歴史が長く、ロングセラーを多く抱えていることからも決して流通量が少ないわけではないにもかかわらず、世界的に高まる需要に追い付いていない状況です。

年々加速する需要と品薄は実勢相場を大いに上げ、一方で買い控えが目立って見られないことから、業者間では争奪戦となり、それがまた市場価格を上昇させる要因に。

最近では少し落ち着いてきたとは言え、これほどまでに注目されている新作ヨットマスター42。いったい初値がいくらになるのか見当もつきません。参考までに、2022年に発表されたレフティモデルのSS製GMTマスターII Ref.126720VTNRの初値は600万円超でした。

もっとも相場は水物なので、いくらになるかは神のみぞ知る。まずは国内入荷を待ちましょう!


2023年新作②オメガ スピードマスター スーパーレーシング

オメガ 2023年新作 スピードマスターレーシング

出典:https://www.omegawatches.jp/

スペック

外装

ケースサイズ: 直径44.25mm×厚さ約14.9mm
素材: ステンレススティール
文字盤: ブラック

ムーブメント

駆動方式: 自動巻き
ムーブメント: Cal.9920
パワーリザーブ: 約60時間

機能

防水: 5気圧
定価: 1,562,000円(税込)

次にご紹介する特筆すべき2023年新作は、オメガから。

オメガを含むスウォッチグループは、Watches and Wonders Geneveなどといった新作見本市には参加せず、独自発表を行っています。オメガもまたこれに当てはまりますが、近年では、いち早く驚異的な新作発表を行って、新作の話題を席捲することに先鞭をつけてきました。

2023年も1月に、驚きの新作モデルを発表しています。それが本項でご紹介する、スピードマスター スーパーレーシングです!

オメガ 2023年新作 スピードマスターレーシング

出典:https://www.omegawatches.jp/

ケース直径44.25mm×厚さ約14.9mmというダイナミックなケースや大胆にあしらわれたイエロー。そして既存のスピードマスター レーシングでもお馴染みのレーシーなツーカウンタークロノグラフが印象的ですが、当新作の何よりの話題性は、オメガ新開発の「スピレートシステム」にあるでしょう。

このスピレートシステムとは、オメガがシリコン製ヒゲゼンマイを再設計し、超精密調整を可能とした新機構です。これによって日差0~±2秒というきわめて高精度な機械式時計を実現することとなりました。ちなみに一般的に機械式時計の精度は-10秒~+20秒程度と言われています。

オメガ スピードマスター スーパーレーシング

出典:https://www.omegawatches.jp/

スピレートシステムの大きな特徴は、シリコン製ヒゲゼンマイでありながらもヒゲゼンマイを直接いじって剛性を変えることで、精密な精度調整を可能としていることにあります。

どういうことかと言うと、まずヒゲゼンマイというのは、機械式時計の精度を司る精密パーツです。ヒゲゼンマイが一定の周期で伸縮を繰り返すことで時計は正しく規則的に時を刻みます。ところがこのヒゲゼンマイ、かなり繊細で、外乱に弱いといった特性を持ちます。とりわけ磁気帯びや温度変化によって悪影響を受け、精度を狂わせる大きな要因となってきました。そこで近年、シリコン製ヒゲゼンマイが普及しています。

シリコンはご存知、ケイ素樹脂です。時計のみならず様々な産業に用いられることから、「魔法の砂」などと称されることもありますね。熱に強く、また磁気の影響を受けないことから、時計業界ではムーブメントパーツとして注目を浴び続けてきました。軽量でエネルギーロスが少ないことや、変形しづらいところも、重宝される要因です。ちなみに時計業界でシリコンに先鞭をつけたのはユリスナルダンで、2001年という非常に早い段階からムーブメントにシリコンを採用しました。

機械式時計 パーツ

一方でシリコンは、破損しやすいというデメリットも抱えています(近年では研究開発が進んで、このデメリットが改善されつつありますが)。オーバーホールの際、ピンセットで挟んだら壊れてしまったなんて話を聞いたことがあるかもしれません。

機械式時計は、このヒゲゼンマイの有効長を変えることで精度調整―遅れや進みを補正―を行ってきました。具体的には、緩急針というパーツで収縮するひげを長くしたり短くしたりするといった作業です。この精度調整方法は調整幅が広く、また比較的容易な作業です。しかしながら緩急針は細かな調整が困難であったり、機構自体が経年や衝撃に弱い傾向にあります。

そこで近年、高級スポーツウォッチを中心に採用されているのがフリースプラングテンプという調整手法です。

これは緩急針を持たず、テンワに取り付けられた補正ネジを回し、テンワの慣性モーメントを変えることで精度調整を行うシステムです。衝撃に強く、また微調整が行えることから、安定して高精度をキープできるといったメリットがあります。一方で製造コストが高く。また調整に技術や特殊工具が必要といったデメリットもあります。

壊れやすいシリコン製ヒゲゼンマイはフリースプラングテンプを持つことが一般的だったのですが、オメガ新作のスピレートシステムでは、特別な偏心チューナーによってシリコン製のヒゲゼンマイ自体を直接触って剛性を調整。0.1秒単位の調整が可能となった、と!なお、最大で±5秒以内を微調整します。この機構があるがゆえに、前述の通り日差0~±2秒の正確性を実現しているのです。

出典:https://www.omegawatches.jp/

この新しいスピレートシステムを搭載したCal.9920は、もちろんマスタークロノメーター認定機です。

マスタークロノメーターは現在、オメガで標準装備となりつつある時計の規格です。チューダーも昨年から採用し始めたことで話題になりましたね。マスタークロノメーターは2015年にオメガとスイス連邦軽量・認定局(METAS)が共同で設立したことに端を発します。クロノメーター認定機を対象に、8つの厳格なテストを突破した個体がマスタークロノメーターの称号を獲得することとなります。設立以来オメガのお家芸でしたが、2021年にはチューダーもこれを採用した新作モデルをリリースし、大きな話題となりました。

マスタークロノメーターは様々な環境下でのテストが用意されますが、中でも15,000ガウスもの高磁場下での検査は、業界トップクラスです。すなわちマスタークロノメーターは、15,000ガウスにも対応するような「超耐磁時計」と言うことができるのです。ちなみにJIS(日本産業規格)では、1種耐磁時計を4,800A/m、2種耐磁時計を16,000A/m以上と規定しています。1,200,000A/m(15,000ガウス)が、どのくらいハイレベルなのか一目瞭然ですね。

 

このマスタークロノメーター認定機とあって、Cal.9920も優れた耐磁性や信頼性を有することは言うまでもありません。

出典:https://www.omegawatches.jp/

なお、オメガはこの耐磁をインナーケースで担保するのではなく、シリコン製ヒゲゼンマイによって実現しているため、シースルーバックから美しく装飾されたCal.9920を鑑賞できるのは嬉しいですね。

 

もちろんムーブメントのみならず、外装・デザイもこの新作モデルを特別なポジションへと昇華します。

オメガ スピードマスター スーパーレーシング

出典:https://www.omegawatches.jp/

前述の通りイエローが随所にあしらわれたデザインが印象的なのですが、実はこの配色、オリジナルがあります。

そう、2013年にオメガが初めて15,000ガウスの耐磁性能を引っ提げてリリースした、シーマスター アクアテラ Ref.231.10.42.21.01.002から範を取ったカラーリングなのです。

