時計の文字盤には様々な種類が存在します。軽量かつ高い強度を誇るカーボン、繊細で精密な模様を入れるギョーシェ、オパールやシェルといった天然素材を使ったものなどが有名ですが、その中でもひと際高級感を放つ文字盤が「エナメル文字盤」です。
エナメル文字盤は金属板の表面に釉薬を塗り、高温で焼き上げる技法ですが、エナメル技法には「グランフーエナメル」という上位互換の文字盤が存在します。
今回はこのグランフーエナメルについて解説しようと思います。
出典:https://www.blancpain.com/ja
目次
エナメル文字盤とは?
エナメル文字盤は3500年を超える歴史を持つ伝統技術「エナメル工芸」を時計の文字盤に応用したもの。その特徴はなんといっても「陶器のようなツヤのある質感」です。
エナメル文字盤はガラス質のエナメル粉末を文字盤の上に載せ、800度近くの熱で焼成を何度も繰り返し発色させて作り上げます。粉末上のガラスでコーティングされているため、傷つきにくく、変色しにくいという特徴があるため、その魅力は何十年経っても色褪せません。
ただ、非常に手間が掛かる上に高度な技術が必要なため、コストを抑えることが求められる現代ではごく一部の時計以外では使われなくなっています。加えて「割れやすい」という性質をもっているため、一般的な文字盤を採用しているモデルよりも丁寧に扱う事が重要です。
グランフーエナメルとは?
グランフーエナメルはエナメル技法のまさしく上位版です。通常のエナメル技法との違いは「温度」にあります。
通常のエナメル文字盤は800度近くの熱によって焼き上げますが、グラン・フーエナメルはそれを上回る1000度以上の熱で文字盤を焼き上げるのが基本。もちろん、仕上がりは通常のエナメル文字盤よりも遥かに美しい仕上がりとなります。
出典:https://www.blancpain.com/ja/6613-3631-55b
グランフーという名はfeu(=炎)が出るほどの高温で焼成することが由来となっています。只でさえ温度調整や管理が難しいエナメル技法の難易度を更に上げているわけですから、このグランフー文字盤を作り上げることのできる時計ブランドは極めて僅かです。
グランフーエナメルを扱う時計ブランド
グランフーエナメルを扱う時計ブランドはどのブランドも超一流のブランドばかり。そして、グランフーエナメルを搭載したモデルは最高級モデルであることが殆どです。
①ブランパン
数ある時計ブランドの中でも最古の歴史を誇るブランパン。そのブランパンの最上級コレクション「ヴィルレ」の文字盤にはグランフーエナメルが採用されています。
出典:https://www.blancpain.com/ja/category/collections-4
最上級モデルだけあり、グランフーエナメルが使われたモデルはコンプリケーションモデルばかり。ブランパンならではの伝統と歴史が詰まったこのコレクションはエナメル文字盤を採用した時計の中でも非常に人気が高いです。
②H.モーザー
知る人ぞ知る最上級のマニュファクチュールブランド「H.モーザー」。高度な技術を駆使して作られる気品のあるコレクションの数々は、いつの世も男性たちを魅了し続けてきました。
出典:https://www.h-moser.jp/lp/
懐中時計時代の伝統を現代に復刻させたヘリテージコレクションは、グランフーエナメルを使用した最上級の美しさを誇る一本です。非常に手間ひまかけて作られるため、定価は画像左のトゥールビヨンモデルが37,800,000円。1027年に1日しか誤差が発生しないムーンフェイズモデル(画像右)は8,640,000円という破格の値段がついています。
③ブレゲ
トゥールビヨン、ミニッツリピーター、パーペチュアルカレンダー。数多くの複雑機構を開発した天才時計技師が創立した時計ブランド”ブレゲ“にはブレゲならではの魅力が詰まったグランフーエナメルモデルが存在します。
出典:https://www.breguet.com/jp
グランフーエナメルモデルが存在するのはブラゲのフラッグシップコレクション「クラシック」。青く焼かれたブレゲ針・ブレゲ数字・コインエッジ装飾といったブレゲの伝統を美しく表現したコレクションです。時計としての精度はもちろん、洗練されたシンプルなデザインはまさに時計の理想形ともいえます。
クラシックコレクションの文字盤はブレゲ独自のギョーシェ彫りが施される場合が多いですが、一部のモデルには懐中時計時代を彷彿とさせるグランフーエナメル文字盤が採用されています。
これらの時計は流行に左右されない普遍性が人気です。
④ユリスナルダン
スイス時計業界においてエナメル技法の名手として知られるユリスナルダン。通常のエナメル・クロワゾネ・ブルーエナメル・グランフーエナメルなど、様々なバリエーションのエナメル技法を駆使し、陶器のような煌めきを放つ一本に時計を仕上げます。
出典:https://jp.ulysse-nardin.com/collection/classic
多様な美しさと機械式時計ならではの複雑さを兼ね備えたクラシックコレクションはユリスナルダンの人気ラインです。エナメル文字盤モデルが数多く用意されているため、グランフーエナメル文字盤に興味のある方は是非チェックしておきたいブランドといえます。
⑤オーデマ・ピゲ
ラグジュアリースポーツウォッチとして知られるロイヤルオークをフラグシップモデルとするオーデマピゲ。世界三大時計ブランドの一角として君臨する同ブランドにもグランフーエナメルが使われた極上の一本が存在します。
その名も「ジュール オーデマ・ミニッツリピーター・スーパーソヌリ」。
出典:https://www.audemarspiguet.com/jp/watch-collection/jules-audemars/26590PT.OO.D028CR.01/
ジュールオーデマはクラシックな雰囲気を放つ、オーデマピゲの人気コレクションです。このモデルには画期的なミニッツリピーター「スーパーソヌリ」が搭載されており、今までにないクリアな音色とハーモニーを響かせます。そして文字盤には美しいグランフーエナメル文字盤にクラシカルなローマインデックス。
グランフーエナメル文字盤はこのような最高級モデルにも採用される程、価値が高いのです。
まとめ
グランフーエナメルによって作り上げられた時計は最高級の時計ばかり。どれだけ時間が経っても色褪せることのない美しさはまさに工芸品ともいえる仕上がりです。
ぱっと見は地味な印象を抱くかもしれませんが、実際に身に着けてみるとグランフーエナメルの魅力を知ることができます。試着だけでもいいので、是非一度その美しさを体験してみてはいかがでしょうか。
当記事の監修者
新美貴之(にいみ たかゆき)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 店舗営業部 部長
1975年生まれ 愛知県出身。
大学卒業後、時計専門店に入社。ロレックス専門店にて販売、仕入れに携わる。 その後、並行輸入商品の幅広い商品の取り扱いや正規代理店での責任者経験。
時計業界歴24年