長く時計業界にいるとどうしても商品に見慣れてしまい、ロレックスでもパテックフィリップでもその外観だけに心を動かされることは少なくなるもの。
その一方で、多くの時計の中にまぎれていてもすぐに目を惹かれ、一度見たら決して忘れることのできない個性的なモデルというのも存在します。
この記事では、そんな時計を見慣れたプロですら衝撃を受ける、個性的なものをご紹介いたします!
ただカラフルだったり奇抜なだけでなく、フランクミュラー,ヴァシュロン・コンスタンタンにウブロなど、高級感や上品さを持ち合わせたブランドの腕時計のため、幅広い年代層にお使い頂ける厳選10本。
おしゃれには自信がある。人とかぶりたくない。
そんな方はぜひご一読ください!
出典:https://www.instagram.com/hublot/
目次
一度見ただけで決して忘れない個性的な時計たち
それでは、かなりデザインが個性的な腕時計を10選ご紹介いたします。
個性的な腕時計①フランクミュラー インフィニティ ドラゴン
おしゃれ時計ブランドと言えば断然フランクミュラー!
日本国内では絶大な人気を誇りながらも、カラーリングや文字盤デザインが豊富なため「人とかぶらない」時計でもありますね。
トノーカーベックスやロングアイランドが有名ですが、インフィニティ ドラゴンというモデルをご存知でしょうか。
かなり大胆な色使い・デザインのモデルです。
インフィニティは同社が2009年から展開しているシリーズで、従来のトノーケースに似ているようですが、ベゼル部分にエッジをきかせているところが特徴的。
サイドから見るとその差が一目瞭然で、平面が際立ち独特のシェイプを作り上げています。
最近はトノーケースを各ブランドがラインナップしていますが、そのいずれとも異なるテイストが形状だけで現れていますね。
フランクミュラーは2009年頃から中国市場への販路拡大を図っていましたので、その一環として販売されたモデルと思われます。
そして最も目を奪われるのが、ダイヤモンドが埋め尽くされた文字盤とエナメル技法による鮮やかなドラゴン装飾。
インフィニティシリーズの最大の魅力とも言うべきは文字盤デザインで、より絵画的に、よりポエティックに仕上げられています。
エナメル技法は高い技術力を要する装飾ですが、ここまで大胆かつ躍動感あるドラゴンを描けることに、フランクミュラーの実力の高さを思わせられます。
ダイヤモンドも、熟練した宝石職人によって手作業でセッティングされており、フランクミュラーが「芸術の域」と自負するほど。
ゴールド製ケースは縦47mm×横45mmとダイナミックなため、身に着けていれば話題の的になることでしょう。
個性的な腕時計②ウブロ ビッグバン ポップアート
ウブロもまた、ダイナミックなケースデザインや素材使いなど、「人とかぶらない」おしゃれな時計ブランドの代表格。
とりわけビッグバンは芸能人や有名サッカー選手の腕によく巻かれており、なかなかのステータス感も味わえます。
色使いに加え、ベゼルにあしらわれたグリーンプレシャスストーン「ツァボライト」が華やかさと明るさを両立させたビッグバン ポップアート。
アンディ・ウォーホールが描いたマリリン・モンローのポートレートなどの、まさにポップアートを思わせるインパクトですね。
「ツァボライト」というのはガーネットの一種で、別名グリーンガーネットとも言います。
ガーネットの中でも非常に人気が高い一方で流通量が少ないため、ベゼルにバケットカットされた48個ものツァボライトを持つこのモデルの希少性がおわかりいただけるでしょうか。実際、世界200本の限定生産でした。
ただカラフルなだけでなく、クロノグラフが搭載されているためスポーティーに仕上がっているところはさすがウブロと言うべきでしょう。
出典:https://www.hublot.com/ja/
ポップアートはいくつかのラインナップがあり、イメージに合わせてカラーリングや異なる石をセッティングしていることもポイント。高級時計では考えられなかった素材や技法にチャレンジするウブロらしい一大シリーズとも言えます。