2023年はオメガの高耐磁性への挑戦からちょうど10周年。この「節目」として、アイコニックなカラーリングが採用されました。

 

ただ針やロゴの色が変わっただけに留まらないのが、さすがオメガ。

セラミック製ベゼルのタキメータースケールもイエローになっていることがおわかり頂けるかと思います。このスケールは、グラン・フー・エナメルで表現されました。グラン・フー・エナメルのグランフーは「偉大な炎」を意味しており、800~1000度もの熱で焼き上げる手法です。この手法によって美しくも堅牢なエナメルが出来上がります。

オメガ スピードマスター スーパーレーシング

出典:https://www.omegawatches.jp/

グラン・フー・エナメルの仕事も手伝って、新作スピードマスター スーパーレーシングはレーシーながらラグジュアリーな質感を実現しました。

 

また、アンティークオメガなどでも見受けられる、ハチの巣のような「ハニカム」模様の文字盤はサンドイッチ状になっており、イエローの色合いを引き立てますね。さらに立体的なインデックスやアロー針のスーパールミノヴァ夜光もイエローに染まっているため、暗所でもブラック×イエローのカラーリングをお楽しみ頂けるのが楽しいです。

オメガ スピードマスター スーパーレーシング

出典:https://www.omegawatches.jp/

 

ちなみにスピードマスター レーシングらしく6時位置にデイト窓が搭載されておりますが、「10」だけ特別なフォントを用いているとのこと!これはSpeed Masterのロゴに用いられているフォントとなっており、前述した2013年発表のシーマスター アクアテラ 15,000ガウスへのトリビュートとなっております。

オメガ スピードマスター スーパーレーシング

出典:https://www.omegawatches.jp/

 

さらにスピードマスターの顔立ちとよくマッチする3連リンクのブレスレットの他、付属品としてブラック×イエローのNATOストラップが備わっているのも嬉しいところですね。

オメガ スピードマスター スーパーレーシング

出典:https://www.omegawatches.jp/

 

これだけ素晴らしい2023年新作スピードマスターということもあり、国内定価はハイエンドな1,562,000円です。

もっとも新システムを採用していること。またブラックにイエローのステッチが施された、ハニカム模様のスペシャルボックスとともに販売される特別感を鑑みれば、決して高すぎることはありません。

なお、特に限定生産ではありませんが、新システムということもあり、2023年にどれくらい出回るのかはまだわかりません。

近年オメガの新作は話題性がとても高く、発売からしばらく経っても品薄傾向といった状況が多々見受けられます。とは言えオメガの「最先端」を味わえる2023年新作モデル、一度は手に取って眺めてみたいものです!




2023年新作③パテックフィリップ カラトラバ パイロット トラベルタイム・クロノグラフ 5924G

パテックフィリップ カラトラバ 6006G

出典:https://www.patek.com/en/home

スペック

外装

ケースサイズ: 直径42mm×厚さ13.05mm
素材: ホワイトゴールド
文字盤: ブルーまたはカーキ

ムーブメント

駆動方式: 自動巻き
ムーブメント: Cal.CH 28-520 C FUS
パワーリザーブ: 最大55時間

機能

防水: 3気圧
定価: 10,175,000円

パテックフィリップの新作もまた、例年話題性には事欠きません!

2023年も、レーシーなカラトラバやリューズ一つで全ての操作をまかなえるカラトラバ トラベルタイム等、畢生の出来栄えの新作モデルがそろい踏みしておりましたね。

 

そんな中で特にご紹介したいのが、カラトラバ パイロット トラベルタイム・クロノグラフ Ref.5924Gです。

パテックフィリップ カラトラバ 6006G

出典:https://www.patek.com/en/home

トラベルタイム・クロノグラフと言うと、ノーチラスが最も有名かもしれません。

しかしながら2023年、カラトラバ パイロットと見事に融合!さらにこれまでの同コレクションにはなかったカラーリングを採用することで、パテックフィリップのまた違った面を垣間見るような、そんな新作だと思い、本稿の10傑に加えることといたしました。

 

カラトラバ パイロット トラベルタイムは2015年に誕生したコレクションです。

パテックフィリップ カラトラバ パイロット トラベルタイム 5524G-001

※2015年発表のカラトラバ パイロット トラベルタイム Ref.5524G

当時のパテックフィリップの中では非常に珍しくミリタリーに寄ったデザインを特徴としております。発売からしばらく話題が絶えず、プレミア価格が続いたコレクションとしても知られており、当店でも高価格帯であるにもかかわらず、入荷即完売の続く大ヒット商品となっております。

従来カラトラバ パイロット トラベルタイムはブラウンまたは濃いブルー文字盤のラインナップだったのですが、2023年新作モデルではサンレイ仕上げが美しいブルーグレーまたはカーキ文字盤で登場しており、ミリタリーな中にも都会的で洗練されたテイストをまとうこととなりました。

さらにここで、トラベルタイムとクロノグラフのマリアージュが楽しめる、と。

パテックフィリップ カラトラバ パイロット

出典:https://www.patek.com/en/home

ちなみにトラベルタイムはGMT機能のことです。

パテックフィリップのトラベルタイムはリューズではなく、7時・10時位置に設けられた二つのプッシュボタンによって針を進めたり遅らせたりする仕様となります。また、文字盤中央にはローカルタイムとホームタイムの昼夜表示(お昼が白、夜が青)のための窓が設けられていることも特徴的ですね。

ここにクロノグラフが加わって、合わないはずがありません。

出典:https://www.patek.com/en/home

前述の通りノーチラスでも搭載されてきたCal.CH 28-520 C FUSによって、トラベルタイムとクロノグラフ、見事に二つの複雑機構がカラトラバに融合されていると言えます。

なお、これまでカラトラバ パイロット トラベルタイムは7時・10時位置のプッシュボタンがアイコニックでしたが、3時側にクロノグラフの制御ボタンが搭載されたことから、トラベルタイム用のボタンはケースに埋め込まれることとなりました。これによってミリタリーテイストは守りつつ、カラトラバらしい美しいフォルムをも実現しています(もっとも操作時に専用ピンを取り出す必要がありますが)。

パテックフィリップ カラトラバ 6006G

出典:https://www.patek.com/en/home

さらにフライバック・クロノグラフが搭載されていることもミソ。

フライバック・クロノグラフは計測中にリセットボタンを押すことで、即座にクロノグラフ針がゼロリセットされて再計測される機構です。ちなみにパテックフィリップのクロノグラフは作動時のエネルギー消費がきわめてエコ。そのためクロノグラフ秒針をずっと稼働させ、秒針のような役割を果たすこともできるのだから恐れ入ります。通常クロノグラフ針の作動は負荷がかかるものですが(フライバック機構が搭載されていればなおさら)、パテックフィリップの優れた設計によってクロノグラフ針に秒針の役割をも担わせ、よってスモールセコンドを持たない、すっきりとした文字盤レイアウトを可能としました。

パテックフィリップ カラトラバ 6006G

出典:https://www.patek.com/en/home

12時位置のポインターデイトと6時位置の60分積算計のレイアウトも最高ですね。夜光が塗布されたアラビアンインデックスや力強い時分針とよく調和しています。

 

国内定価は10,175,000円です。

プチコンプリケーションということ。またパテックフィリップは大変高い作りこみによって至高のタイムピースを製造しているため、なかなか大量生産とはいかないでしょう。そのため価格としても出回りとしても気軽に入手できる新作ではありませんが、だからこそ所有欲を刺激する逸品とも言えるでしょう。



2023年新作④IWC インヂュニア オートマティック 40

IWC 2023年新作

出典:https://www.iwc.com/jp/ja/watches-and-wonders/new-watches.html

スペック

外装

ケースサイズ: 直径40mm×厚さ10.07mm
素材: ステンレススティール
文字盤: ブラック他

ムーブメント

駆動方式: 自動巻き
ムーブメント: Cal.32111
パワーリザーブ: 約120時間

機能

防水: 10気圧
定価: 1,567,500円(税込)

おかえりなさい、インヂュニアSL!ジェンタデザイン!

