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クロノメーター、ジュネーブシールなど、機械式腕時計の様々な品質規格
最終更新日:
時計のダイアル上で「chronometre」―クロノメーター―という表記を見たことはありませんか。
これは、時計業界では権威でもあるスイス公認クロノメーター規格によって「ムーブメントの精度、即ち時刻の正確性が信頼に足るもの」だと太鼓判を押されたモデルにのみ許された栄えある称号です。
現在は電池式クォーツや電波・GPS時計などが普及しており、時計の精度は高いのが当然とされていますが、ゼンマイで動く伝統的な機械式時計にとっては、その正確性を維持することに非常に高い技術とコストを要します。
近年は機械式時計の精度を始めとした品質向上の動きが高まり、それにつれて様々な規格が制定されてきました。
今回はスイス公認クロノメーター規格を始め、ジュネーブシール、カリテ・フルリエ、ブザンソン規格、ドイツクロノメーター規格など時計の精度や品質を判断する厳格なテストの数々をご紹介し、またロレックス規格、グランドセイコー規格、オメガ マスタークロノメーター、パテックフィリップシール、ジャガールクルト マスター1000コントロールなど各メーカーの品質基準についてもご説明をさせて頂きます。
出典:https://www.rolex.com/ja/watches/rolex-watchmaking/tested-to-extremes.html
目次
1.時計の精度判断の歴史
時は大航海時代。
多発する海難事故防止のため、正確な緯度・経度の測定が求められていました。
この時代の中心にいたイギリスでは、時刻と太陽の位置からの測定のため、波の揺れにも負けない高精度の時計―マリン・クロノメーター―を開発します。
ちなみに語源はギリシャ神話の時間神・クロノスに由来し、今でも高精度な時計を指してクロノメーターと呼ぶ所以にもなっています。
マリン・クロノメーターはヨーロッパで一般化していきます。
同時に精度を競うクロノメーターコンクールが各地で開かれるようになり、金、名誉、そして自らの付加価値のために時計師たちはこぞって参加しました。
出典:https://museum.seiko.co.jp/knowledge/relation/relation_04/index.html
時代を経るにつれ時刻の正確さはより重要度を増し、地方的なコンクールに留まらず工業製品としての規格や中立的な基準が求められるようになります。
各天文台やスイスの公的機関がそれぞれ基準を作成、製品の精度を検定するという形で時計の精度に「クロノメーター級である」などの認定が行われました。
さらに近代に進むと、国際的に統一されたクロノメーター基準が求められるようになりました。
そこでスイス時計製造業者組合連合会は1939年に公的検定所を規定、1952年よりスイス・フランスによって組織されたクロノメーター作業調整国際委員会により公認歩度(精度)証明書の交付を定めます。
この協定には後にドイツとイタリアが参加し、コンクールと特別調整時計を担当する天文台,一般時計の検定局なども新たに指定・制定されました。
出典:https://www.wempe-glashuette.de/bereich4-sb2.htm
1965年に国際標準化機構(ISO)でクロノメーター規格が議論され、1976年、ついに現クロノメーター規格(COSC)が制定。
スイスの時計歩度公認検定局から組織変更されたスイスクロノメーター検定協会により、この規格は今なお国際基準として最も大きく最も信頼性高いものと認識されています。
2.スイス公認クロノメーター規格とは
現在の「クロノメーター」が意味するのは、スイス公認クロノメーター検定協会(COSC/:Controle Officiel Suisse des Chronometres)が規定するムーブメントの精度規格に合格した時計に与えられる称号のこと。
この協会は1973年に創設され、年間180万台に及ぶ時計が査定される最も大きく有名な公的機関です。
