自動巻き時計にはゼンマイを巻き上げるローターが備えられています。
一般的なローターは文字盤の半分くらいの大きさで作られていますが、マイクロローターはそれよりも更に小さな設計で作られており、機械式ムーブメントの視覚的な美しさを損ないません。
そこで今回はマイクロローターについて徹底解説いたします。
世界最高峰のブランドにしか作り上げることのできない機構の秘密を是非ご覧ください。
目次
マイクロローターとは?
マイクロローターは一般的な自動巻き時計に搭載されているローターと比べ非常に小さな自動巻きローターの事を指します。
ローターの大きさはモデルにもよりますが概ね「直径約1cm」ほどの大きさです。
左:通常の自動巻きローター 右:マイクロローター
マイクロローターを採用してるモデルは、大半がスケルトンバックとなります。その理由はやはり「その美しさを堪能してほしい」という気持ちの表れからくるのでしょう。
またローターが小さいため、一般的な自動巻きムーブメントよりも機械の精巧な美しさを存分に眺めることができることも魅力です。
マイクロローターが生まれた経緯
マイクロローターが生まれた理由。それは耐久性と薄さを両立させるに必要不可欠だったからです。
一般的に機械式ムーブメントは薄くなるほど耐久性が下がります。そのため、機械式時計はケースが厚くなってしまいがちでした。
特に自動巻きはローターの厚み・大きさの分ムーブメントが肥大化してしまうため、各ブランドはいかに薄型設計の自動巻きムーブメントを作るか日々試行錯誤を続けていたようです。
そんな折、歴史を変える機構が誕生します。
それこそが「パテック フィリップ Cal.240」が持つマイクロローターでした。
マイクロローターを搭載したCal.240が誕生したのは1970年代。
それまではマイクロローター自動巻きは奇抜性はあったとしても、実用性に欠けるモノとして扱われてきました。
問題視されてきたのは、2番車がセンターにないことにより生じる「時刻合わせの際に針飛びが起こりやすい現象」そして、ローターが小さいことによって生じる「巻き上げ効率が劣る」こと。
マイクロローター自体は1960年に開発された「ピアジェ Cal.12P」が、薄型設計のムーブメントとしては古典的な設計で薄型化に挑んだジャガー・ルクルトのCal.920が存在していましたが、いずれも時計界が求める究極の薄型ムーブメントにはあと一歩及びませんでした。
しかし、Cal.240は薄型でありながらも、重量のある22Kゴールド製をマイクロローターの素材に採用することにより巻き上げ効率の問題を見事クリア。2番車をセンターに置かないオフセット輪列を採用しながらも針飛びが起こりにくい設定を確立しました。
マイクロローターの魅力
マイクロローター最大の魅力。それはなんといっても薄さです。
一般的なローターよりも小さく薄型であるため、ムーブメント自体を小型にすることができます。
出典:https://www.piaget.jp/
その最たる例はピアジェ アルティプラノ。ピアジェはいち早くマイクロローターの開発に着手し、ムーブメントの薄型化を推し進めたブランドです。
マイクロローターを世界的に広めたのは「パテックフィリップCal.240」ですが、現代において最も薄型時計に力を入れているのはピアジェでしょう。
現在はマイクロローターの製造技術が向上し、ピアジェやパテックフィリップのみならずマイクロローターを扱うブランドは増えましたが、どのモデルも薄型設計が基本であることは今も変わりありません。
ロングパワーリザーブや複雑機構を搭載した個体も増えており、性能に関しても確実に進歩を遂げています。
また、マイクロローターは薄さのみならず視覚的な美しさも魅力です。
マイクロローターが採用された個体はCal.240を創り上げたパテックフィリップを中心に、ランゲ&ゾーネといった世界最高峰のブランドばかりであり、汎用的なムーブメントでは決して味わうことのできない美しさを持ちます。
元々は如何に薄くムーブメントを作るかに趣をおいて開発されたマイクロローターですが、近年ではその特有の存在感や美観から、芸術作品としての側面も大きくなっています。
出典:https://www.facebook.com/pg/piagetjapan/
マイクロローターはローターの大きさが小さいため、自動巻きでありながらも装飾の美しさを前面に押し出せます。
各ブランドもプレミア感を意識したデザインに特化させているため、その仕上がりは非常に美しいです。
マイクロローターを採用するブランドはごく僅か
マイクロローターは自動巻きであっても薄型設計の時計が作れる優れた機構です。
ただ、マイクロローターを搭載したモデルはなかなかお目にかかる機会がありません。
それはなぜか?