 

ドイツ語・フランス語でエンジニアを意味するインヂュニアは、1955年に誕生したIWC屈指の耐磁腕時計ですが、ルーツはIWCの十八番でもあるパイロットウォッチに遡ることができます。

マーク11に代表される、パイロットウォッチを手掛けてきたIWC。同社のパイロットウォッチは、初期モデルから既にコックピット内の高磁場に耐えられるよう、耐磁性能が考慮された画期的な製品でした。ちなみにマーク11は英国空軍の飛行監視要員向けの腕時計として、30年以上に渡って制式採用されていたことは、IWCファンにはお馴染みですね。

このマーク11を元に、民生用―とは言え、主に医師や放射線技師などといった、当時としては特殊な職業に従事した「エンジニア」をターゲットに開発されたのがインヂュニアでした。ちなみにインヂュニア初代モデルは、既に80,000A/m(1,000ガウス)という十分な耐磁性能を備えていたとのことです。

初代インジュニア Ref.666AD

※初代インヂュニア Ref.666AD

上の画像からもわかるように、初代インヂュニアは比較的オーセンティックなスタイルとしてリリースされました。

しかしながら1976年、コレクションに大きなテコ入れが加えられることとなります。それが、2023年新作インヂュニアのオリジナルともなった、第二世代インヂュニアSL Ref.1832です。

IWC インジュニア

※第二世代インヂュニアSL Ref.1832

デザインを手がけたのは、オーデマピゲ ロイヤルオークやパテックフィリップ ノーチラス等でも知られているジェラルド・ジェンタ氏です。

近年、時計市場を大いに騒がせているラグジュアリー・スポーツウォッチの立役者「ジェンタデザイン」。ブレスレットと一体型になったケースや特徴的なベゼルのビス留め等、誕生から半世紀ほど経つ今でも鮮烈な印象を私たちに与えてくれるデザインは、さすが鬼才です。ただし薄型でいかにもラグジュアリーなロイヤルオークやノーチラスと異なり、ジェンタデザインのインヂュニアはケース直径40mm、ケース厚も12.5mmほどもあり、ツール感の強いスポーツウォッチでした。

このジェンタデザインのインヂュニア、今でこそ世界的熱狂の中心的存在ですが、当時はそこまでの製造数はありませんでした。Ref.1832も、わずか976本(うち、ステンレススティール製は534本)ほどで生産が打ち切られたようです。

ジェンタデザインのテイストはその後のインヂュニアにも受け継がれていきますが、2001年に一度生産終了。その後復活して2005年、2013年とモダナイズされた意匠にモデルチェンジを経ていきます。しかしながら2017年にインジュニアSLから続くジェンタデザインを継承したスポーティーな雰囲気から一転、ファーストモデルを彷彿とさせるシンプルデザインへと回帰していくこととなりました。

 

とは言え、根強い人気と復活の声が年々高まっていたことをIWCが汲んでくれたか。初代インヂュニアSL Ref.1832に範を取った、新型モデルが発表されました!バリエーションはステンレススティール製から三種、チタン製から一種です!

IWC 2023年新作

出典:https://www.iwc.com/jp/ja/watches-and-wonders/ingenieur-automatic-40-silver-plated.html

もちろんただデザインを復刻したわけではなく、IWCの最先端技術を存分に楽しめる新作に仕上がっています。

インヂュニアSLでも見られたケース・ブレスレットが一体型となったフォルムやブレスレットのH型リンク、そしてベゼルのくぼみはそのままに、リューズガードを搭載。これは、2013年のモデルチェンジから採用されていた意匠でした。また、Ref.1832のようにグリッドパターンの文字盤や特徴的な針、バーインデックスもリバイバルされていますが、2023年版は現代的に洗練されています。なお、オリジナルのベゼルのくぼみは個体によって位置が様々でしたが、新作ではビス留めすることで定位置となります。

IWC 2023年新作

出典:https://www.watchesandwonders.com/en/geneva-2023/brands/iwc-schaffhausen/ingenieur-steel/ingenieur-automatic-40-aqua

さらにIWCが「(インヂュニアSLの)大胆な美的コードを反映しつつ、エルゴノミクス、仕上げ、技術に関する最高水準の品質を満たしている」と語るように、丁寧な仕上げや作りこみによって、2023年新作インヂュニアは高級スポーツウォッチに仕上がります。

また、オリジナルがケース厚12.5mmであったと前述しましたが、新作では軟鉄製インナーケースを復活させているにもかかわらず、10.07mmの薄さとなっていることも大きなポイントです。ちなみにエルゴノミクスとは人間工学のことで、快適な装着感に配慮されています。これはケースが薄くなったことに加えて、インヂュニアのために新しく設計されたミドルリンク・ アタッチメントによって、手首にフィットする造りとなっているためです。

IWC 2023年新作

出典:https://www.watchesandwonders.com/en/geneva-2023/brands/iwc-schaffhausen/ingenieur-steel/ingenieur-automatic-40-black

ムーブメントは約120時間のロングパワーリザーブを誇る、Cal.32111です。

パイロットウォッチやアクアタイマーにも搭載されてきたムーブメントで、IWCらしい堅牢性や信頼性に優れており、精度や巻き上げ効率の面でも申し分ありません。

 

なお、前述の通りステンレススティール製とチタン製でラインナップされています。

IWC 2023年新作

出典:https://www.iwc.com/jp/ja/watches-and-wonders/ingenieur-automatic-40-titanium.html

ステンレススティール製はブラック・シルバー・グリーンの三種、いずれも国内定価は1,567,500円です。チタン製はグレーと文字盤でラインナップされており、国内定価は1958000円です。

100m防水ケースと相まって、デイリーユースに最適なラグジュアリー・スポーツウォッチとなっております。



2023年新作⑤グランドセイコー エボリューション9 テンタグラフ SLGC001

グランドセイコー 2023年新作

出典:https://www.grand-seiko.com/jp-ja/

スペック

外装

ケースサイズ: 直径43.2mm×厚さ15.3mm
素材: ブライトチタン
文字盤: ブルー

ムーブメント

駆動方式: 自動巻き
ムーブメント: Cal.9SC5
パワーリザーブ: 約72時間

機能

防水: 10気圧
定価: 1,815,000円(税込)

次にご紹介するのは、わが国が誇る高級腕時計ブランド・グランドセイコーの、史上初となる機械式クロノグラフ「テンタグラフ」です!