多くのメーカーがこぞって自社製品を査定に出しますが、認定されるものはごく僅か。非常に厳格なもののため、認定機は決して小さくはない付加価値となります。
出典:https://www.chopard.jp/cosc
■試験場
スイスのジュネーブ、ル・ロックル、またはビエンヌ
■試験対象
ムーブメントの精度
■試験概要
試験は15日。
対象時計を垂直・水平などの5つの姿勢差、3つの温度下に置き、日差(日にどれくらい時刻がずれるか)が査定されます。
日差マイナス4秒~プラス6秒以内、2cm以下のムーブメントはマイナス5秒~プラス8秒以内という基準の時計のみが合格とみなされます。
■認定されると
ISOによって定められたこれらテスト項目の厳格さゆえ、認定機はきわめて高い精度を誇ります。
それゆえ各ブランドにとってCOSC認定は大きな付加価値。
認定機には「歩度証明書」が発行され、ここに至ってダイアルに「クロノメーター」の表記を許されるのです。
ちなみにこの証明書は購入する時計に必ずしもついてくるわけではありません。
クロノメーター認定機:ロレックス
ロレックスの現行モデルは全てクロノメーター規格認定機。
ロレックス人気はネームバリューだけでなく、こういった技術力の高さゆえであると納得させられます。
クロノメーター認定機:ブライトリング
ブライトリングも全ての時計をクロノメーター認定機としており、クォーツ式時計までも査定に出すという徹底っぷりです。
①ジュネーブシール、またはジュネーブスタンプ
ジュネーブシールとは、スイスジュネーブ州が制定するムーブメント規格で、ジュネーブの時計製造技術保護を目的に発足しました。
それゆえクロノメーター規格とはまた違った厳格さに加えて、対象機に非常に限定的な側面を持つことが特徴。
取得しているブランドは決して多くありません。
工業製品に関する査定の中では最も上位に位置づけられ、時計職人たちにとっては世界最高峰の栄誉として名高いものと言えるでしょう。
出典:https://www.vacheron-constantin.com/en4/geneva-seal/the-certificate.html
■試験場
スイスのジュネーブ
■試験対象
「全ての部品製造及び組み立て作業がジュネーブ州内で行わなれた」機械式ムーブメントの精度,仕上げ,装飾など。
製造地のみならず、使用素材や仕上げ方法にも規定が設けられています。
■試験概要
試験対象に精度と入れましたが、ジュネーブスタンプはムーブメント製造における審美性や伝統性が重要視されます。
そのためかつてはスイス公認クロノメーター規格の査定15日360時間を上回る600時間検査が設けられていましたが、1993年にはクロノメーター歩度証明書があればそれでよい、ということになりました。
ジュネーブシールを獲得するための規準は12カ条、それに準拠しなくてはなりません。
ムーブメントの装飾や仕上げ、使用素材の規定が主で、例えばムーブメントの輪列や脱進機は穴内周をポリッシュ仕上げが施されたルビー石を使うこと、などです。
12カ条を鑑みると伝統的なスイス時計製造の手法に依拠したものだということがわかります。
近年では新・ジュネーブシール規定が発足、新たに防水性やパワーリザーブ、そして再び精度査定の見直しなど、時計全体の実用性や品質にも照準が置かれるようになりましたが、根本的な「伝統の維持」というコンセプトは変わっていません。
■認定されると
認定を受けたムーブメントは、受け(ブリッジ)にジュネーヴ市およびジュネーヴ州の紋章が刻印されることとなります。まれにケースに表記されることも。
この刻印はそのまま原産地保証ともなるため、「スイスのジュネーブで製造された」という箔にもなります。
出典:https://www.chopard.jp/collections/l-u-c/poincon-de-geneve
認定機:パテックフィリップ
パテックフィリップはメイド・イン・ジュネーブの時計で唯一全ての機械式ムーブメントにジュネーブシールが与えられていました。ちなみにそのお付き合いは120年にも及ぶもの!
