腕時計のカレンダーに搭載された、便利な早送り機能。リューズを引いて(あるいは何らかのプッシュボタンを使って)操作することでカレンダーディスクがカシャリと切り替わる様はなかなか小気味よいものですが、実はこの操作を禁止している時間帯がある、ってご存知でしたか?
もし禁止時間帯にカレンダー切り替え操作をしてしまった場合、”部品破損”や”不具合”が起こる場合があり、大変危険です。
この記事では、機械式時計の「カレンダー変更禁止時間帯」についてご説明いたします。また、「禁止時間帯に日付操作をやっちゃった・・・」という方に向けて、すぐにチェックしたい項目もお伝え致しますので、ぜひご一読下さい!
※本稿では機械式時計を取り上げていますが、クォーツ式時計にもカレンダー操作禁止時間帯は存在します。取扱説明書をお読みのうえ、適切に操作するようお願い申し上げます。
目次
腕時計のカレンダー操作禁止時間とは?
初めて機械式時計を扱う方は、恐らくカレンダー(日付)の操作禁止時間帯があることを知らない場合が多いのではないでしょうか。
機械式時計は細かなパーツで動いている故、カレンダーを動かす時間帯によっては日付を変更する歯車に悪影響を及ぼし”破損”させる恐れがあります。こうなってしまうとユーザーご自身で直すことはできず、オーバーホールが必要となってきます。
では、いったいなぜこのような時間帯が存在するのでしょうか。
知っておきたい。カレンダープレートと「日送り車」の関係
なぜ禁止時間帯が存在するのか。それは、カレンダー駆動を司る、その構造に理由があります。
と言うのも、腕時計に使われているカレンダーは時計内部でドーナツ型のプレート(日車)が時計回りに動くことで日付が変わっていきます。下の画像からおわかり頂けるように、1~31の日付が印字されていますね。
そして、このプレートには内周に等間隔に突起が用意されており、この突起を「日送り車」と呼ばれる歯車によって動かすことでプレートが時計回りに動く仕組みとなっています。具体的には24時間で1周する「日送り車」に取り付けられた一つの突起(日送り爪)が、カレンダープレート内周の突起に引っ掛かることで、1日の終わりに1メモリ進むというわけです。
既にご存知の通り、私たちが普段利用している暦の上では、全ての月が31日まで(大の月)、というわけではありません。しかしながら上記の構造では、小の月(月末が30日まで)や2月には手動での調整が必要となります。
この手動調整がいちいち針をくるくる回して24時間分送らなくてはならない・・・だと、結構大変ですよね。
そのため現行モデルの多くが、リューズ操作の切り替え(一段引き・二段引き等)によってカレンダーディスク変更機能(日修正機構)を搭載している一方で、この時にやりがちなのが、「操作禁止時間帯のカレンダー変更」なのです。
と言うのも、上記の日送り車に取り付けられた「日送り爪」は日送り車が回転する中で、日付変更時刻が近づくとカレンダープレートの内周の突起に近づき、噛み合っていくこととなります。この噛み合っているところに、無理にリューズ操作で日付変更を行おうとすると、カレンダープレートの突起や日送り爪がガリッと欠けてしまうことに。なぜならリューズでの日修正機構は日送り車とは別の歯車によってカレンダープレートを操作する構造が、しばしば採られるためです。この別の歯車を「早送り車」と呼びます。リューズ操作によって早送り車がカレンダープレートの内周突起に噛み合うといった構造です。
すなわち、日送り爪がカレンダープレートに噛み合っている,ないしは噛み合おうとしている時間帯こそが、「カレンダー操作禁止時間帯」です。
一般的なカレンダー操作禁止時間帯は20時~4時
カレンダー変更禁止時間はメーカーやモデルによって違いはありますが、一般的には20時~4時が禁止時間です。
この時間帯は「日送り車の爪」がカレンダープレートに接近している・ないしは噛み合っている時間帯なので、リューズを引いて強制的に時間を調整しようとすると、日送り車の爪やプレートの突起が折れたり、他の歯車との接触などの理由により、最悪時計が動かなくなる恐れがあります。
なぜなら前述の通り20時~4時の間にリューズを1段引き、早送り車をカレンダーディスクに接続させた場合はディスク内周の突起に日送り車と早送り車の2つの突起が絡み合うことになるためです。この状態の場合、リューズで日付を変更しようとすると突起が折れる可能性が非常に高いのです。
なお、操作禁止時間帯はモデルによって変わってまいります。また、冒頭でもご紹介したように本稿では機械式時計を扱っておりますが、クォーツ式時計もまた同様です。取扱説明書やメーカーの見解を聞いて、しっかりと確認したいところですね。
ちなみにカレンダー操作と併せて注意したいのが、「針の逆回し」です。
日付変更のメカニズムからおわかり頂けるように、機械式時計の歯車はいずれも同一方向で回転しているため、時間や日付を遡ろうと逆回しを行うと思わぬ負荷をかけることに繋がります。
近年ではパーツやメカニズムの強度やセーフティ機構が向上していたり、ムーブメントによっては24時間カレンダー操作または針の逆回しが問題ない場合もありますが、取扱説明書をよく読んでから使用したいですね。
もし時計を禁止時間にカレンダー操作してしまった場合は?