クロノグラフは現在、非常にポピュラーな機構です。しかしながら意外にもグランドセイコーのメカニカル(機械式ムーブメント)ラインにはクロノグラフがなく、スプリングドライブが主流でした。

 

そんな中、満を持して発表された初の機械式クロノグラフですが、歴史は少し前に遡ります。

2020年、グランドセイコーはブランド誕生60周年の節目のこの年、新世代メカニカルムーブメントとしてCal.9SA5をローンチします。Cal.9SA5はグランドセイコーらしいハイビート設計を維持しつつ、約80時間のパワーリザーブ延長を実現した最新機種。また耐衝撃性や堅牢性を堅持しつつも、薄型設計であること。さらに高級機らしい仕上げや面取り、美しいルビーのセッティングによって、美観の点でも優れていることから、発表当時より傑作の呼び声高い逸品でした。

2023年のテンタグラフはこのCal.9SA5をベースに、クロノグラフ機構をモジュールとして組み込んだCal.9SC5を搭載していることを特徴としています。ちなみにテンタグラフはTen beats per second、Three days、Automatic chronographに由来しています。すなわち、10振動/秒、3日間パワーリザーブ、自動巻きクロノグラフです。

グランドセイコー 2023年新作

出典:https://www.grand-seiko.com/jp-ja/

「ハイビート」についてもう少し解説を加えると、機械式時計の精度を司る「テンプ」の往復運動のテンポを指します。このテンプの振動数が高いほど安定した精度が出しやすく、また細かい時間まで計測することが可能です。なお、一般的にテンプが28,800振動/時(1秒間に8振動)以上の機械をハイビートと呼ぶことが多くなります。対義語はロービートです。

ハイビートムーブメントは高精度を出しやすい一方で、エネルギー消費が大きく、パワーリザーブが短くなる傾向にあります。またパーツ摩耗が促進されるデメリットも有します。そのため全てのブランドがハイビートテンプを採用しているわけではないのですが(もちろんハイビートでなくとも設計によって高精度を維持する時計は、現在ではたくさんあります)、グランドセイコーは長らくハイビートムーブメントを手掛けてきました。とりわけ現代グランドセイコーの基幹ムーブメントであるCal.9S8系は36,000振動/時(1秒間に10振動)というハイビート機でありながらも、半導体製造にも用いられる精密加工技術によって高精度な新素材を開発し、耐久性や堅牢性に配慮されています。なお、Cal.9S8系はハイビートでありながら、パワーリザーブも約55時間程度は維持していたことも、特筆すべき点です。

しかしながらCal.9SA5で、さらにパワーアップしたことは前述の通りです。

グランドセイコー キャリバー9SA5

※2020年にリリースされたRef.SLGH003のシースルーバックから覗くCal.9SA5

Cal.9SA5はグランドセイコーの最先端技術が駆使されており、とりわけパワーリザーブ延長のための「デュアルインパルス脱進機」や「グランドセイコーフリースプラング」、その他独自のヒゲゼンマイにツインバレル等は、リリース当時、各種メディアで大きな話題となったものでした。

この傑作ハイビートムーブメントがベースとなっているため、テンタグラフは精密精緻な時間計測が可能となっております。

クロノグラフの搭載によってワーリザーブは約72時間となっておりますが(9SA5は80時間)、十二分ですよね。近年の業界のスタンダードな持続時間と言えます。

またCal.9SC5の垂直クラッチは指針ズレや針飛びを抑え、コラムホイールによって精密な制御も可能としております。さらに独自の三叉ハンマーが組み込まれており、リセット時に心地よいクリック観とともにクロノグラフ針を瞬時にゼロリセットするとのことです。

グランドセイコー 2023年新作

出典:https://www.grand-seiko.com/jp-ja/

さらに、グランドセイコーはテンタグラフの製品化に伴い、グランドセイコー規格にクロノグラフのための新たな検査項目を追加しました。これは6方向の姿勢、3段階の温度で17日間の厳格な検査に加えて3日間、クロノグラフを作動させた状態かつ三方向の姿勢で精度を評価するものです。グランドセイコー規格は、同社が常に精度を追い込んできた歴史の象徴でもあります。すなわち高精度はグランドセイコーのアイデンティティ。ゆえに、ブランド初となるクロノグラフもまた、その精神性が存分に生きた新コレクションとなっているのです。

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この素晴らしき機械式ムーブメントCal.9SC5は、シースルーバックからご鑑賞頂けます。もちろん高級機らしい仕上げ・装飾が施されているため、機械に一家言持つ愛好家も満足の出来栄えではないでしょうか。

 

なお、テンタグラフとして選ばれたデザインは、「エボリューション9」でした。

エボリューション9は2021年に発表されたシリーズ9をアップデートしたグランドセイコーの新定番で、大人気の白樺モデル等もエボリューション9の中のバリエーションです。エボリューション9は、グランドセイコーが長年掲げてきた「セイコースタイル(燦然と輝く時計)」をもとに、日本の美意識を取り入れた新しいデザイン文法を採用していることを特徴とします。

さらに2023年新作テンタグラフでは、ここにスポーティーな要素もしっかりと取り入れられており、グランドセイコー自身も「グランドセイコーの理想を追求した新スポーツウォッチ」と称します。

グランドセイコー 2023年新作

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テンタグラフの外装に目をやると、セイコースタイルらしく歪みのない鏡面仕上げや、鋭いエッジの効いた意匠が目に入ると同時に、丁寧なつや消し仕上げが主体となっていることもわかります。

ちなみに素材はブライトチタンです。セイコーが腕時計のために開発したチタン合金で、純チタンより約1.5倍の硬度があるにもかかわらず、従来のチタンにはない美しい光沢を湛えます。実際グランドセイコーのブライトチタンモデルは軽量かつ堅牢であるにもかかわらず、高級機らしい風格が漂っているものです(チタンを使った腕時計は、ツール感が強まる傾向にあるにもかかわらず、です)。

グランドセイコー 2023年新作

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奥行のある文字盤もいかにも高級機で、切り立ったイデックスや力強く鋭利な時分針からは、セイコースタイルが守り抜いてきた「美」を感じますね。

ちなみに分針とクロノグラフ秒針の先端が文字盤のメモリ先端まで伸びているのもミソ。この曲げ針は熟達した職人の手作業によって為されていると言います。曲げ針はオールドウォッチで見られる手法です。視認性を向上させることが目的でしたが、近年では文字盤や針・インデックスの質が向上したため、必ずしも重要な作業ではありません。そのため採用するブランドは少なくなってきているのですが、手作業由来の曲げ針にロマンと美を感じている方は少なくないでしょう。

グランドセイコー 2023年新作

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さらに新作モデルでは二枚の文字盤を重ねることで、メインダイアルとインダイアルにメリハリを利かせました。視認性の面でもナイスな手法ですが、さらに高級機に欠かせない「立体感」も存分に備わります。スポーティーなセラミック製タキメーターベゼルと相まって、新時代の高級スポーツウォッチに仕上がりました。

グランドセイコー 2023年新作

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深みあるブルーに特徴的なパターンは、岩手県雫石市に位置するグランドセイコースタジオから臨める、岩手山の山肌がイメージされています。しばしば同地をモチーフにした意匠がグランドセイコーでは見られますが、新作はブルーとなっており、星々がきらめく岩手山の夜が舞台となっているとのことです。

ケースサイズは直径43.2mm×厚さ15.3mmと大振りですが、エボリューション9は装着感にも配慮されています。チタンで軽量ゆえ、一日中快適に着用できるグランドセイコーらしい配慮がなされているのでしょう。

 

