ホワイトシェル・ブラックシェル・イエローシェル。
シェル文字盤には様々なバリエーションがあり、どれを手に取ってみても美しく個性的です。
その価値の高さは価格にも反映されており、シェル文字盤が採用されているモデルは通常のシルバーやブラック文字盤よりも高い相場で販売されています。
今回はシェル文字盤は何故これほどまでに人を魅了するのか?
そして何故これほどまでに高価になるのかを紐解いていきます。
目次
①天然素材であるという魅力
シェル文字盤は天然の貝殻を用いた文字盤素材です。人工的に作ることが出来ないため、高い希少性をもちます。
加えて天然素材であるため、一つ一つ柄に違いがあることも魅力です。
同じモデルであっても文字盤に個性が生まれるため、普通の文字盤よりも愛着が湧きます。
また、シェル文字盤は光の当たり方や見る角度によって印象が変わります。
正面から文字盤を覗いた時の表情、側面から覗いた時の表情。
美しく表情を変え続けるシェル文字盤の輝きは他の文字盤では決して味わえない魅力です。
②シェル文字盤は半貴石
宝石には貴石と半貴石があります。
一般的に貴石は五大宝石である「ダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルド、アレキサンドライト」を代表とする硬度7以上の天然鉱石のことを指します。
硬度7以上の天然鉱石はキズに強く、劣化もしづらいため、高値で取引されます。
対して半貴石は硬度が7以下の天然鉱石を指します。
半貴石は貴石より劣っている宝石と思われがちですが、「半貴石=美しさに劣る」という訳ではなく、貴石より稀少で美しい石は無数に存在します。また、硬度が低いことから加工に適していることも特徴です。
代表的な半貴石は「アメジスト、ラピスラズリ、トルコ石」など。どれも美しい宝石ばかりです。
さて、ではシェル文字盤はどちらに該当するのでしょうか?
答えは見出しにも書かれている通り、文字盤に使われている貝殻は「半貴石」です。
高級時計に使われている貝殻は抜群の美しさを持ち合わせますが、硬度は低く、衝撃で割れやすいという欠点があります。
研磨に費用がかかる
貴石も半貴石も原石に希少価値がありますが、時計の文字盤として使うための研磨加工にも費用がかかります。
一般的な文字盤であれば機械作業によって文字盤を量産することができますが、シェル文字盤は一つ一つ職人が丁寧に研磨を施さなければ文字盤として使えるモノとなりません。
そのため、鉱石そのものよりも技術料の方が高くなることが多いです。
貴石においては「技術料<宝石の価格」となりますが、半貴石では「技術料>宝石の価格」となるケースが殆どであるといわれています。
ただでさえ手間がかかる研磨作業において、高級時計の文字盤に仕上げるのは実に難しい技術です。
この技術料が時計の価格に上乗せられるため、シェル文字盤採用モデルは価格が高くなります。
③ロレックスのシェル文字盤
シェル文字盤を採用しているブランドで最も有名なのはロレックスです。
デイトジャストのレディースモデルでは様々なバリエーションのシェル文字盤がラインナップされています。
左:ピンクシェル 中央:ホワイトシェル 右:ブラックシェル
最も定番なシェル文字盤はホワイトシェルですが、フェミニンな印象を与えるピンクシェルや独特の存在感を持つブラックシェルも人気です。
加えてロレックスではメンズモデルにも積極的にシェル文字盤を採用しており、デイトナやヨットマスターにも使われています。
ただ、メンズモデルのシェル文字盤はコンビモデル・ゴールド・プラチナケースを採用した高級機種に限定されており、ステンレスモデルには採用されていません。
左:デイトジャスト 116233NG ホワイトシェル 右:デイトナ 116528NR イエローシェル
メンズモデルにシェル文字盤を採用する場合、高級時計に相応しい「大きな貝殻」を使わなければなりません。そのため、どうしても製造数は少なくなります。
