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速報!2023年IWC新作モデルを発表!by Watches & Wonders Geneve
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出典:https://www.iwc.com/jp/ja/watches-and-wonders/new-watches.html
スイス シャフハウゼンに本拠を構える、IWC。
多くのメゾンが立ち並ぶ時計の谷・ジュウ渓谷からジュネーブはスイスのフランス側に位置しますが、シャフハウゼンはドイツとの国境付近にある都市です。スイスの磨き抜かれた腕時計製造のノウハウと、ドイツの堅実なマイスター文化が息づくデザインは、多くの時計ファンの心を射貫いてきました。
そんなIWCの2023年新作は、堅実、堅牢なIWCらしさが特に楽しめる、インヂュニア4本!昨年のワイルドさとはまた違った、IWCの魅力にあふれています。
それではさっそく、2023年IWCの新作をご紹介しましょう。
目次
2023年IWC新作はインヂュニア!鬼才ジェラルド・ジェンタのSLジャンボを復刻
出典:https://www.watchesandwonders.com/en/geneva-2023/brands/iwc-schaffhausen
インヂュニアはドイツ語で「エンジニア」を意味する名前で、ルーツはパイロットウォッチにあります。
パイロットウォッチは主に軍用に開発されてきましたが、航空機の機器類に囲まれながら空を飛ぶため、耐磁性は欠かせない機能でした。
もともと軍用に開発が進んだ腕時計は、第二次大戦後、一般向けとしての需要が高まります。しかし、一般的な腕時計は磁気に弱いという特性を持っています。現在でも、腕時計の磁気抜きは腕時計を長持ちさせ、狂わせないために重要なお手入れのひとつです。
そんな中でインヂュニア最大の特徴は、高い耐磁性です。
精密機器だらけのコックピット以外にも、工場で働くエンジニアや病院の放射線技師、医師、物理学者など、強い磁気にさらされる職業の方は少なくありません。そんなエンジニア向けに開発されたコレクションでした。
インヂュニアには、軟鉄製のインナーケースがはめ込まれています。元々パイロットウォッチのために開発された当耐磁機構は、磁気に満ちたコックピット内で磁束をムーブメントの周囲に導く役割を果たします。そのため、磁気に弱く繊細なムーブメントまで磁束が到達せず、内部を保護できる構造なのです。
IWCのウォッチコレクションの中では、パイロットウォッチやポルトギーゼのような人気ラインとは少々異なりますが、根強いファンを持つモデルです。
そんなインヂュニアの誕生は、1955年にさかのぼります。
IWC初のマニュファクチュール自動巻きムーブメントであるCal.8531を搭載した初代インヂュニアには、悪魔的な666というリファレンスナンバーがつけられました。
初期のインヂュニアは、高い保護力を持つ堅牢な腕時計を求めてデザインされています。
そんなインヂュニアに革命をもたらしたのは、スイスを襲ったクォーツショックと、天才デザイナー、ジェラルド・ジェンタの登場でした。ジェラルド・ジェンタは、オーデマ・ピゲの ロイヤルオークやパテック・フィリップのノーチラス、ブルガリのブルガリ・ブルガリなど、アイコニックな腕時計を多数生み出しています。
ジェラルド・ジェンタは従来品のベゼルを広めにとり、特徴的なビスを埋めて、インヂュニアSLを生み出しました。
新たに生まれ変わったインヂュニアは洗練されたスタイルを獲得し、スポーツステンレスウォッチとしての地位を打ち立てます。
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2023年新作は、今は亡き天才ジェラルド・ジェンタがデザインした傑作1976年製インヂュニアSLRef.1832、通称「ジャンボ」の復刻です。40年前に廃盤となったジャンボへのオマージュとして作成された今回の新作は、ジェラルド・ジェンタが好んで使用したねじ込み式ベゼルを備えています。
さらにH型リンクブレスレットとの相性も抜群で、堅牢でメカニカルなデザインが好きな方に刺さるモデルではないでしょうか。
ベゼルは一片のソリッドメタルから削り出され、一体型のブレスレットとともに手作業でサテン仕上げとポリッシュ仕上げを施されます。
ジェラルド・ジェンタによるデザインは、それまでの無骨で素朴なイメージを一新し、インヂュニアを高級スポーツウォッチの立ち位置に押し上げました。新作にも、そのエポックメイキングな風を感じることができるのではないでしょうか。
もっとも2023年の新作は、ジェンタのデザインを踏襲しながらもエルゴノミクス(人間工学)にもとづいて再設計され、ディティールに小さな改良をいくつも重ねました。
特に人間の体の動きを計算し尽くして新たに開発したミドルリンク・アタッチメントにより、これまでにないタッチの装着感を味わうことができます。40mmの「ジャンボ」は柔らかく、かつしっかりとフィットしますよ。
さらに、ベゼルは目を奪うほどの仕上がりです。
出典:https://www.facebook.com/IWCWatches/photos
