腕時計を毎日身に着けているとどうしても傷がついてしまいます。
細かな傷は研磨で取り除くことができるため、あまり神経質になる必要はありませんが、深い傷は取り除くことができません。
いつまでも綺麗にお使い頂くために、重要な要素となるのが「ケースの素材」です。
ケースには傷がつきやすい素材もあれば、つきにくい素材もあります。
今回は傷付きにくいケース素材をご紹介すると共に、逆に敢えて経年によるエイジングを楽しみたいという方に適した時計についても解説致します。
ケースの傷を気にする方、気にしない方、いずれの方も必見の内容です!
目次
高級時計に使われる一般的な素材
一般的に時計に使われる素材はステンレススティールが最もメジャーな素材として知られています。
ステンレススティールは鉄やクロム、ニッケルといった金属や元素で構成されおり、「錆びない」という特徴を持ちます。
ステンレススティールは1種類ではなく、用途やコスト、デザインによって無数のステンレス素材が使われています。とりわけ最も腕時計に使われるステンレススティールは「SUS316L」と呼ばれるステンレス素材で、これまでに多くの高級腕時計に採用されてきました。
また、ステンレススティール以外では、イエローゴールド・ホワイトゴールド・ピンクゴールドといった18kゴールド素材やプラチナも高級時計に用いられます。
ゴールド・プラチナが採用された時計の高級感と美しさは格別です。特にビジネスシーンでも身に着けやすいホワイトゴールドは日本人にとって扱いやすく、世代年齢問わず高い人気を得ています。
しかし、ステンレススティールもゴールド・プラチナも錆びずらく、長期間使用できる素材ではありますが、特別傷が付きにくい素材というわけではありません。
毎日時計を身に着けていると、どうしても細かな傷はついてしまいます。
そこでオススメしたいのが今回紹介する傷に強い素材です。
扱いに気を付けることが重要ですが、素材自体が傷に強ければ、時計をいつまでも綺麗な状態に保つことができます。
傷つきにくいケース素材① セラミック
セラミックは腕時計に使われるケース素材としては圧倒的に傷が付きづらい素材です。サファイヤクリスタルと同等の「2300」というビッカース硬度を持ち、ステンレススティールと比較するとセラミックは10倍以上も硬いです。
加えてセラミックは変色しないうえに錆もしません。非常にメリットの大きい素材だといえます。
セラミックが使われている時計として最も有名なのはシャネルJ12。
J12は全てのモデルにセラミックが採用されており、高い耐久性を誇ります。
傷が付きにくい時計をお求めの方にとっては最適な1本です。
セラミックが使われた時計① J12 白セラミック H0970
3針とデイト表示のみのシンプルでベーシックなモデル。ケースサイズは38mmです。
オンオフ問わず身につけられるデザインに、本格的な機械式ムーブメント。J12の中でナンバーワン人気となっております。
ちょっと派手めのファッションが好きな方でもスーツスタイルが多い方でも、良いワンポイントアクセントとなるでしょう。
白だと汚れが目立つのでは?という方もいらっしゃいますが、汚れも付きにくい素材ですので、永く綺麗な状態を保つことができます。
セラミックが使われた時計② J12 黒セラミック H1626
ブラックセラミックのJ12も、白とはまた違ったシックさやエレガントさから人気があります。
こちらは、38mmサイズのケースに12ポイントのインデックスダイヤをあしらったモデル。やはりダイヤインデックスは独特の艶っぽさがあります。
クールに時計を着けこなしたい男性にお勧めしたい一本です。
セラミックが使われた時計③ J12 チタンセラミック H2934
H2934は他のJ12とは異なる魅力を持つモデルです。素材にはチタンとセラミックを融合させた新素材チタンセラミックが使われています。
チタンセラミックの魅力はなんといってもセラミックの硬度に加え、チタンの軽さも兼ね備えていること。肌に優しく金属アレルギーの心配もありません。
異なる2つの素材を融合させているため、独特な色合いとなります。
傷つきにくいケース素材② パラジウム
パラジウムは非常に硬く傷が付きにくい素材です。
高級腕時計を身に着けていると傷がつかないように気を遣うものですが、パラジウムは多少擦った程度では傷がつかない為、扱いやすい素材といえます。
また、パラジウムはどんな環境でも変色しにくいという特徴を持っており、購入時の輝きをいつまでも保つことができます。
