近年では加工技術の発達も手伝って、高級感溢れつつスタイリッシュなブレスレットの腕時計が増えてまいりました。腕時計は文字盤やケースのみならず、ブレスレットでも本当に雰囲気が変わるため、技術向上は嬉しいところですよね。
この技術向上は堅牢性にも大きく寄与しているものですが、一方で毎日使い続けている以上、トラブルは付き物です。
ブレスレットは着用中に故障してしまうと落下に繋がり、腕時計本体にも大きなダメージを与えかねません。そうなってくると、修理費用が超高額になることも・・・!
この記事では、ブレスレットによくあるトラブルと修理事例をご紹介いたします!腕時計を末永く大切にするためにも、ブレスレットとの正しい付き合い方を身に着けましょう!
※本稿で修理費用の目安を掲載しておりますが、こちらは当店GINZA RASINでの提携工房での対応履歴をもとに算出しております。修理先やモデルによっても費用は変わってきますので、参考程度にお読み下さい。
目次
腕時計のブレスレットによくあるトラブルと修理事例
腕時計のブレスレットは一つひとつのコマが、ピンやビスによって連結された構造になっています。一部の特殊モデルやアンティーク品を除き、サイズ調整のためにいくつかのコマが外せる仕様となっていることがほとんどです。また、コマを連結したブレスレットは、時計のケース(ラグ)およびバックルに取り付けられています。
コマの形状や数も非常に多岐に渡りますが、ブレスレットは腕時計の着用感やデザインを多いに左右する重要パーツです。
革ベルトと比べるとブレスレットモデルは価格が高くなりがちですが、経年に強く劣化のしづらさが一つの魅力。長い目で見たら、非常にお得感の強いパーツではないでしょうか。
もっとも冒頭でも述べている通り、堅牢なブレスレットとは言え、トラブルはあります!ブレスレットの、よくあるトラブルと修理事例をご紹介いたします!
トラブル①ブレスレットがきつくなった・緩くなった
好みや着用する位置にもよりますが、腕時計のブレスレットのサイズは腕回りよりも+5mm程度の余裕を持たせることを推奨いたします。これは腕とブレスレットの間に小指の先が入る程度となります。恐らく調整時に、これくらいのサイズ感となった方が多いのではないでしょうか。
もっとも、購入から年月を経て、ブレスレットのサイズが合わなくなったということは往々にしてあるものですね。
ちなみにキツすぎる・緩すぎるサイズを放置したままブレスレット着用するのはお勧めできません。キツすぎると腕に負担がかかってしまいますし、一方で緩すぎると転倒などで大きな衝撃が腕に加わった時、時計が揺れて大きなダメージを受ける可能性があるためです。
こういった理由から、ブレスレットがきつくなった・緩くなった場合は改めてサイズ調整を行いますが、この時ご自分でやることはあまりお勧めできません。購入店や修理店に依頼しましょう。
※ただし、カルティエやIWC等、メーカーによっては簡単にコマ外し・調整ができるモデルも存在します。
と言うのも、ブレスレット調整は慣れないままに行うと、大きなトラブルに繋がるためです。
前述の通りブレスレットはコマ一つひとつがピンで連結されています。この連結には、一般的に「ねじ式」「打ち抜き式」があります。
ねじ式はピンにねじ頭を持ち、精密ドライバーを使ってねじのように開け閉めして脱着できます。打ち抜き式はコマを連結するピンを内コマの中のパイプにひっかけて固定するスタイルです。コマの内側にピンが抜ける方向を示した矢印が記されており、その方向へ専用ハンマーを使ってピンを打ち込んだり打ち抜いたりすることでコマ外しが可能です。
左:ねじ式 右:打ち抜き式
いずれも専用工具や経験が必要で、慣れていないとコマねじを潰してしまったり、時計に大きな傷をつけてしまったり、あるいはご自身が怪我をしてしまったりすることに繋がりかねません。
モデルにもよりますが、調整だけなら修理店で500円程度~、メーカーでも技術料数千円で収まることが多いので、プロにお任せするのが無難です。なお、購入店はサービスで再調整無料などを行っていることもありますので、一度購入店に相談するのも良いですね。
ちなみに、結構よくあるのが「外したコマを紛失してしまった」というご相談です。
コマは素材にもよりますが、1コマで数千円~数万円する個体もあります。コマはなくさないよう、しっかり保管しておきましょう!
