「機械式時計はどうやって動いているの?」
「機械式時計の仕組みについて知りたい」
高級腕時計のムーブメントには自動巻き・手巻き・クォーツ・スプリングドライブなど様々な種類があります。
その中でもやはりテンプが動き、歯車が回る、まさに「機械」としての魅力にあふれた機械式腕時計は、いつの世でも多くの男性を魅力してきました。
そんな機械式時計の仕組みについて知りたいという人は多いのではないでしょうか。
機械式腕時計はゼンマイがほどかれる力によって動いています。
この記事では機械式時計の動く仕組みについて、GINZA RASINスタッフ監修のもと解説します。
アンクルやガンギ車などのパーツについての詳細も説明していますので、機械式時計に興味がある人はぜひ参考にしてください。
目次
機械式時計は複数のパーツが精密に絡み合うことで動く繊細な時計です。一般的な機械式ムーブメントは「香箱車」「二番車」「三番車」「四番車」「ガンキ車、アンクル」「テンプ、ヒゲゼンマイ」というパーツで構成されており、これらのパーツが狂いなく動くことで機械式時計は時を刻みます。
出典:https://www.seiko-watch.co.jp/
機械式時計の動力は「ゼンマイ」です。子供の頃に遊んだ「ゼンマイで動く玩具」と構造は一緒ですので、こちらをイメージしていただくと分かりやすいと思います。
>ゼンマイは巻き上げることで動力を得るシステムですが、正確には巻き上げたゼンマイがほどかれ、元に戻ろうとする力を利用して動きます。例えばゼンマイカーは巻き上げていない状態では動きません。しかし、巻き上げたゼンマイカーを机に置いて離すと勢いよく進んでいきます。これは巻き上がったゼンマイがほどかれるエネルギーを利用して動いているからです。
この原理を利用したのが「機械式ムーブメント」。リューズを巻くことでゼンマイが巻き上がり、そのゼンマイがほどかれることにより動力を得ます。
ちなみに、ゼンマイによる時計機構は1500年頃にドイツ人のピーターヘンラインが発明したといわれており、ゼンマイを動力源にした携帯用時計「ニュールンベルグの卵」がその起源とされます。当時の時計のサイズは大きく”実用性”に欠けていましたが、様々な機構の開発により次第にその大きさは小型化していきました。そして、16世紀末には懐中時計が誕生。1810年には天才時計技師ブレゲが小型時計に金属チェーンをつけた腕時計を製作しました。
機械式時計はリューズを巻くと「香箱車に収納されているゼンマイ」が巻かれ、動力を得る仕組みです。そして、巻き上げられたぜんまいが元に戻ろうとする力は、「1番車=香箱車」「2番車」「3番車」「4番車」の4つの歯車で構成される輪列機構によって順番に伝達されていきます。
・1番車は一般的には香箱車と呼ばれ、ゼンマイを収められています。リューズを巻くことでゼンマイが巻かれ、機械式時計は動作を始めます。
・2番車には分針が取り付けられており、この歯車は60分で1周する設計となっています。
・3番車は仲介役を担う歯車。2番車と4番車を繋げる役目を果たしますが、実は精度に関わる意外と重要なパーツです。
・4番車には秒針が取り付けられており、60秒で1周する設計が施されています。
機械式時計はリューズが巻かれることで、ゼンマイが巻かれ、そのゼンマイがほどかれる力を利用して各歯車が動く仕組みです。
動き出した歯車は1番車~4番車まで、その力を伝達していき、最後にはガンギ車と呼ばれる歯車に到達します。
一番手前のギザギザした歯車がガンギ車です。この歯車は輪列機構における最後の歯車でありながらも、次項で解説する脱進機を構成するパーツの一つです。ゼンマイがほどけるエネルギーを一定に調整する役目を担い、時計の精度に大きな影響を与えます。
機械式時計においては全てのパーツが重要ですが、ガンギ車はその中でも特に大切なパーツだといえるでしょう。
ゼンマイを巻き上げることで生まれたエネルギーは輪列機構を通して、「ガンギ車・アンクル・テンプ・ヒゲゼンマイ」で構成される脱進機と呼ばれる機構へと到達します。脱進機は一定速度で歯車が回転するための仕組みのことを指し、時計としての機能を決める重要な機構です。
