出典:https://www.patek.com/en/home
2021年、ロングセラーとして親しまれてきた―近年では、高級時計市場を過熱させていた―3針ノーチラス Ref.5711/1Aが生産終了したことは、今なお記憶に新しい方も少なくないでしょう。
バリエーションとしてグリーン文字盤や、リミテッドエディションとしてティファニーブルー文字盤等がリリースされておりましたが、いずれも流通は非常に限定的。2022年10月までは、伝統的な3針ノーチラスは、カタログから姿を消したことを示唆しておりました(ジェムセットモデルや、ケース直径35.2mmのレディースラインは現存)。
1976年、ラグジュアリー・スポーツウォッチとして誕生した3針ノーチラスのDNAは、いったいどうなってしまうのか?
きたる2023年の、新作発表見本市―Watches & Wonders Geneve―で、何らかの新しいノーチラスが発表されるのでは、といった噂はありました。
しかしながら一足早い2022年10月18日、ついにRef.5711/1Aの後継となる新型機が、パテックフィリップから発表されたのです!
型番はRef.5811/1G。従来通りアイコニックなフォルムや美しいブルー文字盤を湛えつつ、上品なホワイトゴールド製の外装に身を包んだ、新型ノーチラスの実力とは?
目次
2022年パテックフィリップ新作 ノーチラス Ref.5811/1G スペック
スペック
外装
ケースサイズ: | 直径41mm×厚さ約8.2mm |
素材: | ホワイトゴールド |
文字盤: | ブルー |
ムーブメント
駆動方式: | 自動巻き |
ムーブメント: | Cal.26-330 SC |
パワーリザーブ: | 最大45時間 |
機能
防水: | 12気圧 |
定価: | 9,383,000円(税込) |
2022年パテックフィリップ新作 ノーチラス Ref.5811/1Gはどんな時計?
それでは新作ノーチラス Ref.5811/1Gの詳細について、ご紹介いたします。
近年のノーチラスを取り巻く環境
冒頭でもご紹介した通り、ノーチラスは1976年に誕生したパテックフィリップのステンレススティール製スポーツウォッチです。
1970年代当時というのは、まだパテックフィリップほどの雲上ブランドのラインナップは、ゴールド製ドレスウォッチが主流でした。しかしながら1972年、同じく雲上ブランドのオーデマピゲがロイヤルオークをリリースしたことを皮切りに、ラグジュアリー・スポーツウォッチ市場が開花していくこととなります。
※ラグジュアリー・スポーツウォッチ・・・通称ラグスポ。特に決まった定義はないが、1970年代に花開いたハイメゾンのスポーツウォッチにルーツを持ち、薄型でケースとブレスレットがシームレスであることを一つの特徴とする
パテックフィリップが打ち出したスポーツウォッチ「ノーチラス」もまた、傑出した名機であったことは疑いようもありません。
オクタゴン(八角形)ケース、ブレスレットおよびエンドピースとシームレスになったラグ、ケース両サイドの「耳」・・・オーデマピゲ ロイヤルオークも手掛けた天才時計デザイナー「ジェラルド・ジェンタ氏」によって生み出されたアイコニックなこのタイムピースは、現代でも大きく形を変えずに受け継がれていくこととなりました。
※初代ノーチラスは Ref.3700/1A ジャンボ。「ジャンボ」と言われたのは、34mm~36mmサイズのケースが主流の当時において、非常にダイナミックであったためでしょう。
さて、そんな伝説的なノーチラスですが、近年では「名作」とはまた違った意味合いで話題になりがちでした―これも、名作たる所以なのかもしれませんが―。
そう、天井知らずの実勢相場によって、です。
パテックフィリップに限らず、ここ数年は、高級時計市場は全体的に値上がり傾向にありました。世界的な需要が高まっていたり、わが国に関して言えば、円安も大いに関係していたことでしょう。
この値上がりは市場の狂騒へと繋がっていき、相場は急騰を描いていきます。
相場狂騒はロレックスのスポーツウォッチ人気から始まり、パテックフィリップやオーデマピゲ、ヴァシュロンコンスタンタンといったラグジュアリー・スポーツウォッチへと波及。2020年にはノーチラスのバリエーションであったホワイト文字盤のRef.5711/1A-011が生産終了したことも大きく影響し、ノーチラスはステンレス製モデルでありながらも1000万円、2000万円超の値付けが当たり前などといった世界線になってしまったのです。
前述の通り、高級時計市場全体が値上がりしているといった傾向はありました。それでもステンレススティール製の、定価が300万円台のモデルが1000万円超えで売買されるというのは、なかなかどうして、未曾有です。
こういった世情を受けてか、パテックフィリップは購入制限等を設けていたようですが、初代ジャンボに系譜を引く3針ノーチラス Ref.5711/1Aに関しては、2021年を以てカタログから姿を消すこととなったのです。ちなみにマイナーチェンジは経ているものの、5711系がリリースされたのは2006年。実に、15年の歴史に終止符が打たれたというわけです。
パテックフィリップの社長ティエリー・スターン氏は、兼ねてからステンレススティール製モデルがパテックフィリップの人気のメインとなってしまうような事態に対し、懸念の声を挙げていました。
