「パテックフィリップとティファニーはどんな関係なの?」
「パテックフィリップ×ティファニーのコラボモデルについて知りたい」
パテックフィリップとティファニー。
どちらも世界屈指のメゾンであり、かつこの二社の濃密な関係性は時計業界ではあまりにも有名です。
長い歴史の中で、パテックフィリップとティファニーのこの蜜月を示唆するタイムピースが製造されてきました。
しかしながら2021年11月、これほどまでの衝撃を以て報じられたWネームモデルは、初と言っていいのではないでしょうか。
パテックフィリップがティファニーとの歴史170年の節目として、既に生産終了が決定したかに思われたステンレススティール製ノーチラスRef.5711/1A-018をリリースしたのです。
それも、目が覚めるようなティファニーブルーを伴って!
そんなパテックフィリップ×ティファニーのコラボモデルについて知りたいという人は多いのではないでしょうか。
このコラボモデルは170本というきわめて限定的な生産なので、なかなか市場で見かけることは少ないかもしれません。
この記事ではパテックフィリップ・ティファニーの歴史を寿ぐ(ことほぐ)新たなノーチラスを、GINZA RASINスタッフ監修のもと解説します。
パテックフィリップとティファニーの関係性についても紹介しますので、パテックフィリップに興味がある方はぜひ参考にしてください。
※2021年12月12日、ニューヨークで行われたフィリップスにて当モデルのオークションが行われました。その落札金額とは?
出典:https://www.bloomberg.com/news/articles/2021-12-06/patek-philippe-and-tiffany-co-announce-the-last-ever-nautilus-5711
目次
パテックフィリップがティファニーとの蜜月170年をノーチラス 5711/1A-018で寿ぐ
2021年12月、パテックフィリップはターコイズを彷彿とさせるような、そんな明るいブルー文字盤のノーチラスをローンチしました。これは、ご存知ティファニーブルーですね。文字盤にオフセットされたTIFFANY&Co.の印字からも明白です。
リファレンスは5711/1A-018となっている通り、ステンレススティール製の3針ノーチラスがモデルとして選ばれていることがわかります。
ティファニーは1837年に創業した、アメリカ ニューヨーク発の名門ジュエラーです。創業当初は文房具やファンシーグッズを扱う小売店であったようですが、創業者であるチャールズ・ルイス・ティファニーの才覚。そして当時の二月革命などから見られる欧州の情勢不安により、欧州セレブリティからの宝石・貴金属の買い付け増加が追い風となり、上質な銀製品やジュエリーを扱うメゾンへと成長していきました。
そんなティファニーは腕時計への事業拡大も早くから着手したことで、1851年よりパテックフィリップの関係性が始まります。そのため、この度のノーチラスのシースルーバックには「1851 2021」と「170th ANNIVERSASY」の文字がプリントされているようです。ちなみに2021の「1」を拡大すると、新たにティファニーが傘下に加わったLVMHの文字が確認できるのだとか。
出典:https://www.patek.com/en/home
もっとも、この二社の記念モデルが発売されたのは初めてではありません。
2001年には蜜月150年の記念モデル「T150」などがリリースされています。また、ノーチラス 5711/1Aにも、ティファニー社の印字が入った個体がいくつか見受けられます。
しかしながら驚くべきは、このノーチラス 5711系は2021年春のオリーブグリーンモデルを以て、生産終了ではなかったのか、ということ!
1976年に誕生した同社初のラグジュアリー・スポーツウォッチ「ノーチラス」はいくつかの変遷を経て、2006年にRef.5711へと移行を果たしました(2010年にランニングチェンジ)。
さらにノーチラス Ref.5711について補足すると、近年類を見ない実勢相場を描いているモデルです。ステンレススティール製モデルであるにもかかわらず、その平均相場はゆうに1000万円超え。とりわけブラックブルーと称される、深い青文字盤モデルRef.5711/1A-010の争奪戦は激しく、2019年頃から並行輸入市場ですら品薄といった状況でした。もともとパテックフィリップ自体、年間製造数が限られています。しかしながら5711の「製造期間」としてはある程度の年数を有し、にもかかわらず1000万円を超えても需要がいっこうに止まないという事実に、驚きを禁じえません。
出典:https://www.patek.com/en/home
そんな中2020年にホワイト文字盤のRef.5711/1A-011が、続く2021年にブラックブルー文字盤のRef.5711/1A-010が、生産終了と報じられます。同年の時計業界新作見本市Watches & Wondersで公開されたオリーブグリーン文字盤Ref.5711/1A-014を一年間製造した後、ステンレス製ノーチラス5711/1A系は廃盤になると思われました。
しかしながら5711の有終の美を飾るかのように、ティファニーとのWネームモデルが満を持して登場したというわけです。
繰り返しになりますが、ティファニーとのWネームは過去幾度にも渡って生産されてきました(もちろん稀少性はきわめて高いですが)。しかしながら、これほどまでに鮮烈な色合いが採用されたことは、Wネームを除いてもあまりなかったように思います。
※2001年にリリースされたT150。パテックフィリップ×ティファニー150周年記念モデル
ちなみにティファニーブルーはコマドリの卵から着想を得ているのだとか。
外装は既存の5711から受け継がれているように思われますが、ティファニーブルーと夜光のコントラストを強調するかのように黒くフチ取られていることも特徴的です。
ムーブメントは2019年頃からノーチラスに載せられ始めたCal.26-330SCとなります。
定価は52,635米ドルとのこと。
もっともノーチラスの定価は現在、あってないようなもの。さらに当アニバーサリーモデルは170本限定生産(かつ米国のニューヨーク・ビバリーヒルズ・サンフランシスコにおける、パテックフィリップ取扱いのあるティファニーブティックのみでの販売)になるため、オークション級の価格になるであろうことは想像に難くありません。なお、収益は全て地球環境団体The Nature Conservancyに寄付されるとのこと。
2021年明けてすぐにノーチラスの生産終了を耳にし、同年の暮れに驚くべきアニバーサリーを目の当たりにする。今年一年も、パテックフィリップから目が離せなかったことを示唆する出来事です。
【2021年12月12日追記】パテックフィリップ×ティファニーWネームのノーチラス、約7億円で落札!
