時計には様々な認定規格がありますが、その中でも特に注目されているのが「マスタークロノメーター」です。
マスタークロノメーターは超対磁性能とクロノメーター精度を認定する規格であり、現在オメガとチューダーの2社がマスタークロノメーター認定を受けたモデルを発売しています。
この記事ではマスタークロノメーターがどのような規格なのか?どのような特徴があるのかについて解説いたします。
デザインだけでなく、ムーブメントの性能も重視したいという方にご一読いただきたい内容です。
目次
マスタークロノメーターとは
マスタークロノメーターは「C.O.S.C.」と「METAS」のテストをクリアした超耐磁性のムーブメントに与えられる称号のことです。
オメガとMETAS(スイス連邦計量・認定局)によって、時計の新しい認定制度として2014年に誕生し、認定を受けた個体は超耐磁性と高精度を兼ね備えるムーブメントであることが証明されます。
出典:https://www.omegawatches.jp/ja/
マスタークロノメーターを理解するにあたり、コーアクシャル機構について知ることが重要です。
コーアクシャル機構とはオメガが採用しているハイテク脱進機のことを指します。従来のムーブメントと異なる構造を持つことが特徴で、アンクルとガンギ車、ガンギカナを二重共軸車にすることで「摩擦の軽減」に成功しています。
コーアクシャル機構最大のメリットは、なんと言ってもオーバーホール周期が短くなることです。
通常機械式時計は3年~5年に一度オーバーホール(分解掃除)をする必要があります。これは時計を使用し続けることにより、油が切れてパーツが摩耗してしまうからです。
しかし、コーアクシャルムーブメントは独自の構造設計に加え、ひげゼンマイとテンプに非磁性のシリコン製パーツを採用することにより、他社のムーブメントよりも遥かに壊れにくいムーブメントに仕上がっています。
摩耗を最小限に抑える設計となっていることから、8~10年に一度のオーバーホールで時計を維持することができ、一般的なムーブメントよりもランニングコストがかかりません。
長く使えば使うほど得をする。それがコーアクシャル機構の特徴であり、強みです。
出典:https://www.omegawatches.jp/
また、コーアクシャル機構には上位機構として「マスターコーアクシャル」が存在します。こちらは耐磁性能を持たせたコーアクシャル脱進機のことを指し、ムーブメントを覆うように非磁性素材があしらわれています。
それに伴い耐磁性能が大幅に上昇しており、1000ガウスの耐磁性能をもつコーアクシャルに対し、マスターコーアクシャルの耐磁性能は15000ガウス。およそ15倍の耐磁性能を誇ります。
「摩耗が少なく壊れにくい」という特徴を持つコーアクシャル脱進機に超耐磁性能が加わり、オメガを代表とする機構として人気を博しています。
話をマスタークロノメーターに戻しましょう。
マスタークロノメーターはCOSCクロノメーターのテストを通過した個体に対して行う耐磁性能や防水性能、精度に対するテストですが、そもそもこの規格自体がマスターコーアクシャル用に作られた新たな認定規格だったりします。
マスターコーアクシャルの知名度を上げるために「C.O.S.C.」や「METAS」を巻き込み、独自の規格を制定しました。
「マスターコーアクシャル」は機構、「マスタークロノメーター」は規格であることがややこしい点ではありますが、マスタークロノメーターの名を冠したモデルはマスターコーアクシャルのスペックを持ち、かつクロノメーターであることが証明されています。
なお、マスタークロノメーターをマスターコーアクシャルの上位規格として覚えている方も多いですが、厳密にはマスタークロノメーターは規格のことを指すので、マスタークロノメーターという機構が存在するわけではありません。
マスタークロノメーターの厳格な検査内容
マスタークロノメーターはC.O.S.C.のクロノメーター認定をパスした個体に対し、スイス連邦計量・認定局(METAS)にて実施される厳密な8つのテストをクリアした個体だけが認められる称号です。
C.O.S.C.では平均日差、平均日較差、最大日較差、垂直方向と水平方向の姿勢差といった精度に関する認定を実施。それをパスした個体がMETASにて精度、耐水性、耐衝撃性、耐久性、耐磁性に関する8つのテストを受け、見事突破した個体のみがマスタークロノメーターの称号を得ます。
なお、METASにおける8つの基準は以下の通りです。
- 15,000ガウスの磁場に触れた際のムーブメントの機能
- 15,000ガウスの磁場に触れた際の時計の機能
- 15,000ガウスの磁場に触れた際の一日平均の精度誤差
- 時計の平均日差
- パワーリザーブ
- 6姿勢における精度誤差
- パワーリザーブ残量が33%と100%の際の時計の精度誤差
- 防水性能
これら全ての基準をクリアした時計だけがマスタークロノメーターの称号を得て、時計に搭載されます。
通常のクロノメーター認定と比較して最も異なるのは、ムーブメント単体ではなく、時計の状態になった製品をテストすること。
COSCではムーヴメント単体の精度をテストしますが、マスター クロノメーター認定では時計そのものを10日間かけて厳密に検査します。