トラブル②コマを繋ぐピンが緩んで外れてしまった
コマとコマを連結するピンは、負荷や経年によって摩耗したり変形してしまったりすることがあります。
ピンの摩耗・変形は緩みへと繋がり、取れてしまうことも。こうなってくるとコマとコマが外れ、腕時計を落下させてしまうことに繋がります。
こういったピンの劣化の要因は様々です。例えば腕時計を着用していたまま激しい動きが続いていたり、あるいは汗や水分がそのまま残ってしまった結果の腐食であったり・・・ピンの緩みを避けるためには、後述するブレスレットのお手入れをしっかり行いましょう!特に汗をそのまま残しておくと、お肌にもよろしくありませんね。
また、オーバーホールなどといった定期メンテナンスの際に、ピンを締め直してもらえないか相談するのも手です。
なお、ピンの締め直しや交換のみであれば修理費用は数千円で済むことがほとんどですが、外装が破損しているとなると10,000円以上かかってしまう場合もあります。また、メーカーだと部分修理を受け付けず、コンプリートサービスとセットとなって非常に高額となる可能性もございます。
こういった思わぬ出費を避けるためにも、日々のお手入れを欠かさず行いたいですね。
トラブル③ブレスレットの伸び・ダレ
上の画像のように、腕時計を水平に持った時。ブレスレットがダラーンと垂れ下がっているようなことはありませんか?
これまた前項でご紹介しているように、お手入れ不足で発生してしまいがちなトラブルです。
ブレスレットの伸び・ダレは、コマとコマの連結部分が摩耗したり劣化してしまって隙間が大きくなってしまうことが原因です。汗や皮脂、あるいは石鹸カスがパーツを腐食させたり、連結部分をすり減らしていくためです。また、ブレスレットが緩い場合も負荷がかかり、隙間を大きくしていきます。
こうなってくると部分修理では対応できず、ブレスレット自体を交換しなくてはならなくなります。
もちろん伸び・ダレのあるブレスレットは使ってはいけないなどといったことはありませんが(実際アンティークウォッチなどはブレスレットの伸びが多い個体が多く流通していますが、味わいの一つだとも思います)、装着感はあまりよくありません。
近年製造された時計だと伸び・ダレに強い場合も多くなってきましたが、いずれにせよお手入れは欠かしたくないものですね!
トラブル④バックルが留まらない・留まりが甘い
腕にしっかりと時計を固定するバックルは、重要パーツの一つです。
このバックルが、上手に留まらなくなった。留まりが甘く緩い気がする。
そんな異変はすぐに対処が必要です!なぜならバックルの不具合も時計の落下に直結するトラブルであり、大きな修理へと繋がってしまう可能性が高いためです。
バックルが留まらない・留まりが甘いをいった時は、モデルや仕様にもよりますが、中板等のパーツの「歪み」が原因として考えられます。歪んで変形したことが原因で留め金の位置がズレてしまったり、パーツ同士がかみ合わなくなってしまうのです。また、バックル部分のバネがおかしくなってしまい、プッシュボタンが緩んでしまうなどといったトラブルもあります。
少しの変形であれば、修理技能士が専用工具で修正することが可能です。その場合の修理費用は大きくはかからないでしょう。
しかしながらパーツ交換しなくてはならない、となると高額になることがほとんどです。
バックルの歪みも負荷や衝撃、あるいは汚れによる腐食・劣化が原因となりやすいので、取り扱いには気を付けたいですね。
トラブル⑤バックルとブレスレットの接合部や留め金が取れた
バックルとブレスレットの接合部分が外れてしまった。あるいは留め金が取れてしまったというトラブルも、稀にあります。
経年による金属疲労で変形してしまうことが理由にありますが、何度か言及している「お手入れ不足によるサビ・腐食」が原因で劣化してしまうケースも少なくありません。
ただしこの場合は、パーツ交換ではなくレーザー溶接でろう付けが可能な場合があります。もちろん技術料はかかってきますが、修理でだいたい20,000円前後~。新品交換よりかはお安く済みますよね。
とは言え状態にもよりますので、まずは修理店や購入店に相談しましょう!