国内定価は1,815,000円と、グランドセイコーの中でもハイエンドの位置づけです。

国産高級クロノグラフというジャンルを世界に羽ばたかせる存在であり、グランドセイコーにとっても特別なポジショニングなのでしょう。




2023年新作⑥ランゲ&ゾーネ オデュッセウス クロノグラフ

ランゲ&ゾーネ 2023年新作

出典:https://www.alange-soehne.com/jp-ja/timepieces/odysseus/odysseus-chronograph

スペック

外装

ケースサイズ: 直径42.5mm×厚さ14.2mm
素材: ステンレススチール
文字盤: ブラック

ムーブメント

駆動方式: 自動巻き
ムーブメント: Cal.L156.1
パワーリザーブ: 約50時間

機能

防水: 12気圧
定価: 要問合せ(世界限定100本)

2019年にランゲ&ゾーネの新たなる定番としてリリースされたオデュッセウスの最新作も、2023年の話題を席捲していくことでしょう。

 

このオデュッセウス、ランゲ&ゾーネ初のスポーツウォッチコレクションとなります。さらに2019年リリース時は、同社初のステンレススティール製であること。また初のねじ込み式リューズによる12気圧防水モデルであったことでも、かなり驚かされたものでした。

本稿でも何度か言及している通り、現在ラグジュアリー・スポーツウォッチが時計業界の一つのトレンドです。ラグジュアリー・スポーツウォッチは略してラグスポなどとも称されており、決まった定義はありませんが、高級腕時計メゾンが手掛ける、薄型上品なスポーツウォッチといった意味合いで捉えられます。このジャンルに、これまでオーセンティックなコレクション展開が多かったランゲ&ゾーネも参入することとなりますが、さすが屈指のハイメゾン。スポーティーな性能を堅持しつつも、ランゲ&ゾーネらしい高い作りこみや工芸品のようなムーブメントとともに打ち出されたオデュッセウスは、たちまちラグジュアリー・スポーツウォッチのアイコン的存在へと昇り詰めました(もっともランゲ&ゾーネらしい少量生産も健在で、なかなか市場に出回らないのが口惜しいところですが・・・)。

 

このオデュッセウス、少量生産ではあるものの、年々コレクションが拡充されています。

そうして2023年には、ランゲ&ゾーネ初の自動巻きクロノグラフというアイデンティティをまとって、バリエーション追加されたというわけです!

ランゲ&ゾーネ 2023年新作

出典:https://www.alange-soehne.com/jp-ja/timepieces/odysseus/odysseus-chronograph

搭載されるムーブメントは、新開発のL156.1ダトマティックです。

ランゲ&ゾーネは「一つのモデルのために一つのムーブメント」という理念があるため、このL156.1ダトマティックは新作オデュッセウスのための機械となっております。ちなみにダトマティックは、ドイツ語で日付を意味するDatumと自動巻きのAutomatischerを組み合わせたランゲ&ゾーネによる造語です。

もっとも、一般的なクロノグラフモデルと比べると、かなりシンプルな顔立ちですよね。

通常、クロノグラフ計測のための積算計がインダイアルとして設置され、スモールセコンドや複数の積算計とともに文字盤にセッティングされているものです。しかしながら新作オデュッセウスを見ると、従来の3針モデルと同様に3時位置にはアウトサイズデイト、9時位置には曜日の窓を、6時位置にはスモールセコンドを備えるというレイアウトが踏襲されています。

ランゲ&ゾーネ 2023年新作

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ランゲ&ゾーネはこのオデュッセウスのデザインコードを崩さないために、L156.1ダトマティックに驚くべきギミックを組み込みました。

それは、「センター針に60分積算計の役割を担わせる」というものです。

ランゲ&ゾーネ 2023年新作

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文字盤を見ると、時分針の他に、二つのセンター針が確認できるかと思います。

赤く色づけられた針の方が、60秒で一周する一般的なクロノグラフ針です。そしてシルバーの方はというと、60分で一周するクロノグラフ針です。すなわち、シルバークロノグラフ針によって60分の経過計測が可能となっているのです。12時位置にの「60」のスケールが赤いのは、この機能を特徴づける意味合いがあったのですね。

 

さらにユニークなのが、クロノグラフのリセット機能です。

クロノグラフにはスタート・ストップボタンとリセットボタンが搭載されており、一般的にリセットボタンによって進んだクロノグラフ針をゼロ位置にフライバックさせます。しかしながらランゲ&ゾーネの新作オデュッセウスでは、積算が30分未満であれば逆時計回りに、30分以上であれば時計回りにクロノグラフ針(シルバー・赤ともに)がフライバックする仕掛けになっています。その際、赤いクロノグラフ針は、進んだ距離だけ素早く何周も巻き戻るという動きまで見せてくれるのだから、一筋縄ではいきませんね。

 

ユニークという点ではデュアルファンクション・ボタンもそうでしょう。

ランゲ&ゾーネ 2023年新作

出典:https://www.alange-soehne.com/jp-ja/timepieces/odysseus/odysseus-chronograph

前述の通り、クロノグラフにはスタート・ストップボタンとリセットボタンが搭載されています。

新作オデュッセウスにも控えめながらリューズ側のケースサイドにプッシュボタンが二つ設置されていますね。しかしながらこのボタン、リューズ位置によって、操作できる機能が異なるというのです!

と言うのも、リューズが切り替えボタンの役割を担っており、リューズがねじ込まれて定位置の時、2時・4時位置のプッシュボタンはクロノグラフの制御を行います。リューズを一段引きにすると、このプッシュボタンでカレンダー調整が行えるように。そしてリューズを完全に引き出すと、ボタン操作は行えなくなり(時刻合わせはリューズを使って行う)、これによって時刻操作中の故障のリスクを抑えることとなりました。

ブラック文字盤のアジュラージュと呼ばれる同心円状の溝や中央の梨地も特徴的で、オデュッセウスを特別な存在に押し上げます。

 

裏蓋側からはL156.1ダトマティックをご鑑賞頂けるのも、ランゲ&ゾーネファンには堪りませんね。

ランゲ&ゾーネ 2023年新作

出典:https://www.alange-soehne.com/jp-ja/timepieces/odysseus/odysseus-chronograph

曲線を活かしたブラックロジウム加工のプラチナ製ローターや、青焼きネジで留められたゴールドシャトンおよびルビーの三つ巴。そして優美なスワンネック緩急針は、さながら工芸品のように美しい世界観を繰り広げます。

パワーリザーブは約50時間となっているため、利便性の面でも申し分ありませんね。

 

このようにランゲ&ゾーネの仕事ぶりやオデュッセウス由来のラグジュアリーテイストは健在ですが、ケースが若干大きくなっており、スポーティーな印象が強まっていることも特徴です。これまでのオデュッセウスはケース直径40.5mm×厚さ11.1mmでしたが、新作クロノグラフ搭載モデルではケース直径42.5mm×厚さ14.2mmになりました。

もっとも、ケース・ブレスレットも丁寧に仕上げられており、かつエッジが面取りされているので、高級機としての風格は損なわれていません。ベゼルの歪みない鏡面仕上げや優美なケースラインが、腕元で存在感を発揮してくれることでしょう。

なお、120m防水もこれまでのオデュッセウスと同様です。

 