ポリッシュ仕上げとサテン仕上げを細かに使い分けてできる陰影とつやが、ベゼルをより洗練されたフォルムに見せています。
初代は性質上、製品によってビス位置が異なることもありましたが、多角形ビスを採用することで美しい星形の5角形が常に保たれるようになりました。
もちろん、実用性も非常に高いままです。
インヂュニア伝統の技術を受け継ぎ、軟鉄製のインナーケースでムーブメントを包み込むことで、強い磁力の影響から時計の中枢部分を守ります。
潔いほどソリッドな裏ブタと、新設計のリューズプロテクターで10気圧防水も実現しました。
ロジウムメッキの針とアップライトインデックスには夜光塗料が使用され、視認性も抜群です。3時位置にはデイト機能を備え、6時位置の上部にはイナヅマを思わせる矢印とインヂュニアのロゴが入っています。
両面反射防止加工を施したドーム型サファイアガラスは、視認性を高めるだけでなく急激な気圧変化にも対応します。
さらに、最深部にはIWCのマニュファクチュールムーブメント、Cal.32111を収めています。爪巻き上げ機構を備えた自社製ムーブメントは、パワーリザーブ120時間の優れものです。
あらゆるシーンで電子機器・モバイルから離れられない現代人にとって、なめらかに洗練された装着性と磁気に対する堅牢さを持ち合わせるインヂュニア・オートマチック40は、良き相棒となるでしょう。
ここでひとつ秘密を暴くと、実はIWCの上層部でさえ「インヂュニアSLジャンボ」の名につけられた「SL」2文字が何を指すのか、どういう意味かわからないそうですよ。
今回登場した4本は、同じデザインですが素材と文字盤カラーが異なります。
それぞれのモデルをご紹介していきましょう。
2023年IWC新作①インヂュニア・オートマティック40ブラックRef.IW328901
出典:https://www.watchesandwonders.com/en/geneva-2023/brands/iwc-schaffhausen/ingenieur-steel/ingenieur-automatic-40-black
まずは今回の目玉である、インヂュニア・オートマティック40ブラックです。
2023年の新作4モデルのうち、3本はステンレススティール製、残る1本はチタニウム製です。
インヂュニア・オートマティック40ブラックは、ステンレススティールのケースとベゼル、一体型ブレスレットに、ブラック文字盤を合わせたデザインです。
文字盤はインヂュニアSLジャンボを踏襲した、縦方向の直線と横方向の直線を組み合わせたチェックパターンです。
市松模様にも似たパターンは新作に引き継がれたと言えど、直線を組み合わせた縞や格子柄を伝統的に見てきた私たちには、SLジャンボと新作の違いが見て取れます。
出典:https://www.watchesandwonders.com/en/geneva-2023/brands/iwc-schaffhausen/ingenieur-steel/ingenieur-automatic-40-black
SLジャンボはラインの幅に若干のばらつきが見られ、パターンではありますが均一ではありませんでした。
2023年のインヂュニア・オートマティック40シリーズには、オリジナルでも使用されている型押しに研磨をかける新技法が使用されています。
精緻に計算され尽くしたラインの組み合わせを、丁寧に研磨することでグリッド(パターン)の1本1本までエッジが立ち、陰影がより美しくなりました。
ブラック1色ですが、光の加減でさまざまな表情を見せてくれます。
スペック
外装
ケースサイズ: | 直径40.0mm×厚さ10.7mm |
素材: | ステンレススティール |
文字盤: | ブラック |
ムーブメント
駆動方式: | 自動巻き |
ムーブメント: | Cal.32111 |
パワーリザーブ: | 約120時間 |
機能
防水: | 10気圧 |
定価: | 1,567,500円(税込) |
2023年IWC新作②インヂュニア・オートマティック40アクアRef.IW328903
出典:https://www.watchesandwonders.com/en/geneva-2023/brands/iwc-schaffhausen/ingenieur-steel/ingenieur-automatic-40-aqua
インヂュニア・オートマティック40アクアは、人気の続いているグリーン系の文字盤が特徴です。
アクア(Aqua)はもともとラテン語で「水」という意味があり、イタリア語や英語でも水や水色、海など水に関わるイメージにつながります。
出典:https://www.watchesandwonders.com/en/geneva-2023/brands/iwc-schaffhausen/ingenieur-steel/ingenieur-automatic-40-aqua
文字盤のカラーは南国の海を思わせるブルーグリーン。グリッドのエッジだけで描かれた細かなパターンが、ブルーグリーンの色合いを様々に変化させます。
ポリッシュ仕上げとサテン仕上げのなめらかなベゼルとの相性も良く、高級スポーツウォッチに相応しい、爽やかな1本です。
日本では孔雀緑と呼ばれる色に近いでしょうか。川辺を滑るように飛ぶカワセミの羽や、水底できらめく碧玉のような鮮やかさです。