トラブル⑥ブレスレットやバックルに傷がついてしまった
毎日使っていると、ブレスレットに限らず、腕時計にはどうしても傷が付いてしまうものですよね。気になっている方も多いかと思います。
素材にもよりますが、小傷でしたら、修理技師の外装研磨によって目立たないようにすることが可能です。あまりにも大きい打ち傷や凹みだと地金盛りが必要になってきますが、腕の良い技師に任せると、驚くほど綺麗に仕上げてくれるでしょう。
ただし「腕の良い」と表現したように、腕時計の外装研磨の巧拙は結構ピンキリです。
外装研磨はバフ(羽布)モーターと呼ばれる、ホイール状の高速回転する専用機器を用いています。強弱や微妙な角度によって出来栄えが異なることはもちろん、もともとの仕上げやフォルムを損なわないことが求められ、まさに「腕の見せ所」なのです。
そのため、メーカーか信頼できる修理店にお任せすることを強くお勧めいたします。
ちなみに、メッキ処理や特殊なコーティング処理が施されている外装や、セラミックなどの素材は外装研磨ができません。
また、過度に外装研磨を行うことは、もともとのフォルムを崩す「ケース痩せ」に繋がります。研磨しすぎは、外装自体がすり減ってしまうためです。
「外装研磨」のみを頻繁に行うのではなく、定期オーバーホールやメンテナンスなどに合わせて依頼すると良いかもしれませんね。
なお、市販の研磨剤を使ってご自身で磨くことは絶対にお勧めしません。もともとの仕上げが損なわれてしまったり、思わぬ傷がつく原因となります。
知っておきたい。腕時計のブレスレットのお手入れ方法
ここまで腕時計のブレスレットに関するトラブルと修理事例をご紹介いたしましたが、トラブル原因として「お手入れ不足」が多かったことをお伝えできたのではないかと思っております。
そう、その堅牢性や劣化のしづらさでついつい忘れがちですが、腕時計のブレスレットにもお手入れが必要です!
お手入れ方法
腕時計を一日中着用していると、汗や皮脂が付着します。これを放置すると時計自体の故障や不具合に繋がるのみならず、肌がかぶれたり金属アレルギーを誘発したりする可能性があります。
そのため、マメなお手入れを欠かさないようにしましょう!
着用後は、やわらかく清潔なクロスで腕時計を拭いましょう。また、汚れが気になる場合はつまようじや乾いた毛先のやわらかい歯ブラシを使って汚れを掻き出します。コマとコマの間は汚れが溜まりやすくなっているので、優しく汚れを排出しましょう。
つまようじや歯ブラシでも届かない箇所は、霧吹き等で軽く湿らせたティッシュを巻くと、ティッシュに汚れが移りやすくなります。
なお、ビチョビチョに濡らしたティッシュを時計にくっつけることはお勧めできません。時計の故障や、水分が残ることで腐食にも繋がります。
お手入れの際に気を付けたいこと
腕時計は精密機器です。そのため取り扱いを間違えると、故障やトラブルに繋がります。
ブレスレットのお手入れの際も、適切な取り扱いが求められます。
まず気を付けたいのが、「力を入れすぎない」ということです。クロスや歯ブラシで汚れを拭う際、力強く行うと外装に傷や擦れが付いてしまいます。
また、ダイバーズウォッチ以外の腕時計のご自身での洗浄はあまりお勧めできません。例え防水性の高いモデルであっても、水道の流水で丸洗いすることは思わぬ水圧が時計にかかってしまいますし、水気が外装に残るとサビや腐食の原因となるためです。特に腕時計は細かなパーツが多いため、完全に乾いたと思っても、実は細部に水が残っている場合があります。
洗浄の際は、修理店や購入店に相談するのが一番です。定期メンテナンスの際に、一緒に洗浄を依頼したいですね。
またダイバーズウォッチであっても、リューズを閉め忘れたまま洗ったり、水気を残しておくことは厳禁です。
まとめ
腕時計のブレスレットによくあるトラブルと修理事例をまとめてご紹介いたしました!
ブレスレットの不具合は腕時計を落下させてしまったり、お肌のトラブルに繋がることがあります。異変を感じたら、すぐに専門家に相談しましょう!
なお、繰り返しになりますが、「お手入れ不足」によるトラブルは本当に多いものです。マメなお手入れを欠かさないようにしたいですね。
当記事の監修者
廣島浩二(ひろしま こうじ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年