現在、最軽量かつ最強素材と言われる「フォージドカーボン」をご存知でしょうか。
フランスの航空機メーカーが登録商標している新素材で、レクサスなどのスーパーカーにも採用されています。
近年、この素材が腕時計のケースに使われ始めているのです。火付け役は高級腕時計の御三家・オーデマピゲ。
一体「フォージドカーボン」とはどんな素材なのか?
耐久性だけでなく、独特の模様や質感を持つこの近未来的な素材を、徹底解説したいと思います!
出典:https://www.audemarspiguet.com/jp/
目次
フォージドカーボンとは
現在実用のできるカーボンの中で”最も強靭で軽量”、カーボンの最高峰と言われるのがフォージドカーボンです。
フランスのリヨンにある航空機メーカーが登録商標をしており、ボーイング787など航空素材を始めスーパーカーやレーシングカーにも使用されています。
製造方法はきわめて難しく、ケースの金型内にカーボンファイバーを押し詰め熱を加え、その後圧力をかけながら自然冷却させるというもの。
フォージドは「鍛造」という意味。
ダイヤモンド製造と似ているので、その固さも頷けます。
このカーボンファイバーはランダムに押し詰められるため、独特の模様に同じものはありません。
無地にすることも可能ですが、「自分だけの腕時計」が製造されると思うとなんだか素敵ですね。
ちなみに完成品であっても品質基準を満たす物は、製造したフォージドカーボン全てのうちの20%未満とのこと。
それゆえにこの素材を使用したすべてのモデルで1日20ケース前後しか製造されないというレア度なのです。
一般的に重量比の強度の高さはチタンが取り沙汰されますが、フォージドカーボンはそのチタンですらも大きく凌ぐ軽量さや強度を有していることも大きなポイントです。
出典:https://www.audemarspiguet.com/jp/
近年腕時計業界では航空産業で使用される素材をケースなどに採用する動きが増えつつあります。
理由には耐久性や耐衝撃性、耐熱性の向上。それ以外にも色付け等のデザイン面や、ボリュームを持たせフェイスの装着感を快適にするため、など様々。
いずれも高い技術が必要で、これらの素材を時計製造に活かせるメーカーは極わずか。
そんな中、世界三大時計ブランドのうちの一つで、居並ぶ名門の中でも雲上として頭一つ抜きんでてるオーデマピゲは、異素材使いの立役者でもあるのです。
オーデマピゲのフォージドカーボンモデル
オーデマピゲは1875年創業と歴史深い時計ブランドで、グランドコンプリカシオンなどコンプリケーション機構に先鞭をつけてきました。
一方で老舗とは思えないほど革新的な製品開発の姿勢に定評があり、1970年代という早い段階で世界初のステンレススティール製高級スポーツ時計「ロイヤルオーク」を発表、世界中でヒットを飛ばす一大コレクションを築きました。
新素材の採用にも意欲的で、ロイヤルオークをよりスポーティーに、力強くしたオフショアシリーズではチタンやセラミックなどを積極的に採用しています。
そんなオーデマピゲが世界初・フォージドカーボン製ケースのロイヤルオークを発表したのは、2007年のことでした。
雲上ブランドであるオーデマピゲがいち早く開発に踏み切ったことに驚かされる気もしますが、オーデマピゲの技術力の高さや「伝統と前衛の融合」といった経営理念を鑑みると、当然のことかもしれません。
ロイヤルオークのガッシリ感はそのまま、オフショアダイバーズを例にとるとオールステンレスのものと比べ50g以上もの軽量化が実現されています。
左:15710ST.OO.A002CA.01 (ステンレス製)
右:15706AU.OO.A002CA.01(フォージドカーボン製)
オーデマピゲに続き、現在ではカーボンを複合・鍛造させた素材をタグホイヤーやリシャールミル、ベル&ロス等、様々な企業が発表しています。
フォージドカーボンは製造工程の難しさには反して、従来のカーボン形成にかかる時間を大幅に短縮することが可能で、コスト面も低く抑えられます。
そのため、今後技術開発が進めば、より低価格でアクティブに使いやすい腕時計を手に入れることができることとなるでしょう。
オーデマピゲ ロイヤルオーク フォージドカーボンモデル紹介
ロイヤルオーク オフショア バンブルビー 26176FO.OO.D101CR.02
蜂をイメージした黒と黄色のカラーリングを採用していることから、「バンブルビー」と俗称されているモデル。
映画『トランスフォーマー』でおなじみですね。
フォージドカーボンによって生成されたマーブル模様を持つケースは42mmサイズで、存在感を持ちながらも男性にはちょうどよいサイズ感。
ブラックダイアル上をイエローインデックスや針がアクセントとなり、おしゃれさだけでなく高い視認性も確保します。