スペック
外装
ケースサイズ: | 直径40.0mm×厚さ10.7mm |
素材: | ステンレススティール |
文字盤: | ブルーグリーン |
ムーブメント
駆動方式: | 自動巻き |
ムーブメント: | Cal.32111 |
パワーリザーブ: | 約120時間 |
機能
防水: | 10気圧 |
定価: | 1,567,500円(税込) |
2023年IWC新作③インヂュニア・オートマティック40シルバープレートRef.IW328902
出典:https://www.iwc.com/jp/ja/watches-and-wonders/ingenieur-automatic-40-silver-plated.html
インヂュニア・オートマティック40シルバープレートは、文字盤にシルバーでめっきを施した、ホワイトカラーが特徴です。
光沢を抑えたサテン仕上げのベゼルの中で、シルバーホワイトの文字盤は他のモデル同様、光と影のみで彩られます。
出典:https://www.iwc.com/jp/ja/watches-and-wonders/ingenieur-automatic-40-silver-plated.html
サテン仕上げのベゼルにはめこまれたホワイトは、ステンレススティールに似た柔らかなメタリックに光って見えます。
ステンレススティールモデルのなかでは最も一体感があり、落ち着いて見えるデザインかもしれません。
しかし、他の色味の陰影を極限まで際立たせ、明度だけで様々な表情を見せる型押し・研磨技術のポテンシャルはまだまだ未知数です。
実際にホワイト文字盤に様々な角度から光を当てた際の美しさは、実装した方にしかわからない「秘する花」かもしれませんね。
スペック
外装
ケースサイズ: | 直径40.0mm×厚さ10.7mm |
素材: | ステンレススティール |
文字盤: | ホワイト |
ムーブメント
駆動方式: | 自動巻き |
ムーブメント: | Cal.32111 |
パワーリザーブ: | 約120時間 |
機能
防水: | 10気圧 |
定価: | 1,567,500円(税込) |
2023年IWC新作④インヂュニア・オートマティック40チタニウムRef.IW328904
出典:https://www.iwc.com/jp/ja/watches-and-wonders/ingenieur-automatic-40-titanium.html
2023年のIWC新作4モデルのインヂュニア・オートマティック40のなかで、唯一のチタニウムモデルです。
どちらかというと明るいカラーのステンレススティールと比較すると、チタニウムは鈍色に近いカラーです。
人体に影響が少ない金属として重宝されるチタニウムですが、強度が高く加工が難しいというデメリットがあります。
しかしIWCの技術力は、ステンレススティールと同様に丁寧な研磨を施し、サテン仕上げとポリッシュ仕上げでエッジの美しさを引き出しました。
出典:https://www.iwc.com/jp/ja/watches-and-wonders/ingenieur-automatic-40-titanium.html
チタニウムモデルはケース・ブレスレットに加え、文字盤も同じ色に揃えられています。
その点は、ステンレススティール&ホワイト文字盤と近いデザインと言えるでしょう。
ケースやベゼルとの色味が近い分、文字盤のグリッドの美しさがシンプルに引き立ちます。
チタニウムモデルも、実装したときの光と影がどう見えるのか、楽しみな1本です。
スペック
外装
ケースサイズ: | 直径40.0mm×厚さ10.7mm |
素材: | チタニウム |
文字盤: | クールシルバー |
ムーブメント
駆動方式: | 自動巻き |
ムーブメント: | Cal.32111 |
パワーリザーブ: | 約120時間 |
機能
防水: | 10気圧 |
定価: | 1,958,000円(税込) |
まとめ
IWCのタイムピースは、余計なものを削ぎ落した「実用の美」が特徴です。世界のファッション業界に衝撃をもたらすデザインや、派手な装飾が魅力のメゾンではないからです。
しかしシンプルにさえ見えるケースには、時計業界にとって革命的な技術や発明がつまっており、厳しい環境下での実用にも耐える底力を持っています。
日進月歩の技術革新が進む時計業界にあって、確固たる地位を築いている点も、IWCの大きな魅力です。
特に、IWCの真価ともいえる「技術者」たちのために進化を遂げたインヂュニア。2023年の新作発表を受け、インヂュニアがIWCの人気モデルのなかでどこまで注目度を上げていくか、楽しみですね。
当記事の監修者
南 幸太朗(みなみ こうたろう)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 買取部門 営業企画部 MD課/買取サロン プロスタッフ
学生時代に腕時計の魅力に惹かれ、大学を卒業後にGINZA RASINへ入社。店舗での販売、仕入れの経験を経て2016年3月より銀座本店 店長へ就任。その後、銀座ナイン店 店長を兼務。現在は営業企画部 MD課 プロスタッフとして、バイヤー、プライシングを務める。得意なブランドはパテックフィリップやオーデマピゲ。時計業界歴13年。