ケース径39mmまたは41mmと女性でもお使い頂けますので、幅広い層におすすめできる一本です。
個性的な腕時計③ヴァシュロンコンスタンタン メルカトール
パテックフィリップ、オーデマピゲと並んで世界三大腕時計ブランドとして君臨するヴァシュロンコンスタンタンの「個性的」な時計は、ただ奇抜というわけではありません。
伝統技法のノウハウを極めた職人集団を有する同社だからこそ作りあげることのできる工芸品なのです。
モデル名のメルカトールとは海図・航路用地図に使われた投影法―メルカトル図法―の考案者ジェルハルト・メルカトールのこと。
氏の没後400年にあたる1994年に、アニバーサリーとして発表された一本です。
特徴はなんといってもコンパスをモチーフとした同軸式ダブル・レトログレード機構。
時を刻むごとにコンパスは角度を広げていき、開ききったところでまた中央にフライバックします。
この複雑機構を搭載したムーブメントは、スケルトンのケースバックから鑑賞することができます。
丁寧に仕上げがなされており、もはやこのムーブメント自体が芸術品。
機構の素晴らしさはもちろん、デザインにも高い技術がいかんなく発揮されていることは見逃せません。
メルカトールが活躍した16世紀は大航海時代。
当時の地図のモチーフが難易度の高いエナメル技法で描かれており、まさにヴァシュロンコンスタンタンにしか生み出せない逸品であることに間違いありません。
定価は3,800,000円。
この価格の高さともともとの生産本数の少なさからなかなか市場で見かけることはありませんが、一度は手にとってみたい時計のうちの一つです。
個性的な腕時計④ヴァシュロンコンスタンタン JJオーデュボン
もう一つ、ヴァシュロンコンスタンタンにしか生み出せない個性的な芸術品をご紹介いたします。
19世紀に活躍したアメリカの自然細密画の巨匠「ジョン・ジェームス・オーデュボン」。
彼が描いた細密画を、七宝焼き(エナメルの上位技法クロワゾネのこと)を用いて文字盤に再現した傑作モデルとなります。
JJオーデュボンは鳥類研究家であったため、実際の自然に生きる鳥類を精密に写実的に描きました。
そのため、彼の作品を二次元上で再現すること―しかも七宝焼きで―は極めて難しく、これまたヴァシュロンコンスタンタンの技術力の高さに驚かされるばかり。
オーデュボンの画集『アメリカの鳥類』が出版された当時は標本をもとに写生されることが多く、そのため実際に生きた鳥が描かれた躍動的な絵画は世間に衝撃と感動を与えたと言います。
そんな彼のいきいきと、しかし精密な作品が再現された様は、まさに工芸品といって差し支えないでしょう。
10種類発表されたこの文字盤は、各10枚ずつしか製作されておらず、極めて希少かつ貴重。
ちなみに裏蓋はワンプッシュで開き、美しいムーブメントをご覧いただけることも世界三大時計メーカーならではの心遣いですね。
個性的な腕時計⑤アントワーヌプレジウソ アワーズオブラブ 69本限定モデル
アントワーヌプレジウソという天才独立時計師をご存知でしょうか。
生産本数は多くはないものの国内外で根強いファンを持つだけでなく、ブレゲやハリーウィンストンからも超複雑機構の製作依頼を受けるほどの凄腕の持ち主です。
幼少期から機械式時計を組み立てていたサラブレットで、フランクミュラーと同窓。
パテックフィリップに入社したなど、華やかな経歴の時計師です。
トゥールビヨンやミニッツリピーターなどのコンプリケーションモデルで傑作を生みだしてきましたが、アントワーヌプレジウソの真髄は何と言ってもオートマタ。
表から見ると3針トノーシェイプの上品な一本。
裏返すと、エロティックに絡み合う男女が目に飛び込みます。
オートマタとはゼンマイ仕掛けの機械人形のこと。
かつて、キリスト教の偶像崇拝にあたるとして禁止されながらも、貴族の間で愛されたこの複雑機構。
製作に高い技術と設計力が必要なことは言わずもがなですが、腕時計の裏蓋という緻密な空間に仕掛けることにアントワーヌプレジウソの腕を感じます。
オートマタと営みへの背徳感をも演出していることもまた粋ですね。