2021年12月12日、わが国にもファーストデリバリーの当モデルの、落札金額が舞い込んできました。
ニューヨークで行われたフィリップスオークションにて、なんと650万3,000米ドルで落札されたとのこと・・・!日本円にすると約7億円ということになります。実際のハンマープライスは535万米ドルのようですが、それでも驚くような金額ですよね。
ステンレススティール製モデルということを鑑みると、きわめて狂騒的な価格と言えます。
今後の動向に注目です。
パテックフィリップとティファニーの関係性
出典:https://www.patek.com/en/home
1851年から2021年までの、パテックフィリップとティファニーの蜜月を寿いだノーチラス Ref.5711/1A-018。いったいこの二社は、どのように歴史的に関わってきたのでしょうか。
パテックフィリップの創業は1839年。前項でも言及しているように、ティファニーの創業は1837年です。
前者はスイス、後者はアメリカという離れた位置に本拠を構えていましたが、ティファニーは創業からわずか10年ちょっとで時計事業に着手。その際にパテックフィリップから製品供給を受けることとなりますが、パテックフィリップ自身もアメリカ市場にうって出るため、小売り契約が結ばれることとなりました。
なお、アンティーク市場ではパテックフィリップやロレックス社とティファニーとのWネームの懐中時計などが散見されます。かつてはWネームは特段珍しいことではなかったためです。しかしながらパテックフィリップが文字盤上に自社以外のロゴを載せることを許可しているのは、現在ではティファニー一社のみとなっております。
パテックフィリップにとってもティファニーは長らく大切なお得意様だったのでしょう。
鉄道がほぼ全土に網羅され、この鉄道によって各地の産業や市場が活況を見せていた19世紀末から20世紀のアメリカ市場。この重要な市場からの要請でパテックフィリップは完成品ムーブメントや、複雑機構を搭載した懐中時計をティファニーへ供給していくこととなりました。
出典:https://www.patek.com/en/home
ちなみに2014年、サザビーズオークションで史上最高額となる約28億円(当時)で落札されたグレーブスウォッチという懐中時計が存在します。
これはニューヨークの銀行家ヘンリー・グレーブス・ジュニアが、「世界で最も複雑な時計」を、ティファニーを通じてパテックフィリップにオーダーした懐中時計として高名です。
さらにティファニーは1870年代に入るとスイス ジュネーブに自社工場を構えます。この工場はほどなくして売却されますが、その買い手となったのがパテックフィリップでした。
このように歴史的にも実際にも深い関係性があるパテックフィリップとティファニー。
しかしながらこの蜜月がどうなるのか、と取り沙汰されたのが、2019年から続くLVMHの買収騒動でした。LVMHはフランス パリに本拠を構える巨大コングロマリットで、ルイヴィトンやベルルッティ、ロエベといったファッション・レザーブランドからウブロ,タグホイヤーにゼニスなどの高級時計ブランドまでを手広く傘下に加えています。一方のパテックフィリップはコングロマリットに属さない独立企業です。ジュエリー事業強化のためのティファニー買収と思われますが、これが完了したのは2021年となります。
すなわちティファニーが独立企業でなくなってしまった今、パテックフィリップとのパートナーシップに終止符が打たれるのではなどと囁かれました。結果的に今回の記念すべきノーチラスによって、まだまだ蜜月が続くことを示唆したように思われます(LVMHのロゴも入っていることですし、ね)。
まとめ
2021年12月に発表された、パテックフィリップ×ティファニー170年の歴史を体現する、ノーチラス Ref.5711/1A-018をご紹介いたしました!いったい誰が、このようなステンレススティール製ノーチラスを目の当たりにできると想像したでしょうか。
もっとも「目の当たり」とは言え、170本というきわめて限定的な生産ゆえ、なかなか市場で見かけることは少ないでしょう。しかしながら一度手に取って、文字盤の美しさや隠しLVMHなどをまじまじと見てみたい。そう思わせる記念モデルでした。
当記事の監修者
田中拓郎(たなか たくろう)
高級時計専門店GINZA RASIN 取締役 兼 経営企画管理本部長
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
当サイトの管理者。GINZA RASINのWEB、システム系全般を担当。スイスジュネーブで行われる腕時計見本市の取材なども担当している。好きなブランドはブレゲ、ランゲ&ゾーネ。時計業界歴12年