出典:https://museum.seiko.co.jp/
時計としての機能を果たすためにはその勢いを抑え、一定の速度をキープしなければなりません。
もし脱進機がなければ、ゼンマイに貯えられている力は激しい輪列の回転と共に一挙に消滅してしまいます。
前項でゼンマイの構造を玩具に例えましたが、もう一度ゼンマイ玩具をイメージしてみてください。ゼンマイ玩具たちは一度巻き上げた力を開放すると、短時間でエネルギーを使い果たし止まってしまうことを思い出せるはず。機械式時計は脱進機がなければ、この玩具と同じ動きをします。
なぜなら輪列は分針や秒針が含まれているため”すべて滑らか”に回転するように調整されており、どこかでブレーキをかけなければ、すぐにゼンマイは全てほどけてしまうからです。
そこで発明されたのが脱進機(エスケープメント)。脱進機の進化は時計の進化そのものであり、長い時計の歴史の中で幾度なく改良が繰り返されてきました。現在の機械式腕時計は「クラブトゥース脱進機」と呼ばれる脱進機が主に使用されており、シンプルでありながらも部品を高い精度で大量に生産するのに向くという特徴を持ちます。
出典:https://museum.seiko.co.jp/
脱進機はアンクルと呼ばれる左右に突起をもつパーツがガンギ車のギザギザに噛み合うことで、速度を一定に保ちます。
なお、アンクルは次項で解説するヒゲゼンマイとテンプにより一定のリズムで左右に振れ、そのリズムがガンギ車と絡み合うことにより、輪列機構に取り付けられた各針が一定のスピードで時を刻むようになります。
脱進機の中で特に重要なのが時計の「心臓部」ともいえるテンプとヒゲゼンマイです。テンプとヒゲゼンマイは振り子時計でいうと「振り子」の役割をし、精度を決めます。
振り子時計は振り子が行ったり来たりすることで、正確な時間を刻みますが、機械式腕時計では「テンプ」と「ヒゲゼンマイ」が振り子の役目を果たします。
テンプは車輪のような形をしていて、天輪のアーム上の部分、そして天真(テンプの中心の軸)といったパーツの集合体です。テンプは「正確」に行ったり来たりする往復運動を繰り返し、時計に精度を与えます。
出典:https://www.breguet.com/
テンプは1秒間に「3、4回」の規則正しい往復回転運動をすることで機械式時計の精度を保つ機構。ただし、テンプ自体は車輪のようなもので、単体では機能を果たせません。そこで必要となるのが「ヒゲゼンマイ」です。「テンプ」と「ヒゲゼンマイ」の2つのパーツが組み合わさることで、時計の心臓部としての役割を果たします。
また、高級腕時計の商品ページで振動数という項目を見かけたことはありませんか?この振動数は1時間にテンプが何回振動するかを表しています。人間の心拍数に似ていることもテンプが時計の心臓部といわれる所以なのかもしれません。
振動が多いほどテンプとヒゲゼンマイは高速で動きますし、振動が少なければ低速で動きます。
一般的には振動数が多いモデルほど精度は上がりますが、その代わりに耐久性が落ちますので、一長一短といったところです。
テンプの中央の軸を天真(てんしん)と呼び、これに巻き付いているリボンのような金属帯が「ヒゲゼンマイ」と呼ばれるパーツです。ヒゲゼンマイはムーブメントパーツの中で最も製造が難しいといわれており、ロレックス・セイコー・ランゲ&ゾーネなどごく僅かなメーカーしか自社開発できないパーツとなっています。
ヒゲゼンマイは香箱車に収められたゼンマイよりも、とても小さく繊細な金属帯です。
テンプに収められたヒゲゼンマイが伸縮を繰り返すことで、テンプの振動を調整します。
出典:https://www.breguet.com/
ヒゲゼンマイは渦巻き状になっていますが、片方の端は天真に固定されているヒゲ玉というパーツに突き刺さっていて、もう片方の端はテンプを固定しているテンプ受けというパーツに固定されています。
このヒゲゼンマイをテンプのヒゲ玉とテンプ受けに突き刺さっている状態にすることで、テンプはコロコロ転がらずに半固定状態になるのです。