出典:http://antoine-preziuso.isshin.com/detail08.html
オートマタと言うからにはカラクリがあり、リューズを回すとなんとその回転に合わせて男性側の腰が動きます。
細部まで丁寧に掘り込みがなされており、ただインパクトがあるだけではないところがさすが天才時計師。
オートマタはアントワーヌプレジウソの一大シリーズですが、こちらのアワーズオブラブはフラグシップ。
ちなみに彼の時計のほとんどは限定生産になっており、当モデルは69本限定となかなか示唆的な数字です。
個性的な腕時計⑥パネライ ブラックシールコンパス
パネライといえばお馴染みの顔で人気。
ラジオミール・ルミノールの二大コレクションを主軸に、あまり奇抜なデザインをラインナップすることは滅多にありません。
しかし2004年に300本限定で生産されたこちらのスペシャルエディションは一風変わったモデル。
パネライは元々「デカ厚」のイメージが大きいですが、これまでの同社の製品を上回る、がつんとした60mmケースが何よりの特徴です。
“ブラックシール”とはイタリア海軍特殊潜水部隊の名であり、軍用時計としての歴史を物語るシリーズです。
そのブラックシールの中でも異色なのがコンパス。
イタリア海軍御用達であったリストコンパスを復刻したモデルで、実は時計ではありません。
カプセル内には永久磁石付きの回転装置が備わり、磁気コンパスとなっております。
オリジナルのままの外観やボリュームが踏襲されており、パネライとイタリア海軍の密接な関わりが如実に現れた一本。
世界限定300本生産だったため市場にはあまり出回りませんが、個性的かつパネライらしいモデルと言えるでしょう。
個性的な腕時計⑦ポルシェデザイン オーシャン2000
一部の男性陣から熱狂的な支持を集めるポルシェデザイン。
機能に則ったデザインや素材は、いかにも男らしい哲学を感じさせます。
時計ファンにとってなじみ深いポルシェデザインはIWCと提携したオーシャン2000でしょう。
サンドブラスト加工がなされたチタンボディ。
今でこそ珍しくはありませんが、実は初めて腕時計でこの素材の使用を実現したのはオーシャン2000でした。
当時は1980年代。
さながらスポーツカーのように強靭で軽量。かつステンレスなどには出せない個性が詰まったこの一本に、時計業界は揺らいだものです。
ポルシェデザイン、そしてIWCらしく、ただの見せかけでは終わりません。
なんと、オーシャン2000というモデル名通り、2000mの完全防水を引っ提げてきたのです。
ロレックスのシードゥエラー ディープシーが3900m防水。ブライトリングのアベンジャー2 シーウルフが3000m防水。
ボールウォッチ エンジニア ハイドロカーボンが3000m防水と、2000mを超える防水スペックを持つ腕時計は存在しないわけではありません。
しかし決して数は多くなく、またこれらの開発がさかんになったのは近年。
1980年代に、「旧西ドイツ海軍の要求」に従ってこのオーシャン2000を作り上げてしまうのだから驚きを禁じえません。
そういった逸話に加えて、ヒューマンエラーを防ぐための4時位置リューズや(セイコーのプロスペックスでもおなじみです)、視認性を最優先させたシンプルな文字盤デザイン。
奇をてらっていないのにここまで個性的になるのは、ポルシェデザインとIWCが稀代の職人であるがゆえでしょう。
現在二社の提携は終結し、オーシャン2000の生産も終了しています。
しかしファンからの熱視線は健在で、中古市場で一大勢力を築くデザインもシチュエーションも超特殊腕時計と言えます。
個性的な腕時計⑧アランシルベスタイン
パリ生まれのインテリアデザイナーという出自を持つアランシルベスタイン氏。
たいへんな親日家としても知られていますね。
アランシルベスタイン氏が製造する時計に共通するのは独自のポップなデザイン。
インテリアデザイナーとしてのセンスをフルに活かした、カラフルな色使いと幾何学的で奇想天外なモチーフが遊び心溢れる大人の男女の心をわしづかみ!