現在はパテックフィリップ独自の規格を設けているためそちらに移行していますが、最高級機械式時計にのみ与えられるきわめて厳格なこの称号を100%獲得してきたということは、パテックフィリップがいかに高い技術と至高の職人技を有するかが伺い知れます。
認定機:ヴァシュロンコンスタンタン
出典:https://www.vacheron-constantin.com/jp/home.html
パテックフィリップと並んで世界三大高級時計ブランドに数え上げられる老舗メーカー。
パテックフィリップに次いでジュネーブシールの認定に意欲的です。
認定機:ショパール
出典:https://www.chopard.jp/diary/baselworld-2017-intro/
ショパールはハッピーダイヤモンドなどのジュエリーウォッチの側面が強いですが、L.U.Cコレクションではマニュファクチュールにおいて製造したムーブメント搭載モデルのみを展開。
ジュネーブシール認定機を持つという、れっきとした伝統的なスイス時計職人集団です。
ちなみにL.U.Cは創業者であるルイ・ユリス・ショパール氏のイニシャルに由来します。
②カリテ・フルリエ
前項でご紹介したジュネーブシールに対抗馬と言われるほど厳しい検査機関が新たに制定されました。それがカリテ・フルリエです。
2001年、時計製造が盛んなフルリエに工房を置くショパールやパルミジャーニ・フルリエ、ボヴェなどが共同プロジェクトによって立ち上げました。
最も厳格と言われる所以の一つに、ムーブメントの精度や外装の他、耐久性・耐磁性・耐衝撃など実用面で求められることも多いため。
ありとあらゆる「時計に備わるべき」課題が突き詰められたテストではないでしょうか。
出典:https://www.chopard.jp/collections
■試験場
スイスのフルリエ
■試験対象
・頭(ブレスレット・クラスプ以外)全てがスイス国内で製造された時計
・クロノメーター規格の認定を取得した時計
■試験概要
ムーブメントの精度に関してはクロノメーター規格に依頼されます。
カリテ・フルリエでは、クロノフィアブル・テストと呼ばれる検査が非常に特徴的。
これは、耐久性や耐磁性、耐衝撃性や耐水性といった時計の「実用性」を査定するもの。
クロノグラフのプッシュボタン操作や回転ベゼルの実用性も同様に測られます。
次にムーブメント及び外装の芸術面を査定。
ジュネーブシール同様装飾や仕上げ、素材に一定の規準が設けられています。
最後にフルリテストというシミュレーションマシンにかけられます。
完成した時計の精度を調べるもので、24時間にわたり実際の装着に近い再現のもと、日差0~+5秒以内というクロノメーター規格を上回る正確性が求められます。
■認定されると
これら難関をクリアした時計のみがカリテ・フルリエの称号を獲得します。
認定機にはダイアル上やケースに「QUALITE FLEURIER」の表記がされ、ムーブメントのブリッジには「QF」の刻印が許されます。
出典:https://www.chopard.jp/fleurier-quality
認定機:ショパール
ショパールの本格機械式時計コレクションであるL.U.Cでカリテ・フルリエ認定機が見られます。
内外ともに最高の美を追求したというL.U.Cコレクションならではの気概と言えます。
認定機:パルミジャーニ フルーリエ
出典:https://www.parmigiani.com/en/watch/tonda/tonda-39-qf/PFC222-1602400-HA1431
1996年設立の新興メーカーながら、あまりの複雑さから修復不可能とされてきたブレゲの歴史的銘品の修復に成功した天才独立時計師ミッシェル・パルミジャーニ氏による超高級ブランドもカリテ・フルリエを取得している数少ない時計のうちの一つです。
③ブザンソン規格
フランス唯一のクロノメーター規格。
ブザンソンはフランス屈指の時計製造地帯で、かつてブザンソン天文台に伝統的なクロノメーター試験場が設けられていました。
1970年代のクォーツショックや経済危機により天文台閉鎖。
しかし1995年からフランス工業省下の「CETEHOR」の研究所に管轄を移し、再開を果たしました。
