「自動巻き時計の正しい使い方が知りたい」
「どんなことでトラブルが発生するの?」
現在の機械式時計の主流は自動巻きです。
自動巻きは毎日リューズを巻かなくてもゼンマイが巻き上げられる実用性の高い機構で、どのブランドも主力モデルは殆ど自動巻きが採用されています。
自動巻き時計の正しい使い方が知りたい方は多いのではないでしょうか。
自動巻き時計は繊細な駆動方法になっていますので、正しい知識を持って丁寧に扱わなければ時計は不具合を起こしてしまいます。
この記事では自動巻き時計の使い方をGINZA RASINスタッフ監修のもと解説します。
自動巻きのトラブルについても解説しますので、自動巻き時計の購入をお考えの方はぜひ参考にしてください。
目次
自動巻きと手巻きの違い
自動巻きはその名の通り「ゼンマイが自動で巻かれる機械式時計」のことを指します。
昔、チョロQという玩具があったのをご存知でしょうか。チョロQはゼンマイを巻いて、そのほどける力を使って走ります。そしてほどけると止まります。
機械式時計も理屈は一緒です。機械の中にある主ゼンマイを巻いて、そのほどける力を利用して針が動きます。チョロQと違うのは、一気にゼンマイがほどけるのではなく、調速機によって1秒1秒調整されながら、少しづつほどけるのです。
自動巻き時計というのは、この主ゼンマイを自動で巻いてくれる機構です。
リューズを巻くことでゼンマイを巻く伝統的な手巻き式とは異なり、ムーブメントに搭載されているローターと呼ばれる振り子の動きによってゼンマイが巻かれます。
左:センターローター 右:マイクロローター
ローターにはセンターローターやマイクロローターなど、いくつかの種類がありますが、いずれもローターが左右に振れることで「主ゼンマイ」が巻かれる設計です。
時計が動くことでローターも振れるため、時計を腕に着けているだけでゼンマイが巻かれるということになります。
ちなみに主ゼンマイは時計のムーブメントの中でこのような状態となっています。
ローターが振れることでこのゼンマイが巻かれ、時計は動き続けます。
ゼンマイは全て解くと、かなりの長さがあることがわかります。
このゼンマイが全て解かれると時計は止まってしまうのですが、自動巻きはローターの回転によってゼンマイが巻かれ続けるので、毎日身に付けていれば基本的には止まりません。
この利便性こそが自動巻き最大のメリットだといえます。
自動巻きが誕生する前は「手巻き式時計」が一般的に扱われていました。手巻き式時計はリューズを巻くことでゼンマイを巻く機構です。
しかしながら、90年代半ばにロレックスが自動巻き機構を実用的に改良し、市販化したことにより、腕時計の主流は自動巻きへと移り変わります。
手巻き式はローターがないため薄型設計にできたり、視覚的に機械美を楽しみやすかったりとメリットも大きいのですが、自動巻きほど利便性は高くないため、現在は趣味性の強い時計となっています。
パテックフィリップなどの超ハイエンドブランドは勿論のこと、ロレックス、オメガ、タグホイヤーといった人気ブランドの主力モデルは殆どが自動巻きです。
購入するモデルの幅も自動巻きの方が断然広いため、自ずと「機械式時計オーナー=自動巻き所持者」の図式が成り立っています。
自動巻きの扱い方
自動巻きは自動でゼンマイが巻かれる設計となっているため、手巻きよりも手間は少ないと言えるでしょう。
ただし、機械式時計は精密機器。そのため幾つかの注意点は存在しますので、自動巻きの基礎知識として下記の項目をご一読ください。
自動巻きの種類
自動巻きの巻き上げには以下の2タイプが存在します。
・ローターの左右回転どちらでも巻き上がる「両方向」
・左右どちらかの回転で巻き上げる「片方向巻き上げ」
現在は両方向巻き上げ式が主流です。理論上は両方向巻き上げ式の方が、効率よくゼンマイが巻かれます。
ただし最近のモデルは、片方向巻き上げであっても巻き上げ効率は大きく向上しているため、あまり差は無いかもしれません。
どのくらいで止まる?
自動巻きがどれくらいで止まるかは、機械によって異なります。
メーカーホームページを見ると、大抵どのモデルにも「パワーリザーブ〇〇時間」と書かれています。
パワーリザーブとは「主ゼンマイを完全に巻き上げた状態で放置した場合に、〇〇時間動き続けます」という意味で、例えば40時間パワーリザーブであれば、何もせずに40時間放置したら時計のゼンマイは解けるということになります。
一般的には40~50時間のモデルが多いです。
ただし駆動時間は使用環境に応じて変化します。メーカーが発表している数字は機械に一切の負荷を与えずに測定した、そのモデルの最長の駆動時間になりますので、日常使用においてはもう少し短くなります。
週末に時計を外して月曜日の朝まで放置すると、時計が止まっていることがありますが、これはパワーリザーブがなくなったことによるもので故障ではありません。リューズでゼンマイを巻きあげれば再び動き始めるでしょう。
自動巻きはリューズでゼンマイを巻かない方がいい?