ただし、「入手しづらさ」は従来通りのようで、生産本数はわずか100本。価格も要問合せとアナウンスされております。

ランゲ&ゾーネのように、生産ラインの大きい部分を熟達した職人らの手作業に拠るハイメゾンというのは、どうしても大量生産とは無縁なものです。その分、ランゲ&ゾーネにしかできない仕事が存分に楽しめるのも、昔ながらの製法ならではとも言えます。

なかなか入手しづらいのはファンとしては口惜しいところですが、そういった稀少性も所有欲を刺激され、ますますオデュッセウスが憧れの存在となるのもまた事実です。



2023年新作⑦チューダー ブラックベイ 7941A1A0RU

チューダー 2023年新作

出典:https://www.tudorwatch.com/ja

スペック

外装

ケースサイズ: 直径41mm
素材: ステンレススティール
文字盤: ブラック

ムーブメント

駆動方式: 自動巻き
ムーブメント: Cal.MT5602-1U
パワーリザーブ: 約70時間

機能

防水: 200m
定価: 572,000円または558,800円または531,300円

チューダーはロレックスのディフュージョンブランドとして誕生しながらも、チューダーにしかできないことをやってのけ、今では国内外に独自ファンを抱える時計ブランドです。とりわけ日本では2018年に正規店進出して以降、絶大な支持を集め続けてきました。

チューダーはロレックスとのWネームを感じさせるような、そんなブランドレガシーを活かした製品展開も行っていますが、一方で随所にチューダーの「色」が如実に表れていること。またロレックスと同様に高品質を堅持しながらも、良心的な価格設定で製品提供していることなどが、チューダーの人気の背景として挙げられるでしょう。

 

そんなチューダー、近年では新しい挑戦にも余念がありません!その代表格が、マスタークロノメーター認定ブラックベイではないでしょうか。

本稿の二番目でご紹介したオメガの項でも言及している、マスタークロノメーター規格。

クロノメーター認定機を対象に8個にも及ぶ厳格なテストを突破した時計にのみこの称号が与えられますが、とりわけ15,000ガウスもの高磁場下での時計性能の維持は特筆すべき点でしょう。

前述の通り従来はオメガの独擅場だったのですが、2021年にチューダーもブラックベイから、マスタークロノメーター認定モデルを打ち出したことで、大いに話題となりました。

この2021年のモデルはオールブラックの特別感溢れる一本だったのですが、2023年、オーセンティックなブラックベイからもマスタークロノメーター認定機が登場しました!それが、ブラックベイ 7941A1A0RUです!

チューダー 2023年新作

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直径41mmのステンレススティール製ケースにバーガンディのベゼルの組み合わせは、お馴染みのRef.79230Rを思わせますね(現在は残念ながらカタログから消えてしまいましたが)。視認性の高い文字盤にイカ針、そしてこれらを縁取るローズゴールド調のヴィンテージな風合いも、これぞブラックベイといった様相です。

ちなみにブラックベイについて簡単に解説すると、チューダーが2012年に打ち出したフラグシップコレクションです。

チューダーが1950年代~2000年代に製造していたサブマリーナーに範を取ったデザインを特徴としており、初期サブマリーナーの意匠をベースにしつつ、1969年に誕生したRef.7016(デイト付きはRef.7021)のイカ針をリバイバル。唯一無二のダイバーズウォッチに仕上がった現代ウォッチと言うことができます。

なお、ケース直径は既存のRef.79230Rと変わりませんが、新作モデルは外装全体で薄型化が図られているようで、さらに快適な装着感となっていることでしょう。

チューダー 2023年新作

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もともとブラックベイは200m防水、かつチューダーの信頼性高いマニュファクチュールムーブメントを搭載しており、優れた性能では定評がありました。

ここにマスタークロノメーターという付加価値、そして15,000ガウスもの高耐磁性能が加われば、まさに鬼に金棒!実際、スマートフォンのスピーカー部分やバッグのマグネット、エレベーターのボタン・・・あらゆるところに磁気が溢れる現代社会において、耐磁性能は大いに求めるところですよね。

 

このマスタークロノメーターの称号を獲得したムーブメントは、2021年モデルと同様にCal.MT5602-1Uです。

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前述した15,000ガウスもの耐磁性能を有しながらもケースの大型化は見受けられず、また約70時間の嬉しいロングパワーリザーブとなっております。

ただし2021年のブラックセラミックモデルはシースルーバックが採用されておりましたが、2023年新作モデルはソリッドバックとなっております。

 

新作は合わせて三種がリリースされており、ドレッシーなジュビリーブレスレット、3列メタルブレスレット、ラバーストラップのラインナップです。いずれも“T-fit”クイックアジャストクラスプを搭載しているため、工具なしでの微調整が可能です。

 

国内定価はジュビリーブレスモデルが572,000円、3列ブレスモデルが558,800円、ラバーストラップモデルが531,300円です。

マスタークロノメーター化を果たしているにもかかわらず既存コレクションとの価格差は10%以内となっており(SSの3列ブレスモデルの場合)、ここにもチューダー人気を垣間見れる2023年新作ではないでしょうか。




2023年新作⑧ウブロ MP-13 トゥールビヨン バイ-アクシス レトログラード

ウブロ 新作

出典:https://www.hublot.com/ja-jp

スペック

外装

ケースサイズ: 直径44mm
素材: チタニウム
文字盤: スケルトン

ムーブメント

駆動方式: 手巻き
ムーブメント: Cal.HUB6200
パワーリザーブ: 約96時間

機能

防水: 3気圧
定価: 20,218,000円(税込)

FUSIONの姿勢で以て、革新的なデザインに機構、あるいはコンセプトを世に送り出してきたウブロもまた、例年新作が本当に面白い時計ブランドの一つです。

「面白い」と言ってもただ奇抜というのではなく、確かな時計製造技術と高いデザイン性に裏打ちされた至高のタイムピースを続々と打ち出しており、そんなウブロに畏敬の念を感じざるをえません。

 

ウブロの2023年新作モデルからご紹介したいのは、MP-13 トゥールビヨン バイ-アクシス レトログラードです!

ウブロ 2023年新作

出典:https://www.hublot.com/ja-jp

MPとはマスターピースシリーズで、ウブロのコンセプトコレクションです。「マスターピース」というだけあり、ウブロのレギュラーコレクションに輪をかけてインパクト抜群のモデルが揃っています。超絶コンプリケーションや超絶デザインが用いられており、一般市場に豊富に出回るといった代物ではありませんが、ウブロの革新の姿勢を感じられるコレクションの一つです。

 

そんなMPシリーズの最新版が、2023年発表のMP-13です。なんと、2軸トゥールビヨン(バイ-アクシス)×デュアルレトログラード表示の、スーパーコンプリケーションです!

ウブロ 新作

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トゥールビヨンとは、機械式時計の精度を司る調速機と脱進機をキャリッジにまとめて、キャリッジごと回転させるコンプリケーションです。その動きから、フランス語で渦を意味するトゥールビヨンと名付けられました。トゥールビヨンは世界三大複雑機構にも数え上げられており、製造の複雑さや難易度の高さも相まって、超高額となることも珍しくありません。近年では加工技術の発達から多くのブランドが手掛けるようになり、量産も可能となりましたが、ウブロはこのトゥールビヨンにおいて、それぞれ別の速度を持つ機構を重ねたバイ-アクシス トゥールビヨンをこの度打ち出してきました!