摩耗が少なく壊れにくい設計。圧倒的な耐磁性能。そして業界トップクラスの精度。
マスタークロノメーターの名を冠したモデルは、三拍子揃った現代における最強ムーブメントといっても過言ではありません。
出典:https://www.omegawatches.jp/ja/
繊細な構造と緻密な設計によって組み上げられる高級時計は磁石に影響されやすく、スマートフォン(スピーカー部)や、バックの留め具等の強力な磁石と接することで磁気帯びを発生させてしまいます。
しかし、15000ガウスの耐磁性を誇るマスタークロノメーターは、ムーブメントをシリコンといった軟磁性体で覆い隠すことで、磁力の影響を受けにくい設計となっており、ありとあらゆる磁力から時計を守ってくれます。
その耐磁性能は強い磁石と電磁波を使うMRI検査にも耐えうるほどであり、マスタークロノメーターを冠するモデルであれば、もはや磁力を気にする必要はありません。
素晴らしいの一言である耐磁性能に加え、C.O.S.C.のテストをクリアした精度が備えられているのですから、マスタークロノメーターの凄さは誰が見ても明らかだと言えます。
マスタークロノメーター搭載機の相場
出典:https://www.omegawatches.jp/ja/planet-omega/watchmaking/the-worlds-first-master-chronometer/
非常に高いスペックを誇るマスタークロノメーターですが、搭載機の価格は意外にもリーズナブルだといえます。
オメガであればシーマスター系は50万円台~。スピードマスター系であれば80万円前後からマスタークロノメーター搭載機を選ぶことが可能です。
チューダーのマスタークロノメーター搭載機も60万円前後~で購入することができるため、いずれもミドルクラス帯のプライスでハイスペックモデルを手にすることができます。
価格高騰が著しい高級時計において、これほどのスペックを持つ時計がこの価格で購入できることはお得としか言いようがありません。
代表的なマスタークロノメーター搭載モデル
マスタークロノメーターを搭載するモデルは増えており、そのどれもが高級時計を代表する人気モデルです。
オメガでは遂にスピードマスターにマスタークロノメーターが搭載され話題に。チューダーもブラックべイを中心に搭載モデルが増えてきています。
オメガ スピードマスター ムーンウォッチ プロフェッショナル マスタークロノメーター クロノグラフ 310.30.42.50.01.001
ケースサイズ:42mm
素材:ステンレススティール
文字盤:ブラック
駆動方式:自動巻き
ムーブメント:Cal.3861
防水性:50m
定価:737,000円
スピードマスターはオリジナルに忠実であるが故にムーブメントにマスタークロノメーターの搭載が行われませんでした。
しかし、2021年新作において遂にマスタークロノメーターを搭載したスピードマスター 310.30.42.50.01.001 が発売。
スピードマスターらしい意匠はそのままに、時計としてのスペックが大幅に向上しました。
ファンからの評価も高く、オメガの新定番として人気を博しています。
オメガ シーマスター 300 コーアクシャル マスタークロノメーター 234.30.41.21.01.001
ケースサイズ:41mm
素材:ステンレススティール
文字盤:ブラック
駆動方式:自動巻き
ムーブメント:Cal.4130
防水性:300m
定価:770,000円
シーマスターの現行モデルはマスタークロノメーターが標準搭載されており、いずれのモデルも高いスペックを誇ります。
その中でもヴィンテージ感あふれるデザインが美しい 234.30.41.21.01.001 は評価が高く、オメガ随一の需要を博しています。
耐磁性能や精度だけでなく防水性能にも優れ、すべてにおいてハイレベルにまとまった一本として人気です。
チューダー ヘリテージ ブラックベイ セラミック 79210CNU
ケースサイズ:41mm
素材:ブラックセラミック
文字盤:ブラック
駆動方式:自動巻き
ムーブメント:Cal.MT5602-1U
防水性:200m
定価:539,000円
ブラックベイ セラミック Ref.79210CNUはマスタークロノメーター認定をクリアした自社製の自動巻き「MT5602-1U」を搭載したチューダー渾身の一本です。これまでマスタークロノメーターはオメガだけに搭載されてきましたが、チューダーもマスタークロノメーター認定機をコレクションに加えることになりました。
デザインの特徴はセラミック素材をあしらったオールブラック仕様であること。超高耐磁性能は勿論のこと、防水性能も200mと非常に高いスペックを誇ります。
まとめ
マスタークロノメーターは超耐磁性とクロノメーター精度を証明する認定規格です。
マスタークロノメーターを冠した時計は非常に高い品質を持つことが証明されており、認定機の人気は右肩上がりとなっています。
性能に優れた時計を手にしたい。ランニングコストを抑えたい。
マスタークロノメーターは、そんな時計オーナーの理想を叶えてくれます。
当記事の監修者
廣島浩二(ひろしま こうじ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年