性能はプラチナにかなり近いですが、価格はプラチナよりの約半分程度とかなりリーズナブルです。
パラジウムを採用したモデルを製造しているブランドはカルティエ・パルミジャーニ フルーリエ・Hモーザー・ジャガールクルト等。
どのブランドも最高品質の時計を製造する超一流ブランドばかりです。
パラジウムが使われた時計①カルティエ サントス100 スケルトンウォッチ XL W2020018
カルティエ サントス100 スケルトンウォッチ XL W2020018
サントス100には様々なラインナップが用意されていますが、とりわけ強い存在感を放つモデルが「W2020018」です。
このモデルはカルティエ正規特約店の中でも限られた店舗のみでしか手に入らない希少なモデルであり、文字盤がスケルトン仕様になっていることが特徴となっています。
ケースにはパラジウムを採用。
色自体はプラチナやシルバーと似ていますが、独特の白い輝きを放つことから宝飾時計との相性は抜群です。
パラジウムが使われた時計②パルミジャーニ フルーリエ カルパグランデ PF011128
パルミジャーニ フルーリエ カルパグランデ PF011128
正統派時計製造技術を継承する最高級ブランド「パルミジャーニ・フルーリエ」。一人の時計師が一つの時計を最後の工程まで担当する拘りのブランドです。
このカルパグランデは歴史的建造物などの基礎でもある黄金分割比率を駆使して作られた緻密なモデルであり、ケースにはその美しさをいつまでも保つことができるパラジウムが使われています。
マニュファクチュールならではの徹底した物作りと美しい仕上がり。そして、僅かしか製造されていない貴重価値。
全てにおいて完成度の高い一本であるといえるでしょう。
傷つきにくいケース素材③ ザリウム
ザリウムはアルミニウムとジルコニウムの合金です。この素材は宇宙工学の分野でも使用される素材であり、傑出した軽さや無類の耐久性など優れた特性を持ちます。変形や摩擦にも強く、美しい光沢を帯びていることも特徴です。
ザリウムを採用する主なブランドはハリーウィンストン。主にプロジェクトZシリーズに配されています。
ザリウムが使われた時計① ハリーウィンストン プロジェクト Z11 OCEABD42ZZ001
ハリーウィンストン オーシャン プロジェクト Z11 OCEABD42ZZ001
プロジェクトZ11 OCEABD42ZZ001は2017年新作として発表されたプロジェクトZの最新作です。
高度な技術力と優れた構築的デザイン、そして軽量なボディ。
ケースにはアレルギーフリーでチタンより硬く、摩耗や腐食に強い超軽量合金のザリウムを採用。ラバーとカーフスキンを組み合わせ、デニム風に仕立てたストラップが、スポーティーで爽やかな印象を与えます。
ちなみにプロジェクトZの「Z」はザリウムの「Z」です。
ザリウムが使われた時計② ハリーウィンストン プロジェクトZ10 OCEABI42ZZ001
ハリーウィンストン プロジェクトZ10 OCEABI42ZZ001
2016年発表のプロジェクトZシリーズ第10弾。従来のケースサイズであった44mmから42mmになりました。
自社開発ムーブメントである「HW3305」を搭載し、文字盤にはオープンワークに加え、ニューヨークのマンハッタンブリッジから着想を得たデザインが採用されています。
さらに6時位置にルーペを備えた日付表示、4時位置のレトログラード式の曜日表示と8時位置のレトログラード式秒針をもつ、珍しいフェイスの時計です。
世界限定300本しか存在しない大変貴重な一本となっております。
ザリウムが使われた時計③ ハリーウィンストン プロジェクトZ9 OCEACH44ZZ004
ハリーウィンストン オーシャン プロジェクトZ9 OCEACH44ZZ004
プロジェクトZ9 OCEACH44ZZ004は2015年に発表になった10振動のハイ・ビートウォッチです。ムーブメントにはプロジェクトZ9のために開発されたHW3304を搭載しています。
センター部分はオープンワークになっており、その美しい動きを見ることが出来ます。
非常に複雑にラインが重なり合うデザインながら、オフセンターの時分針、手裏剣型の秒針、フライバック式のクロノグラフは鮮やかなブルーで際立っており、視認性は決して疎かにしないハリーウィンストンならではのこだわりを感じます。
ケースはプロジェクトZシリーズの定番「ザリウム」。サイズは44mmです。
こちらも世界限定300本のモデルであり、今尚人気があります。
