国産腕時計が「世界に追いつけ、追い越せ」の機運を高めていた1950年代。
当時のセイコーはマーベル,クロノス,クラウン等に代表される上質な機械式時計を製造しており、その品質たるや、決してスイス時計に劣るものではありませんでした。この脈々と培われてきた時計製造技術の、一つの完成形として誕生したのが1960年のグランドセイコー。そして翌年のキングセイコーです。
もっとも、キングセイコーになじみがない、と言った方もいらっしゃるかもしれません。なぜならキングセイコーは1975年に生産終了しており、一度カタログから姿を消していたためです。
そして2021年、セイコー140周年、そしてキングセイコー60周年という節目の前夜、同社からついにキングセイコーの復活が正式に公表されました!しかも復刻したのは、実用面で非常に高い評価を獲得するに至った二代目「KSK」!
この記事では、2021年新作として発表された、キングセイコー復活モデルについてご紹介いたします!
出典:https://www.seikowatches.com/jp-ja/news/20201208
目次
キングセイコー KSKとは?
冒頭でもご紹介したように、キングセイコーは1961年にセイコーから打ち出されたハイエンドモデルです。
1958年に誕生した薄型手巻き時計「クロノス」の、さらに上位モデルとして誕生しました。国産機械式時計に続く「国産高級時計」に力を入れ始めていた同社の、集大成的存在であったと言っていいでしょう。
ちなみに国産高級時計としては、しばしば同時期に誕生したグランドセイコーと「似ている」といった指摘があります。確かにコンセプトやデザイン面の共通点は少なくありません。
しかしながらキングセイコーはグランドセイコーに比べるとリーズナブルでした。グランドセイコーが「実用時計の最高峰」を目指していたことに対し、キングセイコーも確かにハイエンドではあったものの、当時の一般的な国民が「頑張って買える」程度の価格帯に設定されることとなりました。
※グランドセイコーのファーストモデルの販売価格は25,000円。対してキングセイコーはSSで12,000円でした。当時の小学校の初任給は13,000円程度。そして当時三種の神器に数え上げられた洗濯機がグランドセイコーと同程度でした。
左:グランドセイコー 右:キングセイコー
キングセイコーは国産機械式時計を牽引していく「名手」であるとともに、高度経済成長期の只中にいた我が国における「豊かさや憧れの象徴」でもあったのでしょう。
こういった背景からか、中古・アンティーク市場でもキングセイコーは値段が上がりすぎいないのが嬉しいところ(かつてに比べればどんどん流通量が減り、良い個体は高騰していますが)。また、もともとの品質の良さに加えてよく出回ったムーブメントを用いていることからメンテナンス性に優れており、今なお現役でデイリーユースできる個体が少なくありません。
そんなキングセイコーは1975年までの間で、いくつかの系譜をたどっていくこととなります。
そして今回リバイバルの対象となったKSKとは、1964年~1968年頃までに製造されたセカンドモデルの中の一つです。
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セカンドモデルは44KSの呼び名でも知られています。先ほどアンティーク市場でキングセイコーがよく流通していることに言及しましたが、その立役者はこの44KSと言っていいでしょう。
この呼び名は、搭載ムーブメントが手巻きCal.44であったことに由来します。
何よりの特徴は、ファーストにはなかった秒針規制機構(ハック機能)が搭載されたこと。そのためペットネームとして「キングセイコー規制付き(KSK)」と呼ばれることもあります。またケースもスクリューバックにアップデートされ防水性を獲得した個体がリリースされるようになりました。
それでは約60年の時を経て蘇った復刻キングセイコー KSKは、いったいどのような新作モデルなのでしょうか。
次項でご紹介いたします!