100m防水、そして強靭なフォージドカーボン製のため、スポーツ好きの方やアウトドアが趣味の方におすすめしたい一本です。
ロイヤルオークオフショア ヤルノトゥルーリ 26202AU.OO.D002CA.01
2011年より世界限定500本で販売されたF1ドライバー「ヤルノ・トゥルーリ」モデル。
特筆すべきはフォージドカーボンケースの他、精密・精緻な加工の行えるマイクロサンドブラストを施したチタン。
そしてベゼルにはスペースシャトルの耐熱材に使われる高硬度の「サーメット」を採用。
セラミックとメタルの合成語であるこの複合素材は、両素材の長所、すなわち1,450ビッカース硬度という硬さ、耐衝撃性と耐熱性、そして耐腐食性を併せ持ちます。
透明なケースバックから視認できる自動巻ムーブメント3126/3840はオーデマピゲ特製キャリバー3120をベースに開発され、比類なき精度を実現。
存在感を持ちながらも、最先端素材の使用により重量はわずか105g。
オーデマピゲの持てる技術を駆使したリミテッドエディションにふさわしい仕様となっています。
ロイヤルオーク オフショアダイバー 15706AU.OO.A002CA.01
2010年の新作として人気の“ロイヤル オーク オフショア”コレクションに加わった、300m防水性能を備えた本格派ダイバーズモデル。
さまぁ~ずの三村さんが愛用しているとか。
ダイバーズモデルですがフォージドカーボン製のためか、全重量は110gを切ります。
ブラック基調のため華美さがないので、どんな服装にも合わせやすいのではないでしょうか。
ラグジュアリースポーツとしての高いデザイン性を継承しつつも、時分針とデイト表示にインナーベゼルを備えたシンプルさが特徴です。
オーデマピゲ以外の新世代カーボンモデル
タグホイヤー
カレラ キャリバー1887 クロノグラフ カーボン CAR2C90.FC6341
レーシングスピリッツにインスパイアされた、かっこよさとコストパフォーマンスの高さが人気のタグホイヤー。
タグホイヤーもまた新技術の開発に意欲的で、2014年こちらの新世代カーボンを採用したカレラを発表しました。
仕様されたカーボンマトリクスコンポジットはカーボンとプラスチックによる強化複合材で、高い硬度を持つだけでなく、形状のしやすさや高級感ある仕上がりが可能となります。
ちなみにこのケース、わずか19gという驚きの軽さ。
内蔵するムーブメントは自社製キャリバー1887。
リューズは12時位置に配置されており、革新的なデザインであることも魅力です。
リシャールミル
リシャールミル RM 11-03
出典:https://www.richardmille.jp/
2017年新作。
2014年にリシャールミルがF1チーム・マクラーレンなどと共同で開発したカーボンTPTを採用。
これは、フォージドカーボンをベースにしており、30ミクロン程度のカーボンファイバーを押し詰めて形成したもので、やはり最強かつ最軽量。
リシャールミルは2001年デビューと比較的新しいブランドですが、これまでの概念を覆すような独創的なアイデアで、時計愛好家から熱烈な支持を集めてきました。
自社一貫製造(マニュファクチュール)にこだわらず、他業界とも手を組み新素材を採用していくという、昨今の高級時計界の潮流に投じた一石は決して小さくありません。
伝統と新技術を上手に融合させ昇華させた、まさに新進気鋭のブランドと言えます。
ベル&ロス
ベル&ロス BR X1 R.S.17
出典:https://www.bellross.com/
2017年新作。
2016年、ルノーF1チームとのパートナーシップを締結した記念モデルとしてバーゼルワールドで発表されたモデル。
フォージドカーボンとセラミックをケースに使い、独特の模様の他ベゼルにビビッドなイエローをあしらい、日常での使いやすさだけでなくおしゃれさも取り入れた新作となりました。
BRシリーズはコックピットの計器から着想を得たフォルムが特徴ですが、そこにF1の世界観が入ったことによりスポーティーで抜群にかっこいい仕上がりとなったのではないでしょうか。
45mmケースのサイズも、腕元で存在感を発揮します。
100m防水、世界限定250本。
まとめ
オーデマピゲを筆頭に、続々と時計業界に流入してくる新開発素材の波。
それは決してスイス時計の伝統と技術を軽視しているのではなく、むしろ先人たちの遺産を進化させるという哲学のもと、時計に新たなコンセプトを提供し続けている、ということ。
少しマニアックな時計の話・素材。
もし気になった方は、サイズ感や質感などを確かめてみるのもいいですね。
当記事の監修者
廣島浩二(ひろしま こうじ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年