とりわけ代名詞的デザインは青・赤・黄3色の「○・△・□」をあしらった針で、なかなか他社には真似のできない思い切った色使い。
加えて、長年愛用してきたクロノグラフが壊れたことをきっかけに時計製造を始めたことから、機械への造詣も並々ならぬものがあります。
そのため多くのモデルでシースルーバックを採用、メカの鑑賞を許します。
フランス独自のクロノメーター規格・ブサンソン認定機であることを鑑みても、その情熱は歴然ですね。
アランシルベスタインの時計はほとんどが限定モデルで、年間でも2000本程度しか生産していません。
そのスタンスがさらに氏の時計の付加価値を権威づけ、人気を拡大していっているのでしょう。
個性的な腕時計⑨フランクミュラー ワールドワイドヨーロッパ
個性的かつ美しい。
そんな対極にいるかのような概念を融合させるのは高級時計ならでは。
フランクミュラーのワールドワイドヨーロッパは、まさにそんな至極の一本と言えます。
まず飛び込んでくるのは、文字盤に描かれたヨーロッパ大陸。
これは、ヴァシュロンコンスタンタンでもご紹介した七宝焼きによって描かれており、独特の質感と色彩感が工芸品のような魅力を醸し出します。
丁寧なギョーシェ彫りや上品な時分針、そして独特な形状のGMT針と相まって、えも言われぬ艶やかさをも湛えます。
ワールドワイドはただ大陸が描かれているだけでなく、GMT搭載機。
そのため、実用的ではありますが一本いっぽんが手作業によって製作されているため生産数は決して多くはありません。
当シリーズはヨーロッパ、アメリカ、オセアニア、アフリカ、そしてアジアの計5大陸のモチーフが存在しますが、いずれもレア。
価格帯もフランクミュラーの中ではかなりハイエンドとなりますが、ファン垂涎の的であり、時計専門店で見つけたら即決してでも手に入れたい逸品。
5850WW 5N ピンクゴールド/5850WW 5N ローズゴールド
もう一つ、ワールドワイドの「個性的」な逸話としてこんなことがあります。
ワールドワイドが初めて世に送り出されたのは1995年。
当時は機械式時計が再び脚光を浴び始めてはいましたが、若い世代にはクォーツが主流でした。
しかしワールドワイドのクラシカルな雰囲気と洗練されたデザインがクォーツしか見てこなかった若者たちを引き込みます。
フランクミュラーのブランディング戦略もあってか、機械式時計そのものに興味を持つ人々がまた増えたという功績を持つモデルでもあるのです。
個性的な腕時計⑩フランクミュラー トノーカーベックス ブラッククロコ
最後にご紹介するのもフランクミュラー。
やはり、「個性的」な高級時計の金字塔ですね!
トノーカーベックスはフランクミュラーのフラグシップですが、こちらのモデルはケースと文字盤にも立体感のあるクロコダイルコーティングをあしらった画期的なモデル。
ベルトにはよく使用されるワニ革のモチーフをケース全体に採用してしまう大胆さに驚かされます。
生産終了モデルにもかかわらず、いまだに中古市場において需要が尽きません。
見た目の斬新さはもちろんのこと、PVDコーティングをしたステンケースや文字盤は輝きを放ち、高級機らしい光沢を備えます。
ちなみにケースサイズも様々展開されており、最も大きいものがRef.9880の縦60.5mm×横43.3mmサイズ。
Ref.8880の縦55.5mm×横39.5mmサイズ、7880の縦48.5mm×横35mmサイズが続きますが、いずれも圧巻の存在感!
トノーカーベックスコレクションは洗練された上品な印象でしたが、クロコモチーフが入ることにより一気にワイルドになりました。
かなりのハイエンドラインで、定価はシンプルな3針モデルでも1,728,000円でしたが、現在は中古品で50万円台で購入することが可能です。
まとめ
高級時計に個性を持たせるには、高い設計力とデザイン力は必須。
加えて、それを実現させるための技術力をも持ち合わせていなくてはなりません。
今回ご紹介したブランドの時計は、そういった技術の集大成として君臨するものばかり。
プライベートや、ここぞと言う時の一本に。
自分だけの特別な腕時計を身に着けてみてはいかがでしょうか。
当記事の監修者
南 幸太朗(みなみ こうたろう)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 買取部門 営業企画部 MD課/買取サロン プロスタッフ
学生時代に腕時計の魅力に惹かれ、大学を卒業後にGINZA RASINへ入社。店舗での販売、仕入れの経験を経て2016年3月より銀座本店 店長へ就任。その後、銀座ナイン店 店長を兼務。現在は営業企画部 MD課 プロスタッフとして、バイヤー、プライシングを務める。得意なブランドはパテックフィリップやオーデマピゲ。時計業界歴13年。