そのため5711/1Aが生産終了してから音沙汰がなかった際は、「完全になくなってしまうのか?」などと喧々諤々、方々(ほうぼう)で噂されたものです。
しかしながら、初代ノーチラスこそ、パテックフィリップのスポーツウォッチのアイデンティティではなかったか。
そのため後継機が全くないというのは考えづらいと思っていましたが、ついに2022年10月に、満を持して公開されたというわけです。
新型ノーチラスの概要
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一見すると、従来のノーチラスと大きな変更点は見受けられません(その変わりないアイコンが、良い)。
しかしながら、いくつかのアップデートが確実に存在しました。
最もわかりやすい変化は、ケースでしょう。
先代Ref.5711/1Aまではケース直径40mmでしたが(10時~4時位置まで)、約1mmアップサイジングされた、41mmケースが採用されています。
さらに、ケースが2ピース構造へと回帰したことも、特筆すべき点です。
初期ノーチラスは、2ピース構造が取られていました。これは、ケースが裏蓋と一体化しており、そこにベゼルが取り付けられるスタイルです。この2ピース構造だと、時計の文字盤側からベゼルとガラスを外して、ムーブメントを取り出す仕様となります。
一方で現在では、ベゼル+ケース+裏蓋といった3ピース構造になっていることが多いです。裏蓋をねじ込み式スクリューバック構造とすることで、高い防水性を獲得することが可能です。なお、ムーブメントを取り出す際は、専用工具で裏蓋を開閉します。
3ピース構造は気密性が高く、またメンテナンス性にも優れている傾向にあります。確かにベゼル・ガラスを取り外すより、裏蓋を開閉する方がシンプルですよね。しかしながら2ピース構造の方が、厚みを抑えるのに適しています。
パテックフィリップ ノーチラスは薄型設計がミソ。薄さを備えるために、2ピース構造を改めて採用したといった背景もあったのでしょう。さすがと言うべきか、新旧で変わらず12気圧の防水性を有しています。
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なお、ノーチラス Ref.5811/1Gでは、新しい巻き真引き出しシステムを採用しているのだとか。
巻き真はリューズに取り付けられた重要パーツで、これによって動作の切り替えやゼンマイ巻き上げなどを我々は行うことができます。
従来、2ピース構造では「スプリットステム」といったスタイルをパテックフィリップでは用いておりました。これはリューズの巻き真を引き出すための構造ですが、ジョイント式などとも呼ばれるように、それぞれの短いパーツがかみ合うことで構成されており、割と簡単に引き抜くことができる仕様となります。「割と簡単に引き抜ける」ことから、ユーザーが操作する際にリューズが抜けてしまったり、メンテナンスの難易度が高いなどといった側面もありました。
ここに新たな特許取得システムが採用され、分割した巻き真を持たずして、文字盤側から巻き真を引き抜ける仕様に。メンテナンス性が向上したと言えるでしょう。
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さらに言うと、これまた特許取得の新しい折り畳み式バックルが搭載されました!2mm~4mmの長さ調整を可能としたシステムが取り入れられている、と。
バックルの微調整は、近年のスポーツウォッチのスタンダードとなりつつあります。重量が出やすいスポーツウォッチは薄型時計と比べるとどうしても装着感の快適さで後塵を拝しますが、腕によりフィットさせる微調整システムによって、この点を克服することが可能です。
ノーチラスはスポーツウォッチでありながら薄型で、しかもまとわり付くように素晴らしい装着感では定評があるのですが、さらに微調整システムを有したことで、いっそう快適な着け心地を手にしたと言えるでしょう。
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ムーブメントはCal.26-330 S Cが搭載。これは、2020年頃から先代Ref.5711/1系にも従来のCal.324 S Cに代わって載せ替えられていた自動巻きムーブメントです。
シースルーバックから、雲上ブランドにふさわしい仕上げが施された、極上のムーブメントが鑑賞できるというのは素晴らしいですね。
パワーリザーブ最大45時間、近年のスタンダードからすると決して長くはありませんが、デイリーユースとしては十二分の性能です。
もっとも、デイリーユースできるのは、いつの日か。
新作のアップデートには文字盤のブルーグラデーションやデイト窓などといったディテールの変化も挙げられるようで、早く実機を手に取って確認してみたいところですが、近年のノーチラスをはじめとした品薄状況。そしてパテックフィリップの少量生産体制を鑑みれば、しばらくは一般市場に出回らないであろうことは、想像に難くありません。
国内定価は9,383,000円。
なお、今回の新作ではホワイトゴールド製のみがリリースされており、ステンレススティール製モデルはありませんでした。
近年のパテックフィリップの動向をみると、ステンレススティール製モデルに関してはまだ未知数ですが、やはりノーチラスの歴史を鑑みれば、SSモデルは欲しいところ!