答えは製造するのが難しいうえに、コストが掛かるからです。
マイクロローターは巻き上げ効率を確保するのが難しく、そもそも薄型にムーブメントを仕上げるのが困難であるため、開発にはかなり高度な技術を擁します。
ローターは大きければ大きいほど遠心力が増し、巻き上げ効率が上がる設計となっているので、直径が小さいマイクロローターは巻き上げ効率に関して不利です。
そのため、一般的なサイズ感に匹敵する巻き上げ効率を実現するにはローターを重くする必要があり、18k以上のゴールドやプラチナが素材に使われることが多くなります。
加えてそもそもマイクロローターが中心からズレた設計となるオフセット輪列を組み上げることができるのは限られたマニュファクチュールだけです。
ローター軸が中央からズレるということは、その他もパーツも基本的な設計から大きくはずれることとなりますので、組み立てには高度な技術が必要となります。
中央にローターが配されていないだけと言えばだけですが、技術者とっては非常に大きな問題になるのです。
上記の理由から、マイクロローターを採用すれば薄型の自動巻きが作れるにも関わらず、現在でも世界最高峰のマニュファクチュールにしかマイクロローターを作り上げることができません。また、マイクロローターは薄型のムーブメントである以外にも「視覚的な美しさ」も重視されているので、技術力と装飾に自信があるブランドでなければ、敷居が高いと言わざるを得ないのです。
マイクロローターが採用された人気モデル
さて、では実際にマイクロローターが採用された人気モデルを見てみましょう。
どのモデルも世界で人気を博している最高峰のモデルばかりですので、ムーブメントが美しい薄型時計が欲しい方は是非チェックしてみてください。
パテックフィリップ カラトラバ 5120G-001
ヴィクトリア女王やアインシュタインをはじめ、世界中の名士・著名人に愛されたパテックフィリップの名作5120G。
ケースバックはスケルトン仕様となっており、小ぶりながらも美しいマイクロローターの魅力を堪能することができます。
パテックフィリップ グランドコンプリケーション パーペチュアルカレンダー 5940G-010
パテックフィリップ グランドコンプリケーション パーペチュアルカレンダー 5940G-010
マイクロローター自動巻きを確立させた傑作。世界三大複雑機構のうちに数え上げられる永久カレンダーを備えながら、針やインダイアルが絶妙のバランスで配置されており視認性よくかつ秀逸なデザインとなっています。
発売されてから時間が経過したモデルではありますが、スペックは外装・ムーブンメント共に世界トップクラスです。
パテックフィリップ パーペチュアルカレンダー 5140R-001
パテックフィリップ パーペチュアルカレンダー 5140R-001
5140R-001はパテック・フィリップの定番、Ref3940 をリニューアルしたモデルです。極薄型ムーブメント Cal.240Q を搭載することで、厚みを抑え装着感がアップしました。スケルトンバックからはマイクロローターを搭載した美しいムーブメントをご覧頂けます。
ロジェデュブイ エクスカリバー42 マイクロローター クロノグラフ RDDBEX0390
ロジェデュブイ エクスカリバー42 マイクロローター クロノグラフ RDDBEX0390
高級スポーツウォッチの人気を牽引するロジェ・デュブイの代表作“エクスカリバー”。RDDBEX0390は直径42mmのケース径が逞しい“エクスカリバー42”で、ベゼル、インデックスに使用されたK18ローズゴールドが華やかな印象を与えるモデルです。
ムーブメントにはマイクロローターを採用したRD681を搭載。美しいギミックのキャリングアーム式クロノグラフとなっており、極上の存在感を楽しめます。
ランゲ&ゾーネ グランドサクソニア オートマチック 307.029
ランゲ&ゾーネ グランドサクソニア オートマチック 307.029
世界一のムーブメント製造技術を持つブランドと称されるランゲ&ゾーネにもマイクロローター採用モデルが存在します。
例えばこのサクソニア オートマチック。
背面はシースルーバックとなっており、美しい21kマイクロローターが採用されたSAX-O-MATムーブメントを堪能することができます。
また、視覚的な美しさだけでなく、「秒針位置合わせメカニズム」「ゼロリセット機構」といった優れた機能性を有することも特徴です。
パルミジャーニ フルーリエ トンダ1950 PFC288-0001400-XA1442
パルミジャーニ フルーリエ トンダ1950 PFC288-0001400-XA1442
正統派時計製造技術を継承する最高級ブランド「パルミジャーニ・フルーリエ」。一人の時計師が一つの時計を最後の工程まで担当する拘りのブランドです。マニュファクチュールならではの徹底した物作りと美しい仕上がりは実に見事です。
トンダ1950はパルミジャーニ・フルーリエの中でも特に人気のあるコレクションで、丁寧に組み上げられたムーブメントにはマイクロローターが備えられています。
ピアジェ アルティプラノ 50周年記念モデル 限定235本 G0A35132
ピアジェ アルティプラノ 50周年記念モデル 限定235本 G0A35132
ピアジェのアルティプラノは極薄設計のドレスウォッチ。ムーブメントにはピアジェ自社製極薄自動巻ムーブメント1200P(世界最薄2.35mm)が搭載されています。
このモデルは厚さ2.35mmにちなんだ235個限定の記念モデル。2010年に発売されたモデルですが、未だに人気があり、プラチナ製のマイクロローターが採用されています。
リシャールミル オートマチック ラウンド エクストラフラット RM033
リシャールミル オートマチック ラウンド エクストラフラット RM033
リシャール・ミルの最薄モデル「Ref.RM033」。中心軸をはずした小型巻き上げローターをムーブメントに組み込んだマイクロローター機構が採用されたモデルです。
直径45.7mmでありながら、その厚さはわずか6.30mm。この極薄仕様を実現したマイクロローターはプラチナ製で両方向巻き上げ方式となっており、これによって小さいローターでありながらも十分な巻き上げ効率を確保しています。
まとめ
薄型シースルーバックを搭載した美しき名作。それがマイクロローター搭載モデルです。
どのモデルも最高峰のブランドが送る極上の一本であり、優れたドレスウォッチをお求めの方には有力な選択肢となることでしょう。
当店でも購入頂けますので、是非一度その目でマイクロローターの美しさをご覧ください。
当記事の監修者
新美貴之(にいみ たかゆき)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 店舗営業部 部長
1975年生まれ 愛知県出身。
大学卒業後、時計専門店に入社。ロレックス専門店にて販売、仕入れに携わる。 その後、並行輸入商品の幅広い商品の取り扱いや正規代理店での責任者経験。
時計業界歴24年
タグ:雑学