自動巻きは手巻きと同様にリューズを手で回すことでもゼンマイを巻くことができます。
ただ、自動巻き時計はローターの巻き上げによってゼンマイが巻かれる設計となっているため、リューズでの巻き上げは飽くまでも補助的に使うのが好ましいです。
完全にゼンマイが解かれている状態なら、数十回ほど手で巻き、後はローターの動力で巻き上げをしたほうが機械に負担がありません。
自動巻きは自動でゼンマイを巻くことを前提としています。たまにしか身に付けない方,あまり動かない方,あるいは長時間着用をしない方。リューズを回してゼンマイを巻き上げている方も多いでしょう。時計のことを考えると振ってゼンマイを巻き上げたり(振り方については後述。ブンブンと振ってしまうと、内部機械の故障を招きます)、ワインディングマシーンを活用した方が時計への負担を軽くすることはできます。
とは言え、例えリューズで巻いたとしても壊れたり、精度が出ないわけではないので、神経質になる必要はありません。どうしても前述のように装着時間が短かったり動きが少なかったりする場合は、上手に巻き上がらないこともあるので、ライフスタイルに合わせてリューズでの巻き上げを取り入れてみましょう。
どのくらい巻けばいい?
自動巻きはどれくらい巻けばいいの?と疑問を持つ方は多いです。
手巻きであればリューズを巻いていくうちに、それ以上巻けなくなる「巻き止まり」が発生するため、どこまで巻けばいいのかはすぐにわかります。
しかし、自動巻きは巻き止まりがないため、どれくらい巻けばいいのかはわかりにくいです。
結論としては、自動巻きの場合はローターが両方向に回転することでゼンマイが巻かれるため、どれくらい巻けばいいかの基準はありません。
ただ、一般的には40、50回ほど巻けばフルに巻くことができます。
なお、自動巻は巻きが上限に達すると、ゼンマイが切れてしまわないように「スリップ機能」が作動する仕組みとなっています。これにより自動巻きは上限以上に巻いても過度な負担がかかりにくくなっています。
自動巻き式のゼンマイの先端と香箱
故障?自動巻きのトラブルについて
自動巻きのトラブルとして多く報告されているのが「時間がずれる」「腕に着けているのに巻き上がらない」という不具合です。
故障の原因は必ずしも一つと限りませんが、その代表的なものを紹介致します。
自動巻きの時刻が遅れる・進む原因
クォーツ時計と比較すると機械式時計は精度が劣るため、多少の誤差は狭範囲内となります。
一般的な機械式時計の精度は日差-10~+20秒ほどが想定され、巻き上げ具合や姿勢差・温度差によってはさらに誤差が広がる可能性もあります。
ただ、この基準よりも大幅に時刻が遅れる・あるいは進む場合は時計に何かしらのトラブルが発生している可能性が高いです。
許容範囲を出て極端にズレが出る場合、その原因は「磁気帯び」にあることが多いです。
時計に使われる細かな部品は殆ど金属でできているため、磁石のそばに置くと磁化して精度に影響が出ることがあります。
特に「スマートフォン」や「パソコン」「バッグの留め金」などは身近にありながらも強い磁力を持つ製品なので、知らず知らずのうちに密着し、部品が磁化してしまったのかもしれません。
精度が極端に悪くなったと思ったら、一度時計店にみてもらいましょう。
単純に磁気帯びだけが原因であれば、すぐに解決することができます。
腕に着けているのに巻き上がらない
時計を腕に着けて十分に動いているのに、ローターでゼンマイが巻き上がらない。これは自動巻き特有の不具合としてしばしば報告されるトラブルです。
大抵は腕の動きが少なく、十分な巻き上げがなされていないケースが多いです。持続的に時計を動かすためには毎日8時間程度は身に着ける必要があります。
また8時間身に着けていてもデスクワークなどであまり腕を動かさない方はしっかりと巻き上がらないことが多いです。補助的にリューズで巻き上げることをお勧めいたします。
出典:https://www.omegawatches.jp/ja/
リューズで巻き上げても巻き上がらない場合は、内部機械に異常がある可能性が高いです。
そのまま放置される方もいますが、ローターに不具合が起きているということは、他のパーツも痛んできている可能性が高いです。使い続けているとローターのみならず、さらに重要なパーツも故障してしまうことに繋がるため、メンテナンスに出すことをオススメします。
自動巻きのメンテナンス
細かな精密機械の集合体である機械式時計はクォーツ式よりも遥かに繊細に作られています。
時計を毎日使っていると歯車や各種パーツは徐々に摩耗していくため、長く時計を楽しむためには定期的なメンテナンスが必要です。
オーバーホールは3~5年に1度を目安に行ってください。古い油を洗い取り、新しい潤滑油が差すことで各パーツが摩耗による劣化を防ぐことができます。
不具合がないからといってオーバーホールをせずに自動巻きを使い続けている方もいらっしゃいますが、各種パーツは徐々に磨耗していくため、いずれはオーバーホールのタイミングがきます。
人間と同じで不具合は早期に直すことが大切なので、自動巻きを大切に使いづつけるのであれば、必ず3~5年に1度はオーバーホールを受けましょう。
まとめ
現代の機械式時計は自動巻きが基本です。自動巻きの使い方をマスターすれば、時計との生活はさらに楽しいものになるでしょう。
また、自動巻きには様々な種類があります。
駆動方式やローター、パーツに採用される素材など。自動巻きだからと言ってどれも同じではなく、ブランドによってその個性は千差万別です。
機械式時計の世界は実に奥が深いので、興味があれば色々な時計をお手にとって楽しんでみてください。
当記事の監修者
廣島浩二(ひろしま こうじ)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチ コーディネーター
一級時計修理技能士 平成31年取得
高級時計専門店GINZA RASIN 販売部門 ロジスティクス事業部 メンテナンス課 主任
1981年生まれ 岡山県出身 20歳から地方百貨店で時計・宝飾サロンで勤務し高級時計の販売に携わる。 25歳の時時計修理技師を目指し上京。専門学校で基礎技術を学び卒業後修理の道に進む。 2012年9月より更なる技術の向上を求めGINZA RASINに入社する。時計業界歴19年