2021年新作!セイコー創業140周年記念限定モデル キングセイコー“KSK”復刻デザイン
出典:https://www.seikowatches.com/jp-ja/special/kingseiko-recreation-2021/
スペック
外装
型番: | SDKA001 |
ケースサイズ: | 直径38.1mm×厚さ11.4mm |
素材: | ステンレススティール |
文字盤: | シルバー |
ムーブメント
ムーブメント: | Cal.6L35 |
駆動方式: | 自動巻き |
パワーリザーブ: | 約45時間 |
機能
防水: | 5気圧 |
定価: | 385,000円(税込) |
こちらが、二代目キングセイコー「KSK」の復刻モデルです。
ディテールを解説いたします。
①デザイン
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二代目は実用面で大きく飛躍した世代ですが、デザイン面でもまた見事で、他の追随を許しません。このデザインがあるからこそ、今なお続くキングセイコー人気に繋がっていると言っていいでしょう。
ケースはエッジが際立つシャープな造形をしており、現代にも続く洗練さを感じさせると定評があります。この復刻モデルでも、切り立ったラグや立体感のあるケース造形が踏襲されることとなりました。
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ちなみにこのラグはかなりしっかりと切り立っていますが、これは重心を低くすることで装着感を快適にするための工夫です。当然、オリジナルのキングセイコーにも採用されていました。
なお、復刻盤ではケースにダイヤシールド加工を施すことで、美しさと強さを兼ね備える仕様となっています。
また、アンティーク時計ならではのプラスティック風防は、現代のスタンダードであるサファイアクリスタルガラスに変更されています。しかしながら高度な加工技術によって当時のボックス型を再現しており、ヴィンテージテイストと視認性・耐傷性といった実用性を両立させることとなりました。
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顔立ちを美しくする文字盤にも言及しなくてはなりません。
多面カットによって陰影がはっきりとした立体的なインデックス,そして風格のある太く長い針。全てがキングセイコーの「高級感」「美しさ」を構成するエッセンスとなっています。
ちなみに12時位置だけインデックスの形状が異なることにお気づきかもしれません。
これは、やはりキングセイコー KSKを再現したもの、とのこと。断面形状と上部のライターカットが、唯一無二の存在感を示します。
ケースサイズはオリジナルの36.7mmではなく38.1mm直径サイズとなるので、より幅広い層から支持を集める理由の一つになりそうですね。
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裏蓋にはキングセイコーのアイコンとして長らく親しまれてきた、盾モチーフがエングレービングされています。
リューズにあしらわれたセイコーロゴと防水仕様を示す「W」マークとともに、至るところまで往年のキングセイコーの息吹を感じられることでしょう。
なお、盾メダリオンの下部には限定生産の証として、シリアルナンバーが併せて刻印されています。
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尾錠も当時を思わせる上品かつ繊細なデザインで、キングセイコーファンはもちろん、アンティーク時計ファン、そして全ての時計ファンに愛されそうなディテールを備えていますね。
②ムーブメント
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「44KS」の呼び名を広めることとなった手巻きCal.44。しかしながら2021年新作としての復刻版では、実用的な自動巻きムーブメントが搭載されることとなりました。
もっとも、薄型時計「クロノス」を出自とするキングセイコー。この雰囲気を忠実に再現するためには、最低限薄型でなくてはなりません。
そこでセイコーは、自社ムーブメントの中でも最も薄い自動巻きキャリバー6L35を採用。このムーブメント、2018年に開発されたばかりの新機種で、プレザージュでも用いられました。薄いとは言えセイコーらしい高性能は健在で、毎時28,800振動のハイビートによって、きわめて高い精度を実現します。
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新作にキャリバー6L35を搭載した結果として、オリジナルキングセイコーよりも厚みをわずか0.5mm増やすだけに留めました。
ケース直径38.1mm×厚さ11.4mmというサイズ感はアンティークらしい上品さに加えて装着しやすく、ビジネススーツでもジャケパンスタイルでも合わせやすいと言えるでしょう。
③その他
「セイコー創業140周年記念限定モデル キングセイコー“KSK”復刻デザイン」、発売開始は2021年1月22日とのことです。
定価税込385,000円とセイコーの中ではかなり高価格帯に位置していますが、近年、時計市場の拡大とともに、セイコーもまたその存在感を高めている背景があります。さらには往年の名作「キングセイコーの復活」という話題性の高さ、そして限定3,000本という生産数から、あるいはグランドセイコーの初代復刻モデルに次ぐ品薄モデルになるやもしれません。
まだ実機を見てはいませんが、あのセイコーが「キングセイコーを忠実に復刻」したとなれば、その見事な出来栄えは想像に難くありません。来年の発売が待ち遠しいですね!
まとめ
「ついにキングセイコーの復刻!」として叫ばれる、2021年新作モデルについてご紹介いたしました!
キングセイコーのディテールや国産高級時計としての当時のコンセプト,そしてさらに進化したテクノロジーが感じられる新作となっており、非常に人気の高い限定モデルになると予想されます。
なお、セイコーおよびグランドセイコーは2020年より、新作発表をバーゼルワールドから自社独自のタイミングにシフトしています。そのため2021年も1月以降、続々と魅力的なモデルがセイコー・グランドセイコーよりローンチされることが見込まれます。早い段階から楽しみにしているファンも少なくないでしょう。
当サイトも、2021年セイコー・グランドセイコー新作の動向を追っていきたいと思います!
■グランドセイコー人気モデル15選。40代、50代の一流ビジネスマンにお勧めしたい時計
■グランドセイコーの一般モデルとマスターショップ限定モデルって何が違うの?
当記事の監修者
田所 孝允(たどころ たかまさ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 営業物流部長/p>
1979年生まれ 神奈川県出身
ヒコみづのジュエリーカレッジ ウォッチメーカーコース卒業後、かねてより興味のあったアンティークウォッチの世界へ進む。 接客販売や広報などを経験した後に店長を務める。GINZA RASIN入社後は仕入れ・買取・商品管理などの業務に従事する。 未だにアンティークウォッチの査定が来るとついついときめいてしまうのは、アンティーク好きの性分か。
時計業界歴18年。