ゼンマイがほどかれる力は輪列機構を通りテンプへと伝わっていきます。その力を利用することでテンプが回転するのですが、実はこの回転は振り子のように左右を行ったり来たりを繰り返しているのです。(下の動画を参照)
その往復は前項で説明したヒゲゼンマイによるもの。テンプが回転することでヒゲゼンマイは縮み(または広がり)、衝撃の強さとヒゲゼンマイの抵抗が釣り合う位置までテンプは回転を続けます。その仕組みは非常に精密な調整が施されており、左右に一定のリズムで往復を繰り返します。そして、テンプが一定のリズムを刻むことを利用し、強すぎるゼンマイの力を「アンクル」と「ガンギ車」が抑えます。
機械式時計はテンプとヒゲゼンマイにより”速度と精度”が調整されますが、アンクルとガンギ車はテンプが一定のリズムを刻むことを利用し、強すぎるゼンマイの力を調節する役割をもちます。
アンクルはT字型をした金属の先に、角のように二本のルビーがはめ込まれた形状をしたパーツです。そして、T字型の一方についているルビーを「入りづめ」、もう一方についているルビーを「出づめ」といいます。
出典:https://museum.seiko.co.jp/
アンクルは一定の速度で「左右に振れる」パーツです。アンクルが左右に振れることで、先端に備えられた2つのルビーが他の歯車の形とは異なる「ギザギザした形」をしたガンギ車を抑えます。
ただ、疑問に思うのは、どうやってアンクルが左右に振れるのかということ。
そのメカニズムの秘密はアンクルの軸にセットされている「振り石」にあります。
振り石は「左右に往復する振動をアンクルに与える」機能をもつ重要なパーツです。
この振り石は振り子時計における”振り子の玉”と同じ動きを果たし、大きく左右に振れます。この振り石がアンクルを左右に振らすことで、脱進機は往復するエネルギーをもつことができるのです。
上記は振り石とテンプ・アンクルの関係性を示したものです。テンプの回転動作により、振り石がアンクルの軸をかすめてアンクル自体の向きを変えていることがわかります。すると左右交互にリズミカルに動きだしたアンクルは、先端についた2つのルビーを駆使して、ガンギ車を右左右左…とリズミカルに抑え続けます。
ガンギ車にはゼンマイの力が輪列機構を通してダイレクトに伝わっていることを説明したと思いますが、アンクルが左右にガンギ車を抑えることで、ガンギ車に伝わっていたゼンマイの力にブレーキがかかります。
アンクルにより一定のリズムで抑えられたガンギ車は、ゼンマイが一気にほどけないように歯車を「調速」。
そして、力を抑えられたガンギ車は輪列機構にある歯車を一定の速度に整えるのです。
出典:https://museum.seiko.co.jp/
※画像のドテピンとは、必要以上にアンクルが動くことを防ぐためにつけられたパーツ。
振り石は大きく左右に振られることで「アンクルとテンプ」に力を与え続ける脱進機の機能において最重要パーツともいえます。
振り石がなければヒゲゼンマイに往復エネルギーを与えられず、アンクルが左右に動くこともできないため、ゼンマイの力にブレーキをかけることはできません。
振り石に限らず機械式時計は、各パーツが役割を果たし「循環」することで初めてその精度を保つことができます。どこか1つでも不具合が生じてしまえば、たちまち時計としての精度を失ってしまう本当に繊細なものなのです。
機械式腕時計の動力は「ゼンマイがほどかれる力」。そのゼンマイのエネルギーは4つの歯車で構成される「輪列機構」に伝わり、ガンギ車・アンクル・テンプ・ヒゲゼンマイで動く「クラブトゥース脱進機」にて一定の速度へと変換されます。変換されたゼンマイの力は規則的なリズムを生み出し、各歯車に取り付けられた時針・分針・秒針が時を刻み始める…。一般的な手巻き構造の機械式時計はこのようなメカニズムで動いています。
今回紹介したのは機械式時計の基本中の基本。まだまだ各機構には複雑で繊細な仕組みが数多く含まれており、いくら調べても足りないほどの「ロマン」に溢れています。
どうでしょう。メカニカルな部分を知れば知るほど、前よりも機械式時計が好きになれそうな気がしてきませんか?