「カレンダーを禁止時間帯にリューズ操作で変えちゃった・・・!」こんな場合は何日か時計の様子を見てみましょう。
その際に以下の点をチェックしてください。
- (リューズ操作ではなく自然運針で)日付が変わり出す時間帯と、変わり切る時間帯が、誤操作以降に大きくズレていないか
- 日付が変わる途中で中途半端な位置で止まったままにならないか。また日付が切り替わった後のカレンダーディスクの位置にズレはないか
- リューズ操作での日付切り替え時にカレンダーディスクがきちんと切り替わるか,あるいはディスクにズレは見られないか
- リューズを回した時に違和感があるか
※自然運針での日付切り替わり時間はモデルによって異なります。
上記のような症状が出た場合は放置せず、メーカーの正規修理や民間修理会社にメンテナンスに出し、オーバーホールを行います。恐らく「日送り車」か「早送り車」が破損している可能性が高いので、他の部品に影響が出る前に修理に出すことが大切です。
なお、時計店ではカレンダーの誤操作による故障は保証対象としていないケースがほとんどです。
また、ムーブメントによっては一度の禁止時間帯のカレンダー操作だけで破損してしまうこともありますので、操作には十分注意していきましょう!
日付禁止時間が無い機械式時計
近年では、日付禁止時間無いモデルも存在します!
操作に不安がある方は、こういった便利な一本を入手するのもアリですね。
ロレックス デイトジャスト Cal.3235搭載モデル他
2017年に発表された「デイトジャスト41」の新作モデルです。新たに14件もの特許を取得し、新開発の脱進機クロナジー・エスケープメントを採用した自社開発Cal.3235を搭載しています。
このCal.3235を始め、近年ロレックスが「新世代」と自負する3200番台ムーブメントはカレンダー禁止時間帯がなく、いつでもカレンダーの日付変更が可能です。実際に使ってみると非常に便利な機能であることがわかります。
耐磁性・耐久性も申し分なく、ロレックスらしい実用的な仕上がりです。
ブライトリング Cal.B01搭載モデル
クロノマット44 A011C89PA(AB0110) / クロノマット41 A014B04PA(AB0140)
ブライトリング初の完全自社開発ムーブメントCal.B01を搭載したモデルはカレンダー禁止時間帯がありません。また、このムーブメントはカレンダー禁止時間帯をなくした初めてのムーブメントでもあります。
70時間パワーリザーブを備え、コラムホイールと垂直クラッチを採用。日付調整(24時間早送り)を常時可能にするカレンダー機構に高い防水性。
非常に使いやすくモデルでありながらもリーズナブルな価格であることも魅力です。
まとめ
機械式時計にはメーカーやモデルごとに違いはありますが、一般的には「20時~4時」というカレンダー変更禁止時間帯があります。
この時間帯にカレンダーを変更してしまうと、時計が故障する恐れがありますので絶対に変更しないように心がけてください。
もし禁止時間操作を行ってしまった場合はカレンダー切り替わりをチェックし、異常が見られた場合はすぐに購入店や修理店に相談しましょう!
当記事の監修者
廣島浩二(ひろしま こうじ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年