現在、経済危機を克服したブサンソンは芸術・歴史・工業あらゆる分野でフランスを牽引しています。
時計産業も再び活気をみせ、ブライトリング、ロンジンなどがアフターサービスセンターを設立し、スイス時計製造技術との密な関わりが復活しました。
■試験場
フランスのブザンソン
■試験対象
ムーブメントの精度
■試験概要
クロノメーター規格と同様に、ISOに則った15日360時間、3姿勢でムーブメントの精度査定が行われます。
しかし、現代的なテイストの大きいクロノメーター規格に対しブザンソンのそれは伝統手法に従った形式のため、査定対象機一本につき3倍のコストをかけているとか・・・
■認定されると
認定を受けた時計には古式ゆかしいデザインが特徴の歩度証明書が発行されます。
認定機:ロジェデュブイ
ダイナミックで独特のベゼルが特徴的な高級スポーツウォッチ「エクスカリバー」を代表作に持つロジェデュブイ。
ブサンソン規格のみならず、パテックフィリップ同様全てのムーブメントにジュネーブシールを刻印している本格派腕時計です。
認定機:アラン・シルベスタイン
親日家としても有名なアラン氏が立ち上げたブランド。
デザイナーらしいカラフルな色使いや幾何学的で奇想天外なデザインが特徴ですが、実はムーブメントにも並々ならぬこだわりが。
トリプルカレンダー、ムーンフェイズ、クロノグラフの三つの複雑機構を搭載させたクロノクラシックは圧巻です。
④ドイツクロノメーター規格
WEMPE(ヴェンペ)というブランドをご存知でしょうか。
日本ではあまり聞きなじみがないかもしれませんが、1878年創業、ドイツきっての老舗宝飾メーカーです。
宝飾品だけでなく時計製造も非常に奥深い歴史を持ち、戦前は航海に必要不可欠であったマリン・クロノメーターの製造に携わっていたのです。
近年再び本格的に時計製造に着手、2006年のこと。
工房はグラスヒュッテ天文台に隣接します。
同時にクロノメーター検定所をも設立。
数十年精度検定では空白地帯であったドイツに再びその風を起こしたのがヴェンペだったのです。
出典:https://www.wempe-glashuette.de/bereich4.htm
■試験場
ドイツのグラスヒュッテ天文台
■試験対象
ケーシング後のムーブメントの精度
■試験概要
設立当初は「クロノメーター規格のドイツ試験所」といった立ち位置で、ISOに準拠、15日間3温度で検査という同様のものでした。
しかし姿勢に関しては5姿勢、日差マイナス4秒~プラス6秒以内という厳格さはクロノメーター規格以上。
ちなみにクロノメーター規格ではクロノグラフ機においてストップウォッチは稼働させませんが、当査定は9日目までは作動させた状態で検査するところも妥協を許さないドイツらしさを感じます。
■認定されると
認定証のほか、裏蓋に天文台のレリーフを刻印する権利を獲得します。
もちろんダイアル上にchronometerの表記も可能。
https://www.wempe-glashuette.de/bereich3.htm
認定機:ヴェンペ
出典:https://www.wempe-glashuette.de/index.php?introid=3
近年ランゲ&ゾーネやノモスなどマニュファクチュールが次々と起こっているドイツ。
ドイツクロノメーターは現在ヴェンペを中心とした認定となっていますが、ドイツ独自の規格の必要性が叫ばれ、官民共同で取り組みをされつつあります。
ムーブメントの精度において非常に信頼性が高いグランドセイコーやジャガールクルト。
実はスイス公認クロノメーター規格を始めとした外部査定を受けておらず、独自の試験を設けています。
自社の品質への目はスイス公認以上だ、という自負が感じられるようなブランド独自の規格をご紹介させていただきます。
①ジャガールクルトのマスター1000コントロール
19世紀後半からマニュファクチュールを確立していた、由緒正しいスイス時計ブランドであるジャガールクルト。
「時計の価値」はムーブメントにあることが連綿と受け継がれてきたものづくりの老舗ゆえ、全ての自社製品に非常に厳格な試験を課しています。
出典:https://www.jaeger-lecoultre.com/jp/jp/home-page.html