ただでさえ希少価値の高いシェル素材を贅沢に研磨するので価格はレディースシェルよりも遥かに高価になります。
④ハリーウィンストンのシェル文字盤
ロレックス以外のブランドではカルティエ、オメガ、パテックフィリップ、ハリーウィンストン等のレディースモデルにシェル文字盤が採用されていますが、特に世界最高のジュエリーブランドであるハリーウィンストンには厳選された美しいシェル文字盤が使用されていることで有名です。
ハリーウィンストンにおいて主にシェル文字盤が採用されているモデルはフラグシップモデルである「アヴェニュー」です。
アヴェニューに使用されているシェル素材は真珠の母貝から生まれた「マザーオブパール」が使用されており、ハリーウィンストンが誇る最高級のダイヤモンドと絶妙なハーモニーを生み出します。
ロレックス デイトジャストには様々なバリエーションのシェル文字盤が使われていましたが、ハリーウィンストンはホワイトシェルのみが使われます。
ハリーウィンストンはダイヤモンドが最大のウリです。文字盤に主張が強いカラーのシェル素材を使用してしまうと、ダイヤモンドの存在が薄れてしまいます。それを避けるためにもシンプルかつ上品なマザーオパール製ホワイトシェルに拘っているわけです。
※細かな色味の違いはあっても、全てマザーオパールのホワイトシェル
また、ダイヤモンドのブーケのような美しさを誇る「サブライム・タイムピース」にもシェル文字盤が使われています。
このモデルにはハリーウィンストンとしては珍しくブルーシェルが採用されました。
ハリーウィンストン サブライム タイムピース HJTQHM25WW001
サブライムとは英語で「高尚なもの」を意味し、その名の通り幾何学的なデザインのケースは華麗に変貌し、2輪の花を美しく咲かせています。
⑤パテックフィリップのシェル文字盤
時計界の頂点に君臨し続けるパテックフィリップのレディースモデルにもシェル文字盤が採用されたモデルが存在します。
シェル文字盤が存在する主なコレクションは「ゴールデンエリプス」「ネプチューン」「トラベルタイム」などに見受けられ、数こそは多くありませんが、独特な存在感を放ちます。
左:ゴールデンエリプス 4834/12J-001 中央:トラベルタイム レディース4934G 右:ゴールデンエリプス 4830G
ハリーウィンストンと同様に基本的にはマザーオパールのホワイトシェル、もしくはブルーシェルがシェル文字盤として採用されています。ゴールデンエリプスのシェル文字盤に関しては柄に幅があるので、自分だけの一本を選ぶ楽しみがあると思います。
シェル文字盤はドレスウォッチだけではない
パテックフィリップ ノーチラス ベゼルダイヤ 7008/1A-001
ドレスウォッチにシェル文字盤が集中しているイメージですが、実は大人気スポーツウォッチ ノーチラスからもシェル文字盤が発売されています。
例えばレディース向けノーチラス 7008/1A。このモデルはベゼル一面にダイヤ、文字盤には中央とその周囲で分けられた2種類のブルーシェルが採用されています。
最後に
シェルは「半貴石」の天然素材です。加工がしやすいため、ハリーウィンストン アベニューのような曲線的な文字盤を製造することができます。
また、高級時計に採用されるシェルはどこの角度から見ても美しく見える必要があり、この条件に該当するシェル素材は希少価値が高いです。
素材自体に希少価値がある上、研磨加工には職人の高度な技術が必要ともなれば、販売価格が高くなるのも頷けます。
近年はシェル文字盤を採用するブランドが増えてきているので、興味がある方は自分好みのシェル文字盤を探してみてはいかがでしょうか?
当記事の監修者
新美貴之(にいみ たかゆき)
(一社)日本時計輸入協会認定 CWC ウォッチコーディネーター
高級時計専門店GINZA RASIN 店舗営業部 部長
1975年生まれ 愛知県出身。
大学卒業後、時計専門店に入社。ロレックス専門店にて販売、仕入れに携わる。 その後、並行輸入商品の幅広い商品の取り扱いや正規代理店での責任者経験。
時計業界歴24年