すなわち、1軸が1分間に一回転し、もう一方の1軸が30秒間に一回転するトゥールビヨンということです(もっとも2021年に発表された、MP-09 トゥールビヨン バイ-アクシスで既に採用されていたため、ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが)。

通常のトゥールビヨンの動きも素晴らしいものがありますが、それぞれ異なる速度で回転する多軸トゥールビヨンというのは、めくるめくといった表現が正しい世界観です。

なお、MP-13では、トゥールビヨンのアッパーブリッジをなくしています。また各パーツをそぎ落とすことで光の透過を妨げず、トゥールビヨン周りのスペースを開放するなどといった構造的デザインで、透明感と浮遊感を備えたトゥールビヨンをも実現しています。

加えてMP-09でも見られた手法ですが、6時位置がカーブされることでトゥールビヨンが強調されているのも特筆すべき点です。硬度の高いサファイアクリスタルガラスやチタンをこのように複雑な形状にするのにも、当然ながらきわめて高度な時計製造技術が求められるためです。

 

さらにMP-13では、このバイ-アクシス トゥールビヨンに留まらず、デュアルレトログラードを組み合わせているのです!

 

レトログラードは表示形式の一種です。一般的には文字盤を一周する針ですが、レトログラードでは扇形のインジケーターが文字盤上に設置されており、針が始点から出発。時を刻んで終点まで到達すると、針が始点にフライバック。また終点に向かって針が進んでいくという機構です。

パワーリザーブインジケーター等でポピュラーな機構とはなっているものの、時分でデュアルレトログラードにするという発想、さすがウブロと言うべきでしょう(しかも2軸トゥールビヨンとの組み合わせ)。

ウブロ 2023年新作

出典:https://www.hublot.com/ja-jp

新作では文字盤のフランジの内周側に時間を、外周側に分のためのレトログラードを設置していることがわかります。つまり時針は12時間でインジケーター終点まで到達してフライバック。分針の方は60分で終点まで到達してフライバックというわけです。

分針は通常のそれのように少しずつ動きますが、時針の方は次の時間から次の時間へと瞬時にスキップされており、視認性にも配慮されていると言えます。

そう、コンセプトモデルは精密精緻な世界観を楽しむといった側面があるため視認性は二の次だったりするものです。ウブロは文字盤をスケルトナイズすることで機構を見せつけてくれますが、メカメカしいデザインはやはり視認性が疎かになるケースもあります。しかしながら、そこはウブロ。太く力強い針に、同じく大きく見やすいアラビアンインデックスを採用しており、「日常における見やすさ」にも配慮がなされました。夜光が塗布されているので、暗所での視認性も確保されています。

ちなみに3時位置のリューズで時刻合わせをしますが、これは一つのポジションで一方向にしか巻き上げられないように設計されています。なぜならレトログラードは針を逆回しにできず、オーナーが誤ってこれを行ってしまい、故障の原因になることが多いため。そもそもこの故障が起こらないという設計にしたところに、繰り返しになりますがウブロの実力を感じます。

 

これらの面白くも複雑な世界を実現するのは、ウブロの自社製手巻きムーブメントHUB6200です。374個のパーツで構成されており、21,600振動/時のビート数。さらに2軸トゥールビヨンやレトログラードなどといったエネルギーを消費しがちな機構を備えつつも、96時間(4日間!)のロングパワーリザーブを実現しています。

ウブロ 2023年新作

出典:https://www.hublot.com/ja-jp

文字盤・裏蓋側からともに、この見事なコンプリケーションムーブメントを鑑賞できるというのは、時計好きには堪りません。

外装の雰囲気と融合する仕上げのブリッジやトゥールビヨンが一つのデザインコードに昇華されており、本当に見事です。ずっと眺めていられる腕時計ではないでしょうか。

 

このムーブメントを包み込むチタン製ケースも畢生の出来栄えです。

ウブロらしい多層構造とポリッシュ・サテン仕上げのコンビネーションによって、高級機らしい風格は満点。前述の通りトゥールビヨンを強調するため6時側ケースがガラスごとカーブがかっているのですが、不自然なところはなく、ウブロらしいアヴァンギャルドと高級感を両立します。ちなみに通常のビッグバンはベゼルに6つのビスが留められていますが、MP-13では6時位置は省略されて5つとなっております。

 

国内定価は20,218,000円。さらに世界限定50本生産と、機構やデザインのみならず価格・製造数の面でも特別感溢れる一本となっております!しかし、これは一度実機を操作してみたい!



2023年新作⑨パネライ ラジオミール カリフォルニアダイアル PAM01349

パネライ 2023年新作

出典:https://www.panerai.com/jp/ja/home.html

スペック

外装

ケースサイズ: 直径45mm
素材: ブルニート eSteel
文字盤: グリーン

ムーブメント

駆動方式: 手巻き
ムーブメント: Cal.P.5000
パワーリザーブ: 8日間

機能

防水: 100m
定価: 1,634,600円(税込)

近年のパネライはルミノールコレクションの刷新が目立ってきましたが、2023年はラジオミールの年でした!

2023年の新作モデル10傑として、ラジオミールは絶対に紹介したいと強く決めていたのですが、中でもひときわ心揺さぶられたのがカリフォルニアダイアルの復活です!

 

ラジオミールについて簡単に解説を加えると、パネライが1930年代にイタリア海軍からの要請で製造した本格ダイバーズウォッチに範を取る一大コレクションです。なお、このコレクション名は1916年にパネライが特許出願していた蛍光塗料から由来しました。健康被害への懸念から、後にルミノールを特許出願したうえでこちらの蛍光塗料へと使用を変更していきますが、ブランドレガシーとしてラジオミールの名前は現代に至るまで受け継がれています。もちろん名前のみならず、クッション型ケースにアイコニックな細いラグを特徴とする軍用時計は、現在でもパネライのラジオミールコレクションに受け継がれている点もロマンが溢れますね。

イタリア海軍に実際に納入が始まったのは1938年とのことですが、この本格ダイバーズウォッチのプロトタイプが1936年に納品されていました。そして1936年版のこのプロトタイプこそが、上半分はローマンインデックス・下半分がアラビアンインデックスというカリフォルニアダイアルを有していたのです。

ちなみにカリフォルニアダイアルのデザインはロレックスのオールドウォッチでも有名です。なんでもロレックスは当デザインの特許を1942年に取得しているのだとか(カリフォルニアダイアルと呼ばれるようになったのは1980年代以降ですが)。

なぜロレックスが関係してくるのかと言うと、パネライが1936年にイタリア海軍に納品したダイバーズウォッチは、同社がロレックスに協力を求めて製造された製品であったためです。パネライは今でこそ名門時計ブランドですが、当時はイタリア海軍向けに水深計や水中コンパスなどといった精密機器を開発するメーカーでした。そのため時計製造におけるノウハウでロレックスが協力し、本格ミリタリーダイバーズウォッチを手掛けていったというわけです。

このカリフォルニアダイアルは、何度かパネライで復刻を果たしています。2006年のPAM00249や2012年のPAM00424等ですね。ちなみに元嵐の松本潤さんも、復刻カリフォルニアダイアルのラジオミールを所有していたとか。

これまでの復刻モデルはケース直径47mmとダイナミックだったのですが(それがパネライの良いところでもあるのですが)、2023年新作では、ケース直径45mmで展開されることとなりました。