■試験概要
マスター1000アワーズコントロール
1992年から行われているこのテスト。
その名の通り、なんと1000時間にもわたって完成した時計の検査が行われるのです。
ちなみにスイス公認クロノメーター企画は15日360時間、かつてのジュネーブシールでも25日600時間です。
検査はムーブメントの精度に始まりケーシング後の耐久性、耐水性、耐磁性など6つの項目で構成。
このテストを通らなければ、どれだけコストをかけた製品であっても商品化されることはないという徹底っぷり。
ミドルクラスの価格帯でここまで厳格な品質基準を設けているのは、ジャガールクルトを除いて知りません。
当ブランドに時計愛好家の熱狂的ファンが多いことは、こういったものづくりへの飽くなき情熱がそこかしこに垣間見えるからではないでしょうか。
②ロレックス規格
現行モデルでは全てにスイス公認クロノメーター規格認定機を搭載するロレックス。
自動巻き機構の確立を始め数々の輝かしい逸話を持つロレックスにとっては、この高精度の象徴すらもはや驚きに値しないのかもしれません。
なぜならクロノメーター規格を経た後、ケーシングした製品を再び自社内で独自の、かつクロノメーター規格を上回る厳格な査定に通すのですから。
出典:https://www.rolex.com/ja/watches/rolex-watchmaking/movements.html
この最終査定では防水性、自動巻、パワーリザーブなどの規準が要求され、実際のエンドユーザーの使用状況下で最高のパフォーマンスを発揮できてるかをテストします。
精度に至ってはクロノメーター規格の二倍の厳格さである日差-2~+2秒以内を実現。
この査定を通過した時計のダイアルにはSuperlative Chronometerの表記がプリントされ、グリーンの特別なタグが付属されます。
ロレックスは更なる新しく厳しい規格のもと、2015年に新世代ムーブメントCal.3255を打ち立てたことで話題を呼びました。
ロレックスに牽引されるように、品質向上の動きが高まりつつあります。
②グランドセイコー規格
高い品質への信頼性は世界中で定評のあるグランドセイコー。
日本随一の時計メーカー・セイコーのハイエンドブランドで、スイスですら数少ない完全マニュファクチュールを確立しています。
グランドセイコーの精度追求の歴史は古いです。
初代モデルが誕生した1960年代、既にダイアル上にchronometerの表記がプリントされていました。
既にスイス公認クロノメーター規格の認定を受けていたということです。
しかし現行モデルにその表記は見られません。
1960年代中期以降に独自のGS規格を、次いで1998年には、新GS規格を打ち立てたためです。
この基準は言うまでもなくクロノメーター規格を上回るもの。
ムーブメントの精度が対象となることは変わりませんが、姿勢は6、期間は17日間の検査の中で、日差-3~+5秒以内が基準となっているのです(温度環境は同一)。
ロレックスやブライトリングなど多くの有名ブランドがスイス公認のお墨付きを求めるなか、グランドセイコーはただ独自の理念のみを指標としたのです。
グランドセイコーの、スイス時計大国に引けを取らない自負を感じさせるエピソードと思いませんか。
さらに驚くべきことに、グランドセイコーには「グランドセイコースペシャル(GSS)規格」と呼ばれる査定もあります。
この基準で許される日差は-2~+4秒以内。
この認定機にはダイアル上にSPECIALの表記が見られます。
もちろんロレックスの新規格を始めこれを上回る品質向上の風向きは留まるところを知りません。
ですがそこは品質にかけては他の追随を許さない日本企業・グランドセイコー。
品質追求にかけてのひたむきさで、時計業界を突き進んでほしいものです。
③パテックフィリップシール
公認規格の中で最も難しく最も格調高いものの一つとされるジュネーブシールと最も関わり深いパテックフィリップ。
2009年春、その120年間に及ぶ関係にいったん終止符が打たれます。
パテックフィリップはジュネーブシールがムーブメントそのものの評価であり、実際にエンドユーザーの使用状況下を想定していないことを疑問視していました。
