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コンプリートサービスとメンテナンスサービスの違い
最終更新日:
あなたはコンプリートサービスという言葉を知っていますか?
コンプリートサービスは時計メーカーが実施しているメンテナンスサービスの一種であり、オーバーホールやメンテナンスの事をコンプリートサービスと呼ぶブランドもあれば、通常メンテナンスサービスとコンプリートサービスの2種類のメンテナンスを用意しているブランドも存在します。
ただ、ブランドによって定義がまちまちなので、コンプリートサービスがどのようなものなのかわらかない方も非常に多いです。
そこで今回は有名ブランド毎にコンプリートサービスがどのようなサービスなのか紹介していこうと思います。
出典:https://www.rogerdubuis.com/ja/サービスの内容/
目次
はじめに
機械式ムーブメントは数々の精密なパーツを組み上げて作られる工芸品とも呼べる逸品です。そのため、買ったら終わりではなく、末永く使うためにはメンテナンスが必要になります。
機械式時計のメンテナンスはモデルにもよりますが、3年に1度、長くても5年に1度は行う必要があり、内容としてはムーブメントを分解・洗浄し、さらに歯車に油を差すことでパーツの摩耗を防ぎます。そして、この一連の作業を時計業界ではオーバーホールと呼ぶのが一般的です。
また、メンテナンスの種類によってはケースに研磨を施すこともあります。研磨はポリッシュとも呼ばれる仕上げ技術で、ポリッシュ仕上げが施されると時計は新品のような輝きを取り戻すのです。
メンテナンスの依頼先
基本的にメンテナンスの依頼先は2パターン存在します。
1つはメーカーにて正規修理を依頼すること。もう1つは民間のメンテナンス業者に依頼する事です。
メーカーでの正規修理は民間業者のメンテナンスに比較するとどうしても価格は高くなりますが、その分絶対的な安心を得ることができます。尚、今回紹介するコンプリートサービスも正規修理サービスの一環です。
また、その逆に民間業者にメンテナンスを依頼した場合は正規修理の半額ほどの価格でメンテナンスを受けることが可能ですが、業者によって品質にバラツキがあることがデメリットです。
ただ、民間業者を利用する場合は”優良業者”を選ぶことさえ出来れば大変お得なので、是非リサーチしてみてください。
①カルティエのコンプリートサービス
カルティエのコンプリートサービスはクォーツ時計でも機械式時計でも、全てムーブメントを新品のパーツに取り換えるサービス。このサービスはカルティエならではのサービスであり、現状コンプリートサービスというとカルティエのコンプリートサービスを連想される方が多いです。
このサービスの特徴は内部点検・洗浄をするのではなく、ムーブメント自体を一式交換して「内部を新品」に戻すことにあります。この方式は現在の時計界ではかなり潔いサービスといえるでしょう。
ただ、この潔さには賛否両論があり、機械式時計の楽しみを奪っているのでは?という意見もあります。ムーブメントの全交換は品質的には安心感がありますが、愛着という点で少し残念に思う方も中にはいることでしょう。
また、気になるコンプリートサービスの料金は約50,000円~70,000円。決して安くはありませんが、他社の正規メンテナンスと同等位の価格でムーブメントを丸ごと交換できるのでしたら、むしろお得なのではないでしょうか?
それに、このコンプリートサービスは自社ムーブメントも汎用ムーブメントも価格が変わりません。この価格で自社ムーブメントを丸々交換してもらえるメリットは大きいです。
例えば、この自社製ムーブメントを搭載した「カリブル ドゥ カルティエ」はモデルによっては100万を超えるハイスペックメンズモデルですが、こちらの時計たちもコンプリートサービスでならムーブメントをフルチェンジすることが可能です。つまり、カルティエを購入する時は、良質なムーブメントを選ぶほど得をします。
②IWCのコンプリートサービス
IWCのコンプリートサービスは通常のメンテナンスサービスの上位版です。IWCでは2年毎のメンテナンスサービス、5年毎のコンプリートサービスの利用を推奨しています。
IWCの通常メンテナンスサービスは「ムーブメントを分解洗浄するサービス」です。対してコンプリートサービスは精度のチェックや各部品のチェック、必要であれば機構の再調整や交換も行う「点検」サービスを加えた精密メンテナンスです。コンプリートサービスでは全てのパーツの分解洗浄・組み立てが施されるため、時計は新品同様の状態になることでしょう。
気になるコンプリートサービスのお値段は3針モデルで約60,000円、クロノグラフモデルで約80,000円といったところ。IWCの正規修理は近年値上がり傾向にあるため、他のブランドの正規修理と比べると、やや高いイメージです。
IWC公式サイト:各種サービスのご紹介
https://www.iwc.com/jp/ja/services/service-types.html
③ロジェデュブイのコンプリートサービス
日本での知名度は高くありませんが、オシャレなデザインと確かな精度によって高い支持を得ているロジェデュブイ。ロジェデュブイのメンテナンスにもメンテンスサービスとコンプリートサービスが用意されています。
ロジェデュブイではIWCと同様に、2年毎の通常メンテナンス、4~5年毎のコンプリートサービスを受けることをオススメしており、コンプリートサービスではメンテナンスよりも精密なメンテナンスを受ける事が可能です。
そして、このコンプリートサービスのコンセプトは「完全オーバーホール」。完全オーバーホールは全てのパーツを一度分解し、作動検査・振動・調整といったロジェデュブイの厳しい公差基準と仕様により行われます。完全なオーバーホールを施された時計は、ケース・バックルの研磨を経て、当初と同様の輝きを取り戻します。
④ブルガリのコンプリートサービス
ブルガリの正規修理はベーシックサービスとコンプリートサービスの2種類が用意されています。コンプリートサービスは他ブランドのオーバーホールに当たり、ベーシックサービスでは点検やケースの洗浄しか行われません。
ベーシックサービスの価格は8000円~15000円ほど、コンプリートサービスの価格はモデルにもよりますが、約40000円ほどです。くれぐれもオーバーホールを頼むつもりでベーシックサービスを選ばないように注意しましょう。
⑤ショパールのフルメンテナンス
ショパールでは通常メンテナンスサービスとフルメンテナンスサービスの2種類が存在します。フルメンテナンスサービスは今回の記事でいうコンプリートサービスと同義です。
ショパールではブルガリと同じく、フルメンテナンスサービスが他ブランドでいうオーバーホールにあたるため、通常メンテナンスは分解クリーニングは行われません。(点検・油の注入は行われる)
機械式時計のオーバーホール時にはフルメンテナンスをお選びください。
⑥ボーム&メルシエのコンプリートサービス
リーズナブルな価格で優れたデザイン性を持つ時計を世に放つボーム&メルシエ。ボーム&メルシエのメンテナンスには、メンテナンスサービスとコンプリートサービスが用意されています。
メンテナンスサービスは3年毎、コンプリートサービスは5年毎に受けることをお勧めしており、コンプリートサービスが他ブランドのオーバーホールに当たります。これはブルガリと同じ方式ですね。
ちなみにボーム&メルシエではポリッシュ仕上げはメンテナンスに含まれていないため、研磨を希望する方は別途見積もりが必要になります。
まとめ
コンプリートサービスは結局のところ、時計メーカーによるメンテナンスサービスの名称の違いです。
ただ、カルティエのコンプリートサービスは内部ムーブメントを全て取り換えるという特徴があり、IWC・ロジェデュブイはコンプリートサービスとして明確な基準を設けています。
コンプリートサービスは通常メンテナンスの上位版と認識しておけば間違いないでしょう。
当記事の監修者
廣島浩二(ひろしま こうじ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年
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