傷つきにくいケース素材④ カーボン
カーボンは軽さと高強度をウリとする新世代のケース素材です。主に炭素を原料とした素材で作られているカーボンは重量が鉄の約1/4、強度は約10倍という優秀な性質をもっています。宇宙開発などにも使われている最先端の素材ですが、加工が難しく製造コストも高いため、限られた時計ブランドにしか採用されていません。
ただ、高強度であるが故、他の素材より割れやすいのが欠点です。
高級時計ではウブロやオーデマピゲ、ブルガリが採用しています。
カーボンが使われている時計①ブルガリブルガリ カーボンゴールド BBP40C11CGLD
ブルガリブルガリ カーボンゴールド BBP40C11CGLD
2016年に発表された「ブルガリブルガリ カーボンゴールド」。カーボンファイバー製ケースにカーフのメッシュストラップを組み合わせたお洒落な時計です。9時側ケースサイドにはブルガリがイタリア、ローマに創業したブルガリ誕生の年「1884」が刻まれています。
セラミックと同じく高硬度・割れやすいという特徴をもつカーボンですが、質感はセラミックとは異なりマットな仕上がりです。
カーボンが使われている時計② ウブロ ビッグバン アエロバン カーボン 311.QX.1124.RX
ウブロ ビッグバン アエロバン カーボン 311.QX.1124.RX
ウブロは革新的な素材をケースに採用することで知られていますが、アエロバンシリーズには高硬度のカーボンを配したモデルが存在します。
それがこの311.QX.1124.RX。
ムーブメントの動きが堪能出来るスケルトンダイヤルを採用しているのが特徴であり、44ミリの大型カーボン製ケースにスポーティなブラックラバーベルトを組み合わせるところもウブロらしさが出ています。
お手持ちの時計を末永く美しい状態でキープしたい方にオススメのモデルです。
カーボンが使われている時計③ タグホイヤー カレラ キャリバー1887 クロノグラフ カーボン CAR2C90.FC6341
タグホイヤー カレラ キャリバー1887 CAR2C90.FC6341
2014年の新作として発売されたCAR2C90.FC6341は、ケースに航空宇宙業界で使われている特殊複合素材カーボン マトリックス コンポジットを採用した特別なカレラです。驚異的な軽さでありながら、摩耗や温度変化に対して無敵の耐性を誇ります。
リューズは12時位置に配置されており、これまでにない革新的なデザインであることも魅力的です。
傷つきにくいケース素材⑤ マジックゴールド
出典:https://www.hublot.com/
「マジックゴールド」は2011年にウブロ独自のゴールド素材です。
マジックゴールドはゴールドとセラミックを融合した18K素材であり、なんといっても「硬い」ことが特徴。とにかく傷付きにくい素材として知られています。
一般的な18Kゴールドの硬さはビッカース硬度約400程度といわれていますが、マジックゴールドはなんとその2倍以上の約1000ビッカース。壊れにくく頑丈であるという圧倒的なアドバンテージこそマジックゴールドの魅力です。
出典:https://www.hublot.com/ja/craftsmanship/materials
マジックゴールドが使われた時計① ウブロ ビッグバン ウニコ 411.CM.1138.RX
ウブロ ビッグバン ウニコ セラミック マジックゴールド 411.CM.1138.RX
セラミックケースにウブロが開発したマジックゴールド製ベゼルを合わせたNEWモデル。ムーブメントにはウブロ自社開発・生産ムーブメントUNICOを搭載。約72時間のロングパワーリザーブ設計に加え、100m防水性能を誇ります。
マジックゴールドが使われた時計② ウブロ ビッグバン フェラーリ 401.MX.0123.VR
ウブロ ビッグバン フェラーリ 401.MX.0123.VR
ウブロとフェラーリのパートナーシップにより生み出された「ビッグ・バン フェラーリ マジックゴールド」。
ウブロとスイス連邦工科大学ローザンヌ校の約3年に及ぶ共同研究により誕生した、超硬質のマジックゴールドを採用しているのが特徴です。
フェラーリの象徴である跳ね馬のレリーフを9時位置に刻印。ムーブメントは完全自社製のウニコムーブメントを搭載しています。
マジックゴールドは本当に傷が付きにくい素材です。
お客様がメンテナンスで持ち込まれた時計、買取に持ち込まれた時計、どれを見ても、本当に傷が付いていません。
