機械式時計のカレンダーといえば月の大小を自動で判別してくれる「アニュアルカレンダー」や、閏年ですら判別してくれる「パーペチュアルカレンダー」が有名です。これらの機構を搭載した時計はパテックフィリップを中心に、数々の一流時計ブランドが製造をしてきました。
しかし、カレンダーの中にはさらに複雑機構である「セキュラーカレンダー」というものが存在するのをご存知でしょうか?
そこで今回は普段あまり触れられることのないセキュラーカレンダーについて掘り下げていこうと思います。
出典:https://www.franckmuller-japan.com/collection/watch/category/aeternitas/
目次
セキュラーカレンダーとは?
セキュラーカレンダーは正式には「セキュラー・パーペチュアルカレンダー」と呼ばれます。
この機構は究極のカレンダーとも呼べるカレンダーで、グレゴリオ暦のルールを完全に再現した機構です。そのため、セキュラー・パーペチュアルカレンダーは時計の動きが止まらない限り、永久に日付調整する必要がありません。
通常のパーペチュアルカレンダーは月の大小(31日、30日)と2月の28日とうるう年の29日を自動的に判別して表示する機能です。このカレンダーを搭載した時計は数世紀に1度しか日付調整をする必要がないため、永久カレンダーとも呼ばれています。
それに対してセキュラーカレンダーはこの数世紀に1度の日付調整すら不要とし、パーペチュアルカレンダー唯一の欠点を克服しました。
閏年の例外とは?
さて、ここで気になるのは何故数世紀に1度日付調整する必要性があるのかということです。その答えは現在世界の大半の国で使われている暦であるグレゴリオ暦の例外ルールに隠されています。
西暦1582年にローマ教皇グレゴリウス13世が制定したグレゴリオ暦は1年間を「365.2422日」に定め、さらに4年に1度うるう年を設ける事で暦のズレを取り除くというシステムになっています。
ただ、グレゴリオ暦にはうるう年に関する例外ルールが存在しており、パーペチュアルカレンダーはこの例外に対応していません。
そして、その例外は以下ようなルールです。
- 西暦年号が100で割り切れて400で割り切れない年は平年とする。
うるう日が現れるうるう年は2004,2008,2012と4の倍数で続きます。しかし、数世紀に一回厄介な年が巡ってきてしまうのです。
それは近年では2100年。2100年は100で割り切れて、400で割り切れない年です。この場合、4の倍数で計算すると普通はうるう年になる2100年は、うるう年ではない平年扱いになります。
この例外的変化にはさすがのパーペチュアルカレンダーも対応はできず、2100年の2月になった時、同機構を搭載した時計は29日を示すことでしょう。
ですが、この例外にすら対応してしまった驚異の機構がセキュラカレンダーなのです。セキュラカレンダーを搭載した時計はグレゴリオ暦に完全対応しているため、日付がズレる事はありません。
しかしながら数世紀単位での例外すら調整するセキュラカレンダーの複雑さはパーペチュアルカレンダーと比較にならないほど繊細です。そのため、この機構は「究極の時計」にしか搭載されません。
初めてセキュラーカレンダーを作り上げた男
セキュラーカレンダー機構を初めて作り上げたのは独立時計師アカデミーに所属する天才時計技師「スヴェン・アンデルセン」氏です。
スヴェン氏はパテック・フィリップにて複雑時計部門に所属していた経歴を持つ人物で、独立後は独立時計師アカデミーの重鎮として、数々の複雑時計の製作を手掛けてきました。
出典:https://www.au.dk/alumne/augustus/vis/artikel/naturvidenskab-var-en-religioes-pligt/
スヴェン氏が最も得意とした複雑機構はカレンダー機構。彼が作り上げた名作コンプリケーションの多くはカレンダーを搭載したモデルです。数あるモデルの中でも、ミニッツリピーター+パーペチュアルカレンダーモデルやワールドタイム+パーペチュアルカレンダーといった独創的なコンプリケーションモデルは世界的にも高い評価を得ています。
そんな彼がセキュラーカレンダーを開発したことは必然だったのかもしれません。
セキュラーカレンダーを搭載したモデル
セキュラーカレンダーを搭載した時計はハイエンド中のハイエンドモデルにしか存在しません。
主な搭載モデルは2つ。1つが「パテックフィリップキャリバー89」。そしてもう1つが「フランクミュラー エテルニタス」です。
搭載モデル① パテックフィリップキャリバー89
パテック フィリップ キャリバー89は同社が創業150周年を記念として発表した究極の懐中時計です。合計「33」もの複雑機構を搭載したこのキャリバー89は、9人の超一流時計師が9年間の歳月を費やして製作したといわれています。
そして、このキャリバー89の凄すぎるポイントは、コンピューターを一切使わずに旧来の製図版で時計を設計し、手作業にて組み上げられたことです。いわば人間が持つ時計技術の限界に挑戦した作品ともいえます。
出典:https://www.patek.com/jp/
キャリバー89はとにかく規格外の懐中時計です。ポケットウォッチという前提を潔く無視した「ケースサイズ90mm、厚さ40mm、重量1.1キログラム」といった設計はロマンに溢れています。
加えて、パーツの合計数なんと1728。おびただしいほどの緻密な設計でこの時計は作られているのです。
キャリバー89に搭載されている機構はセキュラーカレンダー以外にもミニッツ・リピーター、トゥールビヨン、ムーンフェイズといった数々の複雑機構が搭載されています。
これほどまでに豪華な時計を作れるパテックフィリップは改めて世界一の時計ブランドなのだと感じさせてくれます。
ちなみにキャリバー89は世界に4つしか存在しません。(18金イエローゴールド、18金ローズゴールド、18金ホワイトゴールド、プラチナのケース素材違い)
その分価格も桁違いであり、 オークションにかけられた場合は10億を超える価格で落札されています。
搭載モデル② フランクミュラー エテルニタス
エテルニタスコレクションはフランクミュラーの技術を全て詰め込んだ究極のコンプリケーションウォッチ。エテルニタスはラテン語で“永久”という意味ち、永遠に止まる事なく動きつづける自動巻き機構が由来となっています。
また、エテルニタスには全部で6つのモデルが用意されていますが、その上位機種には「エターナルカレンダー」が備えられています。名称こそ違いますが、このカレンダーは紛れもなくセキュラーカレンダーです。
出典:https://www.franckmuller-japan.com/collection/watch/category/aeternitas/8888TGSCCRQPSE-376/
この機種の最上位モデルは「エテルニタス メガ 4」。この時計はグランドソヌリ・ミニッツリピーター・フライングトゥールビヨン・レトログラード・ムーンフェイズ・クロノグラフ・セキュラカレンダーといった時計の複雑機構がこれでもかというくらいに搭載されており、圧倒的な存在感を放ちます。
そして、このエテルニタス ギガ4の気になるお値段は、363,960,000円(税込)。
普通にカタログに載っているモデルが3億を超えてます。もはや現実感がありません。
まとめ
究極の複雑機構といえるセキュラーカレンダーは、まさに究極の腕時計にのみ搭載されることを許された機能です。この機能を有する時計は、恐らく大富豪や王にでもならなければ身につけることはできないでしょう。
ですので、今回は「こんな凄い機構もあるんだ!」といったスタンスで知識を持ち帰ってください。きっと知る前よりも腕時計の世界が広く見えるはずです。
当記事の監修者
廣島浩二(ひろしま こうじ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年