もっともホワイトゴールドも他のカラーゴールドと比べてもポピュラーであるため、人気や相場の狂騒は、ステンレススティールモデルと遜色はないでしょう。
パテックフィリップの動向に注目しましょう!
2022年パテックフィリップ新作 ノーチラス Ref.5712/1R-001
3針ノーチラス以外にも、美しい新作が登場しておりますので、併せてご紹介いたします!
スペック
外装
ケースサイズ: | 直径40mm×厚さ約8.52mm |
素材: | ローズゴールド |
文字盤: | ブラウン |
ムーブメント
駆動方式: | 自動巻き |
ムーブメント: | Cal.240 PS IRM C LU |
パワーリザーブ: | 最大48時間 |
機能
防水: | 6気圧 |
定価: | 11,132,000円(税込) |
出典:https://www.patek.com/en/home
ローズゴールド製が美しい!Ref.5712/1R、通称プチコンからも新作が登場しております!
ポインターデイト、ムーンフェイズ、パワーリザーブインジケーター、スモールセコンドといった多機能機であるにもかかわらず、パテックフィリップならではの完成されたレイアウトによって、ごちゃつきは一切ないプチコン。こちらもパテックフィリップの、傑作中の傑作と言って間違いないでしょう。
従来プチコンはステンレススティールまたはゴールド×ストラップモデルがラインナップされていましたが、ケース・ブレスレットともにローズゴールドで構成し、かつブラウンのグラデーション文字盤を採用したバリエーションが登場。美しく妖艶な雰囲気をまとった逸品に仕上がっております。
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搭載するムーブメントは、マイクロローターが美観を格上げするCal.240 PS IRM C LUが搭載。
従来同様、シースルーバックからパテックフィリップらしい美しいムーブメントがご鑑賞いただけます。こういった美しい仕上げや装飾こそ、ハイメゾンのだいご味ですよね。
なお、こちらのRef.5712/1Rにも、特許取得の微調整可能なバックルを搭載しております。
ノーチラスが、いっそう華やかなラインナップになりましたね!
2022年パテックフィリップ新作 ノーチラス Ref.7118/1300R
スペック
外装
ケースサイズ: | 直径35.2mm×厚さ約8.62mm |
素材: | ローズゴールド |
文字盤: | ローズゴールドめっき |
ムーブメント
駆動方式: | 自動巻き |
ムーブメント: | Cal.324 S C |
パワーリザーブ: | 最大45時間 |
機能
防水: | 6気圧 |
定価: | 11,132,000円(税込) |
出典:https://www.patek.com/en/home
ミドルサイズのノーチラスからは、遊び心溢れつつも、ゴージャスな逸品が新作発表されました!
ベゼル・インデックスには、グラデーションを描くように、濃淡の異なるスペサルティンガーネットがセッティングされているのが、大きな特徴です。
スペサルティンガーネットとは、マンダリンとも呼ばれるガーネットの一種で、柑橘系のような明るい、それでいてラグジュアリーなカラーがみられる色石です。
パテックフィリップはジェムセッティングにも定評がありますが、本当に素晴らしい出来栄えではないでしょうか。
ローズゴールドめっきが施された波模様の文字盤は、柔和な印象をも湛えますね。
搭載するムーブメントは、信頼性の高いCal.324 S C。
これまたなかなか一般市場には出回らないであろう逸品ですが、一度は実機を手にして、着用してみたいものです!
まとめ
2022年10月18日、ついに発表された、新型ノーチラスをご紹介いたしました!
従来のエレガントなラグジュアリー・スポーツウォッチとしての雰囲気はそのままに、随所に変化が見られた後継機種Ref.5811/1G。
なかなか流通するまでには時間がかかりそうですが、パテックフィリップ畢生の出来栄えであることは間違いなし。
今後も、パテックフィリップの新作動向からは目が離せません!
当記事の監修者
田中拓郎(たなか たくろう)
高級時計専門店GINZA RASIN 取締役 兼 経営企画管理本部長
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
当サイトの管理者。GINZA RASINのWEB、システム系全般を担当。スイスジュネーブで行われる腕時計見本市の取材なども担当している。好きなブランドはブレゲ、ランゲ&ゾーネ。時計業界歴12年