素材のコストから時計自体の価格はどうしても高くなってしまいますが、傷が付かない時計をお探しの方にとってマジックゴールド素材が使われた時計はまさにうってつけだと思います。
逆の発想 エイジングが楽しめる素材
高級時計は綺麗な状態を保ちたい。これは誰もが思うことです。
しかし、最近は経年経過によって独特な味わいを持つ時計の需要も増えてきています。
一般的にエイジングが楽しめるケース素材としては「真鍮」素材が有名ですが、高級時計に使用する素材としては安物感が出てしまうことは否めません。
そこで注目されているのが、「ブロンズ」素材です。
ブロンズはその名の通り「銅」をケースに採用しています。一般的にブロンズは耐アレルギー性能が弱く錆びやすい為、高級時計に用いられることは殆どありません。しかし、チューダーやパネライ、ブルガリといったブランドは敢えてブロンズをケース素材に採用し、「経年変化によるエイジングが楽しめること」をウリとするモデルを作り上げました。
独特の美しさがあるため、普通の時計では物足りないという方にピッタリな素材といえます。
ブロンズが使われた時計① チューダー ヘリテージ ブラックベイ ブロンズ 79250BM
チューダー ヘリテージ ブラックベイ ブロンズ 79250BM
バーゼルワールド2016で発表されたRef.79250BM。ケースにブロンズを使用しているため経年による色の変化が出やすく、使い込むごとにエイジング効果を感じられるモデルです。裏蓋にはブロンズカラーのPVD加工を施したステンレスを使用し、肌に優しい仕様になっています。
ムーブメントには自動巻きCal.MT5601を搭載。パワーリザーブ約70時間、200m防水という実用性の高さも魅力的です。
ブロンズが使われた時計② パネライ ルミノール サブマーシブル 1950 PAM00507
パネライ ルミノール サブマーシブル 1950 PAM00507
パネライのロングセラーモデル「ルミノール・サブマーシブル」。こちらは、2013年に世界1000本限定で生産されたスペシャルエディションモデルです。
ケースにブロンズ素材が使われているため、数十年も使われたようなヴィンテージ感があります。
ケースバックはステンレススティール。シースルー仕様となっているため、自社製キャリバーP.9002の精巧な動きを眺めることができます。
また、ブロンズ素材の魅力が詰まったPAM00507は現在価格が高騰しており、2018年12月時点では2,500,000円を超える金額で取引されるほど高価なモデルとなっています。
定価は1,425,600円なので、約1.8倍という驚異の高騰率です。
ブロンズ素材が使われた時計③ ブルガリブルガリ ソロテンポ BB41C11BSD/MB
イタリアの名門ジュエラーBVLGARIを代表するモデル・ブルガリブルガリ。シリンダーの断面図をイメージして作られたユニークなラウンドケースに、大きなブランドロゴが刻印されたベゼルを備えています。
素材にはダイヤモンドライクカーボンにブロンズ製ベゼルのコンビを採用。他のブルガリブルガリとは一線を画すヴィンテージ感溢れる仕上がりとなっています。
ケースのみならずリューズもブロンズ素材が使われており、ケースバックは軽く、高強度であるカーボンが使用されています。
表面はエイジングが楽しめ、裏面は傷・腐食に強いという変わった特徴をもつユニークな一本です。
まとめ
セラミック・パラジウム・ザリウム・カーボン・マジックゴールド。高級時計に使われるケース素材は多岐にわたりますが、傷が付きにくい時計を求めているのであれば、これらの素材が使われた時計を選ぶことをオススメします。
また、アンティーク時計は実用性を考えると手を出しにくいけど「エイジングした雰囲気は好き」という方には、ブロンズ素材が使われた時計もオススメです。
高級時計は本当に色々な種類があります。
是非、自分好みの一本を探し出してください。
当記事の監修者
南 幸太朗(みなみ こうたろう)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 買取部門 営業企画部 MD課/買取サロン プロスタッフ
学生時代に腕時計の魅力に惹かれ、大学を卒業後にGINZA RASINへ入社。店舗での販売、仕入れの経験を経て2016年3月より銀座本店 店長へ就任。その後、銀座ナイン店 店長を兼務。現在は営業企画部 MD課 プロスタッフとして、バイヤー、プライシングを務める。得意なブランドはパテックフィリップやオーデマピゲ。時計業界歴13年。