パネライ 2023年新作

出典:https://www.panerai.com/jp/ja/home.html

ラジオミールのクッションケースに特徴的なラグ、そしてグリーンカラーのカリフォルニアダイアルが、良い味出してますね!レイルウェイミニッツやサンドイッチ文字盤も、いかにもヴィンテージ・ミリタリーです。

 

もっとも、ただコスメティックチェンジしたと思うなかれ。

外装にe-STEEL素材が使われているのですが、ブルニート加工を施すことで、使い込まれたヴィンテージのような質感を実現しているのです!ちなみにブルニートというのはイタリア語で金属のヤケなどを表すようです。

パネライ 2023年新作

出典:https://www.instagram.com/panerai/

e-Steelは2021年からパネライで順次採用されている新合金で、総重量の58.4%を再生素材ベースで合金したエコロジーなスティールです。リサイクル素材とは言え耐久性が重視されており、また既存のステンレススティール同様に丁寧に仕上げられていることで話題となりました。

パネライは2023年、このエコロジーな新素材で、新時代のヴィンテージ・ミリタリーウォッチを作り上げたと言えるでしょう。

1936年当時のプラスティック風防を思わせるドーム型サファイアクリスタルガラスと相まって、雰囲気は抜群。ミリタリーに根差した伝統と哲学を有する、パネライだからこそできた逸品と言えるでしょう。

さらにこだわりのポイントが、ストラップにG. Panerai e Figlio(グイド・パネライ&フィリオ)のロゴが施されているとのこと!これはオフィチーネ・パネライになる以前の同社の社名です。デザインや雰囲気のみならず、随所にまでパネライのレガシーを感じられますね。

 

ちなみに搭載するムーブメントP.5000もノスタルジーな手巻きです。とは言えその性能や実力は現代パネライを象徴した、優れたものとなります。ルミノールの2針モデルにも搭載されてきた自社製ムーブメントで、パネライらしい堅牢性はもちろん、8日間のパワーリザーブを実現しています。シースルーバックから鑑賞できる点も、現代的ですね。

 

国内定価は1,634,600円です。

パネライのこれまでとこれからを感じられる、パネリスティ必見の2023年新作ではないでしょうか。



2023年新作⑩ジャガールクルト レベルソ トリビュート クロノグラフ

ジャガールクルト 2023年新作

出典:https://www.jaeger-lecoultre.com/jp-ja

スペック

外装

ケースサイズ: 縦49.4mm×横29.9mm×厚さ11.14mm
素材: ピンクゴールド/ステンレススティール
文字盤: ブラック/ブルーグレー

ムーブメント

駆動方式: 手巻き
ムーブメント: Cal.860
パワーリザーブ: 約52時間

機能

防水: 3気圧
定価: 5,632,000円/3,212,000円

最後にご紹介するのは、ジャガールクルト レベルソより、1996年のモデルへの「トリビュート」となる新作です!

2023年、ジャガールクルトは「黄金比」をテーマに掲げました。この黄金比によって成り立つ同社のレベルソから、いくつかの特別モデルがリリースされております。

超絶コンプリケーションのハイブリス・アーティスティカ キャリバー179やトゥールビヨン搭載モデルも素晴らしかったですが、10傑のトリとしてぜひ知って頂きたいのが、こちらの新作クロノグラフ レトログラードです!

ジャガールクルト 2023年新作

出典:https://www.jaeger-lecoultre.com/jp-ja

ちなみにレベルソについて簡単に解説を加えると、1931年にスポーツ競技「ポロ」の競技者より、「ポロの競技中の衝撃にも耐えられるような時計が欲しい」といった要望から開発に至ったコレクションです。ポロは馬に乗った選手がラケットで球を運び、相手ゴールへ投球して点を獲得する競技。この競技中でも風防を衝撃から守れるよう、くるっとケースが反転することが、レベルソの何よりの特徴です。実際レベルソは、ラテン語で「回転させる」という意味が由来となっております。現在ではサファイヤガラスが発明されており、必須の機能ではありませんが、この仕掛けの面白さが大ヒットとなったというのは、今も昔も変わりませんね。

このレベルソ、1970年代までは製造されていたものの、クォーツショックとともに一時生産終了。しかしながら1991年、レベルソ誕生60周年と銘打たれ、堂々復刻を果たしました。

その後ジャガールクルトは、意欲的にレベルソのバリエーションを拡充していきます。

そうして1996年にリリースされた、レベルソ クロノグラフ レトログラード。この記念すべきモデルへのトリビュートとして、美しくも複雑精緻な一本が2023年に再び市場を賑わせています。

ジャガールクルト 2023年新作

出典:https://www.jaeger-lecoultre.com/jp-ja

もっとも表側から見ると、シンプルで端正な顔立ちです。

新作レベルソ トリビュート クロノグラフはステンレススティールモデルとピンクゴールドモデルの二種がリリースされましたが、いずれもサンレイ仕上げにシンプルなドーフィン針の2針が落ち着いた表情を見せていますね。

ケースサイズは縦49.4mm×横29.9mm×厚さ11.14mmと、レベルソ クラシックと比べるとやや大きめですが、コンプリケーションモデルということを鑑みればむしろ薄型。レベルソらしいポリッシュ仕上げや、アールデコの時代を思わせるケース両端の水平ラインも健在ですね。3時側にリューズとクロノグラフ用のプッシュボタンが備わりますが、とても控えめです。

 

しかしながらレベルソらしく、くるっとケースを反転すると、世界観は一変します。

ジャガールクルト 2023年新作

出典:https://www.jaeger-lecoultre.com/jp-ja

スケルトナイズされた文字盤から、レベルソのために製造された角型クロノグラフムーブメント Cal.860が目に飛び込んでくるのです。

コート・ド・ジュネーブ装飾のブリッジや各種歯車、コラムホイール(クロノグラフの制御パーツ)が居並ぶ様は、まさに圧巻。しかしながら、美しくも力強い時分針やインデックス、そしてダイアルはくっきりと縁取られており、時刻の視認性の邪魔はしません。

6時位置の30分積算計がレトログラード式というのも、憎い演出ですね。

センタークロノグラフ針及びレトログラードの針はブルースティール針となっており、類まれな美しさを実現します。

 

これだけ複雑精緻であるにもかかわらず、ケース厚がわずか11.14mmというのは、さすがジャガールクルトの仕事です。

パワーリザーブは約52時間となっており、コンプリケーションでありながらも実用性にも配慮がなされています。

 

なお、各モデルにはレザーまたはカーフ×ファブリックストラップが付属しており、様々な雰囲気も楽しめますね。

 

定価はピンクゴールドモデルが5,632,000円、ステンレススティールモデルが3,212,000円です。レベルソの「二面性」を、最大限に活かした2023年新作モデルとなっております。


まとめ

2023年新作モデルのうち、特筆すべき10本の腕時計をご紹介いたしました。

もっとも冒頭で述べた通り、2023年、各社があまたの魅力的な新作モデルを続々打ち出しており、いずれも甲乙つけがたし!時計ファン一人ひとりで、選出するブランド・モデルは異なることでしょう。

確かに言えることは、今年も時計業界は熱くなるということです!

当記事の監修者

田中拓郎(たなか たくろう)

高級時計専門店GINZA RASIN 取締役 兼 経営企画管理本部長
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター

当サイトの管理者。GINZA RASINのWEB、システム系全般を担当。スイスジュネーブで行われる腕時計見本市の取材なども担当している。好きなブランドはブレゲ、ランゲ&ゾーネ。時計業界歴12年

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