そこで新たに自社内規格として発足したパテックフィリップシール。
出典:https://www.patek.com/en/company/patek-philippe-seal/introduction
これはケーシング後の時計を対象とし、ジュネーブシールが一度放棄した精度査定を組み込みました。
しかも、実際の装着をシミュレートしたうえでの日差-3~+2秒範囲という厳格さ(ムーブメント径20mm以下)。
もちろん審美上の査定もあり、ダイヤモンドの選定からセッティングにまで規定を設けます。
そして最も特筆すべきはアフターサービス。
パテックフィリップは1839年の創業以来製作された全てのモデルのアフターサービスと修復を行ってきましたが、今回パテックフィリップシールでこれを明文化します。
即ち、パテックフィリップは自社の時計が一生ものであることを十分理解し、オーナーの生涯、そしてその子孫の代まで受け継げることを明言したのです。
スイス公認を始め世界的な権威を凌ぐ実力者であることを誇示したようなもの。
恐るべし世界最高峰の老舗・パテックフィリップ。
④マスタークロノメーター
オメガもまた、品質向上で大きな動きを見せています。
2014年、スイス連邦計量・認定局(METAS)とタッグを組んで、さらに新しく、時代に特化した規格を制定。
マスタークロノメーターです。
現代の時計の在り方に、新たな一石が投じられる形となりました。
出典:https://www.omegawatches.jp/ja/planet-omega/watchmaking/the-worlds-first-master-chronometer/
査定対象機のムーブメントは、まずスイス公認クロノメーター規格に認定される必要があります。
これだけだとジュネーブシールなどと同様精度査定は無いかと思いきや、ここからがこの新規格の真髄。
【手順として】
①ムーブメントを15,000ガウスもの高磁場環境にさらして機能を確認する。
※ムーブメントにとって磁気は大敵ですが近年は携帯電話などの普及で常にその脅威にさらされます。
各社耐磁時計を製作していますが、150~1,000ガウスほどが通常のスペックです。
この規格ではいかに高磁場下かがわかります。
②ケーシング後、15,000ガウスにさらし、時計の機能確認、24時間後に精度測定
③6姿勢2温度で精度査定
④パワーリザーブ検査(各モデルごと)
⑤再度6姿勢で精度測定
⑥パワーリザーブ残量が33%と100%の際の時計の精度誤差
⑦水中にて防水性査定(各モデルごと)
時計の耐磁や防水には高い技術が必要なうえでのこの厳格さは業界随一と言っても過言ではありません。
ちなみにマスタークロノメーターのテスト結果(精度や機能)は時計に付属のカードをスマートフォンやパソコンでスキャンすると確認できるとのこと。
出典:https://www.omegawatches.jp/ja/planet-omega/watchmaking/the-worlds-first-master-chronometer/
このテストは社外の時計も認定を受けることができますが、まだ誕生から日が浅いこと、そして非常に厳格なことから、オメガの独擅場。
2007年以前、オメガは長らく自社ムーブメントの開発を休眠させていましたが、再びマニュファクチュールを復活させ、しかもゆくゆくは全てのモデルをこのMETAS認定機にする、と豪語しています。
オメガのブランド名は、ムーブメントに由来します。
その意味するところは「究極」。
METASの誕生、オメガマニュファクチュールの復活によって、ますます目が離せないブランドになりました。
まとめ
これら厳格な規格の数々は、ブランドにとって大きな付加価値となります。
公認にしろ私的なものにしろ、精度や品質へのお墨付きになるのですから。
しかし同時に、「格」だけでなく私たちが実際に使用する時計としての品質を向上させる、という気質が業界全体に高まってきたことを意味します。
各社こぞって技術を磨く。
消費者にとっても時計業界にとっても嬉しい時流はまだまだ続きそうです。
当記事の監修者
廣島浩二(ひろしま こうじ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年